角閃石族 (Amphibole Group)

 

 
 角閃石族のル-ス (Faceted amphibol group stones)  0.22 - 3.06ct



透閃石 (Tremolite)
3.06ct 10.4x6.2x5.9mm
透輝石 (Diopside)
3.39ct
透閃石 (Tremolite)
0.63ct
透輝石 (Diopside)
1.6cm
透閃石 (Tremolite)
2.5cm
Block D, Merelani Hill, Tanzania


エデン閃石(Edenite) 
結晶(Crystal) 1.4cm 
ルース(Faceted stone)0.29ct 
 
リヒター閃石(Richterite)
 結晶(Crystal) 1.9cm
 ルース(Faceted stone)1.72ct
パルガス閃石(Pargasite)
結晶(Crystal) 1.5cm 
ルース(Faceted stone)1.78ct
パルガス閃石 (Pargasite)
結晶(Crystal) 2.1cm
 ルース(Faceted stone)0.59ct
Ohn Bin, Mogok,
Burma
Sar-e-Sang,
Afghanistan
Ohn Bin, Mogok,
Burma
Ganesh、 Hunza Valley
Pakistan


       
 透閃石(Tremolite)
3.06ct 10.4x5.2x6.9mm
 エデン閃石(Edenite) 
0.89ct 6.8x5.8mm    0.57ct 6.07x3.77mm
 リヒター閃石 (Richterite)
0.36ct 5.5x4.0mm
 Merelani Hill, Tanzania Morogoro, Tanzania   Afghanistan
             
       
パルガス閃石 (Pargasite) 
 
       
 0.82ct 10.78x4.22mm  2.36ct 11.8x8.6mm  0.55ct、6.1x4.1mm  0.22ct 5.80x3.15x1.56mm
 Tanzania  Mogok, Burma  Baffin Island、Canada  Pakistan


       
 エデン閃石(Edenite) と鉄橄欖石(Ferro-Forsterite)
 3x6cm  
 リヒター閃石(Richterite) 4cm  パルガス閃石(Pargasite) 7cm  大理石上のパルガス閃石 11mm
(Pargasite on marble)
 Kovdor, Kola Penninsular, Russia  Wilberforce, Canada  Limberg, Parainenn、Finnland  Luc Yen, Vietnam


角閃石族の鉱物 (Amphibole mineral groups)
鉱物  化学組成(Composition) 結晶系
(Crystal System)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
普通角閃石 Amphibole
(Hornblende)
Ca2(Mg,Fe)4Al(AlSi7O22)(OH)2 単斜晶系
(Monoclinic)
5 - 6 2.9-3.4 1.61- 63
緑閃石 Actinolite Ca2(Mg,Fe)5(Si8O22(OH)2 6 3.1 1.61-63
透閃石  Tremolite Ca2Mg5Si8O22(OH)2 5 - 6 2.9 - 3.1
エデン閃石 Edenite Na2Ca(Mg,Fe)5Si7AlO22(OH)2 5-6 3.1 1.612-631
リヒター閃石
Richterite Na2Ca(Mg,Fe,Al)5(Si,Al)8O22(OH,F)2 5-6 2.97-3.13 1.599-622
パルガス閃石 Pargasite NaCa2(Mg,Fe)4AlSi6Al2O22(OH)2 5-6 3.1 1.620-640
リーベック閃石 Riebeckite Na(Fe2+,Mg)3Fe3+2Si8O22(OH)2 5 3.4 1.680-706 
角閃石 (Amphibole) 輝石 (Augite)
結晶と劈開面の特徴(Single and twin crystal forms and cleavage characteristics)

 

 

角閃石 25mm
Lukov, Czecho
単結晶,双晶と劈解面
劈解面の交差角度は124ºと56º
    双晶,単結晶
劈解面の交差角度は93
ºと87º
輝石 11mm
Tanzania


  角閃石は深成岩、半深成岩,火山岩,変成岩等、広範な岩石に含まれる代表的な造岩鉱物で地球の岩石の5%を占め、
川原や海岸の砂に5mm程の長さの黒く良く光る柱状の結晶を簡単に見つけることが出来ます。
 化学組成は水酸基のついた珪酸アルミニウムにカルシウム,ナトリウム(カリウム)、マグネシウムと鉄が結びついた構造で
主に鉄分の含有量の多寡により無色から緑、濃緑,黒へと変化し,ます。
 岩石中に結晶や粒状として含まれる他に、繊維状、綿毛状、塊状と多彩な産状を示し,多くの変種と名前とがあります ;
 角閃石 (Amphibole または Hornblende) の名はギリシア語の ”amphibolos = 鈍い” に由来します。
これは良く似た輝石と比べて劈解面の交差角が広い(鈍い)ことから命名されました。
 和名は柱状の結晶面がガラスのように眩く煌くことから命名されたものでしょう。
 普通の角閃石は鉄分により漆黒ですが、エメラルドのような輝かしい緑色の緑閃石 (Actinolite) はギリシア語の ”aktis=光線、放射” に由来します。 
 結晶の産状が放射状に束になっていることから命名されたものです。

   緑閃石
 (Actinolite)

エメラルドのような鮮やかな緑色の種類。陽起石とも呼ばれる。
(Emerald color variation, called Smaragdite)
 
   透角閃石
(Tremolite)
スイスのイタリア側、Ticino州 Campo Lungoアルプスの Tremola渓谷
で最初に発見された,緑閃石の鉄分が少ない無色の変種
(Colorless variation of actinolite, first discovered at
Tremola Valleys in Campo Lungo, Ticino, Switzerland)
 
   石綿
(Amiante)
  ギリシア語の”amiantos=腐らない,廉潔な”に由来する。綿状,フェルト状
で産する透角閃石で石綿のこと。
断熱材や絶縁材等に使われる。鉱物性の繊維で腐らないことからラテン系の
言葉では鉱物および工業製品の石綿等に使われる。英語やドイツ語では鉱物名
で工業製品の石綿はアスベスト(Asbest)
 
   石綿
(Byssolite)
ラテン系以外の綿状,フェルト状の透角閃石である石綿の鉱物名。ギリシア語の
”bussos=布”に因む。山岳性の接触変成鉱床に産する。
 
   軟玉
(Nephlite)
角閃石の繊維状の結晶が緻密な団塊となったもの。世界各地で古くから装飾用に
使われてきた。
英語では翡翠(硬玉)と同じJadeと呼ばれ、産地名をつけた ***翡翠などと
呼ばれる。
 
  リーベック閃石
 (Riebeckite)
石英脈中に繊維状の層を成して産する。虎目石として装飾用に使われる
         
  パルガス閃石
(Pargasite) 
 
  1834年にフィンランドの Pargas(Parainen) Valley にて発見された。
命名者の Fabian Gotthard von Steiheil 伯爵は帝政ロシア軍の将軍にてフィンランド提督
でもあったが、当時欧州で大流行した鉱物収集家でもあった。
 
  青石綿
(Crocidolite)
リーベック閃石と同じもの。鉄のイオン価が異なり青く、鷹目石となる
 
         


透閃石 (Tremolite) 46mm
Campo Lungo, Italia
緑閃石 (Actinolite) 4cm
愛媛県土居町五良津山
Iratsu Mtn. Ehime
Japan
緑閃石(Actinolite) 40mm
Zillertal Austria
Smaragdite (陽起石)
 20mm 
Zermatt Swizerland
Amiante(Byssolite) 
 
St.Lorenzen, Austria


リーベック閃石 (Riebeckite)
Griqualand South Africa
青石綿
Crocidolite)
Griqualand RSA
ネフライト (軟玉) の彫刻品
( Nephlite carvings )
Newzealand Canada China

この他にも斜方晶系の直閃石(Anthophyllite : (Mg,Fe)7Si8O22(OH))、単斜晶系の藍閃石 (Glaucophane : Na2(Mg,Fe)3(Al,Fe3+)2Si8O22(OH)2)、Arfvedsonite : Na3Fe2+4Al(OH/Si4O11)2等々一大グループを成すのが角閃石族です。


宝石質の角閃石の登場

 
多彩な鉱物群を形成し,豊富に存在する角閃石族の鉱物ですが、しかし宝石としては僅かに軟玉(ネフライト)のみが古来より世界各地で装飾用や工芸品として使われているだけの目立たない一族でありました。

 似たような化学組成で、ほぼ同じ比率で豊富に存在する輝石族が透輝石 (Diopside)、頑火輝石 (Enstatite)、黝輝石(スポジューメン : クンツァイト、ヒデナイト)等々、華やかな色合いの宝石として市場にすっかり定着しているのと比べると影の薄い存在でした。

 その角閃石族にもごく最近になってようやく極めて稀ではありますが、宝石質の結晶が報告されるようになりました。
 まず1990年代半ば頃からパキスタンのフンザ渓谷からヴァナジウム発色による鮮やかなパルガス閃石が、続いて1994頃カナダのバフィン島にて宝石質のパルガス閃石が報告されました。さらに2002年に中国の雲南省、文山から,またベトナムのルビー産地 Luc Yenからも鮮やかな緑色のパルガス閃石が発見されました。

 2001年秋に、アフガニスタン、サーレサンのラピスラズリ鉱山から宝石質のリヒター閃石が報告されました。5kg程の結晶が採れ,20%がファセット・カット級の品質です。
 しかし強い劈解性のためにカットが困難で最大のルースが1.86ct。より大きなルースのカットは出来ないとのこと。
 2002年にはごく少量ですが、ビルマのモゴクにあるルビー鉱山から橙ー褐色のパルガス閃石と黄色のエデン閃石とが報告されました。
 2005年後半にタンザニア、メレラニ丘陵のツァヴォライトとタンザナイト鉱山のブロック5鉱区にて鮮黄緑色の透輝石と透閃石とが産出し、鉱物市場に標本が姿を見せました。
 鮮明な黄緑色は分析の結果、パキスタン、フンザ渓谷やヴェトナムのルク・イェン産のパルガス閃石と同じく、主にヴァナジウムによる発色であると判明しました。同時に発見された透輝石も同じくヴァナジウム発色なので、外見から識別は困難です。
 ただし透輝石の方が比重、屈折率、複屈折の値がいずれも高いので、比較的簡単に識別が可能です。
 結晶はしかし、小さく亀裂が多くとてもカット出来そうにもありませんでしたが Gems & Gemology Summer 2007 にファセット・カットされた標本の写真が掲載されました。
 どんな鉱物でも極めて稀に宝石質の結晶が採れることがあり、カットされた宝石が博物館や富豪のコレクターのコレクションに収められます。
 一介のコレクターには普通は到底手の届かない高嶺の花ですが、今回思いがけなくネット市場に手頃な値段で見かけて入手したのが冒頭の3カラット余のルースです。
 透閃石のこれだけの大きさのヴァナジウム発色の透明な黄緑色のルースはまさに奇跡的な存在と言っても過言ではありません。
 この透閃石には日独宝石研究所のレポートが付いていました。
GIAの記事でもEDXRF(エネルギー分散型蛍光X線分析法)とエレクトロン・マイクロプローブとによる分析も併せて透閃石とされているのでまず間違いないでしょう。
 ただし、日本の別の鑑別機関のレポートではエデン閃石と判定されてもいるようです。
 透閃石とエデン閃石とは前述の表の通り僅かな成分の違いしかありません。
恐らく角閃石族の全ての鉱物は実際には連続的な固容体として自然界に存在すると考えられます。
 従ってどちらの鉱物と判定されても大した問題ではありません。
 ほぼ同時に入手したタンザニア、モロゴロ産のエデン閃石ルースを追加しました。
この沈んだ緑色は鉄による発色でしょう。

 Edenite、Richterite,Pargasite等、横文字の名前で角閃石族の鉱物と分かった人は相当年季の入った鉱物マニアでしょう。
 私自身,つい最近,角閃石族に共通の水酸基を含む長い化学組成を見て、初めてその素性に気がついた次第です。
 参考までに、従来知られていた同じ鉱物の写真を三列目に示しました。
いずれも,如何にも角閃石らしい黒い不透明な結晶で、これらに透明な宝石質の結晶が存在しようとは、よもや想像も出来ません。
 因みに Edenite の名前はNew York 州の Edenville に40mm の結晶が採れることから産地に因む名前です。
  冒頭のコラ半島産のエデン閃石標本はかつて新宿や池袋のミネラル・フェアに出品しているスリランカの宝石商から入手したもの。
 何故宝石商がロシア産の地味な鉱物標本を持っていたのか不思議ですが、エデナイトとの正体も分からぬまま、しかし余りにも見事な結晶なのでつい買ってしまって長い間忘れていました。
 今回の展示で、エデン閃石が実は角閃石属の鉱物であることにようやく気が付きました。
 同様に Pargasite もフィンランドの Pargas( Parainen)産に因みます。
Richterite はドイツの鉱物学者 T.リヒター (Theodor Richter) に因む命名です。

 名前こそ違え、いずれも大変似た化学組成と特性を示します。
前述の化学組成は一般的なものですが、最近登場した宝石質のものには共通した特徴があります ;

ナトリウム分の一部をカリウムが、更に水酸基の一部を弗素が置き換えています。パキスタン産のパルガス閃石はヴァナジウムによる発色です。 このため K−Richterite、Fluorian Vanadian Pargasite、 Potassian Fluorian Pargasite, Fluorian Edenite等々様々な呼称があります。

 もう一つの特徴は産地がいずれもビルマのモゴク、アフガニスタンのサーレサン、パキスタンのフンザ渓谷等、名だたる宝石産地で最近発見されたことです。 いずれも結晶大理石中にルビーやスピネルと共に発見されたものです。
 分析の結果,鉄の含有量が非常に低いことが幸いして透明度が高い宝石質の結晶となったと思われます。

 ただし、産出量は非常に少ないため,余程の幸運に恵まれない限りファセットされたルースを市場で見かける機会はないことと思われます。 
 これら角閃石族のファセット級の透明な美しい結晶発見の意義は、後述するようにインドがユーラシア大陸に衝突した地質学的な事件で形成された宝石結晶の宝庫とも言えるモゴク変成帯との関連があらためて脚光を浴びることであろうと思われます。

*うっかりしていましたが既に展示済みのヘクサゴナイト(Hexagonite)は2%程度のマンガンを含んで紫色の透角閃石の変種でした。
 アメリカ,ニューヨーク州の Balmat、Fowler、カナダの Alberta 等での産出が古くから知られていた鉱物です。 しかし宝石質のものはごく僅かでコレクター向きであることは前述の角閃石族の宝石と同様です。

 パルガス閃石の宝石質のものはスリランカとカナダのバフィン諸島からも黄色や褐色を帯びた緑、暗褐色の宝石質の結晶が発見されてファセット・カットされたことが報告されています。
 (Check List for rare gem stones -Hornblende : ”Canadian Gemologist Vol.15 No.4 1994 pp 110-113”) 

モゴクの地質

 ビルマのモゴクは大理石脈中にルビーやサファイア,スピネル、またペグマタイト脈にトルマリンやトパーズ,更に深成岩起原のペリドット、その北方には高圧,低温の変成作用による翡翠と、それぞれ全く異なる地質にいずれも世界で最高の品質の宝石を豊富に産する土地です。 
  一体どのような地質的な歴史を経て来たのか,かねがね知りたいと思っていましたが、このたび資料を入手しましたので概要を紹介する次第です。 

Jurasic(中生代ジュラ紀 2.0〜1.46億年昔)to Miocene(新生代新第三紀中新世 0.26〜0.06億年昔)magmatism and metamorphism in the Mogok Metamorphic Belt and the India-Eurasia collision in Myanmar. ”Tectonics Vol.22 No.3 2003, pp4-1〜4-11 ”

 この報告によると、大理石、片岩、片麻岩から成る幅50kmのモゴク変成帯 (MMB) に花崗岩とペグマタイトとが貫入したことで豊穣な宝石鉱物が生成されたということです。
  このMMBは北に伸びてヒマラヤ山脈東部に連なり、南はタイに、また東には中国南部とベトナム国境を通って延びています。
 インドがユーラシア大陸に衝突してチベットを押し上げ,ヒマラヤ山脈を形成し、その結果インドシナが回転して押し出されした際の変形や歪み、古代ゴンドワナ大陸の破片や地殻の肥大、変成作用等,一連の過去の地殻変動の中心を占める位置に存在するのがモゴク変成帯です。

 これらの地質的な歴史は、モゴク変成帯に添う各地の花崗岩から採集されたジルコンを詳細に分析することでインドとユーラシアの衝突以前のジュラ紀から衝突以後の新生代新第三紀中新世に及ぶ期間の地殻変動の歴史が明らかになったものです。
 ジルコン結晶の中心部は最も古いもので17億年昔に生成したものですが、6500〜5500万年前に起こったインドとユーラシアの衝突で起こった地殻肥大による変成作用の前後の期間、4300万年の間に結晶が再成長した層に地殻変動の歴史が記録されていました。

 とすると,冒頭の珍しい角閃石族の宝石がヒマラヤのアフガニスタンとパキスタン、モゴク、中国南部,ベトナムにて立て続きに発見されたのは決して偶然ではありません。 
 いずれも結晶石大理石の、ルビー,サファイア,スピネル等の産地という共通の地質条件を有する土地ですが、インドとユーラシアの衝突に由来するモゴク変成地帯の延長線上にあるという興味深い事実が浮かび上がってきます。