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世の中のほぼ全てのスピーカー・ユニットは振動系をゴム、紙、ウレタン等のエッジで支えている。 ところがAXIOM 80にはエッジがない。 その代わりにコーン紙と振動系をねじ止めされた前後3組のベークライト製の細いカンチレバーで吊っている。 この構造は、本来軍用に開発されたため、劣化しやすい振動系を簡単に交換できるようにとの配慮からとのこと。 古いスピーカーでは避けられないエッジの劣化の問題が、AXIOM80 では構造的に起こり得ない。 |
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ベークライトで吊られた軽量の振動系は結果として、強力な磁気回路と、中央につけられた小口径のダブル・コーンとにより極めて広帯域で、92dBの高能率の再生を可能にした。 Axiom80の再生音の最大の特徴は、軽量の振動系を強力な磁気回路で駆動する構造により、入力に対して鋭敏に反応することだ。 すなわち、人の声、様々な楽器の、とりわけ2次、4次・・・・、ピアノの場合には20次にも及ぶ偶数の高調波を忠実に再生できることが、多彩な楽器や音声の繊細な音色と自然な空間再生で、圧倒的な威力を発揮することだ。 ただし、周波数特性が中域から広域にかけて相当上昇している。 このグラフは高域が圧縮されている対数表であり、無響室でのデータだから、普通に反響のある部屋で聴いた印象とは全く異なる。 とは言え、この高域上昇特性をバランスの取れた特性にするためには、このユニットに合わせたキャビネットが不可欠だ。 それがE.J.ジョーダンの仕事であり、特異な形のキャビネットと、低音域を増強し全体のバランスをとるために開発されたARUなのだ。 ARU (Acoustic Resistance Unit)とは、音響負荷器を意味する ; 一般にはバスレフ
(Bass Reflex :位相反転)
型と呼ばれる、スピーカーの箱の一部に開口部を設けて、スピーカーの背面から出る音の位相を反転して放射する技術だ。 これにより低音を増強して全体の音のバランスを整えることが可能になる。 ARUは一般の位相反転型のダクトと比べて、内部に適量の負荷材を詰めた異例に大きな面積の開口部を備え、中高域が相当上昇しているスピーカーを、システムとしてうまくまとめ上げている。 従って、指定寸法の箱とARU無しでは、本来の性能を発揮できない。 日本で発売された1952年当時、1個
26,500円は、英ポンドが1008円の時代としても、きわめて高価であった(現在の価値観からすると数十万円か?)から、やっとユニットを手に入れても、取り合えずはありあわせの箱に入れてでも聴いてみようとしたオーディオ・マニアが大半だったに違いない。 結果は中高域のみがキャンキャン鳴るひどい音というのが現実で、AXIOM80は鳴らすのが難しいという悪しき伝説が広まったのもこのためだ。 グッドマンズ社は、このスピーカをユニットのみで販売し、指定のキャビネット入りのシステムとしては販売しなかったから、当時、指定箱に入った本来の音を聞いたマニアはほぼ皆無だったろう。 AXIOM80は本来は軍用の音声伝達用として設計されたスピーカーユニットだが、鋭敏で、広帯域、高能率の特性から、相応しいキャビネットに取り付けて初めてバランスの取れた、音楽用としても素晴らしい能力を発揮するスピーカーなのだ。 |
AXIOM80にまつわる無知な噂と誤解 |
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とおの昔に生産中止となったため、今や伝説的な存在となり、オークション等で呆れるほどの高値で取引されている。 実際に聴いたり持っている人が少ないせいか、世の中には荒唐無稽な伝説が罷り通っている ; |
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AXIOM80は真空アンプに限る。 トランジスター・アンプではろくな音がしない、といった与太話だ。 |
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一部のオーディオ・マニアと称する人の中には過剰なまでの真空管アンプ信仰がある。 過去に5台の真空管アンプを組み立て、現在も3台を使っているが、真空管アンプがトランジスターアンプより ”音が良い” などという事は決してない。 大昔の発明直後のトランジスターならともかく、技術的にすっかり成熟した現代のトランジスターアンプであれば、多くのマニアが馬鹿にするAVアンプでも過不足なくAXIOM80をドライブし、音楽を美しく奏でてくれる。
真空管の魅力は、本来の素性の良さから、単純な回路で済み、高度な測定器等を持たない素人でも容易にアンプを組み立てられるということ、さらに見た目の存在感がある、の二点に尽きる。 音質面でトランジスターに勝るということは決してない。 かつて試聴室で聴いた時も、コーラル製の安いトランジスターアンプでも十分美しい音色を奏でてくれたものだ。 |
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日本での高い要望に答えて、グッドマン社では1980年代末に補修用に残っていた在庫から選別した部品で250ペアのユニットを組み立てて、日本市場に売り出した。 ところが、このレプリカは自分の所有するオリジナルに遥かに劣る。レプリカは偽物、などと声高に騒ぎ立てるマニアが少なからず存在する。 そんな馬鹿なことはあり得ない。 スピーカーは実は消耗品だ。 とりわけ、絶え間なく高速で振動するコーン紙や、サスペンションやヴォイスコイルは年月とともに劣化が避けられない。 まして過酷な環境下で使われる軍用のスピーカーともなれば、劣化はさらに早い。 そのための補修部品だが、戦後30年ともなれば、もはや使われなくなって補修部品も不要となる。 涼しいイギリスの倉庫で保存されていた未使用部品はほとんどが当初の性能を保っていると考えられるが、万一不良品があったとしても、Goodmans
社は良品のみを選別してユニットを組み立てたはずだ。 レプリカと言っても、元々AXIOM80用に生産した部品を後日組み上げた、オリジナルと寸分違わない、真正の Goodmans のユニット以外の何物でもない。 Goodmans社のスピーカーの品質を知るエピソードがある ; 1980年代央、既に完成品のスピーカービジネスからは撤退していたが、部品メーカーとしては依然としてスピーカー・ユニットを生産、販売していた。 当時イギリスでテレビを生産していたSONYの工場を訪れた際に、
Goodmans
のユニットが使われていたのに気づいて、やはり、と納得した。 欧州製のSONYのテレビを日常使っていて、音楽やナレーション等々何とも良い音がするので、何故だろうと、不思議に思っていたが、キャビネットを開けてスピーカーを確かめることまではしなかったのだ。 工場の品質管理の担当者と話したところ、他の部品納入メーカーと比べても
Goodmans のスピーカーユニットの品質と信頼性は際立って良いと評判だった。 今になって思えば、丁度
Goodmansが AXIOM80
のレプリカを日本向けに組み立てていたころの話だ。 |