イングマール・ベルイマン(Ingmar
Bergman)
夏の夜は三たび微笑む
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スウェーデンの映画監督、イングマール・ベルイマンが1955年に制作した映画 ”夏の夜は三たび微笑む” は同年のカンヌ映画祭にて ”詩的ユーモア賞” を受賞し、ベルイマンの映画としては稀なことだが世界的な商業的な成功作となった作品だ。
この映画はベルイマンの作品としては例外的なユーモア溢れる艶笑喜劇と言ってもよい作品だ。
冒頭の写真の8人、6組の男女が北欧の白夜に繰り広げる恋の駆け引きと顛末とが何とも軽妙なタッチで描かれている。
芝居にうってつけのこの筋書きは1973年にブロードウェイで "A Little Night Music "の題でミュージカル化され、その主題歌 "Send in the clowns" はポピュラー音楽のスタンダード・ナンバーになっていたとはごく最近になって知ったことだ。
筋書や演出もさることながら、この映画の目の覚めるような黒白の映像の美しさも印象に残る。
撮影担当のグンナール・キッシェルはこの後もベルイマン作品には欠かせないカメラマンとして後述の作品の瑞々しい映像美を作り上げている。
この時代、イギリスからはトニー・リチャードソン、フランスからはフランソワ・トリュフォー、イタリアからはミケランジェロ・アントニオーニ,フェデリコ・フェリーニ、ヴァレリオ・ズルリーニ、ロシアからはアンドレイ・タルコフスキー、ポーランドからはアンジェイ・ワイダ等々、歴史に残る映画作家たちが輩出して、いずれもモノクロームによる独特の映像美で世界の映画界を席捲し始めていたのだ。
この後、ベルイマン監督は1957年の”第七の封印”と”野いちご”1960年の”処女の泉”により、カンヌ、ヴェネチア、ベルリン、アカデミー賞等々世界の映画祭で高い評価を受け、世界的な映画監督として広く認められた。
こうした作品は、しかし地方都市の映画館で上映される機会は殆どなく、東京や京都など、限られた都市のアート・シアター系の映画館でしか見ることができなかったから、宇都宮を朝一番の電車で発ち、アート・シアターや名画座を梯子して最終電車で帰るということが何度もあったものだった。
第七の封印 | 野いちご |
こうして、高校時代に東京まで行って最初に観たベルイマン作品が”第七の封印”だった。
十字軍から帰省途上の騎士が死神と遭遇し、同じく狙われた旅芸人一家を救おうと、チェスの試合を続けるが、結局は命を奪われる。 が、旅芸人の一家を救うことは出来た、という荒筋だが、この作品の筋書きはさほど重要ではない。 この映画の最大の見どころはモノクロームの映像の美しさにある。
最後に死神に率いられて行く騎士たちと、朝日の射す海辺でそれを遠くに見る旅芸人一家を遠景に収めた場面は息をのむほどの美しさに溢れている。
同じ年に制作された”野いちご”や1960年の”処女の泉”も瑞々しいモノクロームの映像の美しさが全てと言ってよい作品だ。
だが、この後の作品 ; ”鏡の中にある如く” ”冬の光” ”沈黙” 等は恐ろしいほどの絶望と厭世感とに覆われている作品が続き、どうにも二度と観たくはないというのが率直な感想だ。
それだけに、上述した初期の作品のユーモアや瑞々しい美しさが尚更のこと心に残るのです。