諸国の人々 (Les Nations : 1726)
フランソワ・クープラン (François Couperin : 
1668 - 1733)


         
録音 1965(Hamburg, Zurich)  1968(Bennebroek)   録音 1988(Berlin) 1989(Salzburg)    録音 2004(Utrecht) 
Quadro Amsterdam    European Baroque Soloists    Musica Ad Rhenum 
フルート・リコーダー
ヴァイオリン
チェロ
ハープシコード
ヴァイオリン
フルート 
フランス・ブリュッヘン
ヤープ・シュレーダー
アンナー・ビルスマ
グスタフ・レオンハルト
マリア・レオンハルト
フランス・ヴェスター 
  ファゴット
フルート
オーボエ
ハープシコード
ヴィオローネ
ミラン・トゥルコヴィッチ
ヴォルフガング・シュルツ 
ハンス・イエェルク・シュレンベルガー
フィリップ・モル
クラウス・シュトル
  フラウト・トラヴェルソ
フラウト・トラヴェルソ
ヴァイオリン
ヴァイオリン
ヴィオラ・ダ・ガンバ
チェロ
アーチリュート
ハープシコード
 イェド・ヴェンツ
マリオン・モーネン
ステファノ・ロッシ
松永綾子
カサンドラ・リュックハルト
ヨブ・テル・ハール
ミキーレ・ニーセン
ミハエル・ボルクステーデ

 ヨーロッパの文化は、ギリシアやローマを源流とするのだが、中世以降、いち早くルネサンスを経て近代化が進められる中で、広範な分野で先進国のイタリアが主導権を握ったのは当然のことだった。
 音楽の世界においても、イタリア出身の音楽家がヨーロッパ各地で活躍し、それから独自に各地の音楽が発展を遂げたと言える。

 フランソワ・クープランの先祖はイギリス市出身だが、フランスに渡り、16世紀終わり頃から19世紀中頃にかけて、六代に渡る音楽家を輩出した家系だった。
 中でもフランソワ・クープランはヴェルサイユ宮に仕え、”大クープラン”と呼ばれる、フランスの後期バロック音楽時代を支える存在だった。
 この”諸国の人々”はフランスに渡ったイタリア音楽の巨匠リュリやコレッリ達が広めたイタリア様式の器楽合奏曲を代表するものだ。
「フランス人」 「スペイン人」 「神聖ローマ帝国の人」 「ピエモンテの人」 と銘打たれた4つの組曲からなり、特定の楽器指定がなく、様々な編成での演奏が可能だ。
 各曲はソナタを意味する”ソナード”で始まり、コレッリに範をとる、緩急緩急の交代する”教会ソナタ”の形式で進行する。 それぞれの組曲の「フランス人」 等の表題は殆ど意味がなく、それぞれがソナタと組曲から成る曲集で、全曲では80分程の大曲となる。 
European Baroque Soloists
 
 デンオンがベルリンとザルツブルクとで自ら PCM 録音を手掛けたもので、30年余りカタログに掲載され、販売が続けられている。
演奏者はヨーロッパを代表するオーケストラでそれぞれ首席奏者を務めた名手たちで、今は独立して活躍しているファゴットの名人、ミラン・トゥルコヴィッチが主導する演奏となっている。 
 ヴィオローネとは 3-6 弦のフレット付の、ヴィオラ・ダ・ガンバ族のコントラバスのような大型の弦楽器で通奏低音を受け持っている。
 このグループの演奏はファゴットを主にフルートとオーボエとが冴え冴えと響き渡るフランス・バロック音楽の極致とも言える名曲の理想的な名演と言って差し支えありません。
 演奏技術の高さはもちろんのこと、曲想を自由奔放に解釈し、生き生きと展開される様は、これこそ本来のバロック音楽の究極の姿に他ならないと改めて感嘆させられる。
 30年余り聴き続けて、新しいスピーカが到着した時には、真っ先に聴く曲でもあります。
どのスピーカーで聴いても、美しさに聴き惚れてしまって、どのスピーカーが良いとか、そうではないとか、どうでもよくなるほど、曲と演奏の良さとが際立つからと言えるかもしれない。 
 管楽器主体の小編成の室内楽で音域が広くなく、小型のスピーカーでも充分に全音域をカバー出来るため、スピーカーの差が余り目立たないことは事実です.
 しかしながら全体の音のバランス、空間への音の広がり、個々の楽器のふくよかな音色と音の立ち上がり等々、優秀なスピーカーであれば、この曲の魅力と演奏の素晴らしさを十分に堪能できるのは言うまでもありません。


Quadro Amsterdam

   バロック音楽が一般に浸透し始めた1960年代、イタリアのイ・ムジチ、ローマ合奏団等と並び立つバロック音楽の本場となったのがベルギーやオランダを中心に活躍した古楽器の名手、バロック・フルートのフランス・ブリュッヘン、チェロのアンナー・ビルスマ、ヴァイオリンのヤープ・シュレーダーとハープシコードのグスタフ・レオンハルトの ” アムステルダム四人組 ” だった。
 1965年という古い時代に、すでに ”諸国の人々” を録音していたのですね !!
 
このレコードは 当初はドイツの "Telefunken" の古楽ブランドで1958年に創設された "Das Altewerk" から出たものだが、ジャケットには1953年に設立されたフランスの "ERATO" が印字されており、しかもジャケット背面のカバーにはイギリスのワーナーミュージック傘下に入った、1969年の イギリスの "DECCA" と "Telefunken" とが当時開発中のビデオディスクの開発で設立された "Teldec" 社の登録となっており、そのうえCDそのものはフランスの放送局、"Radio France"から発売されているという、この半世紀の世界のレコード業界の変遷を如実に示すような興味深いデータが満載だった。
 しかしながら、1960年代と、バロック音楽復興期間もない時代を感じさせる端正な演奏で、十分に美しく、当時としては最上の演奏だったには違いないが、この20年後のヨーロッパ・バロック・ソロイストの流麗典雅にして奔放な演奏と比べると、面白さに欠けるという感想は否めません。
 バロック音楽とは、楽譜通りに演奏すれば良いというものではない。
作曲家は最低限の内容しか楽譜に書かないので、そこに込められた意味をくみ取って自由に解釈し、展開させるのが、名人演奏者たちの腕の見せ所というのが
バロックの神髄というものなのです。
   Musica Ad Rhenum
 “ライン河辺での音楽” というラテン語の団体名の演奏を見かけて、新しい演奏がどんなものか聴いてみた。
 音楽が始まると、一瞬別な曲をかけたのかと、思わずCDを取り出してジャケットを見直したほど、聴きなれた曲とは異なる演奏に驚かされた。 
  メロディーはそれぞれ二つのヴァイオリンとフラウト・トラベルソ(古楽器のフルート)をヴィオラ・ダ・ガンバ、チェロ、アーチリュート(大 型のリュート)とハープシコードと多彩な通奏低音楽器群で支えるという楽器構成のため中低音が充実している為でもあるが、前述の 二つの演奏と比較するとテンポの取り方や曲想の解釈等が随分異なるので、些か違和感を感じたほど。
  だが、それこそはバロックの音楽演奏の本質には違いないと、この5年ほど聴き続けてきて、こういう演奏もあるかと、ようやくこの演 奏に馴染んで来た次第。


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