ブルー・ベリル (Blue
Beryl)
様々な発色タイプのブルーベリル (Blue beryls of various color cause) 0.52 - 2.85ct |
2.85ct 10.4x9.2mm | 0.52ct 9.6x4.0mm | 1.64ct 14.0x5.3mm | 2.00ct 10.1x7.8mm |
天然マシーシャ・ベリル ? (Natural maxixe ? ) |
放射線照射マシーシャ型 ( Irradiated Maxixe type) |
Tanzania | モルガナイトを加熱処理したもの (Heat treated Morganite) Barra de Saliña Mine, Minas, Gerais, Brazil |
化学組成 (Formula) |
結晶系 (Crystal system) |
モース硬度 (Hardness) |
比重 (Density) |
屈折率 (Refractive Index) | ||
Be3Al2(SiO3)6 | 六方晶系 (Hexagonal) |
71/2 - 8 | 2.68 -78 | 1.566-602 |
青い色の緑柱石は一般にはアクアマリンとして扱われます。
実際、写真の緑柱石はアクアマリンには違いないのですが、しかし、普通の淡青色のアクアマリンと比べると、別種と言えるほどに深い紺色の色合いを持っています。
冒頭の4点の青い緑柱石はそれぞれ異なる仕組みによる青の発色と考えられます ;
2.85カラットのトライアングル・カットのベリルは15年前にミュンヘン・ショーでアフリカ産の天然のベリルとして入手したものです。
この色合いから新種の合成ベリルではないかと思いましたが、内部に何本もの並行する透明な針状結晶を含み、天然と判断しました。 となると、何か別種の宝石かと調べましたが、比重、屈折率とも若干高いものの、緑柱石の範囲内に収まり、緑柱石であることは確かです。
特殊なマシーシャ・ベリルかと長年思っていましたが この深い青は安定していて15年経った現在も全く褪色する気配が無く、改めて発色の仕組みを再検討した結果、後述するように、原子価間電荷移動 (Inter Valence Charge Transfer) と呼ばれる仕組みで深い青の発色を起こすタイプのアクアマリンと判断しました。
0.52カラットのペアカットの石は2012年1月に、ブラジル産のアクアマリンに人為的に放射線照射をしたマシーシャ型として入手したものです。
外光下に放置すればたちまち褪色しますから、光から遮断して保存していたため、3年後の現在も殆んど色褪せずに元の色合いが保たれています。
3番目の1.64カラットのペアカットの石はタンザニア産の天然のアクアマリンとして入手したものです。殆んどマシーシャと言える紺色ですが、アフリカ産にはこのような色のアクアマリンは時々見かけられます。
4番目の2カラットのペア・カットは、ミュンヘン・ショーにて、ブラジル産のモルガナイトを加熱処理したアクアマリンとして入手したものです。 専門性の高い業者の説明ですから、まず間違いないでしょう。
全てのモルガナイトが加熱処理で青くなるわけではありません。
何故かブラジル、ミナス・ジェライス州、バラ デ サリーニャ (Barra de Saliña) 鉱山産のモルガナイトのみが、加熱処理で濃い青のベリルに変わるのだそうです。
恐らくこの鉱山産のモルガナイトは不純物の鉄の含有率が高く、モルガナイトとしての魅力に乏しかったのでしょう。 そこで加熱処理をしてみたら、素晴らしく濃い青のベリルに変貌したということと思われます。
青い緑柱石の発色の仕組み
1 緑柱石の結晶構造 2 マシーシャ緑柱石の発色の仕組みと吸収帯域特性 3 カナダ・ユーコン州産ブルーベリルの吸収帯域特性 青緑:SiO4四面体環 紫:BeO4偏四面体
橙球:Al八面体 黒球:OAとBとの結晶軸の方向により、光の吸収量が異なる。
Aの方向ではカラー・センターの効果が殆んど現れない。二価と三価の鉄イオン間での原子価間電荷移動
により赤外線領域からの広範な光の吸収が起きる
緑柱石は珪酸の四面体環と酸化ベリリウムの偏四面体とがアルミニウム原子の八面体と酸素原子を介して立体的に繋がる構造が螺旋形に成長して六角柱の結晶となります。
図のように珪酸の四面体環は結晶中に大きな空洞を形成します。
熱水中で結晶する天然の緑柱石にはこの空洞内に水が含まれます。
更に鉄、マンガン、クロム、ヴァナジウム、炭酸基や硝酸基等の不純物が入り込むと、それらが発色の原因となります ;
普通のアクアマリンの場合は珪酸の四面体環に含まれる二価の鉄イオンにより、赤ー橙ー黄色ー緑の帯域の光の一部が吸収され淡青色になります。
深い青のアクアマリンの場合は、不純物の二価と三価の鉄イオンが結晶の酸素を介して電荷をやり取りする原子価間電荷移動と言う仕組みで赤ー橙ー黄色ー緑の帯域の光の深い吸収が起こり、濃い青色となります。
天然のマシーシャ・ベリルでは硝酸基が、人為的な放射線照射によるマシーシャ型の場合は炭酸基が形成するカラーセンターが赤ー橙ー黄色ー緑の帯域の光を吸収することで深い青の発色となります。
ただし、このカラーセンターは極めて不安定で日光や加熱等の外部からのエネルギーを受けると短時間で失われて褪色が起こります。
カナダのユーコン州で発見された濃い青の緑柱石の場合は赤外線帯域から緑に至るまでの広範囲な帯域で光の吸収が起こり、濃青色となります。 ただし、この緑柱石は不純物や亀裂が多く宝石としてカットされません
マシーシャ・ベリル (Maxixe Beryl)
マシーシャ・ベリルの褪色試験と試験前後の吸収特性
A
B
C
試験前の吸収特性
25Wの電球下に5日間
曝した後の吸収特性
更に200℃の炉内で
15時間加熱した後の
吸収特性試験前標本 試験後の標本 典型的な濃青色の
マシーシャ・ベリル
ブラジルのミナス・ジェライス州北部アラスアイ (Araçuaí) 地方、ピアウイ (Piauí ) 渓谷のマシーシャ (Maxixe) 鉱山にて1917年 に発見されたサファイアのような濃青色のアクアマリン。
この魅力的な色は、しかし不安定で、日光にさらされると、1週間程で半分以下に褪色し、さらに放置すると無色になる。
200℃の加熱炉内で15時間で完全に褪色し、無色になってしまう。
このような特性を示す天然の濃い青い色のベリルがマシーシャ・ベリルと呼ばれます。
人為的な放射線照射で濃い青色に発色するベリルがマシーシャ型ベリルと呼ばれます。
マシーシャ鉱山は1973年に閉山されました。
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