はやぶさの帰還



 この写真は何の説明の必要もないだろう。
2003年5月9日に打ち上げられた”はやぶさ”が、、数々の故障と絶望的な状況を克服して、2010年6月13日に、地球に帰還した時の映像だ。
 糸を引くように先行するカプセルの背後を、送り届けた探査船 ”はやぶさ ” の本体が大気圏突入の高熱でバラバラに分解し、最後に眩しく光り輝く炎を放ちつつ燃え尽きてゆく様は、これまで見て来た、如何なる映像と比べても、最も美しいものとして、深く心に残っている。
 多くの人が同様の思いで記憶に留めているに違いない。
このプロジェクトに実際に関わり、ついに迎えたこの日を待ちわびていた無数の人々にとっては、なおさらのこと、万感の思いを抱いてこの帰還の時を見つめたことだろう。

 ”はやぶさ”の旅は7年余りだったが、しかしプロジェクトそのものはさらに10年、恐らくは20年も昔から立案され、練り上げられて提案されて予算が組まれ、探査船、それに積まれる観測機器や、通信装置、イオン・エンジン、さらには打ち上げるロケット、軌道計算、等々、数限りない作業に何万人という人々が関わり、中にはこのプロジェクトのみに生涯の大半を費やしたスタッフも少なからずいた事だろう。
 何しろロケットだけでも100万を超える部品で組上げられている。 
そのうちのたった一つが機能しなくても、計画が失敗に終わってしまうことになりかねない。
 無事に打ち上げたとしても、極寒の、強力な宇宙線が飛び交う宇宙空間を3年近く飛んでいれば
、どのような事態も起こりうる。
 事実、数々の想定外の致命的ともいえる事態に遭遇したにも拘わらず、前もって何重にも採られていた対策により、奇跡の生還を遂げることができた。
 こうしたプロジェクトには万全を期して緻密な計画を練り上げるのは、当事者としては当然のこととはいえ、はたから見ているやじ馬からすれば、担当したメンバーの用意周到さと、熱意と知恵にはただただ感嘆するばかりだ。

 
”はやぶさー2” 
  ”はやぶさ” の成功により、 ”りゅうぐう” と命名された、”いとかわ” とは種類の異なる炭素型の小惑星探査を目指して 2014年3月に打ち上げられた ”はやぶさー2” が 2015年12月13日に、地球の重力を利用して加速度を獲得するスイング・バイに成功し、無事に”りゅうぐう”を目指す軌道に投入された。 今後全てが順調に行けば2018年の6月―7月に接近し、サンプル採取の後に、2020年末頃に地球に帰還する予定だ。
 スイングバイは、極めて高度な軌道計算と、探査機のイオン・エンジンの動作コントロールが必要な技術だが、これまでの実績を下に、今回もほぼ計算通りの結果を達成できた。
 と、一介のやじ馬に過ぎない僕でさえもわくわくするような嬉しいニュースだ。
願わくは、2018年のサンプル採集、そして2020年末の地球への帰還を再び見たいものだ。

”あかつき” の金星軌道再投入成功


 2015年12月7日には、金星探査機 ”あかつき” の金星周回軌道への再投入の成功という、これまたわくわくさせられる,嬉しいニュースを聞くことができた。
 2010年5月21日に打ち上げられた”あかつき”は2010年12月7日の、金星周回軌道への投入時に主エンジンが故障して、その後5年間も太陽を回る軌道を漂っていた。
 莫大な予算と、そして無数の人々が膨大な時間を費やして携わるこのようなプロジェクトは、まさに人生に一度限りの挑戦だ。 その失敗は取り返しがつかない。
 幸いなことに、このプロジェクトには残された非力な4基の軌道修正用エンジンを使って、軌道再投入の可能性があった。 
 何時、どんなタイミングで軌道修正用エンジンを使えば金星周回軌道に乗せられるか ? 
2年半に及ぶ数万回の計算を繰り返し、奇しくも5年前の失敗時と同じ、12月7日に最適なタイミングを見出したのは、軌道計算の担当者、廣瀬史子さん。 
  ただし、設計寿命が4年と想定された探査機が、太陽に近い軌道で5年間も想定を上回る高温にさらされていたことから、全てがうまく行く可能性は極めて少ないと危惧された。
 一縷の望みをかけての金星軌道再投入への試みは、嬉しいことに予想外の成功となった。
このプロジェクトに携わった無数の人々の喜びを思うとなおさら嬉しいニュースだった。
 4基のエンジンはいずれも、予定通り20分を超える長時間の連続噴射に耐え、金星周回軌道に入った ”あかつき” からは早速鮮明な金星の写真が次々と送られてきた。
 ほとんど絶望的な状況下に置かれながら、”あかつき” はほぼすべての機能が正常に作動し、今後少なくとも2年間は、観測を続けられると期待されている。
 ”はやぶさ”の奇跡の帰還に匹敵する、偉大な !!! としか、形容するしかない成果だ。
 日本の技術と、極めて信頼性の高いもの作りの技には、ただただ感嘆するのみ。
 金星から送られてくる映像や、様々な分析データをわくわくして待っています。

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