ラックスマン L-504
(Solid State Stereo Integrated Amplifier)


   
1973年に発売された L-504 の半世紀を経て毅然とした存在感


 
L-504シャーシー内部  半世紀前の商品とは思えないほどに綺麗な状態の背面パネル 

 オーディオの黎明期に真空管のアンプリファイアーで高く評価されていたラックスが、ついにトランジスターを使ったアンプリファイアー、SQ-505(¥58,000) と SQ-606 (¥39,000) を発表したのは1968年だった。
 Sony,Trio, Victor, Coral 等々、競合他社が新しい素子であるトランジスターをいち早く採用して、1965年頃から次々と新モデルを発表していた中で、ラックスがトランジスター・アンプリファイアの導入を躊躇していたのには訳があった。
 それは、当時のトランジスターが開発されたばかりの未熟な素子であり、ラジオや通信機等々、音さえ出ればそれで良い商品とは異なり、オーディオ製品は何よりも音楽を聴くための道具である以上、音質が問題となるからだった。
 トランジスターは素子の特性として、PNPとNPNという動作の異なる二種の素子を組み合わせてB級動作の増幅回路を構成して使う必要があるが、当時は個々の素子の特性のばらつきが大きく、数多くの素子を測定した上で選別して使う必要があり、大量生産上の大きな障害となっていた。
 必然的に、一種の方便として、負帰還という回路技術が使われ、それまでの真空管のアンプリファイアーと比較すると驚異的に素晴らしい特性が得られるようになった。 
 負帰還とは増幅された信号の一部を位相を反転して入力に再度送り込む回路技術だ。これにより周波数特性や歪率等が劇的に改善されるため、多くのアナログ電子回路に普通に使われた優れた回路技術なのだが、オーディオの回路に使われる場合には大いに問題があった。 
 それは測定データが示す、素晴らしい歪率や周波数特性とは裏腹に、ごく低いレベルで含まれている音場の雰囲気や音声や楽器のふくよかな音色を担っている高調波成分を消し去ってしまうという劇薬でもあったからだ。
 つまり、音は出るのだが、音楽を聴くとなると無機乾燥な潤いの無い音になってしまうのだった。
 当時のアンプリファイアーを設計していた電子技術者が皆、音楽を楽しむ趣味を持っていたとは思えないから大量の負帰還をかけることで、見かけ上素晴らしい測定データを誇るアンプリファイアーが少なからずあったのは事実だ。
 かくして、一部の音楽愛好家やオーディオ・マニアの間にトランジスターは音が硬いという拭い難い悪評が定着し、トランジスターの性能が飛躍的に改善された現在に至るまで根強く残っている原因ともなった。
 ラックスに限らず、山水やパイオニア等、それまで真空管アンプリファイアーで定評のあったメーカーのトランジスター・アンプリファイアーの発売が一様に先行他社より3~4年遅れた1960年代末になったのはそういう理由があったためだ。
 が、その間、トランジスターの性能は急速に改良され品質も安定して、じっくりと研究を重ねた山水、パイオニアとラックスの各社が満を持して導入したアンプリファイアーはいずれもかつての真空管に遜色のない音質を誇り、その後のオーデイオ市場を席巻することとなった。
 とりわけラックスの SQ-505 は音質のみならず、ヴォリュームやピン・スイッチ等々の大きさや色合い、質感等の絶妙なバランスで配置された美しさが30を超える後継のモデルに受け継がれ、今日、100万円を超える高級モデルにまで踏襲されているほどの傑出したデザインとなったものだ。

L-504

 L-504 (¥78,000) は SQ-505 の後継機として1973年末に発表された。
基本的にはデザイン、回路構成、出力等、SQ-505と殆ど変わらないが、当時原油が高騰して、毎年30%も物価が高騰していたあおりを受けて30%余りの値上げを余儀なくされ、シリーズ名を SQ から L へと変更して受け継がれたものだ。
 SQとLシリーズのデザインのモデルは、現在も人気が高く、中古の品が半世紀も昔の定価と同等の水準で取引されているほど。 中には動作しないジャンク・モデルに部品取り用と何万円もの値がついている有様だ。
 当時のラックスの製品は他社の同等品と比べると相当に高価であり、薄給の身では容易に手を出せる物ではなかった。
 ジャンクでも手に入れて眺めていたいという思いは分からないでもない。
 が、動作もしないのに眺めるだけで喜んでいるほど酔狂な趣味はないから、何時かは手元に置いて音楽を楽しみたいと、長年密かに思っていたのだが、その甲斐があって、最近完全に整備された完動品がオークション市場に出て、50年来の願いがようやくにして叶った。
 冒頭の写真のように、半世紀近く経った品とは思えないほどに大切に使われ、整備されたもので、使っていた方の愛着をひしひしと感じさせられる。
 もちろん、全てチェックしたうえでトランジスターやコンデンサー等、劣化した部品は交換し、内部のリレーやボリューム、端子なども分解してクリーニングをし、さらに発送前に、測定器で入念な調整を施し、音出しの確認を重ねたと、至れり尽くせりの整備の後に届けられたのはピカピカの新品未使用品のような美しさだった。
 早速、アキュフェーズのコントロール・アンプリファイアー、C-200Vと二台の真空管パワー・アンプリファイアーの WA-300BとUV-845 とにつないだ Goodmans-Axiom80 と NHT-Model-2 の二つのスピーカーとを切り替えて聴いているが、遥かに高価なセパレート・アンプリファイアーと比べて全く遜色なく、心地よく音楽を楽しんでいる。
 半世紀も昔の美しいデザインのアンプリファイアーが、期待した以上に高い完成度を持っていることを再確認出来たことが何よりも嬉しい出来事だった。 
 それに加えて、多くのオーディオ愛好家の垂涎の的となった洗練の極みのデザインの美しさに改めて感嘆させられる。
見るだけでも嬉しくなるが、きちんと動作するとなれば、なおさらのこと嬉しさが増すというもの。

 かつては一生ものであったカメラや時計、オーデイオといった商品が、今日では発売後半年もたたずして値崩れし、半値以下にまでたたき売られて、早々とモデルチェンジされている。
 歯磨きやティッシュペーパーのような消耗品でさえ、安売りでも半値になったりはしないから、かつてはあこがれの的であった、これら耐久消費財がたどった現在の有様を見るにつけ、半世紀を経て、全く古びることなく、毅然とした存在感を示すラックスの製品には言葉に尽くせない畏敬の思いがじわじわとこみ上げてくる。


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