宝石読本

 

IV 豪奢と静謐  − ルビーサファイア 

 

2. アジアとオセアニアのルビーサファイア産地
 初めに説明した様に、ルビーとサファイアは質、量ともに圧倒的にアジアに多く、まさにアジアの宝石といっても過言ではありません。今回は、この地域の詳細を紹介します。

ビルマ・モゴクのルビーとサファイア

500カラットのルビー結晶 モゴク産ルビーのルースと結晶
 11.55ct 16.65〜278.5ct
合計81.25ctの
ルビー宝飾品

Harry Winston
モゴク産非加熱サファイア
宝飾品 Cartier 各 16ct


 有史以来、世界で最も美しいルビーを産して来たのはビルマのモゴーク地方です。モゴークのルビーは6世紀頃から採掘されていたといわれます。 ビルマにはその他にも多彩な宝石の産地があり、イギリスは明らかにこの豊かな宝石資源を狙って侵略を行い、1986年植民地とし、直ちに直営の鉱山会社を設立してルビー鉱山の運営を手がけました。
 16世紀来、欧米の列強がアジアやアフリカ、中南米の植民地化を競って行いましたが、イギリスの各地への侵略は中国への阿片の販売ルートを確保するためとか、インドの綿花や紅茶、鉄鉱石などの確保といった、資源への執着をさらけ出したもので、もっとも醜悪な歴史的な事実と言えましょう。
 モゴークではルビーの他に高品質のサファイア,スピネル,トルマリン,トパーズ、ペリドット、ジルコン等、多様な宝石が採れますが、これは驚異的な事実です。
 何故ならルビー,サファイア,スピネルは広域熱変成鉱床、トルマリンやトパーズはペグマタイト鉱床、ペリドットはマントルの深成岩と、それぞれ成因の全く異なる地層がほぼ同じ地域にあるという珍しい土地です。 さらに北部には、非常に特殊な高圧,低温下で生成する翡翠のほぼ世界で唯一の産地もあり,ビルマは地質学的に興味深い土地です。
 さて、もっとも名高いモゴークのルビーはモゴク片麻岩と呼ばれる複雑な地層に貫入した結晶質大理石の中に結晶しています。
 ”鳩の血の色”と称される深紅の色合いはクロムの含有量が1%と高く、暗い翳りの原因となる不純物の鉄分の含有率が低いためです。 また比較的に柔らかな大理石の空隙の中で結晶が大きく成長出来たことも、他産地とは異なる純粋で大きな結晶が採れる理由です。
 その年間産出量はしかし4万カラットと極めて少ないのです。次にタイ・カンボジア国境がその10倍程度、残りはスリランカとケニア、タンザニアとでせいぜい2万カラットと、世界中合わせても50万カラット程しかありません。インド産の、暗いあずき色で不透明なコランダムをルビーと呼べば話は別ですが、しかし、ダイアモンドの1500万カラット,サファイアの2000万カラット,エメラルドの300万カラットと比べると、これだけ人気のある宝石としては桁違いの少なさです。
 しかもビルマ、カンボジア共に政情不安で供給が不安定なため、最高級のルビーは需要が需要を呼び、今日天文学的な値段にまで跳ね上がってしまったという次第。
モゴクについては別途”宝石ホール”の
モゴクのルビーとサファイアを参照ください。


ビルマ・モンスーのルビー

 1992年、ビルマのシャン高原にあるモンスーの町の近郊にルビーの漂砂鉱床が発見されました。まもなくその周囲100平方kmの地にも数ヶ所のルビー鉱床が発見され、モゴクから2000人を超える鉱夫が移動し、政府も数百を超える民間の企業との合弁による採掘を開始するなど大規模な鉱山の開発が行われました。1993年に入るとタイから200以上の宝石業者が訪れ、毎月数百万ドル以上の原石の買い付けが行われると言う活況を呈するほどになりました。
 早速鉱床の地質が調査され、古生代(2.25〜5.7億年前)後期の大理石や雲母片岩、千枚岩、珪岩ー石灰岩などの変成岩にルビーの結晶が成長した鉱床と判明しました。即ち高品質で知られるモゴクのルビー産と成因の類似した新しいルビー産地の発見でした。 分析の結果クロム含有量も1%前後とモゴク産に匹敵する結晶です。 ただ、写真の様に結晶の中心部に一様に濃い紫のチタンと鉄分とを多く含むサファイア成分の核がありますが、加熱処理にて除去することで均一の鮮やかなルビー色となります。



モンスーのルビー鉱山 結晶 1.3cmと
ルース 1.16ct
結晶 5〜10mm 原石(右)の濃紫色の核は
熱処理で除去される(左)
モンスー・ルビー
のイヤリング


 ただし、この熱処理は硼砂を使用するため、高熱で溶融した硼砂が研磨後も50〜90%のルースにガラス状となって残るため、一時は宝石業界の信頼を大きく損なってしまいました。しかし、平均で0.5〜3ctの高品質のルビーが安定して生産される上に、時には30〜50ctのルースが取れる、100ctを超える原石も採れる重要なルビー産地となりました。


タイとカンボジアのルビーサファイア 


稀少なルビーの産地として,タイとカンボジアは生産量では世界の70%を占めています。
タイとカンボジアのルビーとサファイアとは実質的に同じアルカリ玄武岩の地層に属し,当然品質も同じで,流通はタイの業者がほぼ全数を扱っていて,市場ではタイ産として扱われています。 鉱山は140万年〜214万年前に噴出した玄武岩が風化した漂砂鉱床に含まれる原石を、地表の土砂を3〜10m除いて採取されます。
 タイのルビーはビルマと比べると多少紫がかかって見えます。これは鉄分が多いため、いわばサファイアの青の発色が混じって紫になるためです。それなりに十分美しいのですが,市場ではビルマの深紅のルビーが高く評価され、カラット当たりの単価はビルマ産の半分にしかなりません。
 この地のルビーとサファイアは1850年の鉱床発見以来、19世紀後半から世界のルビーとサファイアの重要な供給地でありました。品質ではビルマに一歩譲る地位でしたが、1963年にビルマが社会主義化され国営化された鉱山からの産出が激減したため、タイが最も重要なルビーの産地となっています。 
 その内、タイのチャンタブリとトラット地域だけで2万人の鉱夫が働き,タイの生産の90%近くを占める大産地です。10kmしか離れていない、隣接するカンボジアのパイリンも、実質的には,同じ鉱区と言えましょう。ところで,タイとカンボジアはルビーと同時にサファイアをより多く産出しますが、これらのサファイアがどんなものか殆ど情報が無いという不思議なことになっています。恐らく,後述の様にタイの宝石業者がオーストラリアやスリランカ,アフリカなどの原石を大量に輸入して加熱処理などをして世界に販売しているため,地元のサファイアの存在が希薄になっているのかもしれません。
 また日本では明るい色のスリランカ産サファイアの人気が高く、オーストラリア産程ではないが,しかしやや暗い色のタイのサファイアが殆ど入って来ないためでもあります。 下記の写真はようやく見つけたタイ産のサファイアです。 どうして十分美しいサファイアであります。



タイのルビー
 3.41/3.04ct
Chanthaburiでの
機械化された採掘
BoRaiのルビー BoRaiの小規模な採掘 タイのサファイア
2.75ct
 


  古い記録ですが1980年にはこの地域のルビーとサファイアの生産量は4000万カラット程であったとのことです。しかし近代的な重機を導入した大規模な採掘により90年代に入ってからタイのルビー鉱床は枯渇しつつあるようです。記録によると一日24時間操業で一週間に8000トンの砂利を処理して20kg(10万カラット)の原石が得られるとのことです。40万分の1という極めて低い含有率です。
 タイは宝石産地であると同時に,既に世界的な宝石と宝飾品の加工と流通の中心地でもあり,周辺のビルマ、ベトナム、スリランカ,オーストラリア、さらにマダガスカル、ケニア,タンザニア等からの、加熱処理用のルビーやサファイアが合法と非合法とも合わせて大量に流入しています。
 しかし,新産地のヴェトナムやビルマのモンスーではタイの宝石業者が大量に合成品やガラスを加工して原石に混ぜる等、悪質な手口が横行し,世界的に評判を落としています。 

天然サファイアを模したガラス 合成ルビーを天然 ルビーに摸した贋物


 さらに近年国際的な話題となっているシエラレオネやアンゴラ等のいわゆる紛争ダイアモンドがタイを経由して合法的なダイアモンドとして世界に再流出するなど、宝石を巡る一種の資金洗浄の拠点ともなっています。
 即ちダイアモンドがユダヤ・コネクションの支配下にあるとすれば、ルビーとサファイアとはタイの華僑コネクションが牛耳っているといっても過言ではありません。もちろん一部の悪徳な業者の仕業ではありますが、事ある毎にタイの宝石業者の暗躍が国際的な話題になっているのも事実であります。

 

ヴェトナムのルビー鉱床の発見

 

    1983年,ヴェトナムの首都ハノイの北西150kmほどのHamYenの町近郊でルビー発見の報告がありました。さらに1987年その28km西のYen Bai地方,Luc Yenに豊穣なルビー鉱床が発見されました。 1989年11月から翌年3月までの5ヶ月間に300万カラットのルビーとピンクサファイアの原石が採取された程です。
 さらにその後もヴェトナム全土での調査が行われ、ほぼ全土に広大なルビーやサファイアの鉱床が発見されました。 特に北部のLucYenと中部の都市ヴィンの北西のBhKhang地方の町QuyChauのルビー鉱床はいずれもビルマのモゴクやパキスタンのフンザ渓谷と同じ,結晶大理石の層を花崗岩ペグマタイトが貫いた地層で、ルビーやサファイアの他にも,スピネル,トルマリンやガーネット等,多様な宝石が発見されています。
 北部と中部のルビー鉱床は古生代(2.25〜5.7億年前)初期のカンブリア紀(5〜5.7億年前)の石灰岩と結晶変成岩や珪岩,斑レイ輝緑岩、閃緑岩、花崗岩ペグマタイトとが入り組んだ地層を新生代第四紀(200万年前)の5m程の堆積層が覆っています。宝石層は平均で2〜3mの厚さがあり、北部のLucYenでは300平方km、中部のQuyChauでは2000平方kmの範囲に広がっていると推定されています。LucYenでは1立方m当たりの土砂から平均で19.6gという高い宝石の原石の回収率が報告されています。
 採取されたルビーの原石は64%が置物彫刻用,30%がカボション級で宝石としてファセットカット級は6%とのことです。カットされる石の大半は0.5〜1.1カラットです。
 しかし大半の石はクロムの含有率が低く,ピンクがかった色で、ルビーというより,ピンクサファイアに分類されます。が、透明で大変美しいピンクサファイアです。
 この発見により,QuyChau地域にはヴェトナム全土から一攫千金を夢見た一万人もの人々が押し寄せて山野を掘り返しているとの事です。
 一方南部の各地に発見されたのはアルカリ玄武岩という,北部とは異なり、タイや中国,オーストラリア等と同じ成因の鉱床です。主産の青や緑のサファイアもこれらの産地のものと良く似た,鉄分が多く、やや翳りのある青や緑青色です。その他、ルビーが少し,その他ジルコンやパイロープ・ガーネットが漂砂鉱床から発見されています。 また一部の地域ではベリル,アクアマリン、トパーズ、紫水晶,煙水晶等の花崗岩ペグマタイト起源の宝石が報告されています。
 こうして,ヴェトナムが大きな可能性を秘めた新たな宝石産地として台頭してきました。
ヴェトナム全土に発見された
ルビーとサファイア産地
肌色の部分

 

ヴェトナムのルビー結晶
 20mm
ピンクサファイアと
ルビー 0.19〜1.74ct
ヴェトナム北部産
サファイア
0.28〜0.42ct
ヴェトナム南部のサファイア
右上のルース 3.44ct 
ルビーと共に採れる
スピネル 1.21〜4.30ct
北部BacBo山脈の渓谷や麓のルビー産地 LucYenのルビー鉱山 QuyChauの鉱床に集まった人々 LucYenのルビー市場

 

ヒマラヤ・カラコルムのルビー産地

 ヒマラヤからカラコルム、ヒンズークシュ、パミールと連なる山岳地帯にルビーやサファイアの鉱床が存在します。 これらの山脈は4〜5000万年程昔にインド大陸がアジア大陸に衝突して北に押し上げて、形成されました。この造山運動は現在も続いており、これら山脈は今でも成長しています。下の図はこの地帯の構造と、主なルビーとサファイア産地を示しています。

   : Himalayan Frontal Thrust : Siwalik 堆積層
 : Main Boundary Thrust   : 小ヒマラヤ地帯
 : Main Central Thrust   : 高地ヒマラヤ衝上地帯
黒 : Main Mantle Thrust(衝上): Chilas-Jijal 複合体
 : Main Karakoram Thrust  : カラコルムートランスヒマラヤ底盤                                           
とくっきりと地層が並び,その地層に平行して断層帯が並んでいます。こうした地殻変動に伴い、大規模な広域変成岩が形成され、その過程で様々な鉱物結晶が出来たものです。そして緑柱石、電気石、トパーズ、柘榴石、ラピスラズリ、エメラルド等と共にルビーとサファイアの主要な産地が、この造山地帯の各地に発見されます :
1.アフガニスタンのJegdalek 2.タジキスタンのパミール高地3.パキスタンのフンザ渓谷4.カシミール地方 5.ネパール  の各地です


これらの産地のうちここでは、古くからルビーの産地として知られていたアフガニスタンと、近年になってルビー鉱床が発見されたネパールとの二つの産地を紹介します。

アフガニスタンのルビー

  アフガニスタンのバダフシャン地方に産するラピスラズリ鉱山は、遥か6500年の昔から採掘され、シュメールやエジプト時代の彫刻等に使われたラピスラズリは世界の博物館などで見ることが出来ます。またこの地のエメラルドもローマ時代から採掘されていたことが最近の研究で判明しています。 
 そしてJegdalek(ジェグダレク)のルビー鉱山も13世紀頃から採掘が始まっているという、古い歴史があります。
 ジェグダレクは首都カブールの東60km程、標高1500〜2000mの地にあります。この地の地質は古生代(5.7〜10.5億年前)の片麻岩と15.5〜19.7億年前の大理石とが交互に層を成しています。 大理石はほぼ純粋な方解石で、0.5〜200−300mの層を成し、数百mから7−8kmの長さがあります。片麻岩層は藍晶石ー角閃石ー輝石、黒雲母等から成っています。 これらの地層に第三紀、漸新世(3700〜2600年前)に花崗岩と珪酸分の少ないペグマタイト層とが貫入し、無数の岩脈が形成されていて、この変成作用によってルビーとサファイアとが結晶化したと考えられます。

Jegdalek 背景の大理石脈が鉱山 ルビーを含む大理石脈 昔ながらのつるはしでの採鉱 空気ドリルでの採掘

 

結晶 1cm ファセットされたルビー 
0.68〜1.25ct
結晶 中央 2cm カボションされたルビーと
サファイア 3.38〜6.28ct 


ジェグダレクには約20の鉱山とその他無数の採掘場とがあって、400人程度の鉱夫が採掘をしています。採れる原石の内75%がピンクサファイア、15%がルビー、5%が2色、5%がサファイアという比率です。
全体の原石の大半は不透明でカボション向きで、ファセット用の透明な結晶は3%足らずです。 採掘された原石の大半は国境を超えてパキスタンのペシャワール経由でカラチやニューデリーへと送られます。
カットされたルビーはヴェトナム北部産のものと識別が困難な程類似した特徴を持っています。

ネパールのルビー

 ネパールでは1934年にトルマリンとアクアマリンが発見されました。続いてその他の緑柱石、柘榴石、水晶,スピネル、ダンブリ石、燐灰石,ジルコン等の宝石が報告されていました。 そして1981年に羊飼いがガネシュ・ヒマラヤの標高4000m付近で発見した赤い結晶がルビーであると確認されました。その後の調査でルビー鉱床は標高3800〜4800mの60〜150mの厚さのドロマイトの層に雲母や藍晶石等と共に結晶していることが分かりました。 過酷な採掘条件のためルビー結晶の採掘量は年間1トン足らずです。結晶の大半は5ct以下で、大半はカボション級の品質ですが、写真の様に大きな結晶やファセット級もあります。

GaneshHimalの標高
4800m ルビーを
含む大理石脈
ルビーの採掘現場 方解石脈に藍晶石や種々の雲母
等と共に結晶したルビー
ルビー結晶 106ct ルビーとサファイア
0.87〜3.86ct

 

カシミールのサファイア  - 幻のサファイア - 

 

2ct
エドワード朝時代の
 ブローチ(1905年頃32.52ct
カシミール・サファイアでは
最大の65ctの石を使った
Cartier のブレスレット
1989年、ニューヨーク、サザビーズのオークションで
352万ドルの値がついたネックレス 10.96−36ct
Van Cleef & Arpels 

 
 世界にサファイアの産地が少なからずある中で、パキスタン、中国と国境を接するインドのカシミールからかつて産出したサファイアは、そのビロードのような光沢と深く透明な色合いとで、サファイアの中のサファイアとして、今や伝説の宝石となっています。
 このサファイアが発見されたのは1881年、カシミールのザンスカー山脈、標高4500mの地点でした。崖崩れの後の岩の窪みに青く透明な結晶が発見されたものです。 だが、それがサファイアとは当初分からず、インドからやって来た行商人達は同じ重さの塩と交換したとのことです。

 
やがてインドの宝石商の手に入った結晶がサファイアと、しかも稀に見る上質のものと分かり、険しい山奥と過酷な気象条件にも拘らず、採掘が試みられました。
 恐らく当初に採掘された100kg程度の結晶は伝説のカシミールのサファイアに相応しい最上品であったようです。この結晶は所有権を主張するマハラージャや役人の手に人ってしまい、未だにこの当時採掘された結晶の一部が残っているとのことです。当時インドの地質学会の要請で現地の調査に当たったフランスの鉱物学者、ラ・トゥーシュの報告では、3000カラットを超えるクリケットのボール(直径が7cm)ほどもある素晴らしい結晶をいくつもマハラージャの金庫の中に見たと報告されています。
 残念ながら、美しい結晶を産出した鉱脈は大変小規模だったようで、その後数十年間に採掘された1トン余り結晶はかつてのような最上級のサファイアではありませんでした。
 すなわちカシミールのサファイアは文字通り幻の宝石となってしまったのです。
けれども、かつてのマハラージャの古い在庫や、あるいは昔の宝飾品からの再カット等、こんにちでもカシミールのサファイアが細々ながら市場に流出しています。
 詳細は別途、宝石ホールの
カシミール・サファイアの展示をご覧ください

 

カシミールのルビー

  サファイアで有名なカシミール地方ですが、前述の様にかつてのサファイア鉱脈は遥か昔に枯渇してしまいました。
しかし広大なカシミール地方は有望な宝石産地で、パキスタンの自由カシミール地方にはスペッサータイン・ガーネットが発見されています。
 そして1979年に、同じく自由カシミール地方、かつてのサファイア産地から北西に350km程のNangimali山にルビーの鉱脈が発見されました。 ルビー鉱床は前述のネパールのそれとほぼ同様の地質と、標高にあり、ルビー自体の品質もほぼ同じです。 鉱山は1990年から試験的に採掘が始まり、標高4360mの地点では露天掘りが、3810m地点ではトンネルで採掘されています。 大変豊かな鉱床のようで、大理石と方解石の脈の中に含まれるルビーは1立方メートル当たり55カラットも含まれます。
 品質はカボションからファセット級で、ビルマのモゴクに匹敵する水準もあり、最大で85カラットのファッセットが報告されています。 鉱脈は深くなるに連れて結晶の大きさや透明度、色の濃さが良くなる傾向を示しているとのこと。
 推定では1億カラットを超えるルビーとピンク・サファイアとがあると見積もられていますが、もちろん、気候や地理的な条件が厳しく、採掘は容易ではありません。

鉱脈の爆破作業 方解石脈中のルビー結晶 5cm

 

スリランカのサファイア

 

河川での宝石採集 田んぼの中の採掘場 中は深い井戸 掘り出した砂利からの
宝石選鉱

 
スリランカは2500年の昔から多様な宝石の産地として知られていますが、とりわけ青や金色、さらにスター等、多彩な色のサファイアの産地として、今日でも質、量ともに世界でも有数の産地です。
 スリランカでは数億年前に火山岩として噴出した玄武岩溶岩の中にサファイアの結晶が取り込まれたものですが、長年の風化作用で母岩の中のサファイアの結晶が残って流され、河川の砂利の中に堆積しました。その後砂利の層の上に土壌が堆積したため、宝石の採取には畑や田んぼを、時には18mにも達する深い井戸のような穴を掘って砂利の層から宝石を採取しています。
実はこの砂利の中には、サファイアとは全く成因の異なるペグマタイト脈からのアクアマリン、トルマリン、トパーズ、ジルコン、ガーネット、クリソベリルなど数十種類の多彩な宝石が含まれています。
これは、スリランカが地質学的に複雑な歴史的背景を持ち、様々な成因からなる宝石が砂利の層の下の漂砂鉱床に集まっているためです。 スリランカは66000平方kmの島の面積のおよそ四分の一の広大な地域から宝石を産出する、まさに宝石の島と言えましょう。

 

透明な両面錐結晶
左上 30mm 43ct
Ratnapra 1983年
1126ct
3965ct のサファイア原石 1989年発見の宝石級結晶
40.3kg 25x50cm

 

スリランカ特有の鮮やかで透明な
サファイア
1126ctの原石からカットされた
左から 23.55 47.0 16.92ct
のピンク.サファイアとパパラチャ
金色もスリランカ特有
185.14ct
ウィンザー公爵婦人
 の豹のブローチ 152ct 
Cartier 

 

 

オーストラリアのサファイア

Kings Plains Creek,
New South Wales
平均 3〜5mm程の原石  4〜5mm 0.2〜0.4ct  1.6ct 

  オーストラリアでは1854年にまず島の東南部の New South Wales にて、続いて Queensland 中央部でサファイアが発見されました。ほぼ日本の総面積に相当する広大な地帯にサファイアが発見されます。 サファイアはタイやカンボジアと同じアルカリ玄武岩によって地上へ運ばれ,風化した土壌の中に発見されます。しかしオーストラリアのサファイアの90%以上が1%以上の高い濃度の鉄分を含むためインク・ブラックと称される暗い青をしています。
 この発色はそれぞれニ価と三価の鉄のイオンによる格子間電荷移動という仕組みによるものです。
余りにも暗い色のため永らく宝石用途としての人気がありませんでしたが,1960年代からタイにてその加熱処理で色を薄める技術が完成されたことにより,その生産量のほぼ全てがタイへ輸出されて加熱処理され,宝飾品に加工されています。
 一般に1ct以下の小粒が大半でカラット当たりの単価も100ドルと安価なため、手軽な宝飾品用に広範に使われています。
 一般に知られてはいませんが,実は世界のサファイアの50〜70%、年1000〜1500万カラット以上がオーストラリアで生産されています。

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