鉄礬柘榴石 (Almandine Garnet)

 

アルマンダイン・ガーネット 066 - 3.59ct


3.59ct 11.2x8.6mm 3.52ct 10.5x7.3mm 1.99ct 9.6x5.7mm 2.03ct 9.9x6.0mm


0.66ct 6.3x3.8mm 2.86ct 9.1x7.2mm 1.82ct 8.5x4.8mm

 

 
ペルシア、パルティア朝(BC247−AC226)からササン朝(AC226〜642)
時代のガーネットと黄金の帯留め 
 ストラスブール美術館 フランス
メロヴィング朝時代(AC481〜751)
のガーネットのブローチ 
 
  クリュニー博物館 パリ
原産地のアルマンダイン結晶
(Type locality)

Alabanda、Turkey
15p ”Subway garnet" 1885
35 st. 7th Avenue & Broadway
New York
  アメリカ自然史博物館   

 

化学組成
(Formula)
結晶系
(Crystal System)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
Fe3Al2(SiO4)3 等軸晶系
(Cubic)
7‐7½ 4.05‐32 1.785‐830

 

 アルマンダイン(アルマンディン)の名はかつて小アジア(現在のトルコのアナトリア地方南西部)のアラバンダ(Alabanda)に由来します。  アイドゥン (Aidin) の南50km ほどにある、紀元前3世紀頃から栄えた古代ギリシア時代の都市で、現在は廃墟となっていますがアポロ神殿等の発掘が進んでいます。
 周辺では大理石と共にガーネットが採れ、宝飾品の加工で栄えたとのことです。
  写真のように美しい12面体や24面体の結晶として産することも多く、光沢のある結晶ならカットせずにそのまま魅力的な宝飾品として使われても不思議ではありません。
 冒頭の写真、直径15pのほぼ完全な24面体の結晶はニューヨークで1885年に地下鉄工事中に発見され、”地下鉄柘榴石”として、現在はニューヨークのアメリカ自然史博物館に展示されている、有名な標本です。 
 世界の博物館に残されている数多くのガーネットの宝飾品の中には一般的なカボションやファセットカットに加えて透明感を出すために大変な手間をかけて薄片状に加工されたものも見られます。
 しかしながら、こうして博物館などにある宝飾品のガーネットがどの種類のものかを肉眼で識別するのは困難です。
赤い色のガーネットにはパイロープ、アルマンダイン,ヘソナイトがあり、化学組成は異なるのですが、色合いが極めて似ているのです。
 その訳は他のガーネットの展示の際にも説明しましたが、純粋な化学組成を持つガーネットは皆無に近く,殆どが、他の種類の成分を含む固溶体となっているからです。
 アルマンダインの場合は鉄の一部がマグネシウムと置換されてパイロープ・アルマンダイン(ロードライト)や、マンガンと置換されたスペッサータイン等の固溶体となっていることが多く精密に比重や屈折率を測らないと識別は困難です。 
 ルースも精密に調べると表示とは異なることも良く起こります。 ただし、値段には大差がなく,いずれも一般にカラットあたり10ドル前後ですから,間違ったところで実害はありません。

 
アルマンダインの成因  (Occurence of Almandine Garnet)
変成作用によるアルマンダイン・ガーネット(Almandine garnet of metamorphic origine)
 雲母片岩上の結晶 16mm   研磨品 右側の結晶 45x33mm
  
 Zillertal Austria 
雲母片岩上の結晶 36mm
Val Durna Italia 
鉄礬柘榴石結晶 (Almandine)  Ø12 - 18mm
愛媛県宇摩郡土居町関川 (Doi, Ehime, Japan)
ペグマタイト性のアルマンダイン (Almandine garnet of  pegmatite origine)
透明なアルマンダイン結晶片
 4.5g 10x13x13mm 
Srilanka
宝石質の水磨礫 12mm  
Brazil
細粒だが透明なアルマンダイン
幅 16mm 
福島県石川町
絹雲母中の結晶 〜8mm 透明度の高い結晶 Ø2-6mm
茨城県真壁町山の尾 (Yamano-o Makabe, Japan)

 

 アルマンダインは世界各地に広汎に産出しますが、成因は主に変成岩中のものと,ペグマタイト性とに別れます。
とりわけヨーロッパ・アルプスの高圧変成作用を受けた雲母片岩層からは12面体の見事な結晶が広汎に発見されます。
 市場で良く見かけるのはオーストリアのZiller Tal、Ötzal産ですが、その南側の対面にある同じアルプス山系のイタリア側の Val Durnaにも同様に見事な結晶を産します。
 中には直径が20cm程もある完璧な結晶形を見せるものが採れます。
 結晶形がはっきりとしたものは,表面を磨いて装飾用としたものがあります。
 以前、ミュンヘン鉱物フェアで直径15cm程の結晶表面を研磨したものがあり、200マルク程度の手頃な値段でした。
一見、紫檀製の作り物かと思ったほどの見事な結晶でしたが、何しろ母岩付きで優に10kg以上はあって余りの重さにためらっているうちに売れてしまいました。今だに悔しく思い出します。
 これまでに発見された最大のガーネットはノルウェイのBodö産のアルマンダインで直径が2.3m、体積が10m3、重さが37.5トンもありました。
 さすがにこんなに大きい結晶は不純物を多く含んで不透明になります。
こうした不透明なガーネットは大量に産出しますから,細かく砕いて紙やすりの材料として用いられます。 
 宝石としてカットされるような透明な結晶は主にペグマタイト性の成因に限られるようです。
 熱水中での不純物の混入の少ない条件で宝石質の結晶が成長したと考えられます。
 主にブラジル、スリランカ,インド、マダガスカル等から産出しますが、美しい結晶形を見せるものはまずなく、結晶片や水磨礫として産出しますから,コレクションとしては面白くありません。
 さらに全く人気がない宝石なので、大量に採れる宝石にしてはコレクター向きにごく僅かカットされるのみです。
 福島県石川町では、かつては20cm以上の大きな結晶が採集されたこともあり、その他緑柱石や雲母など巨大な結晶を産するペグマタイトとして名高い産地でした。
 20世紀初頭から1965年頃まで主に珪石や長石などの採掘が行われていましたが,第二次大戦前は、日本で原子爆弾の開発が行われていた際に石川町で燐灰ウラン鉱や閃ウラン石等ウラニウム鉱物の採掘も行われました。 
 写真の細粒のアルマンダインは2001年1月に採集しました。
こうした宝石質の細粒の柘榴石結晶が花崗岩の中には石川町の他にも茨城県真壁町,山の尾のペグマタイトでもかつては見られました。
 そのまま石材として塀などにしたてられたときには淡いピンクに見えて大変美しいものです。
 かつて山の尾のペグマタイトにて石英中に直径2mm足らずですが完全に透明な12面体のアルマンダイン結晶を採集したことがあります。
 虫眼鏡で見るとまるでカットしたかのような結晶面に光が屈折し、反射して何とも言えない美しさに飽きもせず見とれていたものです。 
 山の尾の採石場には涌き水が溜まっている大きな洞穴があって、半ば水に漬かった厚さ2cm程の石英の層を割り進むと、その下に20cmに及ぶ絹雲母の層があり,中に1cmくらいの大きさの24面体の表面が光沢を帯びた赤褐色の完全な結晶が採れたものです。
 そんなわけでアルマンダイン・ガーネットはいわば最初に自ら採集した宝石なので、ひとしお愛着を感じる宝石です。

  冒頭の写真の7個のルースは、ブラジルやスリランカ産と思われますが、詳細な産地は不明です。
 アルマンダインとして入手したルースは当初12個ありましたが、比重や屈折率を調べたところパイロープやマデイラ・シトリン等が混入していました。 
 残った7個はいずれも比重が4、屈折率がが1.80前後の値を示し、まずアルマンダインに間違いありません。
 

   残念ながら、こんにちではアルマンダインは宝石としては殆ど忘れられた存在です。一般の宝石店で見かける機会はまずないでしょう。 
 コレクター向けにルースとしてカットされる他は、せいぜい観光地や,海外の土産店などでビーズに加工されたネックレスや、カボションにカットされた安価なアクセサリーとして見かけるくらいです。
 
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