宝石読本

 

IV 豪奢と静謐  − ルビーサファイア 

 

4.アメリカのルビーサファイア
 アメリカ大陸には世界有数のペグマタイト宝石産地の西海岸のサンディエゴや東海岸のメイン州、カナダの北極圏の新しいダイアモンド鉱床、同じく世界有数のペグマタイト宝石産地のブラジルや、エメラルドで有名なコロンビア等、多様な宝石を産出します。
 地質的にはルビーやサファイアが多数発見されても何の不思議もありませんが、しかし長い間、北米のモンタナ州が唯一のサファイアの産地でありました
 もちろん1925年年にブラジルのバイア州にて、また1975年頃にはミナスジェライスのマラカチェータ州、南マトグロソ州、ゴイアス州と、サファイア発見の報告はありましたが、いずれも工業用や鉱物標本程度でありました。ブラジルで宝石級のサファイア産地が発見されたのは、1984年でした。
 1900年代の後半になんてようやく、ブラジル以外にも、エクアドルとコロンビアにてサファイアが発見されました。 とりわけコロンビアとブラジルの新産地はいずれも色変わりをするサファイアが多いことで注目されています

 

アメリカ、モンタナ州のサファイア
加熱処理不要のヨーゴ峡谷のサファイア
中央のルース13.9mm 右の結晶 6.6ct
透明で多彩な色のモンタナサファイア
0.45〜1.76ct
斑のある非加熱処理の石
 アメリカ北西部,カナダと国境を接するモンタナ州に大変透明な美しいサファイアが産出することは、すでに19世紀半ばから知られていました。ミズーリ川流域のエルドラド・バー、やロック・クリーク、ドライ・コットン・ウッドなどの産地です。しかし、大半の石が小粒で色も薄く、美しくなかったので、宝石ではなく、時計や精密機械の軸受けなどの工業用への用途として採掘されました。
 宝石として注目されたのはヨーゴ峡谷に発見された鉱山でした。ここのサファイアはコーンフラワー(矢車菊)の青と呼ばれる濃く美しい青い色で注目されました。 しかし大半が1カラット以下の小粒であって、また他の産地と異なり、一次鉱床の母岩から採掘する為コストが高く、スリランカ産との価格競争に敗れ、次第に忘れ去られていました。
 モンタナ州の他産地の工業用途の原石も、その後品質が良く、安価な合成サファイアの出現により、まったく忘れられた存在になっていました。
 ところで前述のように、加熱処理により、今までは捨てられていたような天然石が見違えるように色や透明度が改善されることがわかり、1980年代後半からモンタナのサファイアが再び注目を集めることとなりました。
 1カラット以下の小さな石が大半ですが、透明度の高さと独特の多様な色彩とで魅力的なサファイアとしての人気が高まっています。モンタナ州の広範な地域で産出し、年間産出量は数百万カラットに達すします。 また、世界的に殆どのサファイアが加熱処理をされる中で、天然のままでも美しいヨーゴ峡谷産のサファイアの人気が復活しています。また加熱加工をせずに色斑のある石も、近年では天然の証しとして、手頃な値段と相俟って人気があります。
詳細は別途”宝石ホール”の
モンタナのサファイアをご覧ください。

コロンビアのルビーサファイア

 
コロンビアの南西部、エクアドル国境に隣接する、カウカ州のパストの町に近いマヨ川流域およそ50平方kmの地帯にサファイアの産出が最初に報告されたのは1978年です。 1984年の生産量はおよそ1万カラットと、アジア等の産地と比べれば全く少ないのですが、色変わりをする石が多いことから、注目されました。
平板、水磨礫状の原石 多彩な色のサファイア 0.49〜2.08ct ルビー 0.26〜0.38ct
 サファイアはタイやオーストラリアなどと同じアルカリ玄武岩起源と考えられ、スピネル、チタン鉄鉱、橄欖石、パイロープ・ガーネット、輝石等と共に産出します。 この地帯の玄武岩は白亜紀(1.36億年〜6500万年昔)の輝緑岩に噴出したものです。
 サファイア原石の大きさは1mmから3cm程度で、平均で1cm程度です。 最大16ctの青いサファイアがファセットされています。 写真の様に色合いはタンザニアのウンバ川流域産のサファイアに類似しています。ルビーやピンク・サファイアも全体の1%の割合で発見されます。
 しかしこの地のサファイアは太陽光で青、白熱光にて紫への色変わりをする石の比率が高いことで注目されます。 その原因は0.02〜0.05%と微量に含まれる酸化クロムによるものと推定されます。
 現在はこの地域は誘拐で悪名高い左翼ゲリラ(FARC)の活動により、商業ベースの採掘は行われていないため、これらのサファイアが市場に出る数量は極めて少ないと思われます。

 

ブラジルのサファイア
  冒頭で述べた様に、ブラジルでは長い間宝石級のサファイアは発見されていませんでしたが、1984年になって、ついにミナス・ジェライス州のイパチンガ近く、India(インダイユー)にて青いサファイアが発見されました。
 その後の調査で、43平方kmの範囲に多数の鉱床が発見され、場所によっては試掘の結果1平米から500カラットの原石が採集される程の豊かな産出がありました。
 原石の大半は0.5〜2ct程度の大きさですが、青、青紫、そして高い比率で色変わりを示します。
渓谷沿いの丘の堆積鉱床 2〜4mの堆積の下の鉱床 サファイア原石 
 最大2.96ct
サファイアルース
0.19〜0.86ct
 このインダイユーから西北西におよそ30kmの距離にブラジル最大の鉄鉱精錬所の町、イパチンガの町があります。 というのも、その南に世界で最大級の鉄鉱床や、またマンガンや金を産出する”鉄の四角地帯”があるからです。
 この一帯は21億年〜28億年昔の始生代に遡る変成岩盤の地層に黒雲母片麻岩、黒雲母ー角閃石ー柘榴石片麻岩、ミグマタイト(火成岩と変成岩とが層を成す岩脈)とが至るところに露出しています。
 サファイアと共に鉄礬柘榴石、正長石、緑柱石、白雲母、カオリン質粘土、紫水晶などが産出するため、5.5〜6億年昔に、花崗岩性の貫入岩がこれらの鉱物を地上に運んだものと考えられます。
 イタイユーから50km方内にはイタビラ、カポイエラニのエメラルド鉱山、エマチータのアレクサンドライト等があり、このサファイアはペグマタイト性と推定されます。
 1993年当時の調査採掘では年間50kgほどの原石が採集され、16%が宝石級の青い色、4%が紫からピンクでしたが、ファセット級は1〜3%で残りは不透明なカボションやビーズ級でした。
 特筆すべきは全体の7〜10%の高い比率で色変わりが起こることです。詳細な成分分析の報告が行われていませんが、恐らく、色変わりの原因は微量のクロムによると考えられます。

 

Top  Index