I |
|
世界各地に残る隕石孔からダイアモンドが発見されるのは珍しいどころか、ありふれた事実です。
巨大な質量を持つ天体が時速数万kmものスピードで地球に衝突すると、想像を絶する高温と高圧が発生します。
地球内部の130kmを超える深さでは温度が2000℃、圧力が5万気圧にもなりますが、このような条件下では炭素、あるいは炭素を含む有機物は分解され、一瞬にしてダイアモンドの結晶になります。
ただし冒頭の写真の20カラットを超える大きな宝石質の結晶が一瞬で出来るわけではありません。 こんな大きな結晶は、おそらく数千万年〜数億年の年月をかけて、温度と圧力と、材料の炭素の供給とが安定して保たれたという、稀有な条件が揃って、初めて可能となります。
隕石衝突の際にダイアモンド生成に十分な高温と高圧が発生しますが、それは一瞬にしか過ぎません。 したがって宝石質の大きな結晶が成長することは決してありません。
ポピガイ隕石衝突で発見されるダイアモンドは平均
0.2〜1mm、最大で1cmほどの大きさですが、実はこれらは全てマイクロ・ダイアモンドと呼ばれるミクロン(1/1000mm)
単位の微細な結晶が集合した多結晶です。
ダイアモンドに限らず、多結晶は光が結晶の隙間で反射と屈折を繰り返して散乱するために不透明になってしまいます。
砂糖や塩の個々の微細な結晶は透明ですが無数に集まると白く不透明になるのと同様です。
まして、隕石衝突で出来たダイアモンドには大量の不純物が含まれますから、汚れた不透明な塊に過ぎず、到底宝石にはなりません。
シベリアのダイアモンド鉱山の権益を守るためにこの隕石孔のダイアモンドの情報が秘密とされたというのは全くの作り話。
現地の調査をしたロシアの地質学者も、隕石孔のダイアモンドは資源にならないと当初から公表していました。 |
|
|
|
II |
|
ポピガイ隕石衝突で出来た直径100km、深さ150〜200mの隕石孔には1兆〜10兆カラット(20万〜100万トン)のダイアモンドが推定されているとのこと。
直径が15km もの巨大な天体が衝突すればこれくらいの量のダイアモンドが出来たとして、驚くにはあたりません。
因みに1450万年ほど昔、南ドイツに落下した直径24kmのリース・ネルトリンゲン隕石孔の岩にも大量の微細なダイアモンドが含まれており、その量は7万2000トン(3600億カラット)と推定されています。
この隕石孔の上にあるネルトリンゲンの教会や建物の石は隕石衝突によって出来たダイアモンドを含む石材で建てられているのです。
ポピガイ隕石孔では場所によっては9.5ct/トンと高い品位でダイアモンドが含まれているとのことです。
一般にダイアモンド鉱床の品位はトン当たりではなく、母岩100トン当りの品位が用いられます。
世界のダイアモンド鉱山の品位は平均して50ct/100トンです。
世界で最も品位の高いシベリアの鉱山は品位が400ct/100トンと際立って高いのですが、それは北緯60度を超えるシベリアの過酷な気候や風土の下での鉱山の開発と操業のコストが割高なので、高品位の鉱山しか稼動出来ないという事情があるからです。
記事の、シベリアの高品位の鉱床を遥かに上回るポピガイ隕石孔のダイアモンドの品位をどのような情報に基づいて計算したのかは不明ですが(私個人でざっと計算したところではせいぜい1ct/トン程度ですが)、仮に9.5ct/トンが正しいとしても、ヤクート鉱区より更に北緯で10度以上も北にある北緯70度のまさに北極圏にある隕石孔で、工業用としても殆んど価値のないダイアモンドを資源として開発する可能性は全く考えられません。
世界のダイアモンド市場の3000年分に相当する鉱床と言う話は無知なジャーナリズムの無責任な与太話に過ぎません。 |
|
|
|
III |
|
隕石孔から発見されるダイアモンドは通常のダイアモンドの2倍の硬さがあるか ?
実は普通のダイアモンドも結晶の12面体、8面体、6面体の各面で硬度は異なり、同じ面でも方向により硬度が異なります。 モース硬度では10
のダイアモンドも、たとえばビッカース硬度という測り方では7000〜9000とかなりの差が出ます。
隕石衝突で生成されたダイアモンドはマイクロ・ダイアモンドが集合した多結晶ですから、硬度を測ると、通常のダイアモンドの2倍とは言えないにしても、単結晶の最大の硬度を示す例が多いと考えられます。
実際、工業用の用途には、より高い硬度を持ち、品質の揃った人工の多結晶ダイアモンドが使われます。 ただし、隕石孔のダイアモンドは大きさも品質も異なりますから、工業用としては使い難いというより、殆んど使い物にならないというのが現実です。 |