Vienna Acoustics AL-500(Webern)



     
一般的なデザインの S-1 AL-500    AL-1000
     
   
 
 発売   幅   奥行   高さ   重量 
 2004年   26.8cm  9cm   50cm   7.5kg 

 ヴィエンナ・アコースティク社はその名の通り、オーストリアのウィーンに本拠があるスピーカー・メーカーだ。
製品ラインアップは木製のキャビネットにスピーカーを収めたごくありふれたデザインのモデルを、高くても数十万円とごく妥当な値段で売っている。 
 妥当というのも、近年は新進スピーカーメーカーが奇抜なデザインのモデルを数百万円から2000万円という目をむくような値段で市場に出す傾向が目に付くからだ。
 商品開発や金型制作に膨大な費用が掛かる自動車ならともかく、どうやったらスピーカーで1000万円にもなるのか不思議というしかない。
 ヴィエンナ・アコースティクスはスピーカー・ユニットは全てデンマークのスキャンスピーク製を使用し、自社で開発したキャビネットとネットワークとを組み込んで様々なスピーカー・ラインアップを構成している。 
 イタリアの Sonus Faber やスイスの Piega と同じ手法であり、これらのスピーカーが似たような音の傾向を持つことは間違いない。
 となると、スピーカーの選択には、デザインの好みも重要な要因となる。
他のコンポーネントならキャビネットに収納しておけるが、スピーカーだけは、室内で否応なしに目に付く大きさなので、趣味の悪いものは置きたくないからだ。

 さて、AL-500 はこの社のラインアップの中では異色のモデルだ。
AL-500 の他に同じスピーカーユニット構成だが高さが1mで値段もペアで40万円のAL-1000、さらに同じデザインのセンター・スピーカーやリア用の小型のスピーカーがある。
 即ち、ホーム・シアター用に開発された一群のシステムのリア用として開発されたのがAL-500の位置づけになると考えられる。
 したがって、2000年代初めの大型プラズマパネルTVと組み合わせる音響システムとして、最適なデザインが考えられたのだろう。
 平面スクリーンに合わせて、極端に扁平なアルミニウム製の長楕円キャビネットに透明なプラスティック・コーンの中低音と、キャビネットから開いたように伸びるフレームの中心にシルク・ドーム・ツィーターを組み合わせてアクセントとするという、凝ったデザインのシステムだ。
 だが、こうしたシステムの開発と発売には蛮勇と言うべき大きな決断が必要だったに違いない。
 当時、大型平面TVは100万円と高価だったし、ホーム・シアター用にこのスピーカー・システムを込み合わると、さらに100万円と、どう考えても数が売れそうもない値段となるから、高価な金型代を前提とする、このシステムをよくぞ商品化したものだというのが率直な感想だ。
 恐らくモナコの高級別荘に暮らす富豪といった、限られた層にごく少数が売れただけにとどまったと思われる。
少なくとも日本ではごく僅かしか売れなかったことは間違いない。何しろネット市場で見かけたのはこの10年間で1度だけだった。
 このスピーカーは、実は中古のオークションではなく、販売店から新品を買った唯一のモデルだった。
30年余りタンノイとグッドマンズの、古いスピーカーを聴いていて、新しいスピーカーの音はどんなだろうと思って、今や数少ない大阪にあるオーディオの販売店の逸品館のホームページで出会ったのがAL-500だった。
 このスピーカーのデザインやコンセプトを見て、一般のオーディオ・マニアは当初から見向きもしないだろう。
 ましてホーム・シアター用のスピーカーなど、屑だと思われているから猶更のことだ。
 実際、日本の家電メーカーが出していたホーム・シアター用のスピーカーは、ただ、音が出るだけという代物が大半だったが、それは3万円程度でフロント、センター、リアとサブ・ウーファーの6本を無理やり揃えようとすればまともな音が出るわけがなかった。
 だがそうしたヤクザな代物と、劇場のJBL、Electrovoice 等の本格的な音響システムとを混同してはならないのだ。
 劇場の音響システムの音を我が家で再現するというのが、オーディオという楽しみの究極の本来の目的なのだから。
 
 AL-500について言えば、2008年に初めてこの風変わりなデザインを見たときから、これはただものではないと確信した。伊達や酔狂でこんなデザインのスピーカーを作れるわけはないからだ。
 口径15㎝のスキャンスピーク製特製の透明なプラスティック・コーンを2本と、定評のあるシルク・ドーム・ツィーターと組み合わせ、7.5㎏とずっしりと重い扁平な長楕円形のアルミニウム仕上げのキャビネットに収めたシステムがどんな音楽を奏でるのか大いに好奇心をそそられた。
 全く売れなかったのだろう、定価の25万円だって割安なのに、税込みで半値というのも気に入った。注文したら逸品堂からではなく代理店の CEC から直接送られて来た。
 きっと不良在庫を持て余していたのだろう。
 音も聴かずに買ったが、予想通りどころか、想像を遥かに上回る素晴らしい音だった。
全帯域にわたり瑞々しい音色を持ち、91dB の高能率で人の声や、弦楽器、管楽器と、あらゆる楽器の微細な響きに鋭敏に反応して爽やかに演奏会の音場が再現される。
 これは、ホーム・シアター用の御座なりの物どころか、ヴィエンナ・アコースティクス社が本気で取り組んだ新しいデザイン・コンセプトのシステムと、一聴して納得させられた。
 ヴィエンナ・アコースティクスの一般的なデザインの一連のスピーカー・シリーズにはベートーベン、バッハ、モーツァルト、ハイドンといった作曲家の名前が付けられている。
 一方、斬新なデザインのこのシリーズ名には、社名に因む新ウィーン楽派のシェーンベルク、ウェーベルン、ベルクといった作曲家名が使われていることからも、このシリーズに対する意気込みが窺がわれる。
 とりわけ、悠然としたグランド・ピアノの再生は見事なものだ。
あのキャビネットからどうしてこんな厚みがあり、しかも解像度に秀でたピアノの低音の深々とした響きと、球を転がすような高音のトリルが見事にバランスして聴こえるのかと、圧倒された。
 ピアノが良ければ、楽器、人の声等々、如何なるソースだって悪いわけがない。
 添付されていた取扱説明書によると、キャビネットの構造と製造は恐ろしく手が込んでいる ;
 キャビネットは精密なNC工作機械でアルミニウムブロックから加工され、透明な酸化被膜仕上げを施されたもの。
 キャビネット内の定在波の発生を防ぎ、強度を維持するために、キャビネットの厚さは一様ではなく、場所により50㎜~84㎜と慎重に検討され、内部は微妙に調整された連続するカーブで加工され、さらにMDF材とアルミニウムとを接合した構造によって、不要な共振を徹底的に取り除いてある、と本格的なのだ。
 他のスピーカーはどんなだろうと、後に10数台のスピーカーを次々と入手するきっかけとなったのもAL-500の印象が余りにも強かったためだ。
 結果としては、50年来の古いスピーカーも含めて如何なる音楽であれ、いずれも音楽性の高い再生能力のあるスピーカーばかりであると、この10年余りで増えた10余りのスピーカーを聴いて確認したのだが。
 だが、こうして様々なスピーカーをじっくりと聴き比べたことは、単に音の違いを聴き比べたのではなく、そこで演奏される音楽そのものを、さらに演奏家の音楽と対峙する姿勢や感性をじっくりと聴き比べたことに他ならない。

 この10年余り、そうして、音ではなく、じっくりと音楽と向かい合って来たことになる。結果として、レコードやDVDに記録されている音楽そのものに対する理解が格段に深まったことを実感する。
 それこそは、かけがいのない成果でありました。 


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