硬石膏(Anhydrite)

2.11ct 7.5x7.1mm
Simplon Tunnel, Swiss
1.30ct 7.4x6.0mm
Bancroft, Ontario, Canada
硬石膏(Anhydrite)10x4x4cm
秋田県小坂町鉛山鉱山 
(Namariyama Mine, Akita, Japan)
硬石膏 (Anhydrite) 15x7.5cm
Naica, Mexico


化学組成
(Composition)
結晶系
(Crystal system)
結晶形
(Crystal form)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
硬石膏
(Anhydrite)
CaSO4 直方晶系
(Orthorhombic)
 3 - 31/2 2.98 1.567 - 618
石膏
(Gypsum)
CaSO4・2H2O 単斜晶系
(Monoclinic)
2  2.30−37   1.519 - 530

名前と産状

   含水硫酸カルシウムの石膏に対して、同じ硫酸カルシウムでも水を含まないために、1803年にドイツのヴェルナー (Werner) によって、ギリシア語で ”an-hudros : 水の無い” を意味する石と命名されました。
 普通の石膏よりは硬いので硬石膏の和名が付けられましたが、化学薬品なら無水石膏と呼ばれたことでしょう。
 硬石膏は多様な成因があると考えられています ; 一つは海水が蒸発した後の堆積岩中に岩塩と共に層を成す。
 次に石膏が変化したもの、石灰岩、苦灰岩が熱水と反応して硬石膏に変わったもの、火山性等々、多様な産状で世界中至る所に発見され、建築用の石膏ボードやセメント、肥料、硫酸等々、広範な工業用の原料になります。
 その他、様々な不純物等で美しい色合いや半透明の硬石膏は工芸品や装飾品として加工されます。
稀に透明な結晶はコレクター向けにカットされることがあります。
 

日本の硬石膏
地球深部探査船 ”ちきゅう”
全長 210m 5万6000トン
 ”ちきゅう”が掘削調査した沖縄トラフにある熱水噴出口”伊平屋北熱水フィールド
コア中の黒鉱
 日本では北陸、東北地方の日本海沿岸に多い黒鉱型の鉛、亜鉛、銅鉱床に熱水の沈殿作用で石膏と共に発見されます。
 黒鉱とは、深海で発見されるブラックスモーカー(金、銀、銅、鉄、鉛、亜鉛等が溶け込んで主に硫化水素等からなる熱水が黒い煙のように噴出しているもの)が冷えて沈殿して出来た鉱床です。
 2010年の9月から沖縄北西部、伊平屋北熱水域にて日本の地球深部探査船が深海底1000−2000mを掘削中に、かつて東北地方各地にあった黒鉱鉱山を上回る巨大な黒鉱鉱床が発見されました。
 
スイスの硬石膏

2.11ct 7.5x7.1mm
5.5cm
Clara & Steve Smale Collection
3.4x2x2cm
Simplon Tunnel, Swiss St. Goddhard Tunnel, Swiss
  スイスではアルプス造山活動で出来た変成岩の割れ目に侵入した熱水により宝石質の紫色の硬石膏の結晶が発見されます。この紫色は自然の放射線による発色と考えられます。
 写真のルースは19世紀末から20世紀初頭にかけて掘削されたスイスとイタリアとを結ぶ20kmのシンプロン鉄道トンネルの掘削中に発見された結晶からカットされたものです。
 写真中央がその工事中に発見された宝石質の結晶です。
この結晶は発見以来100年余り、世界の博物館やコレクターの手を転々として数々の雑誌や鉱物事典を飾って来た、硬石膏としては最も有名な結晶です。
 現在の所有者、Steve Smale は世界的な鉱物結晶のコレクターであり、そのコレクションは、Mineralogical Record 誌の毎号に一面、素晴らしい写真で見ることができます。 と同時に、本名 Stephen Smale (1930 〜) は数学の世紀の難問の一つ、ポアンカレ予想を5次元での条件ではありますが、1960年に世界で最初に証明して、数学界のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞した、数学の天才でもあります。
 ついでながら、このスメールのコレクションを遥かに凌ぐ、世界で有数の鉱物結晶のコレクションをイタリアのピサに持つ Adalberto Giazotto ( アダルベルト・ジャゾット : 1940 - 2017) も本業は物理学者で、イタリアとフランスがピサに作った重力波望遠鏡、”VIRGO” の反射鏡を設計して、このプロジェクトの代表者として活躍し、エンリコ・フェルミ賞を受賞した、その人なのです。
 2010年10月に貫通したゴットハルト峠 を通る世界最長の鉄道トンネル(NEAT:Neue Eisenbahn-AlpenTransversal : 新アルプス縦貫鉄道)の工事中にも同じく紫色の宝石質の結晶が発見されています。

カナダの硬石膏
 カナダのバンクロフトの宝石質の硬石膏がどのような産状なのか資料がありません。
恐らくは世界各地の産状と共通の、堆積鉱床から偶々カットできるほどの透明な結晶が採れたのでしょう。
 モース硬度が低く、完全な劈開性を持つ硬石膏のカットは大変な熟練を要します。
 惜しむらくは首尾よくカットされたところで何とも見映えのしない石にしかなりません。
 したがって、カッターの腕試しとして、ごく稀に市場に姿を見せるのが硬石膏のルースです。
 その心意気を買って入手した写真のルースは、さすがに見事しか言いようの無いエッジの切れ味の良さを見せています。
1.30ct 7.4x6.0mm
Bancroft, Ontario, Canada
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