オーディオの愉しみ

GOODMANS AXIOM80


Goodmans
AXIOM80
NHT
Model 2
居間のシステム システム用機器

 中学生の初めの頃、音楽に興味などない母が、どういうわけかポータブルの蓄音機を突然買ってきた。
最初に買ったのが17pのLPでバッハのイタリア・コンチェルトのハープシコードのレコードだった。 
 当時から鉱物結晶のような整然とした幾何学的な構造を持つバッハの音楽が好きだったのだ。
 レコードに限らないが、現在と比べると当時の物価の高さは驚異的とも言える水準で、到底30pLPなど子供の小遣いで買えるような値段ではなかっから、たった1枚のレコードを飽かず何年も聴いていたものだ。
 演奏者の名前も覚えてないが、イタリア・コンチェルトの冒頭の階段を駆け上ったり下りたりするような旋律が未だに頭の中で鳴り響いているほどだ。
 その後の経緯は、これから少しづつ、様々な演奏と、オーディオ機器とともに紹介しよう ;

 最初に取り上げるのはイギリスのスピーカー、 Goodmans(グッドマンズ が正しい読み)の Axiom80。
スピーカー史上に名高い伝説的な技術者、E.J.ジョーダンが設計したと言われている。
  だが、真実は、このスピーカーの特質を最大限に発揮するために特異な形のエンクロージャーやARUユニットを開発したこと。
 Axiom80のユニット自体はすでに Goodmans  社で軍用に開発されていたというのが真相だ。
 軍用にハイファイ・スピーカーを開発する訳はないから、当初はおそらく、主に前線基地の指令室や、航空母艦や戦艦等での指令の伝達用として開発されたものと考えられる。 
 ダブルコーンで中高域が10dB以上も盛り上がった特性は、戦闘や射撃の大騒音下でも確実に指令が伝わることを目的に設計されたのではないか。 
 しかし、この優れたスピーカーを、戦後のハイファイの黎明期に何とかハイファイ用に転用すべく、E..J. ジョーダンが起用され、伝説とまで呼ばれるに至ったスピーカー・システムが出現した。
  スピーカーの音はユニット単体ではなく、それを収める箱の設計次第で大きく変貌する。 
とりわけAXIIOM80のような特異なスピーカー・ユニットでは箱の造りと構造とが再生音を決定すると言っても過言ではないから、このユニットの特性を最大限に発揮させるシステムを完成させた E.J.ジョーダン の功績が伝説とまでなったのも無理からぬことだ。

再生周波数帯域  20 - 20kHz
磁束密度 17,000 gauss
最大入力 6W(UK), 12W(U.S.A.) 総磁束 62,000 maxwells
最低共振周波数 20Hz 寸法 Ø24.1cmx16.2cm
インピーダンス 15 ohm 重量 4.2kg


朱色に塗られた磁気回路カバー等々独特な姿と構造のスピーカーユニット ARU(Acoustic Resistance Unit) 取り付け部 指定エンクロージャ寸法図


ダイアトーンの6インチフル・レンジP−610 との周波数特性の比較 指定エンクロージャ―
  未だLPレコードが開発される遥か昔、第2次世界大戦中に Goodmans 社で開発されたスピーカーが、CDやSACDが普及した現在でさえも通用するという稀代のスピーカーの一つだ。

AXIOM80の特徴

 世の中のほぼ全てのスピーカー・ユニットは振動系をゴム、紙、ウレタン等のエッジで支えている。
ところがAXIOM 80にはエッジがない。 その代わりにコーン紙と振動系をねじ止めされた前後3組のベークライト製の細いカンチレバーで吊っている。 この構造は、本来軍用に開発されたため、劣化しやすい振動系を簡単に交換できるようにとの配慮からとのこと。
 古いスピーカーでは避けられないエッジの劣化の問題が、AXIOM80 では構造的に起こり得ない。 
 ベークライトで吊られた軽量の振動系は結果として、強力な磁気回路と、中央につけられた小口径のダブル・コーンとにより極めて広帯域で、92dBの高能率の再生を可能にした。
 Axiom80の再生音の最大の特徴は、軽量の振動系を強力な磁気回路で駆動する構造により、入力に対して鋭敏に反応することだ。
 すなわち、人の声、様々な楽器の、とりわけ2次、4次・・・・、ピアノの場合には20次にも及ぶ偶数の高調波を忠実に再生できることが、多彩な楽器や音声の繊細な音色と自然な空間再生で、圧倒的な威力を発揮することだ。
 ただし、周波数特性が中域から広域にかけて相当上昇している。 このグラフは高域が圧縮されている対数表であり、無響室でのデータだから、普通に反響のある部屋で聴いた印象とは全く異なる。
 とは言え、この高域上昇特性をバランスの取れた特性にするためには、このユニットに合わせたキャビネットが不可欠だ。
 それがE.J.ジョーダンの仕事であり、特異な形のキャビネットと、低音域を増強し全体のバランスをとるために開発されたARUなのだ。
 ARU (Acoustic Resistance Unit)とは、音響負荷器を意味する ; 
 一般にはバスレフ (Bass Reflex :位相反転) 型と呼ばれる、スピーカーの箱の一部に開口部を設けて、スピーカーの背面から出る音の位相を反転して放射する技術だ。 これにより低音を増強して全体の音のバランスを整えることが可能になる。 ARUは一般の位相反転型のダクトと比べて、内部に適量の負荷材を詰めた異例に大きな面積の開口部を備え、中高域が相当上昇しているスピーカーを、システムとしてうまくまとめ上げている。 従って、指定寸法の箱とARU無しでは、本来の性能を発揮できない。
 日本で発売された1952年当時、1個 26,500円は、英ポンドが1008円の時代としても、きわめて高価であった(現在の価値観からすると数十万円か?)から、やっとユニットを手に入れても、取り合えずはありあわせの箱に入れてでも聴いてみようとしたオーディオ・マニアが大半だったに違いない。
 結果は中高域のみがキャンキャン鳴るひどい音というのが現実で、AXIOM80は鳴らすのが難しいという悪しき伝説が広まったのもこのためだ。
 グッドマンズ社は、このスピーカをユニットのみで販売し、指定のキャビネット入りのシステムとしては販売しなかったから、当時、指定箱に入った本来の音を聞いたマニアはほぼ皆無だったろう。
 AXIOM80は本来は軍用の音声伝達用として設計されたスピーカーユニットだが、鋭敏で、広帯域、高能率の特性から、相応しいキャビネットに取り付けて初めてバランスの取れた、音楽用としても素晴らしい能力を発揮するスピーカーなのだ。
 
AXIOM80にまつわる無知な噂と誤解


 とおの昔に生産中止となったため、今や伝説的な存在となり、オークション等で呆れるほどの高値で取引されている。
 実際に聴いたり持っている人が少ないせいか、世の中には荒唐無稽な伝説が罷り通っている ;
  AXIOM80は真空アンプに限る。 トランジスター・アンプではろくな音がしない、といった与太話だ。
 一部のオーディオ・マニアと称する人の中には過剰なまでの真空管アンプ信仰がある。
過去に5台の真空管アンプを組み立て、現在も3台を使っているが、真空管アンプがトランジスターアンプより ”音が良い” などという事は決してない。 
 大昔の発明直後のトランジスターならともかく、技術的にすっかり成熟した現代のトランジスターアンプであれば、多くのマニアが馬鹿にするAVアンプでも過不足なくAXIOM80をドライブし、音楽を美しく奏でてくれる。  
 真空管の魅力は、本来の素性の良さから、単純な回路で済み、高度な測定器等を持たない素人でも容易にアンプを組み立てられるということ、さらに見た目の存在感がある、の二点に尽きる。
音質面でトランジスターに勝るということは決してない。 
 かつて試聴室で聴いた時も、コーラル製の安いトランジスターアンプでも十分美しい音色を奏でてくれたものだ。
 日本での高い要望に答えて、グッドマン社では1980年代末に補修用に残っていた在庫から選別した部品で250ペアのユニットを組み立てて、日本市場に売り出した。
 ところが、このレプリカは自分の所有するオリジナルに遥かに劣る。レプリカは偽物、などと声高に騒ぎ立てるマニアが少なからず存在する。
 そんな馬鹿なことはあり得ない。 スピーカーは実は消耗品だ。 とりわけ、絶え間なく高速で振動するコーン紙や、サスペンションやヴォイスコイルは年月とともに劣化が避けられない。
 まして過酷な環境下で使われる軍用のスピーカーともなれば、劣化はさらに早い。 
そのための補修部品だが、戦後30年ともなれば、もはや使われなくなって補修部品も不要となる。
 涼しいイギリスの倉庫で保存されていた未使用部品はほとんどが当初の性能を保っていると考えられるが、万一不良品があったとしても、Goodmans 社は良品のみを選別してユニットを組み立てたはずだ。
 レプリカと言っても、元々AXIOM80用に生産した部品を後日組み上げた、オリジナルと寸分違わない、真正の Goodmans のユニット以外の何物でもない。
 Goodmans社のスピーカーの品質を知るエピソードがある ; 1980年代央、既に完成品のスピーカービジネスからは撤退していたが、部品メーカーとしては依然としてスピーカー・ユニットを生産、販売していた。
 当時イギリスでテレビを生産していたSONYの工場を訪れた際に、 Goodmans のユニットが使われていたのに気づいて、やはり、と納得した。
 欧州製のSONYのテレビを日常使っていて、音楽やナレーション等々何とも良い音がするので、何故だろうと、不思議に思っていたが、キャビネットを開けてスピーカーを確かめることまではしなかったのだ。 
 工場の品質管理の担当者と話したところ、他の部品納入メーカーと比べても Goodmans のスピーカーユニットの品質と信頼性は際立って良いと評判だった。 
 今になって思えば、丁度 Goodmansが AXIOM80 のレプリカを日本向けに組み立てていたころの話だ。
 
  冒頭の写真は今でも愛用している AXIOM80を中心とするシステムだ。
 1980年代のレプリカを秋葉原の日野無線製の古風な指定キャビネットに収めたもの。
 WE-300Aで駆動している。 隣のNHT Model-2 はUV−845 の同じくA級無帰還シングルアンプで駆動。 
 コントロール・アンプは20年以上昔のアキュフェーズのC−200Vが今も健在。 
 その他様々なアンプや15ペアのスピーカーシステムがあちこちにあるが、今後順次紹介する予定。 

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