ルビーの色と品質
(Color and Quality of Ruby)


   
15.97ct 8.01ct Graff Ruby 8.62ct  9.68ct 13.8x12.4mm 
Mogok, Burma  Madagascar 
  2005年4月、ニューヨークのサザビーのオークションにて8.01カラットのモゴク産のルビーが色石としては史上最高の220万ドル(カラット当たり$275,000)で落札されました。
 それまでの史上最高値であった1988年に落札されたモゴク産の15.97ctのルビーの365万ドル〈カラット当たり$228,000)のカラット当りの単価を久々に越えたと大いに話題になりました。
 続いて2006年にスイスのサンモリッツでのクリスティーズのオークションで8.62ctのモゴク産のルビーが360万ドル(カラット当り$425,000)の破格の値で落札され記録を更新しました。落札したのはロンドンの世界的な宝石商のグラーフです。
 このルビーは2014年11月にジュネーヴのサザビーのオークションに、前回のブルガリのデザインの指輪から、新たにグラーフ社の新たなデザインにて再登場し、835万ドルと、ルビーとしては史上最高価格で落札されました。
 オークションの落札値段だけで宝石の価値が決まるわけではありませんが、ルビーにこれほどの高値が付けられるのはそれなりに理由があります。
 即ちルビーは大きく美しいものが恐ろしく稀にしか採れない宝石だからです。
 とりわけ8.01カラットのルビーはその透明度の高さには驚くしかありません。稀有な大きさと素晴らしい色合いを持つものの、透明度に欠ける15.97カラットのルースと比べると、内包物が無い完璧な透明度と申し分の無い色合いとは、まるで火炎溶融法の合成ルビーかガラスではないかと思われるほどです。

ルビーの結晶(Ruby crystals)
174.3ct 7cm Hixon Ruby 196.1ct
ロサンゼルス自然史博物館
ルビーの取引 0.5 - 2cm
Mogok, Burma Mong Shu, Burma
  174カラットと196カラットのルビーの結晶はいずれもモゴク産の記録的な大きさの宝石質の結晶として博物館に納まっています。宝石質ではありますが、無数の罅や内包する気泡や水泡、亀裂などによりカットしても前述の写真の15カラット程の大きさのやや透明度に欠ける、それでも最上級のルースがいくつか採れるくらいでしょう。カットせずに結晶標本として残される方が遥かに価値があります。 
 一般のルビーは米粒のように小さいか、せいぜい1−2cm程の不透明な結晶片が大半です。その上多くはサファイア成分を含むため青紫ー赤紫なので、加熱処理の必要があります。カットしても殆どが1カラット以下の、小さく、内包物の多いルースしか得られないのがルビーという宝石です。それでもビルマのルビーは質と量とで世界の他の産地を圧倒するほどの存在ですから、他の産地のルビーの質たるや推して知るべしです。
 近年になってようやく、タンザニアやマラウィ、マダガスカルからビルマの最上品に匹敵するルビーが採れるようになりました。  

他の産地のルビーとの比較
2.38ct 1.50 -3.78ct 9.68ct 13.8x12.4mm 2.07 - 6.09ct
Chantaburi, Thailand Chimwadzul Hill, Malawi Madagascar Winza, Tanzania
 1970年代から1990年ごろまでの20年間、原石の加熱処理によって透明度の高いルビーが得られる技術の導入により、タイは大規模な機械化で世界有数のルビー産地となりました。鉄分が多いためやや黒ずんだ色合いが特徴ですが、しかし美しいルビーには違いありません。現在では鉱床は枯渇しました。
 資源が枯渇しているアジアのルビーに代わって20世紀末から21世紀初めにかけてアフリカ東海岸がルビーとサファイアの新たな供給地として台頭してきました。
 モザンビーク国境に近いマラウィのChimwadzul丘にルビーが発見されたのは1958年と昔のことです。が、政治的な混乱のために本格的な採掘が始まったのは1994年のことです。
 片麻岩層に超塩基性岩の貫入による熱変成起源の透明度の高いルビーが場所によっては1立米当り1kgと高い品位のルビー鉱床です。1カラット以下のルースが多いのですが、5カラットを越えるものも少なからず採れているようです。無名の産地のため、殆ど全量が単にルビー宝飾品として出荷されているため、市場でルース単体として見かける機会はありません。
 2000年初めにマダガスカルの東部海岸近くと最南部の2ケ所に高品質で豊穣なルビー鉱床が発見されました。恐らく現在の世界のルビーの供給の主力になっていると考えられます。
 鉄分が少ないためにビルマのモゴク産に匹敵する色合いが大きな特徴です。
写真の9.68カラットのルースはやや包有物が多いものの、ルビーとしてはその大きさと透明度の高さと色合いとで稀に見るルースといえましょう。
 2008年にタンザニアのウィンザでルビー鉱床が発見されました。多くはタイ産を思わせる赤紫味の強い、しかし透明度の高い美しいルビーです。

合成ルビーとの比較(Comparison with synthetic ruby)
火炎溶融法(Flame fusion)
4.50ct 10x10mm
フラックス法合成ルビー(Flux melt synthetic Ruby) 引き上げ法合成ルビー
Kyocera 13.93ct
Kashan 4.36ct 10.5x8.5mm Ramaura 結晶とルース
8.67ct 3.67ct
Chatham 1.26ct 6.8x5.5mm
 美しく稀少な宝石を人の手で造り出す試みは古来から行われて来ましたが、その大半は模造品に過ぎませんでした。
 最初に大量生産された本物の宝石がルビーでした。
 20世紀初頭、フランスの化学者、オーギュスト・ヴェルヌイユが発明した火炎溶融法により高品質のルビーが大量生産されるようになりました。
 写真の4.5カラットのルースのようにカラット当り275,000ドルで落札された冒頭の極上の天然のルビーと同等のルビーの商業生産が可能となり、一時は天然ルビーの相場が暴落したほどでした。が、非現実的なほどに美しく、また生産コストもカラット当り10円程度と安過ぎることが災いして宝石用途として人気が無く、こんにち年間2万トンほど生産されるほぼ全量が精密機器やエレクトロニクス等の産業用途です。
 ただし中国では年間生産量4000トンの多くが宝飾品に使われています。
 余りにも美しすぎて本物には見えない火炎溶融法のルビーに代わって1960年代から市場に登場したのがフラックス合成法によるルビーです。
 火炎溶融法のルビーは200カラットの結晶が3時間程度で合成可能です。
一方、フラックス法では酸化鉛、弗化鉛等のフラックス(溶剤)にアルミナと酸化クロムを溶かし1000〜1400℃の高温からゆっくりと冷却して(1〜15℃/h)ルビー結晶を得る方法です。火炎溶融法と比べると20〜100倍も時間がかかり、最大で60カラットの結晶が得られますが、大量の包有物や亀裂を含みます。
 従って宝石としてカットできるのはせいぜい数カラットの大きさがやっとです。しかし、フラックス法の合成ルビーの色合いと適度の不透明さが天然の最上のルビーと酷似した特徴を示すために高級な宝飾品向けとして需要があります。
カシャン、ラモーラ、チャザム等、世界で数社がそれぞれ特徴あるルビーを生産し、販売していました。が現在では合成エメラルド等も生産しているチャザム社以外は市場から撤退しています。
 手間がかかり、生産性の低いフラックス合成ルビーは商業的に採算が採れないビジネスです。
 オパールやアレクサンドライト等、多彩な合成宝石を送り出している日本のキョーセラ社は、引き上げ法(チョクラルスキー法)の合成ルビーを宝飾用に生産販売しています。
 これは、坩堝の中で溶融したアルミナに種結晶を下ろして引き上げて純度の高いルビー結晶を得る方法です。極めて純度が高く欠陥の少ない単結晶が得られ、レーザーや高精度の光学、電子部品用に開発された技術です。
 と、合成ルビーは天然と比べれば、遥かに透明度が高く、色合いの美しい大きな結晶が得られます。素晴らしく美しい宝飾品が手頃な価格で入手出来るため、欧米では人気があります。



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