灰鉄柘榴石(Andradite Garnet)

アンドラダイトとメラナイト(Andradite and Melanite)

 

デマントイド
 1.02ct 6.9x5.8mm 
Ural Mtns. Russia
淡緑色のデマントイドルースと宝石質結晶
 1.32ct 7.2x6.8mm 8.0x7.3mm
Cava Sferlun Val Malenco,
Italia
強い光の分散効果を示す結晶
 
Val Malenco Italia

 

アンドラダイト 結晶 5mm
Corna Rossa Val Malenco
Italia
 アンドラダイト結晶 幅 4cm
0.39ct 3.9x3.7mm アンドラダイト   3.7cm
Miami Mine、 Zimbabwe
Photo Courtsey : Trinity Mineral
奈良県吉野郡天川村 川迫鉱山

 

無色のアンドラダイト 結晶 3mm
Banat Rumania
アンドラダイト 結晶の大きさ 1cm
 
Pampa Blanca 
Castravirenya, Peru

Photo Courtsey :
Arkenstone
母岩中のデマントイド結晶 1cm
Erongo Mtn. Namibia

 

蛇紋岩上のデマトイド3〜4mm 
San Benito U.S.A.
蛇紋岩中のデマントイド結晶 1cm
Val Malenco Italia
デマントイド 最大の結晶 1cm
埼玉県秩父郡大滝村中津川

 

虹色の干渉色を見せるアンドラダイト (Andradite, showing rainbow color)
低品質のオパールと思われた
ガーネット 17.2x13.6mm
虹色の干渉を示す結晶 カットされた結晶 2.4ct
採掘光景 虹色の干渉色を示す表面の拡大
Near Hermosillo, Sonora, Mexico


化学組成 結晶系 モース硬度 比重 屈折率 分散
Ca3Fe2(SiO4)3 等軸晶系 6½-7 3.84 ±0.03 1.875 ± 0.020 0.057

 灰鉄柘榴石(アンドラダイト・ガーネット)は典型的な接触変成作用で出来る、カルシウム分(灰)と鉄分の珪酸塩から成るガーネットです。
この名前はブラジルの鉱物学者、詩人、そしてブラジルのポルトガルからの独立を果たした政治家でもあった Jose B. Andrada e Silva (1765‐1838)に因みます。
 純粋なアンドラダイトは無色ですが,普通は鉄分により淡緑、淡黄緑, 褐色(トパゾライト)褐色をしています。
 稀にクロムを含むエメラルド・グリーンの種類はアンドラダイトとしては稀な宝石質の結晶として発見されることがあり、デマントイドと呼ばれます。
 これはオランダ語やイタリア語で "ダイアモンドのような” を意味しますが、強い煌きとダイアモンドを凌ぐ光の分散を見せる事から名付けられました。
 しかし緑色に隠されて、ダイアモンドにも勝る虹色のファイアーを見る事は出来ませんが、深いエメラルド・グリーンの色合いだけでも充分魅力があります。  
 アンドラダイトはガーネットの中では最もモース硬度が低いのですが、逆に屈折率は最も高く、冒頭の写真のように強い煌きと光の分散をみせます。


 
アンドラダイトの産地

 アンドラダイトは産地も少なく、量も多くはありませんから柘榴石としては珍しい部類に属します。
宝石質のデマントイドは、かつてはロシアのウラル山脈に僅かに産したのみで、柘榴石の中だけではなく、あらゆる宝石の中で最も稀少で高価な種類でした。 ごく最近の事ですが、ウラル山脈で新たな鉱脈が発見されました。その他ナミビア、アフガニスタン、イラン、カナダからも宝石質の結晶の産地が報告されるようになりましたが,依然として稀少な柘榴石である事に変わりはありません。

 アルプスのイタリア側、マレンコ渓谷産のアンドラダイトは一般にデマントイドとされています。
実際、チェルシー・フィルターを通すとうっすらと赤く反応するので,微量のクロムを含んでいる事が分かります。

 アメリカ、カリフォルニアのサン・ベニト郡からも1949年に漂砂鉱床と初生鉱脈とが発見され、ごく少量ですが透明で小さな結晶が採れます。
 産地は長い間秘密とされていましたが,1999年になり、ようやく有名なベニト石の鉱山の北西12kmの地点であると公表されました。 全部で10ヶ所程の鉱脈があり、世界で唯一キャッツ・アイ・アンドラダイトも産出します。
 その他アメリカ,アリゾナ州の Stanley Butte は宝石質ではありませんが,茶色がかった緑色のアンドラダイトの結晶が知られていました。 
 そのStanley Butte から17km程離れたSan Carlosで1996年に宝石質のアンドラダイトの鉱脈が発見されました。
San Carlos はアパッチ族の居留地でペリドットの産地として有名です。 
 アンドラダイトは玄武岩の溶岩流と石灰岩質の基底岩との接触地帯のおよそ40平方kmに広がる層に発見されるとの事です。
 中国の新彊ウィグル自治区のアルタイ山地からも蛇紋石化した角閃石ー橄欖石中にクロムスピネルや石綿と共にアンドラダイトが発見されています。
 平均の直径は3mm程度と小さいながら、ヒスイ緑や黄緑色の宝石質の結晶との事です。
 1965年頃のローデシア(現在のジンバブエ)Miami 鉱山からは最大で 8cmに達する完璧な24面体と20面体の結晶を産出しました。 柘榴石のこれほど大きく完璧な結晶は空前絶後と言って良いでしょう。
 ルーマニアのBanatでは純度が高く無色の結晶が採れました。
  

虹色の干渉色を示すアンドラダイト( Rainbow Andradite)


メキシコ

 メキシコからは特異な ”レインボー”または”イリディセント(虹色)”効果を示すアンドラダイトが報告されています。
アメリカのアリゾナ州と国境を接するメキシコ、ソノラ州のエルモシージョの北西145kmにある方解石鉱山から発見されたオパールのようなガーネットです。
 この鉱物が最初に発見されたのは1954に遡りますが、当初はスフェーンかラブラドーライト,スペクトロライト,あるいは品質の悪いオパールと考えられて注目を集めることはありませんでした。
 しかし細々と採掘されていた原石からセットされた冒頭のブラック・オパールのような指輪が1985年のツーソン・フェアに出品されました。
 この指輪は盗難に逢い1987年に香港に姿を現わしアメリカ人によって買い取られ、鑑別のためにGIAの研究所に持ちこまれました。
 詳細な分析の結果,これが珍しい虹色の効果を示すアンドラダイト・ガーネットの変種であるとGems & Gemology誌,1987年秋号のGem News欄に取り上げられ脚光を浴びることになりました。
 このガーネットを産するのは接触変成作用を受けたスカルン鉱床で、赤鉄鉱,方解石、水晶、緑簾石を含む磁鉄鉱と共にアンドラダイトが発見されます。
 オパールのような効果を示すのは結晶の表面が何層もの薄膜構造になっているために光の干渉により虹色に見えるためです。
このような構造はガーネットの結晶が生成された後に熱水による融蝕作用を繰り返して受けたためと考えられています。
 メキシコのエルモシージョ産のガーネットは1トンの岩石から2、3個のかけらが発見される程度で稀にしか発見されません。 したがって鉱物フェアでも滅多に遭遇することはなく、大変高価なものです。 
 

アメリカ・ニュー・メキシコ州でのレインボー・ガーネットの発見


San Pedro Mtn. New Mexico, U.S.A.

 メキシコでの発見後、2004年にアメリカ・ニューメキシコ州、サン・ペドロ山にある古い金鉱付近で宝石質のレインボー・ガーネットが発見されました。
 地元の鉱物愛好会の鉱物採集ツアーに参加したコレクターが、何と鉱山の駐車場の敷石から発見したとのこと。
 閉山になった金鉱の廃石が主に柘榴石を含むために、紙やすりの原料用として検討されたものの、低品質なので放棄され、それが駐車場の整備用にばら撒かれていたとのこと。
 何処で掘られた廃石なのか、懸命の追跡にも拘らず、結局分からず、最初に得られたごく少量のみがコレクターの手に残っただけでした。

日本のレインボー・ガーネット

8.90ct 12.0x10.5x4.6mm 4.91ct 11.8x7.4x4.1mm
奈良県 吉野 天川村 川迫鉱山(Tenkawa village, Yohino, Nara, Japan)
 
  無数のスカルン鉱床がある日本は知る人ぞ知るアンドラダイトやベスブ石の有数の産地です。
 宝石質ではありませんが、レインボー・ガーネットもかつて埼玉県秩父地方、大滝村の磁鉄鉱の鉱山跡から1cm程の結晶を産しました。
 奈良県の川迫(こうせ)鉱山から見事なアンドラダイト結晶が採れました。
鉱床の周辺部にほとんどアンドラダイトだけからなるスカルン帯を形成していたとの事です。
 冒頭2段目の写真の結晶も母岩そのものがアンドラダイトの塊で、その上部が発達した結晶面を見せています。
 0.39ctのルースは奈良県産としか分かりませんが、ほぼ川迫鉱山産に間違いないでしょう。
 小さいながら、カット可能な宝石質の透明なアンドラダイト・ガーネットの結晶を産出した記念碑的な標本です。

 2004年にこの川迫鉱山付近で宝石質のレインボー・ガーネットが発見されました。
鉱物コレクターが転石を追跡して鉱脈の露頭を掘り当てたのです。
 相当数の鉱物標本やカットされたルースが市場に出回り、新聞のニュースやアメリカの宝石学会誌、”Gems & Gemology Winter 2006" に10ページのレポートが掲載される程の話題となりました。
 詳細は別途 ”奈良・天川村のレインボー・ガーネット”を参照ください。 

メラナイト(Melanite)



メラナイト 幅 4cm
 
 メラナイト 7x4cm  メラナイト 9mm 
  
Rocca Castellaccio 
Kovdor Siberia, Russia Alicante, Spain Val Malenco, Italia
 
  メラナイトは主成分である鉄の一部がチタンに置き換えられた漆黒のアンドラダイトです。
 
   黒いガーネットとはおよそ宝石とは縁遠い存在のように思われますが、メラナイトがかつて宝飾品として用いられた事があります。
19世紀イギリスのヴィクトリア朝時代の後期には死者を悼むモーニング・ジュエリー(朝: morning ではなく 悼む:moarningです、念のため)が大流行しました。
 大半はジェット(黒玉)と呼ばれる一種の褐炭を加工したものや、故人の髪の毛をロケットに入れたりしたものですが、漆黒のメラナイトもまた素材として注目されたのです。
 かつては葬儀用でしかなかったモーニング・ジュエリーでしたが、現在は意外と宝石店で見かけるようになりました。ジェットに加えて黒いダイアモンド等を使った宝飾品の新鮮な色使いが注目されているとのこと
 左の写真は1860年頃のヴィクトリア時代のジェットの装飾品の数々


 メラナイトと見た目はそっくりですが、化学組成式の2番目を構成する鉄の部分だけではなく、珪酸基のシリコンの一部もチタンに置き換えられた変種のガーネットがあります。
 黒いナトリウム電気石(ショール)に似ているためショーロマイト(Schorlomite:Ca3(Fe,Ti)2(Si,Fe)3O12:チタン柘榴石)と呼ばれます。 
 実はカナダの Ice River、アメリカ、アーカンソー州の Magnet Cove、シベリアの Kovdor 等、メラナイトの産地ではショーロマイトも共に産する例が少なくありません。 
 その上、メラナイトとショーロマイトとは固溶体として産出することも多く、識別するのは肉眼ではもちろん、モース硬度や屈折率、比重等々の古典的な方法では不可能で、精密な質量や構造分析が必要となります。
 恐らく写真のメラナイトにもショーロマイトが混在しているかも知れません。