ブラウン ( BRAUN ) : L-500
YAMAHA-CR400 | BRAUN L-500 | Focal-J.M.Lab Cobalt-806S | BRAUN L-500 |
寸法 | 重量 | 音圧レベル | 発売年 | 価格 | |
L-500 | 45(H)x25(W)x22(D)cm | 8kg | 87dB | 1974年 | ¥92,000/ペア |
Cabalt-806S | 39(H)x22(W)x28(D)cm | 8.9kg | 91dB | 2004年 | ¥150,000/ペア |
ドイツの家電メーカー、ブラウンといえば、現在は電気シェーバーや電動歯ブラシくらいしか見かけないが、半世紀昔、日本でオーディオの黎明期には白い硬質プラスチックのキャビネットにアルミニウムのパンチングメタルのカバーという軽快なデザインのスピーカーが日本で人気があった。
当時の日本製のスピーカーは無骨な木製のキャビネットに "どんごろす" のようなぼってりとしたサランネットという、何とも垢抜けしないデザインが主流であったから、手頃な大きさの新鮮なデザインのブック・シェルフ型スピーカーは、豊かになり始めた日本の住宅環境にも受け入れられるものだった。
もっとも当時のサラリーマンの初任給の3か月分という値段は誰にでも手が出る水準ではなかったが、しかし輸入品としては比較的に割安なので、主なオーディオ店には必ずあったから、かなりの数量が売れたはずだ。
もちろんこのスピーカーが売れたのはデザインだけではなく、21cmウーファーにと、当時としては新しいユニットであるドーム型ツィーターと組み合わせたシステムの音質が好評であったためだ。
ただし、ブラウン社はドイツの中堅の総合家電メーカーで、日本で知られている商品以外にヨーロッパではテレビを含めて広範な商品群を製造販売している。
したがってスピーカーは自社製ではなく、恐らくデンマークの、今はスキャンスピーク・グループとなっている定評ある専門メーカーのユニットを組み合わせて使っていた筈だ。
L-500は音楽好きだった叔父の、小型で音の良いオーディオシステムをという依頼に、当時好評だったこのスピーカーをデザイン傾向がよく似合うヤマハのレシーバーとの組み合わせであつらえたものだった。
したがって、自分で聴く機会は滅多になかったが、20年余り昔に、叔父と叔母が亡くなったあと、これらのシステムを引き取って使っている。
ヤマハのレシーバーも半世紀近く昔のもので、全く内部の手入れをしていないからヴォリュームを回した時だけ雑音が出るくらいで、通常の使用には問題なく妙なる音楽を奏でてくれる。
昔はメーカーも気合を入れて製造していたものと、感嘆させられる。 現在の日本のエレクトロニクス業界で 50 年後も使えるような商品を作れるメーカーが存在するのだろうか ?
L-500は、現在は Focal-J.M.Lab のCobalt-806S と共に主にテレビの音楽番組用に愛用している。
この二つのスピーカーは奇しくもサランネットの代わりに金属のパンチングメタルのメッシュを使っているので、ドイツ製とフランス製という違いはあるにしても、並べるとよく似ている。 そして再生音の水準も、実はよく似ている。
Cobalt-806Sは30年後の2004年に発売された、ウーファーもツイーターも最新の技術と素材を投入したシステムで、反応性が高い高解像度の一連のスピーカー・ラインアップにより、世界を席巻しているブランドの中級モデルだ。
中級モデルではあっても、基本的に同じ技術を用いたユニットを使っていれば,遥かに値段が高い大型の上級機種と比較して、普通の音量で音楽を聴く場合には、差ほど違いが出ないというのがスピーカーの世界だ。
したがって、Cobalt-806Sの再生音は、広帯域、高解像度、音場の広さ、反応性の高さ等々、現代のスピーカーを代表する見事なものなのだが、では半世紀近くも昔のブラウンのL-500 はどうかというと、実は、切り替えてみても殆ど差がない。
もちろん最新の技術で練り上げられた J.M.Lab-Focal のスピーカーがデータ上は優れているのだが、実際に音楽を聴く分には全く遜色がないといっても差し支えない。
オーディオ機器の場合、とりわけスピーカーにおいては、周波数特性や、ひずみ率、音の指向性等々といったデータだけで、どんな音になるかを判断することは不可能なのだ。
音楽の本場のヨーロッパで、開発され、それなりに市場での評価が高かったスピーカーは、例え半世紀後であってもしっかりと音楽を奏でることができるということなのだ。
この半世紀に音源はSPレコードからLPレコード、モノーラルからステレオへ、そしてCD,SACD,へと格段に進歩して来たのだが、最終的に音を出すスピーカーだけは、数々の素材の発展や技術の進歩が進んだにもかかわらず、大した進歩はなかったというのが実感。
というより、スピーカーの技術は基本的には半世紀昔にほぼ完成の域に達してしまった。
それゆえ、長年のプロ用の分野で地位を確立しているJBL,TANNOY, Electrovoice といった老舗のブランドが、昔ながらのユニットを延々と改善しながら商品を出し続けている。
したがって、新進メーカーとしては、新素材や、新技術を導入して対抗しないことには市場に参入できないが、Focal-J.MLab はそうして市場に定着した数少ないブランドの一つだ。
一方ドイツのブラウン社は、オーディオ市場が縮小した後は電気シェーバーや電動歯ブラシに特化して生き延びているという、対照的な道を辿って来た新旧二つのメーカーの商品が我が家の居間に並んで音楽を奏でている。