美しきもの見し人は

真空管パワーアンプリファイアー WE-300A/B


   
 Western Electric 1939年製のWE-300Aを装着したパワーアンプリファイアー  中国製300Bを装着したパワーアンプリファイアー 


 300Aと刻印が入ったウェスターン・エレクトリック製の真空管
 WE-300とはアメリカのウェスターン・エレクトリック社が1932年に開発した3極管真空管のモデル番号だ。
 WE社のそれまでの真空管技術の粋を取り入れた、驚異の性能を持つ真空管であり、その前のモデルである252A真空管の10Wと比べて、6Wのフィラメント電力で、プレートの最大定格(450V・80mA) の時、18Wもの出力が得られるという高いフィラメントの電子放射効率が達成されています。
 実用上ではA級動作で8Wの連続出力が得られますが、これは、ほぼ同じ時期に開発されたRCAの2A3のプレート電圧こそ250Vと低いため最大出力が3.5Wと比較すると、驚異的な大出力管でありました。
 300Aは単に出力管だけではなく、その高い信頼性と安定性、高寿命から、定電圧電源用として、工業用、軍用等、広範な分野で使われたものです。
 冒頭の写真にあるように、1938年には、後継機の 300B が発表されました。
その違いは、ソケットに固定するためのピンの位置が45度ずれているだけで、構造、寸法、特性等は全く同じです。
 写真の 300A の箱には製造番号29723、さらに、鉛筆書きで 10-04-1939 と書かれていました。
 300B が出た後も、旧モデルとの交換用として、しばらく製造が続けられていたと考えられます。 
恐らく、安定化電源用として用いられていた300A の補修用として、真空管固定用のピンの位置が変更された300B では使えないために、旧モデルがしばらく併売されていたと考えられます。
サンオーディオ製キット
   
シャシー内部の配線  回路図 
  写真の 300Bアンプリファイアーと回路図は、秋葉原で半世紀以上昔から各種の真空管アンプリファイアーをキットとして設計、販売している ”サンオーディオ社”のキットを組み立てたものです。
  堅実な回路設計と、品質を決定づける出力トランス、チョークコイル、電源トランスは、トランス専門メーカーである,タムラへの特注品を採用していて、1990年代初頭にキットで20万円という物量を投入した本格的な設計の品です。
 このキットには疾うの昔に生産が中止されていたWEではなく CETRON 社性の300Bが採用されていました。
1930年代初頭に開発された、W E-300A という真空管は、規格や性能等は全く同じで、ソケットに固定するピンの位置が45度変更になったのみで 1938 年に 300B へと変わり、その後生産が続けられています。
 戦後の日本でオーディオ・ブームが起こった 1960 年代初頭にはトランジスターではなく増幅素子はほぼすべてが真空管でしたが、しかしWE-300Bという真空管はごく一部のマニアが知るのみの幻の真空管でありました。
 何しろ1ドルが 360 円、さらに輸入品には高額の関税がかけられていた時代に、アメリカ製の真空管が市場に入ってくる機会はほぼありませんでした。
 WE-300Bが一般のオーディオ関係者に知られるようになったのは1970年代央以降のこと、真空管アンプで名高いラックス社が製品に組み込んで発売してからのことです。
 当時(現在も)主流の真空管アンプリファイアーは、4極ビーム出力管 KT88(6550) や 5極管の EL-34(6CA7) を AB級プッシュプル動作で使い、当然、かなりの負帰還をかけて 30W~50Wの大出力を取り出すというものでした。

 以降、オーデイオ技術等の真空管アンプリファイアー特集号や製作記事が続々と発表されるようになり 、WE-300Bを出力管として使うと、とりわけ ”音の良い” アンプが作れるということで、一気に人気が高まりました。
 300B という真空管も、WE製以外にもアメリカ、ヨーロッパ、多くの国産、さらに中国製と、数十種が市場に潤沢に供給されるようになり、それは現在でも続き、オーデイオ技術誌の真空管アンプ制作特集号や、様々なメーカーから発売される完成品アンプの多くが 300B を使ったものという状況になっています。

WE-300A/Bは音が良いのか ?

 WE300 がそんなにも愛好される一番の理由は、その均整の取れた優雅な姿に加えて、他の出力管と比べて ”音が良い” と語り伝えられているためです。
 オーディオの世界で主に音質を左右するのはスピーカーであって、アンプリファイアーの占める割合はほとんど無視しても良いとは、長年音楽を聴いて来ての感想です。
 が、一般には、WE-300の音質は別格と、神格化された伝説が広範に伝わっているのが現実です。
冒頭のシャシー内部の写真と配線図からも分かるように、1本の真空管で全体域を増幅するシングルアンプ構成で、負帰還回路も使わない、これ以上簡略化出来ないほどのアンプリファイアーですが、それは UV-845 等々、他の三極真空管を使った無帰還回路のシングルアンプリファイアーでも同じことです。
 それでも WE-300B を使ったアンプリファイアーの ”音が良い” と言われるのは何故だろうかと考えてみました ; 実は、手持ちのコレッリの合奏曲全集の演奏がどうにも面白くない、と思っていたのが、WE-300Bで聴いてみて、印象が変わったことがあります。
つまらないと感じていた演奏がWE-300Bで聴くと、臨場感にあふれた情感豊かな演奏であることに気づかされた次第。
 アンプリファイアーによる音の違いなどほとんど無視できると思っていたのに、一体何故だろうと思いを巡らしての結論は、どうやらWE-300Bという真空管は、偶数次の高調波が他の真空管より多く出るのではないかと思い当たりました。
 偶数次の高調波とは楽器の倍音と同じ、基音の2倍、4倍、8倍、16倍~ピアノの場合は20次にも及ぶ高調波を伴い、これが、それぞれの楽器や、演奏家による楽器の響きや音色の違いなど、音楽を決定づける重要な要素です。
 オーデイオ機器の本来の使命は、入力を忠実に増幅することなのですが、しかし、シングル動作で8Wと、普通に音楽を楽しむには十分な出力を持つWE-300B の無帰還の回路では、偶数次の高調波が消されることなく、音の潤いや、豊かな臨場感が程良く補われて再現されるのではないかと考えられます。
 これがWE-300B のアンプリファイアーが ”音がよい” と巷で評判になっている所以かもしれません。
 
 様々な300Bの聴き比べ

 
前述のようにウェスターン・エレクトリック製に加えて、アメリカ、日本、中国、ヨーロッパからは、WE-300Bと同じデザインや規格の真空管が、現在も次々と登場しています。
 日本での高い人気を受けて、WE社は1990年代末に日本向けに300Bの生産を再開したほどです。
 オーデイオ雑誌では、それらの真空管の音がどうなのか、聴き比べのような特集が時々開催されます。
全く同じ規格であり、1台のアンプリファイアーに次々と差し替えて聴き比べがいとも簡単に出来るのが真空管の良いところです。
 その結果について、評論家や一般のオーディオ・マニアの結論は、やはり、本家のウェスターン・エレクトリックが断然良い、と決まり切ったものです。
 が、WE-300A に加えて Cetronや中国各社の 300B を予備として持っているので、真空管を差し替えての聴き比べは何度も試していますが、真空管メーカーの違いによる音質の違いなど殆ど無い等しいというのが率直な感想です。
 


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