燐灰石(Apatite)

世界のアパタイト 0.23ct - 23.8ct
     

 ブラジルのアパタイト (Brazilian Apatite
)

0.54ct
6.3x5.1mm
0.52ct
5.9x4.8mm
0.23ct
6.ox4.1mm
1.50ct 2.72ct 1.42ct 1.12ct 0.58ct 5.3x4.6mm 4.04ct 11.4x8.2mm
0.58ct 0.83ct 1.32ct  Ø7mm

     
 ブラジルには無数のペグマタイトや金属鉱山があり、宝石質のアパタイト結晶を産します。 とりわけ輝かしい濃淡の青いアパタイトは人気のパパライバ・トルマリンとそっくりの色合いですが、値段は100分の一にもなりませんから、手ごろな代用品として宝飾品に使われるようになりました。
 殆どが1カラット以下の小さなものが多く、さらにアパタイトの常として、内部に亀裂や多くの内包物をふくみますが、しかしそうした欠点を補って余りある美しい色合いです。 キャッツアイ型もあり、これもなかなか美しいものです。

アフリカのアパタイト (African Apatite)


マダガスカル (Madagascar)
8.10ct 14.4x11.0mm 1.27ct 6.9x6.9mm kite (0.29ct 7.5x4.1mm) - Pear (0.62ct 6.9x4.8mm) 5.72ct 11.6x8.7mm 結晶片 13x8x6mm   9x7x5mm

 ブラジル同様、マダガスカルからも人気のパライバ・トルマリンを思わせる淡青緑色のアパタイトを産し、近年宝飾用に使われるようになりました。 ブラジル産と比べると、遥かに大きく傷がなく透明度の高いルースが採れます。 
 宝石質結晶片から想像するに、おそらく大きな結晶団塊から、透明な部分をカットしているのだろうと考えられます。

ケニア (Kenya)
14.3ct 17x13mm 12.83ct 19.5x11.7mm 3.94ct 10.9x6.4mm 3.38ct 8.6x7.4mm Triliuite 1.06ct 7x7mm ea.
 昔からケニアは金色ー淡緑色の大きく美しいアパタイトの産地として知られていました。 ただし何処でどんな産状なのかは不明です。 右の写真の三角形のカットのルースはかつてツーソン・ショーで ”トリリュウアイト” の名前で入手したものです。 その正体が何なのか比重と屈折率を計ってみるとアパタイトでした。 あれこれ調べたところ、トリリュウアイトとはカナダ産の金茶色のアパタイトの商業名であると判明しました。
 タンザニア、ナイジェリア (Tanzania 、Nigeria)
1.37ct 6.8x6.2mm 1.41ct 9.6x7.6mm
Tanzania Nigerria
 タンザニアからもパライバ・トルマリンとそっくりの淡青色のアパタイトが出現しました。 ナイジェリア産はインディゴライトを思わせる魅惑的な色合いのアパタイトです。 宝石質のアパタイトそのものが珍しいのですが、この二つの産地の美しいアパタイトは極めて珍しく、いずれも30年来、他で見かけたことはありません。

アジアのアパタイト (Asian Apatite)

 

50ct 29x24mm 7.02ct
13.6x9mm
28.3ct
17.9x13.2mm
3.54ct 11.6x8.0mm 3.31ct 8.7x7.0mm 0.96ct
8.5x6.7mm  
2.72ct
12.0x7.5mm
Rajastan, India India Orissa, India Srilanka
 アフガニスタンやパキスタンのペグマタイトからは美しいピンクや紫の燐灰石結晶を産しますが、カットされたものは見たことがありません。 結晶標本として遥かに価値があるので、熱に弱く璧壊性のあるアパタイトを危険を冒してまでカットしないのでしょう。
 アジア産でよく見かけるのはインド産の金色ー淡緑色のアパタイトです。 アパタイトしては比較的に大きく無傷で透明度の高いルースが手ごろな価格で入手できます。 ラージャスタン産の50カラットのルースはアパタイトとしては記録的な大きく美しいものです。
 スリランカのアパタイトは非常に珍しいものです。 スリランカでは殆どの宝石は何億年もの長い期間に川を流れ下り、水磨礫として堆積したものが採掘されますが、モース硬度が低く欠け易い燐灰石はその過程で粉々に粉砕されてしまって残らないのだと考えられます。
 
北アメリカのアパタイト (North American Apatite)

3.92ct 9.4x7.6mm 1.2ct 7.2x5.1mm 4.19ct 10.7x6.9mm
Cranberry Lake, Ontario, Canada Durango, Mexico
 北米のアパタイトはカナダとメキシコの金色のルースが時々市場で見かけます。
アメリカ、とりわけ東海岸のメイン州各地のペグマタイトからは稀に紫色の美しい結晶を産しますが、いずれも結晶標本として高値で取引されるため、敢えてルースとしてカットされることは滅多にありません。
アパタイトの結晶形
(Crystal Form)
結晶系
(Crystal system)
化学組成
(Composition)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
六方晶系
(Hexagonal)
Ca5[F・Cl/OH・(PO4)] 5 3.18 1.64

 


名前と産状 (Name and Occurence)
   アパタイトとはギリシア語の”apatao=私は騙す”、を語源とする命名です。 
 一体何を騙すのか、よくよく考えてみましたが、どうやら実に多彩な色彩を持っていること。さらに緑柱石や電気石等々、似たような色合いと結晶形の他の鉱物と紛らわしいことがその理由の様です。
 産状もペグマタイト鉱床や、銅,錫,タングステンなどの熱水性の金属鉱床、さらに変成鉱床である大理石の中と多様であり、確かに他の鉱物と紛らわしいと言えないでもありません。
 こうした多様な産状により、様々な変種があり,塩素基を含むものはChlorapatite、水酸基が多いものはHydroxiapatite、弗素基が多いものはFluorapatite、希土類元素のストロンチウムなどを含むものはBelovite、珪素を含むものはWilk
éite、セリウムを含むとBritholite、六価の硫黄を含むとAllestadite、マンガンを含むとMangualdite等々,実に多様な種類があります。
 これらは基本的には燐酸カルシウムを主成分とする変種です。
 それ以外に燐灰石グループに属する多彩な鉱物群があります : 燐が砒素やヴァナジウムに置換された砒酸基やヴァナジウム酸基とカルシウム及び、バリウム、鉛、ストロンチウム等との化合物となった膨大な種類の鉱物が存在するのです。
 これらの鉱物はいずれも燐灰石と同じ六方晶系の結晶形と多彩な色合いの鉱物として産するので、結晶を見ただけでは何なのか、鉱物名を正しく判断することは困難な例が起こります。
 珪酸分を含む燐灰石があろうとは信じられませんが、資料によると、ネオジウムやストロンチウムを添加した可変波長レーザー用として人工的に合成されているアパタイトがあることが分かりました。ストロンチウム添加の合成アパタイトは蛍光で青、白熱光で紫、太陽光で菫色と顕著な色変わりを示すようです。
 それに加えて、メキシコ産の金色のアパタイトはAsparagus Stone,またはAsparagoliteと呼ばれ、濃緑または青緑色のものはMoroxiteと呼ばれます。 またケニア産のTrilliuiteはその正体が分からず結構な値段で入手してからじっくり調べて見たら、どう考えても燐灰石でした。あれこれ文献に当たった結果、本来カナダ産の黄緑色のアパタイトの商業名であることが判明しました。  
 普通の燐灰石は、燐の主要な鉱石として採掘されますが、とりわけロシアのコラ半島のヒビーヌイ山地には膨大な燐灰石の鉱床が発見され、採掘のために出来た新しい町の名はアパチートゥイ(燐灰石の複数形)となりました。
 アメリカ東海岸メイン州の燐酸ペグマタイト地帯には、その名もMount Apatiteがあり、その菫色のアパタイト結晶はコレクターの垂涎の的でありました。
 と、様々な話題に事欠かないアパタイトではありますが,以前は重要な化学工業の資源か、あるいはコレクターが美しい結晶やルースを求めるぐらいでありました。 美しくはあってもモース硬度が5と低く,傷つき易いため、宝飾品としての実用には難があるためでした。
 そんなアパタイトですが、近年、宝石店で良く見かけるようになりました。
とりわけブラジル産の濃紺の石やマダガスカル産の淡青色のアパタイトの色は、今を時めくブラジル,パライバ産の目の玉の飛び出るような高価なトルマリンとそっくりです。 しかし値段は100分の1と全くお買い得なため、人気が急上昇した様です。
 

世界の燐灰石結晶
1.金属鉱山の燐灰石
  金属鉱山から発見される燐灰石は白く不透明な結晶が多く、ルース用にカットされるような透明な美しい色合いの結晶は稀です。 ポルトガルのパナスケイラのタングステン鉱山からはかつて淡緑色や紫色の、最大で10cmに達する美しい燐灰石を産出しました。
 メキシコのデュランゴからは最大で3cm程ですが、透明な金色の燐灰石結晶を産出し、美しいものはルースにカットされます。
 モロッコはヴァナジウムやクロム、鉛、亜鉛等の重金属鉱山が多くありますが、近年メキシコ産に良く似たレモン・イエローの燐灰石結晶が見られるようになりました。
 日本でかつて無数の金属鉱山が稼動していた時代には、燐灰石結晶を産しましたが、大きく美しい結晶は稀でした。
中では足尾銅山で6角柱の燐灰石を産しました。足尾の直ぐ傍の今市、文挟クレー鉱山では小さいながら透明な平板状の燐灰石結晶を産しました。

 

 高さ 30mm
足尾銅山 Ashio Mine, Japan
5-10mm
文挟クレー鉱山 今市
Imaichi, Japan
結晶 40x36mm
Panasqueira Portugal
ルース 1.2ct 結晶 12x10mm
Durango Mexico
24x23x17mm
Riche, Atlas Mtn, Morocco

 

2.ペグマタイト鉱床の燐灰石
  ペグマタイト鉱床には青、紫、ピンク等、美しい色合いの燐灰石を産します。 ピンクの発色は弗素原子の欠落とそれを埋める電子による光の吸収、深い青は二価の酸素と五価のマンガンとの電荷移動による発色とされています。その他、淡緑や黄色の発色は”Didymium”型と呼ばれるランタノイド系の稀元素、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウムによる発色と考えられています。
 ブラジルのミナス・ジェライスやパライバ州のペグマタイト青く美しい燐灰石が採れます。 人気のあるパライバのトルマリンにそっくりなので人気が出て、最近では宝石店で良く見かけるようになりました。
 50x22mm 15x15mm 12x12mm 12x12mm 曹長石上の燐灰石結晶 1cm
Paraiba Brazil
Pedras Altas, Capim Grosso, Bahia, Brazil

31x25mm
Nagar Pakistan
22x16mm
Pakistan
25x18mm
 Afghanistan
2cm
Afghanistan
5cm
Sludyanka, Russia

30x15mm
Mount Apatite
Maine U.S.A.
 結晶マトリクス 高さ 5.5cm 
1.5cm 曹長石中の燐灰石 7mm
Strickland Quarry
Portland Connecticut
 U.S.A.
Pulsifer Quarry, Maine, U.S.A.
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