紅柱石

藍晶石

珪線石
Andalusite
Kyanite (Cyanite)
Sillimanite


紅柱石(Andalusite)
Brazil
藍晶石(Kyanite)
Tibet
珪線石(Sillimanite)
Srilanka


宝石質の紅柱石結晶 28mm
(Gem Andalusite) 

Araçuay, Minas Gerais, Brazil
藍晶石(Kyanite) 80mm
Zimbabwe
珪線石 (Sillimanite)
Srilanka 

 

  紅柱石
(Andalusite)
藍晶石
(Kyanite/Cyanite)
珪線石
(Sillimanite)
結晶系
(Crystal System)
直方晶系
(Orthorhombic)
三斜晶系
(Triclinic)
直方晶系
(Orthorhombic)
化学組成
(Composition)
Al2SiO5
モース硬度
(Hardness)
7 ½ 4½ - 7½ 6 - 7
比重
(Density)
3.13-21 3.56-68 3.22-26
屈折率
(Refractive Index)
1.628-647 1.712-735 1.659-680
結晶形
(Crystal Form)

 

 紅柱石、藍晶石と珪線石とは実はAl2SiO5と、化学組成は同じですが、上記の一覧表のように特性や姿が異なります。
その理由は左の図に示す様に生成条件が異なるためです : 紅柱石は高温,低圧で、藍晶石は低温,高圧で、そして珪線石は高温にてと、全く同じ化学組成の物質が生成条件によって異なる鉱物(同質異像と呼ばれます)に生まれ変わります。
 このような例は他にもモース硬度が10と最も高いダイアモンドと硬度1の最も低い黒鉛という極端に特性の異なる鉱物が実は同じ炭素の結晶であるという事実に見られるように自然界には珍しくはありません。
 別途、宝石読本にて説明しましたが、ルビーとサファイアとがAl2O3(酸化アルミニウム)というありふれた成分にも拘らず鉱物としてはむしろ稀な存在となるのは、地殻に豊富に存在する珪酸分と結びついて、この三つの鉱物のいずれかになってしまうためです。
 この三つの鉱物はそんな訳で、地球上の広域変成地帯に広く分布しており、紅柱石はブラジルやスリランカではペグマタイト脈に宝石級の結晶を産出します。
 日本では糸魚川静岡構造線から西へ紀伊半島と四国を横断して九州にまで伸びる三波川変成岩地帯に藍晶石が含まれています。
 これによって三波川変成岩が200〜300℃の温度と30kmの深さで出来たと推定出来る有力な証拠となります。
 因みにこの三波川変成帯と中央構造線を挟んで北側に平行する領家変成帯には紅柱石が含まれていて,そちらは高温,低圧の条件であったと推定されています。 

 

          
                   
紅柱石(Andalusite)

               
   
                   世界の紅柱石 (World's Andalucite) 0.05 - 4.30ct


紅柱石結晶 10.2x8.3x5.5cm
福島県石川郡玉川村
結晶軸の方向により色違いを見せる紅柱石結晶 21mm
Brazil

3.01ct   12.73x7.7mm
Brazil
1.6ct 10.9x5.2mm 1.71ct 11.5x5.2mm
Brazil
1.65ct 7.9x6.4mm
Brazil
1.21ct 7.8x7.5mm
Brazil

1.16ct 8.0x5.7mm
Brazil
1.21ct
5.9x5.8mm
1.21ct
6.0x5.6mm 
0.74ct 6.2x5.2mm
Brazil
緑のヴィリディン 0.05ct Ø2.75mm
Bahia Brazil
1.36ct 10.96x6.20mm
Srilanka
 Brazil

                             
                     4.30ct 12,8x7.6x6.4mm  0.48ct 6.48x3.20mm  0.54ct
7.6x3.81mm
0.59ct
6.96x4.22mm
 
0.50ct
5.93x3.97mm 
   
                     Brazil  India  Africa    

 アンダルーサイトの名は19世紀末に最初に発見されたスペインのアンダルシアに因みます。
紅柱石の和名は、赤みを帯びた柱状の形状による命名です。
 世界の変成岩地帯やペグマタイトに広範に発見される鉱物ではありますが、たとえ標本級であっても見事な結晶は極めて稀にしか発見されません。
 かつて福島県石川郡玉川村のペグマタイトでは10cmを超える放射状の世界的な美晶を産したものです。 
まして宝石質の結晶となるとブラジル、ミナス・ジェライス州のアラスアイが唯一の産地といっても過言ではありません。
 写真の小さな結晶は最近ようやく遭遇した貴重な宝石質の結晶標本です。 
 結晶軸の方向により緑褐色、朱色と多色性を示し、一見アレクサンドライトのような色変わりを思わせるため、時折宝石店で見かけることがあります。が、値段は数十分の一です。
 この多色性は二価の鉄イオンと四価のチタンイオンとが酸素原子を介して電荷をやり取りする電荷移動という仕組みで起こりますが、紅柱石の結晶軸の方向によって光の波長の吸収が異なるため、緑と朱色との顕著な二色性が起こります。
 宝石質の大きな石は非常に稀で、ルースは1カラット未満が殆どです。
その大半はブラジル産ですが、稀にスリランカ産にも遭遇します。 

ブラジルのバイア州からは三価のマンガンイオンの八面体配位による光の吸収で濃緑色に発色するヴィリディン(Viridine)と呼ばれる変種を産します。
 この名はラテン語の ” Viridem : 緑 ” に因みますが、宝石質の結晶は 極めて稀な上に 0.1 カラット未満の小さな石が殆どです。
       
        藍晶石(Kyanite・Cyanite)

                         
 
                           世界の藍晶石 (Kyanite) 0.5 - 9.86ct


 
紅柱石を伴う藍晶石
20cm 北海道大学博物館
Nepal
130x50x30mm
Brazil
50x45x20mm 結晶面と方向により
モース硬度が異なる
Pizzo Forno Swiss

 
  8.57ct 13.54x10.60mm 9.49ct 16.34x10.23mm  7.16ct 11.42x9.72mm 3.45ct 2.20ct 8.95x6.41mm 3.40ct 12.5x7.8x4.8mm
  Tibet Bahia, Brazil Brazil

3.62ct 9.85x6.44mm 3.45ct 11.39x7.83mm 3.24ct 10.14x6.92ct 1.87ct 8.8x6.7mm 3.02ct 8.9x7.0mm 1.17ct 8.9x7.0mm
Nepal Orissa, India Loriondo, Tanzania
           
 6.25ct 15.1x9.1mm 0.92ct 7.1x5.0mm   28x3mm   18x3mm   0.90ct 7.11x5.12mm  1.54ct 8.0x6.0mm
Nepal  Tanzania 
   
      
 1.62ct 8.37x6.37mm   1.22ct 7.9x5.9mm  3.24ct 10.14x6.92mm  4.40ct
23.03x5.69x3.42mm
 3.55ct
18.29x6.53x3.18mm
 3.35ct 14.16x7.02x3.66mm
 Nepal India 
       
       
 9,86ct 34,2x6,9x4.1mm  3.35ct 21.0x6.4x2.6mm 1.56ct 8.1x6.1x4.7mm  0.5ct Ø4.97x2.85mm  
 Madagascar  
   

 
石英中の藍晶石  22x21x12cm  Minas Gerais, Brazil

  藍晶石の名は澄んだ藍色の結晶から。 英名もギリシア語の ”Kyanos : 暗い青 ” に因みます。
 ラテン系の言葉では K が C に変わるので Cyanite となります。 青を意味するシアンも同じ語源です。
青い色はサファイアと同じ、不純物として含まれる鉄とチタンとがイオンを交換し合う電荷移動に因る発色です。
 したがって、内包物が少なく、透明度が高い藍晶石は最上級のサファイアに匹敵する美しい色合いを示します。
 青く透明度の高い宝石質の結晶がブラジルなど世界各地のペグマタイトで採れますが、結晶はいずれも薄い平板状で
亀裂や包有物が多く、かつては、稀に小さく淡青色のルースがカットされるのみでした。
 ところが2000年頃からチベット産で時に10カラットを超える大きく上質のサファイアのような濃青色のルースが出現しました。
 続いてネパールやインドのオリッサ州からも宝石質の大きく美しいルースが登場しました。
 写真のルースはいずれも色むらや包有物がありますが、これらはカラット当り10ドル程度の普及品のため。
最上級のサファイアを偲ばせる均一な濃青色となるとカラット当り100ドルと高価になりますが、しかし天文学的な価格水準となった
カシミールサファイアを偲ばせると思えば究極のバーゲンと言えるかもしれません。
 さらに2001年に、タンザニアのロリオンドで橙色の藍晶石が発見されました。
この色は三価のマンガンイオンによるカラーセンター(発色中心)によると解明されました。
 亀裂が多いため、殆ど不透明なのが残念ですが、珍しい色合いのためにカラット当り200ドルを超える高値です。

珪線石(Sillimanite)



         
 
           世界の珪線石 (Sillimanite) 0.28 - 13.66ct

 シリマナイトの名はアメリカの鉱物学者 Benjamin Silliman (1779 - 1824)に因みます。 
 しばしば繊維状で発見されるためフィブロライト(Fibrolite)とも呼ばれます。
 和名はこの産状に因んだものでしょう。
 珪酸アルミニウムというありふれた成分が高温の変成作用で生成する鉱物ですから地球上の至る所で発見されます。
 しかし宝石質の結晶は極めて稀にしか発見されません。
 シリマナイトには様々な色合いがあり、1980年頃には、その発色の仕組みが解明されました ;
 
   :  藍晶石の青と同じく、二価の鉄イオンと四価のチタンイオンとが酸素原子を介して電子を交換する電荷移動
 黄(金)色  :  三価の鉄、あるいは三価のクロムの四面体配位
 茶色  :  黄色の発色に加えて、豊富な鉄分の不純物の影響
 かつてはスリランカの水磨礫からカットされたルースが大半でしたが、近年はインドのオリッサ州やビルマ産も時折姿を見せます。
 近年、タンザニアからも1カラット未満と小さいながら、透明度の高い、金色のルースが姿を見せるようになりました。
これはスリランカ産と全く同じ色合いと透明度の高さがあって,見分けが付きません。
 とはいえ極めて稀産の宝石であることに変わりはありません。
 地味ではありますが、なかなか美しいたたずまいを見せる宝石です。
 繊維状で産出することからカボションに磨くとキャッツ・アイ効果を示します。
 写真のように高価なクリソベリルやアレクサンドライト・キャッツ・アイと比べて見劣りしませんが、知名度が低いせいでしょう、価格はカラットあたり数百円程度と手頃です。 
 バブル時代には、単にキャッツ・アイとしてカラット当り10万円もの値段で売られていたこともありました。

 
1.29ct 9.8x7.2mm 1.77ct 8.5x7.1mm 1.81ct 8.2x8.1mm 0.28ct 5.4x5.omm 1.11ct 7.8x5.5mm 0.94ct 7.5x5.4mm
Srilanka 
.
               
         5.26ct 13.2x6.0mm9.0x  2.00ct 9.7x7.8x3.7mm  1.1ct 7.7x5.6x3.7mm  
        Srilanka   


     
宝石質結晶
18x9x4mm 
2,68ct 9.8x5.8mm 4.38ct     4.67ct
10.1x8.3mm   11.9x9.1mm
13.66ct Ø14.0x7.9mm 6.47ct 14.3x8.5mm  3.50ct  10.3x8.9x6.0mm
 Mogok Burma Srilanka India Orissa, India 

   
   0.71ct (6.8x4.8mm) - 0.96ct(7.1x5.0mm)
Tanzania