Focal/J.M.Lab
Opal 9/Cobalt 806S
Opal-9 | Cobalt-806S | ネットワーク |
発売年 | Woofer | Tweeter | 寸法(W/H/D) | 重量 | 定価 | |
Opal-9 | 1995 | 16.5cm | 2.5cm | 25x50x30cm | 11.2kg | - |
Cobalt-806S | 2004 | 16㎝ | 2.5cm | 22x39x28cm | 8.9kg | \150,000/pair |
Focal/J.M.Lab 社の経歴
1979年、フランスのリヨンの南西 90㎞ 程にあるサン・テチエンヌ (St. Etienne) の町にて家族経営の精密機械工房を経営していたジャック・マユル (Jacques Mahul ) が技術者と二人でスピーカーユニットの開発に手を染め、当初は Focal ブランドでスピーカー・ユニットの供給を始めたのが Focal/J.M.Lab 社の発端。
フォーカルのスピーカー・ユニットが注目を集めたのは、一般のドーム・ツイーターが前方にドームが膨らんでいるのに対して、逆に背面に膨らんでいる Inverted Dome と呼ばれる形状のドーム型を開発し、その性能が超広域の 50khz までフラットに伸びているという驚異的な性能を示していることだった。
詳細は不明だが、一般的なドーム・ユニットのように、ユニットの外周ではなく、質量のバランスが均等になるドームの中央と外周との中間点に小型軽量の駆動コイルが配置され、超高域でもドームが撓むことなく振動できるような構造が驚異的な性能を可能にしたと考えられる。
この高性能のドーム・ユニットが世界の超高級ブランドに次々と採用されたことからスピーカー・メーカーとして飛躍的な発展を遂げ、1990年代初頭からはFocal/J.M.Lab ブランドで完成品のスピーカーの市販を開始し、更に2002年からは業務用のスタジオ・モニターや、カー・オーデイオの分野にも進出し,日本のオーデイオ・メーカーがほぼ壊滅してしまった現在では、世界で屈指のスピーカーを中心とする音響メーカーとしての地位を築いていると言えましょう。
以前に紹介した同じフランスのスピーカーブランドのカバス (Cabasse) がパルプ製のコーンと硬質プラスチック製の高音ユニットという古風な素材でスピーカー・システムを作り続けているのとは対照的に、Focal/J.M.Lab 社は中低音用には発泡金属を石英ガラス繊維のコーン材で挟んだものを、高音用の逆ドームツイーターには、ケブラー繊維、酸化チタンをコーテイングしたアルミニウム、さらにベリリウムと次々に最先端の素材を導入するなど技術志向の高い姿勢を見せている。
最先端の素材を導入したからと言って、必ずしも優れた製品ができるとは限らないのがオーディオの世界なので、事実JBL、Tannoy、Cabasse 等々、半世紀以上昔から紙のパルプコーンを中低音ユニットに使い続けている第一級のスピーカーメーカーとしての地位を保っているブランドもあるわけだ。
しかしながら,老舗のブランドが君臨する業界に新興メーカーが新たに進出するためには、斬新な技術の導入は戦略としては正しく、Focal/J.M.Lab が技術を旗頭に大きな成功を収めたことは間違いない。
Opal-9
このモデルは1990年代半ば、恐らくは完成品のスピーカー・システム市場に参入して間もない時代に、一連の Opal シリーズのラインアップの中の中級モデルとして導入されたと思われる。 ペアで10万円台半ばのスピーカーだったと思われます。
30年近く昔のモデルで技術的な詳細は不明であり、デザインも仕上げも垢ぬけない商品だが、使っているユニットやスピーカー・システムとしてのコンセプトは現在の完成されたシステムとほぼ同等の内容であり、その後着々と改良を続けて来た原点のようなモデルと言える。
このモデルをネットで見かけて購入したのは2012年のことだった。
1990年に発売されたスイスのAcoustik Lab の Bolero というスピーカーが、中古市場でも依然として人気が高く、発売後20年を過ぎてもペアで10万半ばの高値が競争でさらに吊り上がるので、入手が難しい時に見かけたものだった。
Bolero のユニットは全て Focal から供給されていたもので、ケブラー繊維製の逆ドーム・ユニットは全く同じものが使われていたものだったから、とりあえず評判のツイーターがどんなものか聴いてみようと入手したもの。
垢ぬけない外観とは裏腹に音の方は本格的なスピーカー・システムだ。 16㎝口径の中低音ユニットには十分すぎるほどの大きな箱に収めた効果が出ているのだろう、グランドピアノの深々とした低音の響きが自然に再現されるのは大したもの。
後に入手した Bolero とはほぼ同じ内容だが、値段は十分の一にしか過ぎなかったが、当然のことながら音質は同等の水準。
ただし Bolero の異例の濃厚な音の密度感ではなく、逆にさわやかに音場が拡がる鳴り方が印象に残る。
殆ど同じユニットを使いながら作り手によって音楽の再現性が異なるスピーカーの面白さに改めて感心させられた。
Cabalt806S
このモデルは2000年初頭に発売された Cobalt シリーズを Signature Series とマイナーチェンジしたものだ。
前述の Opal-9 と比べるとほぼ同じユニットを使いながら、細部に改良を重ねたことが一目瞭然で、仕上げやデザインは見違えるほど洗練されている。
前面のグリルは繊維ではなく濃い灰色の重厚な仕上げのパンチングメタル仕上げになっている。
ドーム・ツィーターの素材はケブラー繊維からアルミニウムにニ酸化チタンコーティング仕上げに代わっている。
さらに最上位モデルではベリリウムへと、絶えず最適な素材が開発されている。
高性能のツィーターを支える中低音ユニットには発泡金属を石英グラスファイバー繊維で挟んだコーンが使われ、これは現在に至るまでペアで数万円の普及機から1000万円を超える最上級機までの全てのラインアップに共通している組み合わせで、基本的なユニットとしてはほぼ完成したものと考えられる。
マイナーチェンジはクロスオーヴァー・ネットワークに手を入れたらしく、普及版のブックシェルフにここまで手をかけるかと思えるほどのコイル、抵抗、コンデンサー等、高級な部品を惜しみなく使ったネットワーク部品が背面のガラス窓を通して見えるようになっている。 2-Way のスピーカーならコイルとコンデンサー1個だけでも十分なのだが。
中低音と高音ユニットを繋ぐクロスオーヴァー回路が24dB/Octave と異例の急峻なカーブ仕様になっているのが興味深い。
一般には 6dB-12dB/Octave 普通なのだが、それも現在では全く表示も言及もされない程、現在ではネットワークは顧みられない存在になっている。
実際に音を聴いてクロスオーヴァーのカーブがどうなっているか分かる訳ではないが、技術志向のFocal/J.M.Labらしく、位相特性にまで念入りに手を入れたのだろう。
事実、背面のネットワークの詳細を見て、聴いてみたくなったような次第。
音質はOpal-9 同様能率が高く、プログラムソースに鋭敏に反応するから、店頭で他のスピーカーと切り替えた場合に一段と聴き映えがするのは確かだ。
だが、それを自分の部屋でじっくり聴いたらどうなるか ?
一聴した時には些か中高域が暴れているかなという印象だった。
中古品をネットオークションで手に入れたものだが、受け取ってみたら殆ど未使用の新品同様であったから、金属製のドーム・ツィータのエージングが進んでなかった為であろうと、1年ほどかけて鳴らしこんで、ようやく他のスピーカー同様、しなやかに音楽を奏でるようになった。
振動系を持つスピーカーは新品を荷ほどきして直ちに本来の性能を発揮できるとは限らないとは、よく言われるが、このスピーカーで初めて実感した次第。