ベータ石英(β-Quartz)


 
 世界のベータ石英

 ベータ石英とは573℃~870℃の高温条件下で結晶した石英なので高温石英とも呼ばれます。
普通に見られる石英(水晶)は573℃以下の温度で結晶したものでアルファ石英と分類されますが、一般には石英、結晶形を示すものは水晶、時に結晶形を示さない塊であっても透明なものは水晶と呼ばれます。
 ベータ石英は、柱面を殆ど持たないか、あるいは柱面が僅かしかない、ずんぐりとした形を示し、結晶の上下の両錐面がくっついた算盤玉のような形を見せるためそろばん水晶と呼ばれることもあります。
 この結晶形はしかし、高温で結晶した時の姿を留めてはいますが、温度が573℃以下に下がると結晶内部の珪素と酸素の配列は低温型のアルファ石英になってしまっているのだそうです。
 ベータ石英は世界中で広範に産しますが、大きく、姿の美しいものは珍しいと言えましょう。  
以前はベータ石英の成因は高温下での結晶成長と考えられていました。
 しかしながら、最新の研究では高温条件のみでは不十分で、結晶成長時のマグマの珪酸性溶液濃度が影響し、実験の結果、それが確かめられているとのことです。 
 砂川一郎 『水晶・瑪瑙・オパール ビジュアルガイド - 誠文堂新光社 2009年』 
この本はムック形式で出版され、きれいな写真や図版が満載ですが、テキストは大学の鉱物学の授業そのもので、気合を入れて読む必要がある、本格的なものです。


ジャワ島のベータ石英 (β-Quartz from Java Island, Indonesia)
         世界有数の火山国であるインドネシアからは、近年紫や緑色の葡萄のような玉髄や虹色のきらめきを見せるイリスアゲート等々、他には見られない独特の石英類を輩出する土地として注目を集めています。
 今回、大きくほぼ完ぺきな姿のベータ石英の分離結晶が姿を見せました。
 これで水晶のように透明であったなら完璧なのですが、しかしこの大きさの分離結晶は滅多に見られるものではありません。
 15x15mm  

内モンゴルのベータ石英 (β-Quartz from Nei-Mongolia)
         近年、中国の内モンゴル自治区から美しい姿の蛍石や、金属鉱物結晶が多数姿を見せるようになりました。
 30年余り昔、ミュンヘンの鉱物フェアにて、205カラットもある淡い朱色の内モンゴル産のトパーズ・ルースを入手して以来、この地の鉱物には注目していたのですが、ようやくベータ石英の群晶を入手することができました。
 35x31x26mm Huanggan Mine, Chiefteng, Nei-Mongolia     

ダルネゴルスクのベータ石英 (β-Quartz from Dalnegorsk, Russia)
       ベータ石英と言えばロシアのダルネゴルスク 産と言えるほどこの地の標本は定番のようなものでしたが、近年は滅多に見られなくなりました。
 これはボー坑(硼素坑)と呼ばれる、ダンベリー鉱の露天掘り坑から産出したものです。
 43x35x20mm  Bor Pit, Dalnegorsk, Russia   

カザフスタンのベータ石英型紫水晶(β-Quartz type Amethyst from Kazakhstan)
       
34x30x18mm   22x22x22mm 
Balkhash Lake, Karaganda, Kazahstan 
  カザフスタンのカラガンダの南にあるバルハシ湖周辺には石炭、鉄、銅、マンガン、鉛、亜鉛等々豊富な鉱床が無数に存在します。 写真の紫水晶は10年ほど昔に1個入手した後、絶産との情報がありましたが、再び産出したのか、あるいは古い在庫が出てきたのか、ごく最近2個目が姿を見せました。
 これらは両錐面が発達したベータ石英型の特徴を見せていて、おそらく高温熱水性の金属鉱脈に出来たものと考えられます。数ある紫水晶の中でベータ石英型は大変珍しいものです。

カリフォルニア州、カーン郡のベータ石英 (β-Quartz from Cinco, Kern Co., CA, U.S.A.)
    カリフォルニア南東部のデス・ヴァレーに近い砂漠地帯にあるシンコ産のベータ石英です。
 どんな場所か検索して見ると、You Tube にベータ石英を採掘に行くドキュメンタリー映像がありました。
 4輪駆動車で2時間余りの荒涼とした山地での採掘の様子が出ていました。
 ガラガラヘビでも出そうな場所ですから、わざわざ出かけるほどのことはありませんが、ともあれそんな苦労をして採った標本を数百円で入手できるとは有り難い時代になったものです。
 かろうじてベータ石英らしい姿がうかがえる、珍しい産地の貴重な標本ではあります。
 4.0~8..5mm
Cinco(5th Point), Kern Co., California, U.S.A. 
   
   
愛媛県久万町のベータ石英   
   
    石英は世界中でもっともありふれた鉱物ですから、日本各地でもあちこちで発見されます。
 不透明で小さく結晶形も定かでない例が大半ですが、なかなかきれいな結晶を産出する土地もあります。
 愛媛県久万町のベータ石英は透明度が高く、美しいものと言えましょう。
  2 - 5mm  

スペイン、カディスのベータ石英 (Blue β-Quartz from, Cádiz, Andalucia, Spain)
     
36x28x7mm  
  スペイン最南部、アンダルーシア地方のマラガにて青い水晶が発見されたのは1910年と昔のこと。その後1980年代になって、同じ地中海に面したカディス等複数の産地が発見され、水晶には珍しい色合いで一躍人気が出たのが青水晶です。
 とはいえ、水晶そのものは5mmにも満たない小さな結晶が岩の割れ目に群晶を成す、という産状で余り見映えがするものではありません。
 結晶形はルーペで観察すると殆ど柱面がない、ベータ石英であることが分かります。
青い色は,その色合いから、ギリシア語で ”大気の、空の” を意味する接頭語 ”aer -” に因んで命名されたアエリナイト( Aerinite : Ca4(Al,Fe3+,Mg,Fe2+)10Si12O35(OH)12(CO3・12H2O)という大変複雑な成分からなる鉱物、あるいは角閃石族の鉱物リーベック閃石 : Na(Fe2+,Mg)3Fe3+2Si8
O22(OH)2 の変種の青石綿と呼ばれるクロシドライトの微細な結晶片を含むためと考えられています。

ニューメキシコ州の両錐水晶 (Doubly terminated quartz from New Mexico, U.S.A.)
      これは典型的なベータ石英ではありませんが、両錐を持つ分離結晶という、なかなか珍しい水晶なので、合わせて紹介するものです。
 同様な水晶は、アメリカのニューヨーク州のハーキマー、パキスタン、中国等、世界的にも珍しいものです。
 14.5x9.5x7.0mm  16.0x5.7x5.3mm   12.8x3.8x3.5mm  
             11.1x6.8x6.0mm    
Pecos River Valley, Chavez Co., New Mew Mexico, U.S.A.    


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