斜ヒューム石とコンドロダイト
(Clinohumite and Chondrodite)



 
 コンドロダイト (Condrodite) 0.55 - 0.96ct
世界の斜ヒューム石 (World's Clinohumite) 0.16 - 5.91ct  Mogok, Burma

 

5.91ct 14.5x11x8.6mm 3.4ct 11.1x8mm   2.1ct 8.6mm 0.2ct 0.77ct 0.16ct
4.1x3.1mm 6.4x4.9mm 4.5x4.1mm
Kuchiral, Pamir Mountains

 

 
2.58ct 10.4x8.3x5.4mm 0.46ct 5.1x4.3x2.5mm 1.74ct 6.8x6.6mm 0.82ct 7.6x5.2x3.1mm  1.07ct Ø6.7x3.8mm 0.61ct 9.8x3.1mm
Tanzania Vietnam Pakistan  Russia


結晶石灰岩中の灰紫色のスピネル結晶(22x14mm)と淡黄色の斜ヒューム石 70x52x36mm
(Dark purplish-gray spinel crystal(22x14mm) and pale brown clinohumite crystals in crystalized calcite)
パミール山脈 (Pamir Mountains)


斜ヒューム石結晶 (Clinohumite Crystals)
結晶(Crystal) 3mm 
Val Sissone
結晶(Crystal) 19mm 結晶(Crystal)1.72ct
(Faceted stone)
 ルース 0.39ct

暗灰緑色の斜ヒューム石結晶とルース
 0.90−1.81ct
Dark graysh green clinohumite
Val Malenco, Italy Kuchiral, Pamir Mtns. Sumbawanga, Tanzania

 

化学組成
(Composition)
結晶系
(Crystal System)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
斜ヒューム石
(Clinohumite)
(Mg,Fe2+)9(F,OH)2(SiO4)4 単斜晶系
(Monoclinic)
6 - 6½ 3.17-35 1.623-728
コンドロダイト
(Chondrodite)
(Mg,Fe2+)5(F,OH)2(SiO4)2 単斜晶系
(Monoclinic)
6 - 6½ 3.16-26 1.592−675

名前と産状(Name and Occurence)
 斜ヒューム石はヒューム石グループに属する鉱物です。
石灰岩の接触変成鉱床にスピネル、黒雲母、フォルステライト、緑泥石、スペッサータイン等と共に産出します。
 マグネシウム分が増えるにつれて Norbergite 、Humite、Clinohumite と連続的に変化して行きます。  
 ありふれた元素から成る珪酸塩鉱物ではありますが、不思議なことにいずれも稀産の鉱物で、私の鉱物百科事典にはコンドロダイトが記載されているのみ。
 ヒューム石の名は鉱物、宝石、美術作品等の蒐集家の Abrahama Hume (1749-1838)に因みます。
同じ鉱物グループですが斜方晶系のヒューム石に対し単斜晶系なので斜ヒューム石と命名されました。
 本家のヒューム石は鉱物図鑑に掲載されることもない稀な鉱物です。 
 斜ヒューム石が注目を集めたのは1983年にパミール山脈に宝石質の結晶が発見されて以降、金色やオレンジのカットされた石が出まわるようになったためです。 
 石灰岩層の接触変成地帯から初めて宝石質の結晶が発見されました。
 しかし結晶はごく小さく、ルースは大半が0.2カラット程度で、0.5カラットを上回るものは稀で、1カラットを超えるルースはカラット当たり1000ドルの高値で取引されていたほどです。
 1990年代を通して、最大のルースでも7カラット程度でした。
二段目の写真の小さなルースは1980年代後半のもの。そのうち最大の0.77ctは当時としては稀なる大きなものでした。
 ところが2000年末のミュンヘン・フェアではロシアの業者が2〜3カラット超のルースを展示しており、値段もカラット当たり30ドルと格安となっていました。 ひょっとすると、新たに豊穣な鉱脈が見つかったのかと思われました。 もっとも、他に斜ヒューム石の展示はなかったし、その他のフェアでも滅多にみかけることはありませんから、やはりパミール山脈、クチラルが主要な宝石質結晶の産地である状況は変わってはいないようです。
 冒頭の写真の大きな石は小さいルースと比べると、色が濃い橙色でインクルージョンも多く、ルー スとしての質は落ちます。しかしこのような稀産の石は一般に大きくなると必然的に透明度が落ちるのはやむを得ません。 
 5.91カラットの大きな石は斜ヒューム石のルースとしては博物館級です。内部にかなり目立つ包有物を含み、扁平でカットも感心しません。 
しかしながら超稀産の鉱物となればこれだけの大きさのルースが存在するだけでも価値があろうというもの。にもかかわらずカラット当り50ドル以下の掘り出し物でした。
 その理由は業者が宝飾品用ルースを主に扱っているためでしょう。同じ業者が0.3ct程のきれいなルースをかなりの数量持っていました。こちらは小さいけれどもカラット当り300ドルを超えます。 大きくても宝飾品用途として価値がないと判断したのでしょう。 
これがコレクター向けの稀少石専門業者だったなら、到底手の届かない値段になっていたに違いありません。 
 稀少石のルースの場合、売り手により価値判断が大幅に異なると言う格好の例と言えます。
 それにしてもカラット当り300ドルもの大枚はたいて斜ヒューム石の宝飾品を買う人なんているんでしょうか ? 
 見た目はカラット当り5ドルもしない黄水晶か、あるいはマダガスカル産のカラット,30ドル程度のスペッサータインとそっくりなのですから。


 Clinohumite was named in allusion to its monoclinic crystal structure and relationship to humite, which was named after English connoisseur and gem collectors, minerals and artworks, Sir Abraham Hume(1749-1838).
 Despite common chemical compositions, humite group minerals belongs to rare minerals and are hardly encountered in the market, nor describd in mineral encyclopedias, with few exception of clinohumite or chondrodite.
Clinohumite was highlighted in late 1980's thanks to the find of gemmy crystals in Pamir Mountains.
 Origin and occurence of humite group minerals are metamorphic in contact and regionally metamorphosed carbonate rocks, typically associated with spinel, chlorite, forsterite, serpentine and phlogopite.
While appeared in gem market in latge 1980's, most of faceted clinohumite was small and stones over one carat fetched over US$1000 per carat. However, since early 2000's, large stones over 3 carats increased and price dropped to about US$50 per carat. Clean but 0.3 carat range smaller stones, are priced at about US$300 per carat, yet. But who would pay as much as US$300 for a strange stone, like clinohumite, which terribly resembles to inexpensive citrine or Malagasy spessertine of US$30 per carat ?
斜ヒューム石の産地 (Clinohumite's locality)
 かなり大きな鉱物図鑑にしか載っていない鉱物ですが、現在では世界の110ヶ所以上から報告されています。
 フォッサ・マグナ等、大規模な地殻変動を経た日本各地からも斜ヒューム石は続々と発見されています。しかし単独の鉱物標本としては大きな鉱物フェアでもほとんど見かけません。
 稀にパミール山脈のスピネル結晶と共に石灰岩中に微細な粒状の結晶が発見されるくらいです。
北イタリアのアルプスからも以前から標本級の結晶が報告されていました
 宝石質の斜ヒューム石はかつてはパミール産地が唯一の産地でした。
 が、近年、タンザニア、パキスタン、アフガニスタン、ヴェトナム、ロシア、ビルマ等から斜ヒューム石と近種のコンドロライトが次々と発見され、以前は見られなかったような大きさと透明度を持つルースを見かけるようになりました。

タンザニア (Tanzania)

 2000年の夏にタンザニアからも宝石質の斜ヒューム石が報告されました。
ルビーで有名なモロゴロの近くマヘンゲ(Mahenge)の町の近郊の小さな鉱山です。
 大理石中の最大5cm程の暗い紫色のスピネルと共に産出するオレンジ色の結晶が、カットされてスペッサータイン・ガーネットとして売られていたのですが、結晶に注目した宝石学者によって詳しい分析が行われました。専門家の分析ではパミール山脈産のそれと驚くほど似た成分の斜ヒューム石であると確認されました。
 2006年、タンザニア西部、タンガニーカ湖に近い Sumbawanga から従来とは異なる暗灰緑色の斜ヒューム石が報告されました。タンザニア安定陸塊と東アフリカ造山帯との境界に位置する、以前からエメラルドやアクアマリン等、宝石質の緑柱石の産地として知られていた土地です。
 後述する宝石質の金色のコンドロダイトと共にトルマリンとして市場で売られていましたが、精密な分析の結果斜ヒューム石と判明しました。
 ただしタンザニアの二つの産地からの斜ヒューム石は同じGIAの研究所の分析ではコンドロダイトとされていることもあります。
 極めて成分と特性とが似ている鉱物であり、この二つの鉱物が混在している可能性が大きいのではないかと考えられます。 

  
 Although rare, today, clinohumite is reported from over 110 world's localities. Japan, with Fossa Magna and numerous falt belts is one of the significant clinohumite locality with more than 10 finds throughout the country. Kukh-i-Lal, Pamir Mnts, Tajikistan is the unique locality of gemmy crystals. Other localities are Pargas, Finland, Monte Somma, Italy, Jensen Quarry, California, U.S.A.
 

 Tanzania is another locality of gemmy clinohumite ; Mahenge, small town near Morogoro ruby in zoisite mine produced clinohumite in marble, together with dark purple spinel, in summer 2000. In 2006, there was another find of gemmy clinohumite in Western Tanzania, near Tanganyika Lake, Sumbawanga ; an area long known as emerald and aquamarine mine, located in between Tanzania Craton and orogenic mobile belt.
Stones from both Mahenge and Subwanga are anylized and great probably, they are mixure of clinohumite and chondrodite.

 
パキスタン (Pakistan)

 パキスタンで宝石質の斜ヒューム石を産するという報告はありません。
長らく他の産地のものとは異なる暗赤色の1.74ctの斜ヒューム石しか持っていなかったのですが、最近ようやく、他産地のものと似た色合いの0.82ctの標本を入手しました。
 これらが本当にパキスタン産なのか、あるいはパミール山脈かアフガニスタンなのか定かではありません。
 隣接するパミール山脈やアフガニスタンの宝石の大半はパキスタンのペシャワール経由で世界に流通しているからです。
が、同じ地質帯のパキスタンで採れても不思議ではありません。

 There are no official documetn of gem clinohumite discovery from Pakistan. Long time, I had a dark red 1.74ct stone only and quite recently, I have obtained orange colored second sample. These might be from Pamir Mtns or from Afghanistan, because almost all gemstones recovered in Pamir Mtns. and Afghanistan are distributed through Peshawar, Pakistan.
But Pakistan might produce gem clinohumite, because, geological conditions of these area is quite similar.

ヴェトナム (Vietnam)

 ヴェトナムで宝石質の斜ヒューム石を産するという正式な報告はありません。しかしパミール高原やタンザニアと共通の接触変成作用を受けた結晶石灰岩にルビーやスピネルを産する地質を勘案すれば、宝石質の斜ヒューム石の発見は時間の問題でしょう。
 写真の0.45ctのルースは標本程度の質ですが、ネット上では更に大きくて綺麗なルースが登場しています。

 There are no official literature of gem clinohumite discovery in Vietnam. However, considering the geological conditions of Vietnam to poduce ruby, spinel etc., in contact metamorphic crystalized limestone zone, same as Pamir Mtns., and Tanzania, it is possible that gem clinohumite might be recovered in Vietnam. So-called large pretty Vietnamese clinohumite is sometimes seen in the market.

ロシア ? の斜ヒューム石 (Russian clinohumite ?)

 1.07と0.61カラットの二つの斜ヒューム石は正確な産地は不明ですがロシア産として入手したものです。
 ロシアではコラ半島のコヴドールからコンドロダイトが、2000年には北シベリア・北極圏のタイミール半島から暗赤褐色の宝石質の斜ヒューム石結晶が報告されています。
 さらにパミール山脈やタジキスタン産と称される産地も旧ソ連圏なので、これらがロシア産として流通している可能性も否定できません。
 この二つのルースに限れば以前入手したパミール産の屈折率1.643-646と比べて僅かに高い1.650-654を示しますが、これくらいの差では産地の同定は出来ません。

 Two faceted clinohumites of 1.07 & 0.61ct are sold as Russian origine but exact locality are unknow. In Russia, gemmy chondrodite from Kovdor, Kola peninsular and dark reddish-brown clinohumete from Taymir peninsular in Polar Siberia are reported in 2000.
 But there are no detailed informations nor even their photos. There is a possibility that stones from Pamir Mtns. are sold as Tajikistan or Russian origine.
Two stones have slightly higher R.I. of 1.650-654, compared with my old Pamir Mtn. origine stones with 1.643-646. These differences are not definitive to determine the origine of locality.  

                    斜ヒューム石の発色(Color cause of clinohumite)

 斜ヒューム石グループの黄色ー金色ー赤褐色の発色の原因は鉄イオンと鉄の一部を置換したチタンイオンとによる電荷移動に加えてチタンイオンの結晶内の配置に因るエネルギー吸収とが関与している考えられています。
 金色の斜ヒューム石は外見からは同じ色合いのスペッサータイン・ガーネットと識別が困難です。 しかしガーネットは短波長紫外線に反応しませんが、斜ヒューム石は強いオレンジ色の蛍光を放つので識別は容易です。

 The color cause of clinohumite and chondrodite is due to Fe2+ - Ti4+ charge transfer and structural allocation of Ti4+.
Golden color clinohumite resembles spessertine garnet. But it is possible to separate them, using short wage UV lamp. Clinohumite fluoreses in strong orange color, while spessertine is inert.


コンドロダイト(Chondrodite)

 斜ヒューム石と同じグループに属する鉱物にコンドロダイト(Chondrodite)があります。 
名前はギリシア語の ”Khondros=小粒”に因み、化学組成もよく似ています。結晶系も同じ単斜晶系です。産状、見た目もそっくりですから精密な質量分析でもしない限り識別は不可能でしょう。
 稀に透明な結晶は宝石としてカットされるとの事ですが、恐らく斜ヒューム石と混同されている可能性があります。
 最近ビルマのモゴクから結晶大理石中にスピネルと共に産出する例が報告されました。
 パミール山脈,タンザニア,ビルマのモゴク、といずれも、スピネル、スカポライトとともに斜ヒューム石やコンドロダイトが共通に発見されます。
 市場で見かけるコンドロダイトのルースはタンザニア産の明るい金色が大半ですが、時にビルマ、モゴク産の灰色を帯びた褐色もあります。いずれも1カラット未満の小さなルースです。


 Chondrodite belongs to humite mineral group and the name derives from Greek "khondros = small grain", in allusion to it's habbit of occuring in isolated grains. Because chondrodite is quite similar with clinohumite in occurence, chemical composition, crystal system and physical characeteristics, etc., it will be almost impossible to separate them without precision laboratory analysis. Transparent gemmy crystal is said to be faceted, and great probably it might be confused with clinohumite. Chondrodite is discovered in the same locality as clinohumite in association with spinel and scapolite in Pamir Mtns., Tanzania and Mogok, Burma.

結晶形
(Crystal Form)
Chondrodite crystals : left 15mm
Tilly Foster mine, Brewser, New York
Chondrodite, 9mm
Södal Norway

 



コンドロダイト結晶とルース
 0.64 - 0.80ct
Chondrodite crystals and faceted gems
コンドロダイト双晶 15x10x5mm
Chondrodite twin

Sar-e-Sang
Badhakshan, Afghanistan

photo courtesy
: Arkenstone
方解石中のコンドロダイト
(Chondrodites in calcite)

84x80x45mm
最大の結晶 11x7mm
Sumbawanga, West Tanzania Mogok, Burma

     
 0.55ct 5.6x4.4mm  0.96ct 7.4x4.2mm  0.70ct 6.9x4.4mm
 Mogok, Burma


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