塚本邦雄 現代短歌選

照屋眞理子の短歌と俳句

 
 
覚めてまたわが日とならむ光の中こんなに軽くなって彼岸の野に遊ぶ前世後世この世も夢の桜かな月明に逢わなむ人を辞めて後 まだ見ぬ恋まだ咲かぬ花中空に もうかたち持たずともよきさきはひを告げてきて秋の光の中美しい夢であったよ中空ゆ振り返るときこの世といふは名付くれば消ゆるばかりをなべてなべて在りて在らざる夢のうちそと檻のうちを豹は歩めりひたすらに見らるるための暗き意志もて二人には二人の孤独休息の戦士に揺るる夜の濃紫陽花
 
 延喜5年(905年)の新古今和歌集に始まり、永享11年【1439年)の新続古今和歌集に至る、400年余に及ぶ全21集の勅撰集は、日本の詩歌の歴史を飾る伝統でありました。
 貴族を始め、およそ歌を詠む誰しもが、勅撰集に選ばれることを何にもまして至上の栄誉と願っていた。
 その歴史は今日に至るまで延々と受け継がれ、新聞、週刊誌、短歌、俳句の専門誌等に有名無名の詠み人達が作品を投稿しています。
 少なからぬ民衆が歌を詠みその出来映えを競い合う国が日本以外の何処にあるか?  寡聞にして知りません。
 今や、日本発のアニメ―ションや食べ物が世界を席捲していますが、さすがに短歌や俳句の伝統だけは、日本語の壁に阻まれて、世界に拡散するという時代が訪れることは無いでしょう。

 今日も数多くのメディアが開催する短歌集の中で、1970年代末、サンデー毎日が主催していた年に一度、新年に発表される読者短歌選集は、現代の勅撰集と言って過言ではない存在でありました。
 何しろ、稀代の読み手である塚本邦夫が采配する勅撰集なのですから、世の心ある詠み手たちが挙って応募し、ここで塚本邦雄賞に選ばれれば、直ちに秀でた歌人として世に認められる程の権威がある催しでもありました。
 それまでは全くの無名の歌人であった照屋眞理子が、第1回の選集に入賞したのが ”二人には二人の・・・” の歌、翌年の選集にて “檻のうちの豹は歩めり ・・・” にて見事、塚本邦雄賞を獲得し、彼が主催する短歌同人、”玲瓏” の主要メンバーとして、活躍しました。

 冒頭の短歌は、照屋眞理子のとりわけ味わい深い一首と、その作品に触発された塚本邦雄が贈ったカリグラム(象形詩)もまた原作と併せて、本歌取りの見事さを一層引き立てる圧巻の出来映えです


照屋眞理子 (1951 ~ 2023)


 
68年の短い生涯を生きた照屋眞理子は、生涯に 「夢の岸」、「抽象の薔薇」、「恋」 の3冊の歌集と
「月の書架」、「やよ子猫」、「猫も天使も」 の3冊の句集を残した。
 前述のように、若年にして塚本邦雄に認められ、”玲瓏” のメンバーとして短歌の創作に励みつつ、後に句誌 「季刊芙蓉」 の代表として俳句の世界にも入って、短歌同様、時空を超越した独自の世界を展開した人でありました。
 取り上げた ”遥か未来に風立ちにけり ・・・・” の短歌や、歌集と句集の抜粋からも窺えますが、広大な空間と悠久の時の流れを織りなす如き作風が深く心に残る出来栄えで、ただただ感嘆するのみです。


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