紫水晶(Amethyst)

 

 
  163.5ct                 88.2ct 
崩積鉱床からの高品質ルース
合計 400ct
Brejinho鉱山 Espinhaço山脈
Bahia州 Brazil
伝説のウラル山脈の紫水晶
Ural mtns. Russia
アメリカ自然史博物館
American Museum of Natural History New York
もっとも美しいとされる紫水晶
Four Peaks Mine
Arizona U.S.A.
3.31- 22.11ct 
Congo
 多彩な色を示す水晶の中で古来からもっとも人気があったのが紫水晶です。
欧州各地の紀元前2万5千万年前の新石器時代の遺跡から加工された紫水晶が発見されています。
また古代エジプト、ギリシア、ローマでも装飾品として紫水晶が珍重されました。


Amethyst is the most valuable and highly prized varieties of quartz since ancient times. Amethyst was used as decorative stone bofore 25,000B.C. in France and has been found with remains of neolithic man in different parts of Europe. Before 3100B.C. in Egypt, beads amulets and selas were made of this gemstone, and it was highly valued in ancient Greek and Roman societies.

   アメチストの名はギリシア語の「否定接頭語の "a" と methustes:酔う」との合成語で”酔わない”を意味します。
即ちアメジストのグラスに入れた水はワイン色に見えるのでいくら飲んでも酔わないからというのです。
 また,ローマ神話にアメチストという美しいニンフの逸話があります。
ある日女神ディアナの神殿に詣でるため森を通るアメチストは,好色な酒の神バッカスに襲われます。
 助けを求める声を聴いたディアナはバッカスの腕の中のアメチストを冷たく透明な水晶の杯に変えてしまいます。
怒ったバッカスは水晶の杯にワインを注ぎ紫色に変えてしまいました。
酔いから覚めた後に,バッカスは紫水晶の杯を持つ者に酔わない力を与えたという神話です。
 こうした逸話が示すように,紫水晶は中世にも王冠や高位の聖職者の指輪など,力の象徴としてまた戦場に赴く兵士たちの安全を守る宝石として長い間特別な力を持つ宝石と見なされて来ました。
 犀の角を珍重する中国では晋〜唐代には紫水晶も同様強壮薬として珍重したとのこと。 
18世紀のフランスとイギリスでは高貴な色合いのシベリア産の紫水晶はとりわけ人気が高まり大変な高価で取引された宝石でもあります。

The name amethyst derives from Greek privative "a" and "methustes drunkness, meaning it prevent drunkness. The Greeks believed that amethyst would prevent ingtoxication. The Roman myth relates that the God of wine Bacchus was about to insult a nymph, Amethyst who was on the way to worship at the shrine of Diana. As she cried asking for help in the arm of Bacchus, the Diana tuned the girl into a transparent rock crystal. The Bacchus in an anger poured wine as a libation over the crystal, thus giving the crystal its beautiful purple color. The allure of amethyst has been virtually universal as a symbol of power, protect soldiers in battle, guard against contagious disease , and bring peace of mind to the wearer.
Amethyst from Russia was very popular during the 18th century in France and in England.


ヨーロッパの紫水晶の産地 (Origin of European amethyst)

 ヨーロッパ古代の紫水晶の産地が何処であったかは定かではありません。
恐らくキプロスの銅山や,イングランドの錫鉱山など古くから開発された金属鉱山やアルプスなどで発見されたものと考えられます。
15世紀以降になるとドイツのイダー・オーバーシュタイン周辺にて紫水晶や瑪瑙,玉髄の産地が発見され,今日に至るまで世界的な宝石加工産地となる基礎が出来ました。
 ドイツの紫水晶はおよそ2億5000万年昔,ペルム紀の火山噴火により流れ出た塩基性の玄武岩流空洞の中に瑪瑙や玉髄に囲まれて紫水晶が結晶したものです。
 さらに17世紀にはフランスの中央山塊,オーヴェルニュ地方各地の火山岩の晶洞に小さいながら色合いの美しい紫水晶が発見されました。
 しかしヨーロッパでこんにち,伝説とまでなった高品質の紫水晶が発見されたのは18世紀初め,シベリア最西端,エカテリンブルグの北西120km程のウラル山脈の東山麓のネヴァ川流域のムルジンカ・ペグマタイト鉱床地帯です。
 ムルジンカ一帯には無数のペグマタイト鉱床の露頭があり、100年余りにわたって世界的なトパーズ,アクアマリン,トルマリンと共に紫水晶を産出した産地です。
 シベリアの紫水晶は,昼の光ではロイヤル・パープルと呼ばれる深い紫の色合いが,また夜の白熱光では中で炎が燃えているような赤みを帯びたワイン色を示す顕著な二色性を示すことが特徴です。
 紫水晶は結晶軸の方向によってこのような二色性を示しますが,とりわけシベリア産のそれは伝説となる程に見事であったようです。
 また南ウラルのChasawarka近くには5億年ほど昔の古生代初期の石英ー緑泥石−雲母層の中に長さ200m,厚さが3〜15mの豊穣な紫水晶の脈があり,当時は世界でもっとも重要な産地でしたが,現在ではすっかり掘り尽くされてしまっています。

Amethysts, unearthed from ruines of neolitic men derives from cupper mines of Cyprus, tin mines of England or Alpine origins.
After 15th century, amethyst, agate and chalcedony were discovered on the outskirts of Idar-Oberstein, southern Germany, in geodes formed in mafic basalt pockets, formed by volcanic eraption of Permian era of 250 million years ago. In 17th century in french Central Massives of Auvergne region, small but pretty amethysts were discovered in pockets of volcanic origin.
The legendary highest quality amethyst was discovered in 18th century in western Siberia, at mursinka pegmatite zones along the Neva River on eastern edge of Ural mtns, where there are numerous outcrops of pegmatite ores and have been produced world renowned topaz, aquamarine, tourmalines together with amethyst, during one centry. The spectacular Siberian amethyst showed typical dichroism, deep purple color, cold royal purple in daylight and reddish flamboyant wine color in incandescent light. Near Chasawarka in southern Ural Mtns. a rich amethyst veins of 3 to 15m thick and 200m long in quartz-chlorite-phlogopite bed of early paleozoic era were discovered to have become the most important amethyst mine at that time.


水晶の発色の仕組みと成因 (Mechnism of quartz colors) 

 紫水晶の紫色の発色の仕組みが明らかになったのは比較的最近の事で,ほんの30年くらい昔の宝石の専門書では発色の原因は不明とされていました。 
 当時は宝石の第一人者として数々の一般向けの宝石に関する著書を出していた崎川範行教授もマンガンによる発色としていました。
 確かに消毒薬に使われる過マンガン酸カリウムの水溶液は紫ですから化学の専門家がそう思いついたのも無理のないことです。
 しかし専門の鉱物学者であった益富伊寿之助氏が1973年刊の保育社発行のカラーブックス,”鉱物”にて,精密な分析の結果,多くの不純物のうちで小数点以下二桁%以下の価で含まれる鉄が結晶格子間での光の吸収を起こすと推定していたのは流石です。
 水晶の様々な発色の仕組みが明らかになったのは1969年にSamoilovichが黄水晶の黄色から橙の発色が三価のアルミニウムイオンによる着色中心(カラーセンター)であると発表して以来のことです。
 紫の発色は1972年にHassanが,1977年にCoxが明らかにしました : 母岩に含まれる微量のウラニウムやトリウム、カリウム40等の放射性元素からのアルファ線を長年浴びた水晶からは結晶を構成する酸素から二価のマイナスイオンが分離し,不純物として含まれる鉄が同じく放射線を浴びて安定な3価のイオン状態から不安定な4価の状態になっている鉄イオンとの間で電子を交換する電荷移動(Charge Transfer)が起こります。
 紫水晶を透過する光はこの電荷移動によって橙〜黄〜緑に至る周波数帯の光を吸収されて,残った主に紫の周波数帯が見える仕組みです。
 その後1988年頃までに,緑,ピンク,黄緑,黒等々,全ての水晶の発色の原因が様々なカラーセンターや電荷移動等の原因で起こる事がようやく解明されたのです。
 水晶は多様な成因で広汎な地質条件に普通に発見される鉱物です。
そして母岩中にごく微量ではあっても普遍的に存在する放射性元素の崩壊によって発生するアルファ線を、数億年の長い間放射線を浴び続ける事も良くある事です。
 地殻中に大量に存在する鉄分は不純物として必ず含まれます。
 したがって,世界各地で広汎に発見される水晶は,生成されたときは無色でしたが、永年放射線を浴びる事で紫水晶に変わったものと考えられます。

 Origin of color in amethyst was revealed quite recenly. 30 years ago, gemstone text books described origin of amethyst color unknown. Some authority estimated the origin as manganese ion, inspired from purple color of pottasium manganese peroxide solution.
A Japanese mineralogist Masutomi correctly prospected the absorption by iron impurity of second decimal order, by 1973.

In 1969, Samoilovich first reported origin of yellow to orange color of citrin as color center by tri-valent aluminum ion. Amethyst's purple color was revealed by Hassan in 1972 and by Cox in 1977 : O2 - Fe4+ charge transfer, due to irradiation
Then by 1988, various colors of quartz ; green, yellowish green, pink and black are revealed that they are caused by color center or charge transfer. Quartz is the most common mineral found in vast geological environments with common iron impurity and had been exposed to natural irradiation for geological years, resulting that colorless quartz crystal had turned to have become amethyst.


世界の紫水晶 (Amethysts from worlds' localities)

 
結晶とルース 12.95ct
Badhakhshan-Kandahahar
Eastern Afghanistan
結晶とルース
Thunder Bay Panorama Mine
Ontario, Canada
紫水晶晶洞(Amethyst in Geode 44x34cm)
Catalan Grande,
Artigas Uruguay
 研磨された水晶脈 24x38p
Brandberg, Namibia
     
 

         
 最も美しい紫水晶結晶 34x30x18mm 22x22x22mm   2cm ミラノ自然史博物館  23x8mm 29x11mm
 Veracruz, Mexico  Balkhash Lake, Karaganda, Kazakhstan   Madagascar  宮城県雨塚山
       


前述のように紫水晶は広汎な産状を持つ鉱物ですから,世界各地で発見されます。

アジアの紫水晶 (Asian Amethyst)

 古い宝石の本には朝鮮半島からも宝石質の紫水晶を産したと記述されています。
日本も古い宝石の本には産地として挙げられていますした。
 主に金属鉱山の副産物やペグマタイト鉱床の産出でしたが,量も少なく,宝石質の結晶は殆どありませんでした。
 冒頭で述べたように,シベリアとウラル山脈の紫水晶はその赤みを帯びた色合いと顕著な色変わりとで”シベリアン・カラー”と呼ばれる最上の紫水晶を表す言葉になっています。
 残念ながらかつての鉱脈は枯渇してしまいましたが,広大な国ですから,最近新たな鉱脈が発見されたデマントイドのように,新産地が発見される可能性は充分あります。
 中央アジアは近年,主にペグマタイト性の美しい結晶の産地として注目を浴びています。
アフガニスタンからはごく最近,伝説のシベリア産を偲ばせる大きく深い色合いの紫水晶の産地が発見されました。
 スリランカもありとあらゆる宝石の産地で,時にはシベリア産に匹敵する紫水晶が発見されます。
しかし量は少なく,市場で見かける機会は余りありません。

 historically, several amethyst localities have been knon in Asia, such as Siberia, Korean Penisular, Japan and Srilanka. Most of mines are exhasuted and are no more important today. Recently, legendary " best Siberian color" amethyst was reported from Afghanistan.


アフリカの紫水晶 (African Amethyst)


ザンビア(Zanbia)

 
       
 2.58ct 10x9mm  2.37ct 9x8.5mm  1.72ct Ø8mm  1.61ct Ø8mm 4.02ct 13.9x8.9x6.1mm  片麻岩中に伸びる紫水晶脈
Curlew Mine, Zambia 
 
 今日、世界で最も高く評価される紫水晶がザンビア、カーリュー鉱山産です。
片麻岩を貫く熱水脈に生成した紫水晶は殆ど真っ黒に見えるほどですが、カットすると深い紫の色合いが見事です。
 惜しむらくは平均で2カラットと小さいのが難点です。その上インクルージョンが多く色むらも目立ちます。
それでも濃く深い紫は魅力があり、稀に採れる10カラット級の透明度の高いルースは普通の紫水晶の10倍もの高値(と言ってもカラット当たり60ドルに過ぎません)で取引されます。

 Amethsyt from Curlew mine, Zambia is one of the most highly prized amethyst. It is mined form hydrothermal veins in gneis. Aggregate crystal looks almost black but facetted stone shows attractive deep purple color. Regretably, average facetted stone is as small as two carat with color zones and many inclusions. But rare transparent 10 carat class stone fetch US$60(10 times than normal amethyst).

ナミビアと南アフリカ(Namibia & South Africa)



 
水晶鉱山(Quartz Mine)
紫水晶と黄水晶 各 4.5ct
Citrine and Amethyst  4.5ct each
.
花崗岩ペグマタイトの紫水晶 10.3cm
Barry & Beth Kitt Collection , Texas
Sarusas Mine, West Namibia   Gogoboseb Mnts. Brandberg, Erongo, Namibia
 
     
サボテン紫水晶 (Cacatus Amethyst) 
 77o  30mm  
 Boetenhouthoek, South Africa Magaliesberg, South Africa   

 ナミビアのブラントベルク産も深い色合いでアフリカを代表する紫水晶の産地です。
上の写真はナミビア北西部のナミブ砂漠にあるサルーサス鉱山の様子と産出する黄水晶と紫水晶です。
紫水晶が玄武岩中の晶洞に産します。
 淡色の黄水晶も稀に発見されますが、写真の黄水晶は紫水晶を加熱処理したものです。
2004年後半の半年で1500kgほどの原石が採取されましたが、宝石質の部分は1%以下に過ぎません。
 南アフリカのマハリーズベルクはグーグルで調べるとプレトリア近郊の観光地のようです。
どんな産状か定かではありませんが、写真のような水晶の表面に無数の小さな結晶が成長している「サボテン」水晶の産地のようです。やや色が淡く宝石にはなりませんが標本として面白いものです。

 Brandberg area represents deep purple African amethyst, too. Photo shows Sarusas mine and citrine and amethyst in various shade in Namib Desert. Amethyst crystal is mined from pockets in Basalt. Pale natural color citrne is rarely discovered but most of citrine is obtained from heat treated amethyst. The production of late 2004 was 1500kg rough stone, which produced less than 1% of gemmy stone.

Magaliesberg, near Pretoria, South Africa is a resort place, where cactus shape amethyst crystal aggregate is well known as specimen.

ナイジェリアとマダガスカル(Nigeria and Madagascar)

 近年,ナイジェリアはトルマリンやトパーズ等,色石の分野では質,量ともに重要な産地として台頭してきました。
写真の結晶とルースは2000年に東部のタラバ州で採掘が始まったばかりですが,月産120〜150kg程を産出しています。
ファセット質の歩留まりは1%程度と低いのですが,品質は人気のある赤みを帯びた深い色合いの紫水晶です。
 一方アルプス型の熱水鉱脈、ペグマタイト鉱床、広域変成鉱床等々多彩な地質構造に富むマダガスカルからは大小様々の煙水晶,黄水晶,松茸水晶,日本式双晶等々,多彩な水晶を産します。 
 紫水晶も他では滅多にない両端をもつ結晶や,松茸水晶等,コレクター垂涎の美しい結晶の産地です。
世界の最上級品に匹敵する宝石質の紫水晶も量は多くありませんが知られています。

 Nigeria has been known as important colored stone locality, such as tourmaline, topaz and garnets. Above photo of crystals and facetted stone from eastern Taraba State since 2000. Monthly production is 120 to 150kg with as low as 1% of gemmy crystal but quality deep reddish purple color.

 Madagascar is known for its rich geologic varieties such as ; hydrothermal, pegmatite, metamorphic granitic gneiss veins and quartz veins are abundant throughout the country with various colors and shapes ; sceptor quartz, cube form, gigangtic crystal, japanese twin etc. etc. Amethyst too is abundant with doubly terminated crystal, sceptor crystal and some highest quality deep color one.


アメリカ大陸の紫水晶 (Amethysts from America)
                    
                   4 Peaks, Arizona

標高1980mの鉱山
(右下の明るい部分)
Aerial view of mine
新たに鉱山を再開した鉱物マニア
Amateur mineral collectors
reopned the mine
破砕された珪質岩層の
空隙中の結晶群
Amethyst mineralization
高品質のルース 6 & 4 ct
Faceted Siberian color stone

 
 アメリカにも多くの紫水晶産地がありますが,ブラジルやアフリカからの安価な輸入品に対抗できないため,鉱山として採算が採れません。
したがって鉱物フェアでときたま鉱物標本級のものを見かけるくらいしか手にとる機会がありませんでした。
そんな中で,最近アメリカ各地から見事な紫水晶が続々と報告されるようになりました ;

 United States of America has lots of amethyst localities but most of them have been mine sporadically, due to higher mining cost against African and Brazilian mines. Therefore we seldom have an occasion to see specimens at mineral fair. However, significant gem quality amethyst has been mined intensively in these days ; 

4 Peaks鉱山 (Four Peaks Mine, Arizona)

 アリゾナ州の古い鉱山が1998年に半世紀振りに紫水晶の採掘を始めました。
鉱山経営の経験のない鉱物マニアが20世紀初頭以来,細々と稼動していたFour Peaks Amethyst鉱山を買い取ったというわけです。
  この鉱山はアリゾナ州フェニックスの東北東およそ80kmに遠望出来るMazatzal山脈(標高2200m)の頂上付近にあり,徒歩かヘリコプターで行くしか交通手段がありません。
 こんな僻地の鉱山を敢えて再開発しようとするのは偏にその品質にあります。
写真のように大きな結晶が採れますが,インクルージョンと色むらのためにカット出来るのはほんの一部に過ぎません。
 しかしその品質はシベリアの紫水晶に匹敵する赤みを帯びた深い紫なのです。
 この鉱山からは,年間10万カラットのルースが産出されると期待されています。

 Four Peaks mine in Mariposa County, Arizona, discovered by accident in the early 1900s by a gold prospector, is the most important commercial amethyst mine in the United States. However, due to mine's restricted accessibility and remote location in the rugged Mazatzal Mountains (alt. 2200m) in central Arizona, this deposit has been worked intermittently on a small scale, ever since. In 1998, the mine was reopened with the prospect of providing a regular supply of calibrated material in a range of sized and shapes with some of the cut stones exceeding over 20 ct. This mine is expected stable supply of yearly 100,000 ct. of facetted stone. The best quality amethyst from this mine is equivalent to legendary Siberian reddish purple color.


ジャクソンズ・クロスロード (Jackson's Crossroads, Georgia)

重機による採掘
Mining with backhoe
左下に晶洞の結晶群が見える
Pocket is seen in below left
晶洞中の結晶 25cm
amethyst crystal in a pocket 25cm
   
46 and 2.75ct 結晶(Amethyst crystals) 13.7cm
The Carabas Collection, Texas
8.7cm 
Kebin Brown Collection, Texas
2.93ct  10.0x7.8x5.1mm


 アメリカ。ジョージア州の州都アトランタから真東に150km、通称Jackson's Crossroadsと呼ばれる地域から見事な紫水晶の結晶標本とルースとが2005年のツーソン・ショーに登場しました。
 実はこの地域の紫水晶は1920年代にティファニー宝石店が採掘を手がけていました。
その後1966年代から繰り返し採掘が行われていました。
 現在は2000年から重機による本格的な採掘によって2004年末に新たな鉱脈が発見され、写真のような世界屈指の品質の結晶と産出とが報告されました。
 紫水晶は長石が風化して粘土化した変成石英安山岩の堆積中に地下6mに達する晶洞を成して発見されます。
晶洞は主に垂直のチューブ状に連なっているものですか、それからから水平に派生したもの、また独立した晶洞もあり、最大では長さが60−80cm、幅が25−30cmあります。
 The Mineralogical Record Nov-Dec 2005の報告では「鉱床はペグマタイト起源では決してない」と断定しています。
しかし鉱山のホームページからは宝石質の薔薇水晶や、非宝石質ですがトルマリン(ショール)や緑柱石も採掘されていますから、ペグマタイトと熱水鉱床からなる複雑な鉱床と考えた方が妥当でしょう。
 研磨された紫水晶は白熱光下では紫ですが、自然光では青みを帯びています。産状から判断して、重要な紫水晶の産地が発見されたと言えます。

 At 2005 Tucson gem show, outstanding crystal specimens and facetted stones were presented. Amethyst were mined from Jackson's Crossroads, located 150km east of Atlanta, Georgia. This area was already mined in 1920s by Tiffany. This area has been mined intermittently since 1966 too, and new rich deposit was discovered in 2004. Amethyst is mined from series of connected tube pockets, offshoot pockets and isolated pocket, which maximum length reaches 60-80cm and width 25-30cm. Tubes are contained in prolonged weathering of the host rock, altering components such as feldspar to a thick dense clay. Although 「Mineralogical Record」declares that the deposit is definitly not a pegmatite, mine homepage reports discovery of schorl and beryl crystals and gemmy rose quartz, which suggests that this deposit is a complex of pegmatic hydrothermal origine. Facetted amethyst looks purple under incandescent light but looks bluish purple under daylight.


メイン州 (Maine Amethyst)

    アメリカ北東部の広大な一帯に散在するペグマタイト鉱床は世界有数の宝石の産地です。 
 とりわけメイン州にはトルマリンの他にハンベリー石、ポルックス石、ベリロナイト等の無色透明
な宝石を産します。
 ペグマタイト鉱床では水晶は珍しくありませんが、大半は母岩に含まれる自然の放射線照射に
より黒水晶、煙水晶になっている例が多く紫水晶は稀であり、あったとしても宝石質のものは多くは
ありません。 写真は正確な産地が特定できる稀なる紫水晶です。
 North-Eastern part of U.S.A. is covered with numerous gem pegmatite veins and
produces various gemstones.
 Particulary, Maine is world renowned for tourmalines and rare gemstones like hamburgite,
polucite and berilonite etc.
  Although quartz is common in pegmatites, most are black or smoky type due to natural
radioactive radiations and gemmy ametyst is scarecely recovered.
Ametyst shown here is a rare example of pegmatite origine.
     
 2.22ct 11.0x8.2mm    1.78ct 9.1x7.0mm 0.75ct
6.5x6.5mm
0.69ct
7.1x5.1mm
0.63ct
Ø5.0mm
0.70ct
7.1x5.2mm
0.30ct
Ø4.65mm
 0.20ct
Ø4.05mm
 0.29ct
Ø4.10mm
 0.30ct
Ø4.65mm



カナダ(Canada)
 
.  Amethyst matrix 7.5cm
Thunder Bay, Canada
   
1960年に操業開始
The mine started the operation in 1960
現在の露天掘り鉱山
Current outcrop mining.
鉱山は一般に公開されている
Mine is open to general public


 同様に,カナダのオンタリオ州,サンダーベイのパノラマ鉱山も北米では数少ない紫水晶の鉱山です。
1955年に道路工事の際に発見され、1960年に操業開始、以降現在まで露天掘りで操業中です。
 5月15日から10月15日までは入場料3ドルで一般に公開されていて自由に紫水晶を掘ることが出来ます。
ブラジル南部の晶洞に産する紫水晶のような深い色合いが特徴です。
 詳細な地質情報はありませんが産状を見る限り、前述のジャクソンズ・クロスロードや後述のブラジル・リオ・グランデ・ド・スールと同様の成因と思われます。
 サンダーベイについては全く資料がなかったのですが、このホームページを見られたアメリカ在住のサラマンダーさんから、かつて訪ねた鉱山のパンフレットを送っていただき、ようやく場所や鉱山の様子が分かりました。この場を借りて御礼申し上げます
鉱山のホームページも見ることが出来ます(http://www.amethystmine.com/)。

 Panorama mine at Thunderbay, Ontario, Canada is one of a few amethyst mine in North America.It was discovered in 1955 as a result of a road being built to the forest fire lookout tower visible from the mine sight, Ametyst production started in 1960 and the mine has produced continuously since then. From 15 May to 15 October, mine is opened to general public for US$3.00
Amethyst from this mine has deep color, equivalent to the one from pockets of southern Brazil.
 Although I could not get geological informations, it seems that amethyst occurence is similar to that of Jackson's Crossroad, U.S.A. and Rio Grande do Sul, Brazil.

I would express sincere thanks to Ms. Salamander, who could kindly send me a panphlet of Panorama mine. She lives in Joliet, near Chicago and once visited the mine, walking along an amethyst filled path to the mine.


メキシコ(Mexico) 

 
12cm 10.5cm  12.58ct 19.0x12.3mm
Ex F.Pough Collection
アマチトラン周辺の鉱山
(Mines and deposits in the Amatitlan Area)
Guerrero, Mexico

 メキシコは17世紀末ごろから銀山や晶洞からの美しい紫水晶の産出で名高い産地です。
しかし金属鉱山の紫水晶は量が少なく大半は鉱物標本として市場に登場します。 
 メキシコの紫水晶ではベラクルス州ラス・ビガスの安山岩の割れ目に発見される素晴らしく透明で美しい結晶を挙げねばなりません。 
 透明度の高さで名高いアメリカ,アーカンソー州の無色の水晶の紫水晶版と言える、掛け値なしに世界で最も美しい紫水晶です。
 ラス・ビガスの紫水晶は,しかし残念ながら宝石にはなりません。
 ルースにカットすると色が淡すぎて宝石としての魅力が薄れてしまうからです。
宝石としては例えばナイジェリアやナミビア産のような,色が濃すぎて結晶標本としては余り魅力のない原石がカットされると深い色合いで高く評価されます。
 ラス・ビガスの紫水晶は結晶標本として,自然のままの美しい姿と色合いとを愛でるのが何よりです。
 写真のルースはこれまで写真でさえ見たことの無かったゲレロ産の紫水晶です。
紫水晶の産地を確認するのはほぼ不可能ですが、これは世界的な鉱物学者、F.ポー博士のコレクションの放出品ですから間違いありません。 伝説のウラル山脈産の最上級品に匹敵する色合いです。

 Mexican amethyst was famous since 17th century mined from silver, cupper and zinc ore. Almost all amethyst discovered from metal veins are not abundant in volume and are sold as mineral specimen. Paticulary amethyst discovered from andesine fissures of Las Vigas, Veracruz, Mexico is prized as the best specimen for its perfect shape and transparency. fortunately or unfortunately, bacause of its transparency, crystals are preserved as specimen. The facetted stone has too pale color to be an attractive jewelery.
 12.58 carat faceted amethyst is certainly the rarest one from Guerero, formerly possesed by Dr. F.Pough.



ウルグアイ(Uruguay)



   
 水平のトンネルでの紫水晶採掘場 (Mining through horizontal tunnel)
 
最上の品質の結晶とルース
(B3est quality crystal and faceted amethyst)
2019年のツーソンショーに展示された
高さ3.7m、重さ2.5トンの紫水晶晶洞
2021年、ニューヨークのアメリカ自然史博物館
に展示された重さ5トンの紫水晶晶洞 
Los Catalanos, Artigas, Uruguay  


 ウルグアイはブラジルに次ぐ紫水晶の産地です。というのも,ブラジル南部のリオ・グランデ・ド・スル州の産地は地質的にはウルグアイまで連続する同一の玄武岩溶岩地帯にあり,全く同じものだからです。
 ウルグアイでは1840年に発見されたアルティガス地方が主な産地で年間80トン程度の紫水晶と150トンの瑪瑙を産出しています。

 Uruguay is the important amethyst producer, next to Brazil. Practically northern Uruguay and southern Brazil is the same basaltic lava zone. Artigas province, discovered in 1840 is the most important locality and produces 80 tons of amethyst and 150 tons of agate, anually.

 



ブラジルの紫水晶 (Brazialian Amethyst)

 Brazil is the leading amethyst producer, both in quantity and quality. Black points in the map shows mines, which expands 4000km south-north and 500km width along eastern coast of Brazil, covering Urguayan boarder, Rio Grande do Sul, Parana, Santa Catalina, Mato Grosso do Sul, Rio de Janeiro, Minas Gerais, Espirito Santo, Bahia, Goias, Ceara, Para States. Occurences vary ; Niarotic bassalt pockets, alluvial deposits, hydrothermal intrusion into quartzite zone, pegmatic, etc. etc.
Since discovery at southern Rio Grande do Sul in early 19th century, numerous locations have been discovered to produce annual several hundreds of tons of amethyst are produced, constantly.

    世界に紫水晶の産地は数多くありますが,質,量ともにブラジルが世界を圧倒します。
 地図の黒点は産地を示しますが主にブラジル東部の海岸に沿って東西に幅500km,南北にほぼ4000kmに渡り,ウルグアイから連なる南のリオ・グランデ・ド・スール州,パラナ州,サンタ・カタリーナ州,マト・グロッソ・ド・スール州,リオ・デ・ジャネイロ州,ミナス・ジェライス州,エスピリト・サント州,バイア州,ゴイアス州,セアラ州,パラ州に至る,広大な地域に無数の産地が存在します。
 また産状も多様で火山性の玄武岩の晶洞中の群晶,漂砂鉱床,珪岩層への紫水晶脈の貫入,ペグマタイト性,熱水鉱脈性等々,多彩な地質条件下に発見されます。
 19世紀初頭に南部のリオ・グランデ・ド・スール州に広大な産地が発見されて以来,その後次々とブラジル各地に多様な産状で紫水晶の産地が発見され,毎年数百トンの紫水晶が産出され続けています。

                ブラジル産紫水晶のカラースケール
                (Color scale of Brazilian amethyst)

               写真は紫水晶の色のグレードを表す例。
                左端が2,順に3,4と色が濃くなり右端が最高水準の9です。
                10まで行くと黒すぎ,1は淡すぎて普通の水晶です。
                一般にはカラー基準で4以上が紫水晶と見なされます。

          
Photo shows amethyst color scale from 2-9 (from left to right)
        9 is considered as the best. 1 is too pale and 10 is too dark.
        Over 4 is considered as amethyst.  


リオ・グランデ・ド・スール州の紫水晶
(Amethyst from Rio Grande do Sul State)


地下30mに広がる玄武岩晶洞の採掘
(mining of basalt pockes
30m below surface)
Irai
採掘された晶洞
 Geronimo Recha
Sao Gabriel
最上の品質の結晶
The best quality amethyst
フラワー・アメジスト 11cm
Flower amethyst
Irai

 

 リオ・グランデ・ド・スール産の紫水晶
Amethyst crystal matrix and faceted stone from Rio Grande do Sul
     
 
 20x8cm 21x17cm 方解石と紫水晶 12x12cm
(Calcite on amethyst) 
     
       
5.23ct 10.0x9.4x6.9mm  46.39ct 25.8x20.0x12.8mm  15.8ct 14.7x13.5x10.8mm  14.8ct 18.0x15.0x9.5mm
       
10.80ct 15.2x15.2x9.2mm  10.14ct  19.3x10.9x7.9mm 10.02ct 19.5x11.0x7.08mm  16.88ct 20.2x14.2x9.0mm 
       
      
Fancy Cut 1.41 - 2.13ct 5.35ct 11.8x9.9x8.0mm       30x28x20mm 95ct   36x23x20mm 125ct  

 ブラジル最南端のリオ・グランデ・ド・スール州に紫水晶が発見されたのは1800年代初頭の事です。
発見したのは奇しくも南ドイツのイダー・オーバーシュタイン近郊からの移民でした。
 紫水晶や瑪瑙の発見がヨーロッパの一大宝石加工地として栄える発端となったのですが,その土地からはるばるやって来て住みついた人々が,地質も気候もそっくりの土地で,全く同じ産状の紫水晶を発見したことになります。
 原石の鉱脈が枯渇して衰退を辿っていたイダー・オーヴアーシュタインはブラジルから輸入される紫水晶や瑪瑙によって再び世界の宝石加工の中心地として復活したのでした。
 ブラジルといえば,一般にはアマゾン地方のような熱帯の気候風土を想像する方が多いかもしれませんが,サンパウロから南の土地は高原の爽やかな気候と森や草原が延々と広がる,南ドイツのような土地です。
 したがって,ドイツや東欧系の移民が多く暮らしていて,人々も家並みもヨーロッパを思わせます。
因みにブラジルを代表する航空会社VARIGとはリオグランデ航空のことです。

 It was early 1800s that amethyst was discovered in Rio Grande do Sul, southern Brazil. The most important amethyst deposit in the world was happened to be discovered by immigrants from Idar-Oberstein, Germany, which was once amethyst and agate locality, resulted that town as the most important gem industy area in Europe. Thanks to the re-discovery by immigrants in the similar climate and geological condition in southern Brazil as their home town, Idar-Oberstein could revive to be the leading gem industry center of the world.

 
 さて,紫水晶は1億2000万年ほど昔にパラナ盆地一帯に起こった火山活動によって流出した120万平方kmに及ぶ広大な玄武岩の溶岩流中に出来た晶洞の中に結晶しています。
 晶洞は大きいものでは直径が1m,長さが数mにも達します。
セラドン石(Celadonite)と呼ばれる雲母状の鉄に富む珪酸分の多い緑色の皮膜状の鉱物に包まれた晶洞の瑪瑙や石英の外壁の内部にぎっしりと,最大で10cmに達する紫水晶の結晶がひしめいています。
 この空洞にはしばしば方解石や石膏,時には金の結晶が含まれることもあります。
 またフラワー・アメジストと呼ばれる花びらのように発達した平板状のアメジスト晶群が見られます。
背面に緑色のセラドナイトが付着していますから,晶洞の表面にサボテンに咲く花のようについているのではないかと思われます。

 Amethyst of this area is crystalized in pockets formed in the vast basalt lava flow, covering 1.2 million km2 of Parana Basin by the volcanic eraption of 120 million years ago. The pocket has maximum 6m long and 1m of diameter, covered with green film-like celadonite filled with longest 10cm high amethyst crystals on internal wall of quartz and agate. On amethyst crystals, calcite, gypsum and gold crystal are found. A disc like flat amethyst crystal aggregate, called "flower amethyst" is discovered sticked on the external wall of cuctas-like pocket tube.


 リオ・グランデ・ド・スール産の紫水晶は加熱加工でガーネットのような濃い赤みや橙色を帯びたシトリンになるため,生産量の3分の2はシトリンとして出荷されます。 
 天然に加熱作用が加わってシトリンになった晶洞が発見される事がありますが,それは採掘している鉱夫が一生に一度遭遇すれば幸運といわれるほど稀な存在です。
 イライ産の紫水晶はカラースケールでは1〜9ctのルースが5〜6,10ctを越える大きなルースは7,と宝石業界では中級程度の評価です。したがってそれほど高価ではありません。
  がこうした宝石業界の評価とは別に,普通に売られているカラットあたり2〜3ドルのルースでも充分魅力があります。

 Amethyst from Rio Grande do Sul is transformed to garnet-like orange to reddish color citrine, called with false name such as ; madeira topaz or citrine. Two third of amethyst are heat treated to be citrine. Naturally heated citrine pocket is discovered. But it is such an extremely rare occasion that a miner would have the lackyiest chance to encounter the pocket once for his life. Facetted amethyst from Irai, the center of amethyst mining in this region is graded in general as intermedoate class ; 5-6 in 1-9ct stone and 10ct over stone is graded as 7.

 
バイア州ブレジ−ニョの紫水晶 (Amethyst from Brezinho, Bahia State)
 
 
ミナス・ジェライス州の北部からバイア州南部へ南北に300km程伸びるエスピニャーソ山脈は別名"紫水晶山脈”とも呼ばれます。
この山脈の東山麓各地に世界でも最高品質の紫水晶の崩積鉱床が散在するからです。
 中でも最も名高い産地がブレジーニョです。
この産地は先カンブリア代に大規模な地殻変動が起こって厚く堆積していた片岩層が破砕されました。
 その空隙に石英岩脈が貫入した形成された水晶脈が紫水晶となったものです。
永年の風化により紫水晶脈が露出した崩積鉱脈となったもので,15mを越えるラテライトの層の中に結晶塊が発見されます。
左の写真は4kgを越える,紫水晶としては極めて大きなものですがさらに黒味を帯びるほどの濃い色合いで最上級の評価を得ています。 
 ブレジーニョの紫水晶は加熱処理で橙色のシトリンになり,バイア・トパーズとも呼ばれます。

 Espinhaso mountains strething 300km from northern Minas Gerais States to southern Bahia States is called as "Amethyst Mountains" because of abundant veins of the best quality amethyst veins in the eastern ridges. Brezinho is the most renowned locality, where amethyst mineralization occured with the hydrothermal intrusion to the brecciated fissures of thick layered schist formed by huge scale diastrophism of Precambrian period. Hundreds of millions of years of weathring revealed the outcrop of amethyst veins to form the eluvial deposits. Amethyst crystal aggregate is discovered in 15m thick latelite sediment. Photo shows extremely huge single crystal of over 4kg with blackish deep purple, graded as the best color. Brezinho amethyst is heat treated to become orange citrine and is marketed as "Bahia topaz"

バイア州ラヴラ・ド・コショの紫水晶 (Amethyst from Lavra do Coxo, Bahia)
空洞の壁一面に結晶した紫水晶
Amethyst crystals on wall
28kgの結晶からの杯
Vase made from 28kg crystal
100ctのルース
(faceted stone of 100ct)
 ミナス・ジェライス州とバイア州は先カンブリア代の大規模な地殻変動により数百mに達する褶曲により折り曲げられ,破砕された片麻岩,雲母片岩,珪質岩等中に貫入した熱水により形成された熱水鉱床やペグマタイト脈が無数にあります。
 バイア州の州都,サルヴァドールから北西に300kmのジャコビーナ(Jacobina)近郊のラヴラ・ド・コショに紫水晶の鉱脈が発見されたのは20世紀初めです。
 数十立方mから数千立方mに達する巨大な空洞の中の壁一面を底面が乳白色で,先端が黒ずんだ,大きなものでは直径が10cmを越えるピラミッド型の結晶が覆い尽くしている様は自然の驚異としか言えません。
 その黒ずんだ深い色合いは紫水晶の中ではブレジーニョ産と並び,最上級に評価されています。

 Minas Gerais State and Bahia State lie on the area where happned the huge diastrophism in pre-cambrian period. Hydrothermal intrusions into
several hundret meters long folded and brecciated zone of schist, biotite shcist, quartzite formed numerous hydrothermal and pegmatite deposits in these area.
At Lavra do Coxo near Jacobina, 300km north-east from Salvador, Bahia State, huge amethyst veins were discovered in early 20th century.  Covering entire walls of the huge cave from several tens to several thousand square meters, are amethyst crystals with milky bottom and blackish top, attaining 10cm long with pyramid form are seen. The deep shaden is prized as the best grade.
パラ州,パウ・ダルコの紫水晶 (Amethyst from Pau d'Arco)
高品質の紫水晶
The finest amethyst
上(top)14ct
下(bottom)15ct
アマゾン地方の紫水晶の鉱床
Alluvial deposits in The Amazon
土砂のくみ上げ井戸   マラリア蚊よけの煙   ラテライト層中の結晶塊
Primitive mining using pick and shovels.
Smoke is to keep off mosquitos.

 1979年,アマゾン川の支流の支流,パウ・ダルコの村の近くでボア狩りをしていた村人たちが,岸辺近くの狭い穴に逃げ込んだボアを捕らえるために穴を拡大していた時に見事な紫水晶の結晶を掘り当てました。
これが,現在では世界でも屈指の品質を誇るパウ・ダルコの漂砂紫水晶鉱床発見の発端でした。
 パウ・ダルコはブラジリアから北におよそ1000km,ベレンから南に650km,ゴイヤス州とパラ州境を流れるアラグアイア川の岸辺にあります。
 紫水晶はアラグアイア川沿いの熱帯のジャングルのラテライト層の深さ2〜6m程の地層の中に結晶塊が発見される典型的な漂砂鉱床です。原鉱脈は,恐らく北西400km程のカラジャス山脈に由来すると考えられています。
 鉱床は広汎な範囲に広がっていると考えられますが,採掘は1.5平方kmの狭い範囲内で行われています。
紫水晶は20kgもの大きな結晶も珍しくはなく,最大では40kgにも達するものがあります。
 しかしカラーゾーンとインクルージョンのため歩留まりが低く,最終的にファセットされると平均では2カラット以下と小さくなります。
最大では50ct以上のものも得られます。
 このため宝石質のルースの産出は年間7トンと少ないのですが,1カラットの小さなルースでもカラースケールで最上の10と深い色合いが特徴で,同じく堆積鉱床のブレジーニョ産と同様に,世界で最上の紫水晶と評価されています。
 また加熱処理で色を失い,黄水晶にならない事もパウ・ダルコの紫水晶の特徴です。

 Amethyst was first discovered at Pau d'Arco during a boar hunt sometime in 1979. In their efforts to capture a boar that had escaped into a narrow burrow, the hunters started digging to widen the opening to encounter a large crystal of fine amethyst.
Pau d'Arco is a small village along the Araguaia River, a branch of the Amazon River, which runs through Goias State and Para State.
Amethyst is mined from the typical aluvial deposit of lagtelite layer in the depth of 2 to 6m in the tropical jungle of the Amazon.
It is likely that the amethyst was transported from the same mountain range in which the Maraba amethyst is found in Cerra dos Carajas mtns., locagted about 400km north-west.
 Deposit seems to be in wide area along the river, but currently(1988), amethyst is mined within narrow area of 1.5km2 and the production of rough is about 7000kg a year at 1985-86. The crystals are unusally large:20kg pieces are not uncommon and crystals as large as 40kg have been found. However, because of color-zoning and inclusions, most of facetted stones are less than 2ct when finished, although larger stones over 50ct have been cut. The best Pau d'Arco amethyst rivals the finest African amethyst in intensity and saturation. Amethyst of Pau d'Arco never turns to citrine by heat treatment.


パラ州,アルト・ボニートの紫水晶 (Amethyst from Alto Bonito, Para State)
 
やや淡色の紫水晶
Amethyst from Alto Bonito
最大のルース(biggest stone) 28ct
白と褐色の珪質岩中の鉱山
Alto Bonito amethyst mine
near Maraba
地下200mの紫水晶脈
Veins of amethyst line in tunnel
of 200m depth from surface

パウ・ダルコから北に250km,アラグアイア川沿いの交通の要所であるマラバ(Maraba)の町があります。
 マラバから西に130km程イタカユナス川を遡ると1981年に発見されたアルト・ボニート鉱山があります。 
 この一帯は豊かな鉱物資源が埋蔵されるカラジャス山脈に属しています。 
1970年に発見された驚異のセーラ・ぺラーダ金鉱床も同じ地域にあります。 
 紫水晶もこの一帯が現在ブラジルで最大の生産地で,一般にマラバの紫水晶と称されています。
 この一帯は17億〜20億年昔,古生代初期の古い地層で,変成作用を受けた硬い珪質岩と溶岩流との堆積岩が巨大な褶曲と破砕作用を受けて形成された無数の割れ目と空洞に紫水晶が発見されます。
 採掘は何層にも分かれた縦坑をはしごを伝って果てしなく降りると突然1000立方mを超える巨大な空洞があり,その壁に紫水晶の結晶が列をなしています。
 紫水晶は最大では重さが15kg,長さが50cmにも達し,やや淡色ですが,見事な結晶標本も多数採れることで知られています。
やや淡色ですが大きく透明度が高く,均一に着色した結晶が多いので宝石用の歩留まりが13%強と歩留まりが高く,その他ビーズや彫刻用等とで80%近く採れるため,ブラジル最大の紫水晶の生産地となっているわけです。


 Approximately 450km south of Belem, lies the municipality and town of Maraba. Although the most productive occurrence of facetting grade amethyst being mined in Brazil today is that of Alto Bonito, all of the material from this general region is commonly refered to by the name Maraba. Alto Bonito lies within the broad Carajas mineral province, which also includes the famous Serra Pelada gold deposits. The amethyst occurs in a series of sedimentary and extrusive volcanic rocks of lower Proteozoic age(approximately 1.7 to 2 billion years old). Specifically, it is distributed irregularly in veins and cavities in highly fractured and folded layers of quartzite, a tough, siliceous, metamorphosed sedimentary rock.
The Alto Bonito deposit was discovered in 1981. Today amethyst is mined through pit and tunnel reaching to 200m of depth through several stages. Amethyst crystals often weighs 15kg and 50cm long. Colo is relatively pale but famous for excellent crystal specimen.
Because of big, transparent and evenly colored crystals, 13% are facettable grade and 63% are carving grade. Monthly production of rough crystals at 1985 was 6000kg.

 

    合成紫水晶 (Synthetic amethyst)

   

合成紫水晶 80x50x27mm 124g
Synthetic amethyst crystal
 
 Russia 
合成紫水晶 12x10mm
Synthetic amethyst
 
China
合成紫水晶
19.6ct 21x17x9mm   6.84ct
Ø12.0x8.0mm
Synthetic amethyst
ロシア(Russia)
  上 天然の紫水晶 9.4ct
(top)natural amethyst 
  下 合成紫水晶  5.5ct

(bottom) synthetic amethyst
上 天然のブラジル式双晶
natural brazilian twin
下 合成の単結晶
synthetic mono crystal
 
  水晶の合成は既に19世紀半ばには実験的に行われました。
19世紀末から20世紀初頭には熱水法による合成法の研究がイタリア,トリノ大学の鉱物学者スペッツィアによって行われました。
 その後各国で合成水晶の量産技術の研究が進められ,第二次世界大戦中に,とりわけ通信用に大量の水晶単結晶を必要としたアメリカが精力的な研究によって,1950年ごろには量産技術が確立されました。
 戦後はとくにアメリカ,ソ連邦と日本が主な合成水晶の生産国となりましたが,1980年代からは中国も参入して来ました。

 Quartz was experimentary synthesized in the middle of 19th century. During end of 19th to early 20th century, hydrothermal method synthesis was studied by Italian, Spezzia, Professor of Mineralogy at Torino University. During the 2nd world war, U.S.A. has extended the research for communication purpose and have succeeded to establish the mass production technology. After the 2nd world war, U.S.A., Russia and Japan became the leading producer of synthetic quartz, followed by China since 1980s.


 何故水晶が紫色になるのか、長い間の謎でした。
試験的には1940年代末から1950年代にかけて,偶然放射線を照射されて合成水晶が紫色になったことが報告されています。
 しかし,当事の研究者は,発色の原因はマンガンの不純物によるためと考えてそれ以上追求しなかったようです。
 1960年代になり,理由が未解明ではありましたが,ソ連で鉄を含む合成水晶に放射線照射によって紫水晶が出来ると確認されました。
 その仕組みが解明されたのは前述のように1970年代に入ってからのことでした。
 発色の仕組みの解明と,大型の紫水晶の製造法の研究が進んだ1980年頃から,合成紫水晶が大量に市場に出まわるようになり,大きな問題となりました。
 ブラジル市場に出まわる天然の紫水晶の10%以上が,パーセルによっては25%もの合成水晶が混入している事が判明したためです。


 The mechnism of pur@ple color of amethyst has been unknown. From end 1940 to 1950, it has been reported that accidentaly irradiated quartz turned to purple. However, researcher considered the color due to manganese impurity and did not trace the mechanism further.
In 1960s, although coloring mechanism was not certain, it was confirmed that synthetic quartz with iron impurity turned to purple by irradiation, in Russia. It took another 10 year that the mechanism was revealed clearly. Since around 1980, synthetic amethyst has begun to flood into the market to raise a serious trouble for gem industry. More than 10%, 25% in some purcel of Brazilian natural amethysts have been found mixed with synthetics.
天然と合成の識別 (Identification of synthetic from natural amethyst)
  このため,天然と合成とを識別する事が急務となり,世界の宝石学者や鉱物学者がその研究に没頭しました。
 しかし合成水晶はもともと天然の水晶を材料として使い(天然ですから当然不純物の鉄が含まれている),天然と同じ条件の熱水中で時間をかけて合成したものに放射線を照射すれば出来るわけで,殆ど違いがありません。
 天然の結晶は一般に内部に様々なインクルージョン等,結晶成長の痕跡を残しています。
一方合成水晶は電子部品として使われるために,材料を精製して精密に温度や圧力を調整して成長させるため,大変きれいな結晶となります。
 したがって10倍のルーペで調べれば,インクルージョンの有無によって識別は可能となります。
けれども,天然でも最上級のルースは結晶のきれいな部分だけを選んでカットしますから,高級な天然品ほど合成品と識別が困難になります。

 
It was urgent need to separate synthetic from natural amethist for gemologists. However it was quite difficult to separate them, because amethyst is synthesized, using natural quartz as low material under the same hydrothermal condition. The separation is particulary difficult in comparison of the highest quality natural one, which resembles laboratory quality synthetics.
  合成水晶は電子部品として発振素子を得るために作られます。
したがって天然には少ない単結晶であり,結晶形も成長を早めるために天然にはない平板状になるという特徴があります。
 もっとも、結晶の形状はカットされてしまえば分かりません。
 しかし,天然の水晶は殆どが双晶で,とりわけ紫水晶にはブラジル式双晶が大半である事から,カットされた石でも偏光下で見ると結晶の特徴が現れるという事で,もっと有力な,恐らく唯一の識別法が,1986年,GIA(アメリカ宝石学協会)の宝石研究所長Robert Crowningshieldとハーヴァード大学の鉱物学名誉教授,Cornelius Hurlbutとの共同研究が発表されました。
 写真のようにブラジル式双晶の天然のルースと単結晶の合成水晶のルースでは偏光下で見たときに歴然とした違いがあります。
偏光フィルターで見るだけで大量のルースを簡単に識別できますから,これで事態は一見落着するかと思われました。


 Synthetic quartz is a single crystal, while most of natural quartz is twinned. In 1986, Robert Crowningshield of GIA and Cornelius Hurlbut, Professor of mineralogy at Harvard Univwersity announced this simple and definitive solution to separate synthetic from natural amethyst.
 ところが,1990年頃から中国やロシアにてブラジル式双晶による合成紫水晶を作り出すようになり,事態は再び紛糾しました。
 成長時間や条件が異なるため,合成の双晶が天然と全く同じ特徴を示すとは限りません。
したがって熟練した専門家が精密な検査を行えば天然か合成かの識別が出来る場合があります。
 アメリカの「Gems & Gemology誌 Summer 2004」に合成水晶では世界の先端を行くロシアのバリツキー等の専門家たちによる16ページに及ぶ長大な論文が掲載されました。
 主に3543cm−1の波長の赤外線吸収特性による天然と合成の紫水晶の識別を検討したものです。
結果は合成に用いる水溶液や結晶面の方向により合成と識別できる事もある。
 しかし
異なる水溶液や、天然の産地にも同様の吸収特性が見られるために確実な断定は不可能と、改めて天然と合成との識別が困難であることを認識させられました。

 However, since 1990, China and Russia started to synthesize Brazilian twin amethyst to cancel the separation by polarized filtor.
Strictly speaking, because of the crystalization conditions and duration, synthetic amethyst does not show the same characteristics as natural one. Therefore it is not impossible to separate synthetics from natural one, when carefully studied by specialist.
In "Gems and Gemology Summer 2004" appeared a long 16 pages of article by Russian specialists in gemology and mineralogy, such as Baritsky et.al;「 The 3543cm-1 Infrared Absorption Band in Natural and Synthetic Amethyst and Its Value in Identification」The conclusion is that some synthetic ametyst can be identified, depending on its solution and direction of crystalization etc. However, they are not the definitive characteristic, because they are seen in some synthetic of different solution or some natural amethyst.
 天然であれ,合成であれ,その美しさにも拘わらず大量に産出する紫水晶は非常に安価な宝石です。
天然の紫水晶は普及品ではカラット当たり1ドルから10ドル程度、10カラットを越える大きさの最上級品でもカラット当たりの値段は60ドルを超えません。
熟練した専門家が手間暇かけて鑑別していたのでは,その費用の方が石そのものより高くなってしまいます。
 かくして,現在の宝石市場にはかなりの量の合成紫水晶が天然に混入して流通していると考えられます。
 前述のように合成とは言え,天然の最上級品と全く同じ,本物には違いありませんから,美しい紫水晶が手頃な値段で入手できればこれに越した事はないと割り切るのが一番かもしれません。
 しかし,高価な紫水晶の宝飾品を買い求める場合は素性の知れた信用の出来る店を選ぶべきでしょう。
間違っても香港,タイ,その他の国の怪しげな店,ディスカウント店,アウトレット店などで高額な品を買わない事です。

 The fundamental problem of amethyst is whatever they are ; natural or synthetics, they are so cheap despite their noble color. 
It does not worth to pay for expensive identification by specialist.
So far, we are certian that considerable perdentage of synthetic amethyst are mixed in natural amethyst in gem industry. We had better accept beautiful amethyst at affordable price, whatever they might be natural or synthetic.


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