UV−845 
(A級シングル無帰還パワーアンプリファイアー)


秋葉原ラジオ会館4F 三栄無線設計のUV−845 
UV−845x2、12BH7Ax2、 12AX7x1
41cm(W) x 48cm(D) x 26cm  39kg 消費電力 600W
   これは1930年代に開発された放送用の送信管、UV−845 を出力管に使ったパワーアンプリファイアーだ。
 UV−845 はラジオ放送の黎明期の1921年に、アメリカのウェスタン・エレクトリック(WE)社で開発された送信管、UV−211 (VT−4C)をベースに、低周波専用にRCA社が1930年代央に開発したもので、AM変調用に使われた。
 WE社もほぼ同規格のWE−284Dを1937年に開発している。
 UV−845は高さが19p、直径が6cmの巨大な真空管で、プレート電圧が1250V、プレート損失が100Wと、桁外れだ。 そのうえトリウムを塗布したタングステン・フィラメントは点火すると煌々と輝き、比類のない存在感を示す。
 放送用の送信管としての用途の他にA級、AB級の電力増幅用として最適であり、劇場等での業務用のパワー・アンプリファイアーとして広く使われていた。
 日本では1960年代央頃からのオーディオの黎明期に秋葉原の専門店で主にキットとして販売されており、煌々と輝く巨大な真空管の威容には圧倒されたが、当時のサラリーマンの年収にも匹敵するキットで20万円台の値段は、ただただ憧れて眺めるだけの存在だったものだ。
 そんなにも高価だったのは、巨大なUV−845専用の出力トランスや1250Vの高圧に耐える部品や大容量のコンデンサー等々、量産品ではない、特注部品が必要だったためだ。

  秋葉原ラジオ会館4階の三栄無線が営々と販売を続けていたこのキットを、1985年頃、ようやく入手できた。値段は20年前の倍の40万円になっていて、キットとしては依然破格の水準だったが、その20年間に物価上昇率をはるかに上回る所得の上昇のおかげで見果てぬ夢が現実のものになった。

 A級シングル動作、無帰還の単純な回路だから組み立ては簡単と思ったが、太くて硬い線材の処理や、1250Vもの高圧に備えて、多くの線材のシールド作業やらと、パワーアンプの組み立てに50時間もかかってしまったが、その後30年間、全くの故障もなく働いている。
 真空管も前段とドライブ段とはそれぞれ一度交換したが、RCAのUV−845はさすがに放送用の頑丈な造りで全く健在。
 予備の中国製は出る幕がないが、時々差し替えてみると音質の差は皆無だ。
 粗悪品で悪名高い中国製も、真空管に限っては品質は一流だ。
 中国製だけでなく、実は真空管に限ってはWE,RCA、GE、Cetron 等の本場アメリカ製とドイツのTelefunken, イギリスのMullard、ロシア、東欧、中国製との音質の差は皆無だ。
  やたらとWEやRCAやヨーロッパ製を崇拝する必要は全くない。
が、これも趣味の世界だから、馬鹿高いアメリカや西欧製に10倍もの値段を払いたい向きには好きにやってもらおう。 
 最近ではドライブ管が数千円と、中国製のパワー管より高いありさまだ。

その後、三栄無線も,トランスのタンゴもオーディオ業界の凋落と共に姿を消してしまったから、今となっては貴重な存在だ。
 
 もっとも、1993年と1995年とにアメリカのオーディオの老舗のマランツ社とイタリアの新進メーカーのユニゾン・リサーチ社とから次々に UV−845 を出力管に使った超弩級のアンプが販売され、話題となった。 その値段と大きさと重さには驚かされた。 
 90 sや65 sのアンプなんて、一人では動かすこともできない。 
 かく言う我が845アンプも39sもあり、手製のキャスターに乗せて移動している。
 三栄無線のUV−845は、前段に双三極管の12BH7A,ドライブ段に同じく双三極間のE83CCを採用し、トランス類は全てタンゴ製の電源トランス、チョークトランスとUV−845専用に開発された出力トランス、X−10Sとを使用してステンレス製の強固なシャーシに収めたもの。
 総重量は39kg、A級なので常時大電流が流れて、消費電力は600Wと電気ストーブ並みの巨大なアンプだが出力は30Wx2と、ミニ・コンポ並みのパワーしかない。
 これだけの物量を投じたアンプなのだから、その分 ”音が良い”、とオーディオ・マニアなら自慢するだろうが、実は、ミニ・コンポのアンプと音は大して変わらない。
 もちろん音が悪いはずもないが、ブルックナーの交響曲を実物大の大きさで再生しようと言うのならともかく、普通の部屋で音楽を楽しもうとするのであればアンプの役割はスピーカーと比べてわずかなものだ。 再生音質のほぼ全てはスピーカーが決定するといって過言ではない。

真空管アンプは ”音が良い” のか ?

  世の中には、真空管アンプは音が良いと言う無責任な与太話がまことしやかに流布しているが、過去に4台の真空管パワーアンプを製作し(と言ってもキットを組み立てただけだが)、17組の様々なスピーカーを鳴らしている経験からすると、現在の成熟したトランジスター・アンプと比較して、真空管アンプにとりわけ音質的な優位性があるわけではない。
 確かに半世紀余り昔に、新しい素子としてトランジスターが出現した時には、未熟な素子特有の欠点が多々あり、とりわけB級プッシュプル動作を要するトランジスターの場合は個々の素子のバラつきにより不愉快な奇数次歪の発生が避けられない。それを抑えるために大量の負帰還をかけないと使い物にならなかったというのが実情だった。 
 ところが、見かけの歪み率や周波数特性を劇的に改善する負帰還回路は、同時に音楽再生には不可欠の声や楽器の音色や音の空間への広がりを含む、偶数次高調波を殆ど消し去ってしまうという、毒薬なのだ。
 当時のアンプ設計技術者の多くはただの電子技術者で、音楽を聴く楽しみを持っていたわけではないから、見かけのデータさえ良ければそれで良しと思ったのだろう。
 かくして、音楽を聴くと、無味乾燥どころか耳障りな歪が耳につくアンプが滔々と市場に出始めたのだ。
 一方、真空管は、大電力を必要として熱を持ち、かさばり、フィラメントが消耗する、ガラス製で割れやすい等々、数多の欠点を持つが、増幅素子として基本的に素性が良く、A級動作が可能、即ち1本で全信号を増幅可能なので、原理的にノッチング歪みが発生しない。
 更に歪率は高いが殆どが偶数次高調波歪なので耳に快く、有害な負帰還を殆どあるいは全く必要としない。
  即ち、声や楽器の音色の微妙な雰囲気や、空間の広がりをきちんと再現できるという利点がある。
 これこそは当時、新興のトランジスターは音が硬い、真空管アンプは柔らかくて音が良いと評された理由だ。
 しかしながら、それは50年も昔の話だ。 トランジスターが格段の進歩を遂げた現在でも、未だに音が硬いの柔らかいとの思い込みを後生大事に述べ立てる筋が後を絶たない。

真空管アンプの存在意義

 真空管アンプの存在意義はただ一つ、人目につく大きな素子の存在感に尽きる。
この大きな素子を駆動するために回路は至って単純ながら、巨大な電源部と大電力と、したがって良質のトランスやコンデンサー等、高価な部品が必要となるが、その無駄こそが趣味の対象なのだから、とやかく言っても始まらない。
 オーデイオ業界衰退の末期に,世界の老舗や新進メーカーから突如として発表されたこれらのアンプを見よ
 !!! 
  何故か、いずれも UV−845が主役となっている。
  3万円程度のトランジスターアンプ並みの出力を得るために 65kg 500万円やら 90s 330万円という物量と費用をかけるという情熱こそ大いに称えるべきものだ。
  マランツのProject T-1は845が4本あるのでA級パラレル・プッシュプル動作かと思ったが、それにしては50Wの出力は少なすぎる。 何しろシングルで30Wも取り出せる出力管なのだ。 よく調べてみると、実はその内2本を2極管動作でB電源として使用、おまけに名出力管の300B4本をドライヴ段に使うという、やりたい放題の贅沢な内容だ。 
 1台で560W、ステレオでは常時1KWhという大型電気ストーブ並みの消費電力だから、冬には暖房がいらないが、夏にはさらに冷房が不可欠となる。
 まさにお金が有り余ったオーディオ・マニアが考え付きそうな代物を商品化してしまったという破天荒な作品だ。
 これに先立つ2年前に思いもかけぬアンプがイタリアの新進メーカー、Unison Research の 845 Absolute から登場していた。
 その名のとおり、究極のアンプで、沢山ある入力端子から分かるように、これはインテグレーティド・アンプリファイアーだ。 スピーカーをつなげばこれ1台で音が出る。
 一たびセットしたら、二度と動かせない重さだから、大理石の台にでも載せればさぞ見栄えがするだろう。
  だが、”Smt−845” の初夏のせせらぎに咲く水芭蕉のような優美な姿には陶然とさせられる。
真空管という武骨な代物をこれほどまでに美しい工芸品に仕上げたイタリア人デザイナーの感性には感嘆するのみ。
 このデザインでペアで63万円は破格の値段だ。自作の845を持っていなかったら直ちに入手しただろうに
!!!
 16Wの出力も実用上は十分。 写真の両脇にあるアンプと比較しても実用上は音質も音量も殆ど差がないといって差し支えない。 普通に音楽を楽しむのであれば3Wもあれば十分なのだから。

 

Unison Research, Italia Marantz, Japan
 845 Absolute 1993年 \3,300,000 Smt-845 1995年  \630,000/pair Project T-1 1995年  \5,000,000/pair
UV-845x4, ECC83x2, ECC82x6 UV-845x1 ECC83x1, ECC82x1 UV-845x4, 300Bx4 5U4Gx1
80x29x60cm 90kg  出力 39W+39W 31x24x61cm 21.5kg  出力 16W 消費電力 180W   56x40x50cm 65kg 出力 50W 消費電力 560W  
         
   
 
   
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