ワスレ草
(Hemerocallis)


     
ヘメロカリス  これは何だろう ?  ヘメロカリス 


     
 ヘメロカリス これは何 ?   Hemerocallis fulva


 被子植物  単子葉類   キジカクシ目  ススキノキ科  キスゲ亜科   ワスレグサ属 
 Angiospermus   Monocots  Aspalagales   Xantorrhoeaceae   Hemorodcallisdoideae   Hemerocallis 

   毎年、庭の片隅に群落を作り、少しづつ広がっている花の名前が ”ヘメロカリス” とは知っていましたが、今年の夏、ずいぶん離れた庭の片隅に突如似たような、しかし色合いの異なる花の群落が出現し、詳しく調べたところ実に様々なことが判明しました ;

名前について

 華麗な姿と色合いなのに、”ワスレ草” の名は些か違和感を感じますが、この花は万葉集の昔から恋の思いを象徴する花として数多く詠まれて来た、由緒ある名前なのです ;

 わが屋土の軒のしだ草生ひたれど恋忘れ草見れどいまだ生ひなく      万葉集
 
 忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり             万葉集 大伴家持

 逆しらば摘みにもゆかむ住の江の岸におふてふ恋忘れ草           古今集 紀貫之


 この花の命が短命で一日で終わるため、英語では Daylily, ドイツ語でも Taglilie と呼ばれます。
ただし、個々の花は短命ですが、無数の蕾から新しい花が次から次へと咲き続け、大型で華麗な色合いの群落が華やいだ雰囲気を醸し出します。

 和歌では夏の季語、および、悲しいこと(忘れたいこと) があった心境を表す言葉として使われるとのこと。
和歌で読まれる花の名が、こんにち一般的な花の名と異なることは重々承知していましたが、忘れ草がヘメロカリスであったとは思いもよらないことでありました。

 さて、このヘメロカリスの名、実はギリシア語の ”hemera : 一日” と ”callos : 美しい” という, 花の短命さを指す命名です。
 ただし、この学名は、比較的新しい時代、恐らくは18世紀ころにヨーロッパで命名されたと考えられます。
何故なら、日本で万葉の時代から歌に詠まれていたように、この花は、日本を中心とする東アジア原産の花なのです。
 これらの花が欧米にもたらされて大人気となり、品種交配で膨大な品種が作られ、日本に逆輸入され、それらが、日本古来の原種との交配でさらに3万とも10万とも言われる膨大な園芸品種が作られているとのことです。
 世界で最も人気のある薔薇の品種が2~3万ですから、ヘモロカリスは恐らく最大の種類を誇る花々といえるでしょう。
 もっとも有名な ”ニッコウキスゲ(日光黄菅/禅庭花 : Hemerocallis dumortieri var. esculenta) は日光特産というわけではなく、夏になると日本各地の野山で大群落を作り、それぞれ、各地の固有の名で呼ばれています。
       
 ニッコウキスゲ(日光黄萱) ムサシノカンゾウ (武蔵野萱草)  トウカンゾウ(唐萱草)  ヤブカンゾウ(薮萓草)
 これらはいずれもヘモロカリスです。
百合のような姿の花で、事実、多くの資料でユリ科に分類されています。
 ところが、この20年あまり、植物の分類は、大変革が進行中でヘモロカリスは、ススキノキ科に分類されています。
実は大昔から、ヘモロカリスの分類については大混乱があり、何度となく見直しがおこなわれてきました。
 何しろ大半の亜種が簡単に交配し、新たな種類となる上に、交配を重ねて園芸種が大量に市場に出現するため、ワスレ草属 (ヘモロカリス属)以下の種名の特定が不可能になっているのが現実です。
 したがって、我が家の2種や、上の写真にある、様々な仲間を見ても、どれがどれなのか言い当てるのは殆ど不可能です。
 と分かっただけでも大収穫。 ”ヘメロカリス(一日の美)” という学名の花であると言えればそれで十分でしょう。



食用になるヘメロカリス

   日本各地にて大群落を作り、大いに楽しませてくれるヘメロカリスですが、調べていたら、これが薬用、食用になるとありました ;

 乾燥した蕾は金針菜と呼ばれ、解熱、鎮痛等の漢方薬の他に中華料理の材料としても使われますが、さらに、根、若芽もおひたしや炒め物、天ぷら等に使われ、食用として栽培されている地方もあるのだそうです。


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