ヤマハ NS-690II


     
 NS-1000M  NS-690II         NS-690II    Cabasse DorisII 


     
CA-1000 1973年   CT-800  1973年 CR-311  1976年 
     
  販売年 定価(ペア)   ウーファー  スコーカー  ツィーター  出力音圧 寸法 (HxWxD)   重量
 YAMAHA-NS690-II 1973~1993 ¥120,000 ~178,000  30cm  7.5cm dome   3cm dome 90dB  63x35x31.4㎝  27kg
YAMAHA-NS1000M   1974~1997   ¥216,000 ~238,000  30cm    7.5cm dome   3cm dome  90dB  67.5x37.5x32.6㎝   31kg 
 Cabasse DorisII 1992 ~  ¥250,000  21cm  12cm   2.5cm dome  91dB 64x30x30㎝   15.5㎏

  1970年代、オーディオの全盛時代にヤマハが市場に参入し、投入してきた一連のラインアップはデザインの美しさと性能の高さとで、たちまちオーディオ界の一角を占める主要なブランドとしての地位を確立した。
 とりわけ、NSシリーズのスピーカーは中高域に大口径のドームユニットを使用したデザインが、その後競合他社の雪崩を打っての追随を招き、しばらくは店頭でどこのモデルなのか見分けがつかないほどそっくりのデザインが氾濫する有様だった。
 
 とりわけ注目を浴びたのは1974年に発売されたNS-1000Mで、当時としてはペアで20万円と、サラリーマンのボーナスに匹敵するほどの高価なモデルだったが、中高音用のドームユニットの素材にベリリウムを用いる等、オーディオ界が最先端の素材採用の嚆矢となったものだ。
 NS-1000M はその後、キャビネットの材質を変更したり、ウーファーをカーボン繊維に変更したもの等々、様々なモデルを加えて1993年まで20年余りの長きにわたって販売され、現在でもオークション市場で中古品に販売当時と変わらない水準で落札される等、依然として高い人気を保っている。
 日本のスピーカーの歴史に残る名機と言って良いだろう。

 我が家では1976年頃にモデルチェンジされたNS-690IIを使っている。 当時は猛烈なバブルの時代で、上記の表にあるように僅かな期間に30%も値上がりする時代だったが、実は給料もまいとし30%も上がり、ようやく日本の生活水準が先進国の水準へと上がり始めた頃だった。
 NS-1000MではなくNS-690IIを入手したのは、デザインが重要だったからだ。
確かにNS-1000Mも精悍で端正なデザインのモデルだが、金属メッシュのカバーが付いているとは言え、スピーカー・ユニットが丸見えでは、部屋で音楽を聴こうという気が起こらない。こういうデザインはプロ用のモニターならともかく、家庭用に相応しくない。
 その後ヤマハはサラン・ネット付きのモデルを出したが、殆ど売れなかっただろう。
このクラスのスピーカーを買うのはほぼ全てがオーディオ・マニアであって、音楽ではなく、音を聞くのが趣味だからだ。
 彼らやオーディオ店員、オーディオ評論家に言わせると、サランネットがあると高音が遮られて音質が低下するのだそうだ。
したがってスピーカーはサランネットをとって聞くべしとの与太話がまことしやかに拡散している。
 計算するまでもないが、1kHzの波長は34㎝、10kHzでは3.4㎝、とサランネットの繊維の目の細かさよりは遥かに大きく、中高域の周波数の音は遮られることなく、サランネットを通して出てゆく。 音が悪くなるということは有り得ないのだ。
 第一、メーカーでは、スピーカーの最終的な音決めにサラン・ネットをつけて試聴している。
 間違っても音質が低下するような製品を市場に出すことなどあるわけがない。

 NS690IIは、NS-1000Mと比べてドーム・ユニットの材質がベリリウムではなく紙に混合塗布材を塗ったものが大きな違いで、ウーファーはほぼ同じもの、キャビネットの板厚がほんの少し薄く、小さく、その分重量も少し軽いという点を除けば、ほとんど同じだ。
 ベリリウムとパルプの違いというのは、実際に音楽を聴いてその差が歴然と異なるかと言えば、ごく微妙な違いしでしかないだろう。
もっともオーディオの世界とは、その微妙な違いに10倍、100倍もの価格差が付くものなのだが、音楽を楽しむ分には問題にはならない。
 如何なる音楽をも、美しく、正確に再生する能力はさすがに世界屈指の楽器メーカーが満を持して世に送り出したスピーカーだけのことはある。 3度の改良を経て、20年余り市場に存在し続けることができたのはその完成度の高さの賜物だろう。
 作られてから40年余りたつモデルだが、耐久性に問題のあるウレタン系のエッジも健在で、いまだに端正な音楽を奏でてくれる。

 エレクトロニクスの世界はアナログの時代からディジタルの時代へと驚異的な発展を遂げ、とりわけ映像の分野の技術革新は2Kから4K,さらには8Kへと留まるところを知らない。
 しかしながらオーディオ、特にスピーカーに関しては、エレクトロヴォイスやタンノイ、ヤマハの往年の名器を聴くと、この50年余り些かの進歩もなかったと思わずにはいられない。

 冒頭の写真でヤマハ並んで写っているのは、ウーファーこそ21㎝口径と小さいが、ほぼおなじ構成のフランスのカバスの Dorisだ。 
いずれも万能のスピーカーだが、とりわけピアノの再生では際立った美しさで音楽を聴く愉しみを満喫させてくれる。


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