黄水晶(Citrine)


 
多彩な色彩のシトリン(Color varieties of citrines)  1.41 -  36.22ctct 5.17 - 30.61ct 

  

一般的な黄水晶の群晶
Irai,Rio Grande do Sul
Brazil
研磨加工された黄水晶
高さ 47mm
Bahia Brazil
Ox-Blood(牡牛の血)色
の黄水晶の結晶とルース
Campo Belo
Minas Gerais,Brazil
煙水晶の上の黄水晶 3cm
Lake George
 Colorado U.S.A.
高さ 32mm
Charcas Mexico

 

19.73ct 17.49x14.92mm 30.61ct 20.76x16.71mm 26.99ct 26.0x17.4mm 12.36ct 16.83x14.11mm 11.84ct 16.05x13.87mm 5.17ct 12.86x10.53mm
 シトリンは天然には極めて稀な宝石ですが、紫水晶や煙水晶を加熱処理したものが大量に出回っています。
このためカラット当り100円から1000円と手ごろな値段で入手できる宝石です。 
  写真の6個のシトリンは名古屋の質屋が宝飾品から外した石100カラット余をまとめて5000円の捨て値でオークションに出品されていたものです。
 カラット当り50円と、余りにも安すぎるためガラスの偽物と思われたのでしょう、二ヶ月余り1件の入札もなく放置されていました。
 これらが本物の水晶であることは一部のルースに見られる色むらが証明しています。
入手して,あらためてシトリンの美しさに感嘆した次第。 宝飾品に使われていただけあってカットも素晴らしいものです。
 一般にシトリンの様な何処にでもあるありふれた宝石の産地が明記されることはまずありません。
 が、写真の左端、19.73 カラットのエメラルド・カットの明るいカナリー色の金色の石は、10年来探していたボリビア、アナイ鉱山産の天然のシトリンか、と落札した次第。 
 いくらでもあるシトリンですがこの色合いは稀に見る美しさです。
 
7.59ct   8.35ct 4.46ct 2.66ct 6.06ct 4.61ct
10.0x9,1mm     21.0x9.0mm 14.1x9.4mm   11.2x7.2mm 11x11mm 13.0x11.7mm
Brazil Brazil
2.13ct 9.0mm   8.45ct 14x14mm  2.70ct 9.5mm   12.15ct 17.2x13.5mm  
9.41ct 13.6x11.4mm 10.78ct 14.1x12.2mm
Brazil Brazil

レモン・シトリン (Lemon Citrine)
36.22ct 25.4x19.1mm 12.01ct 22.5x13.5mm 12.62ct 26.0x15.5mm スクゥエア・クッションのルース(The square cushion cut) 4.2x4.2cm
Brazil  near Cam Rhan, Khanh Hoa ProvinceVietnam
 シトリン(黄水晶)とはその色合いからラテン語の ”Citrus : 柑橘類” に因む命名です。
柑橘類に多彩な色合いがあるように,黄水晶にも冒頭の写真のように黄金,赤褐色,レモン色,淡緑と多彩な種類があります。
 ただし,これらの殆どが天然の色ではなく,紫水晶や煙水晶を加熱処理したものです。 
 天然の黄水晶は上の左側の写真にあるブラジルのIrai産のような小さな群晶のようなものが大半でとても宝石にはなりません。
写真の Campo Belo 産のような数百kgもある大きな結晶は極めて稀にしか発見されません。
 コロラド州のジョージ湖やメキシコのチャルカスの3cm程度の小さな結晶でもこんなに美しいものは滅多になく,博物館級の逸品なのです。
 レモン色のバイア州産の黄水晶は、加熱処理された紫水晶を研磨したものと思われます。

 この20年余りヴェトナム全土から、ルビー、サファイア、スピネル、トルマリン、アクアマリン、トパーズ、ジルコン、ペリドット、ガーネットと
、いずれも高品質の宝石が続々と発見され、市場に登場してきています。
 これらに加えて、紫水晶や煙水晶、黄水晶も各地のペグマタイト鉱床で採掘されています。 
写真のシトリンは極めて透明度が高い、大きなものは100カラットを超えるルースですから天然ではなく、紫水晶か煙水晶を加熱処理したものと考えられます。
 
 水晶の紫や煙水晶の黒や墨色は主に不純物として含まれる鉄イオンによる発色ですが,加熱処理をする事で様々な色合いの黄水晶に変わります。
加熱後の色は安定していて日光などで褪色しないため広く加熱処理が行われています。
 その色合いにより様々な名称で呼ばれる事があります 

 
プラシオライト(Prasiolite)

 
9.79ct 15.6x12.3mm
 Artigas, Urguai
33.50ct 23.0x19.0mm
Dodo, Ural Mtns. Russia
紫水晶結晶 4cm と加熱処理された緑の水晶 3−4ct
13.58ct 16.8x12.5x9.3mm 
Montezuma Mine, Bahia, Brazil  


 緑色の黄水晶にはプラシオライト(Prasiolite)の宝石名があります。この呼び名はギリシア語で明るい緑を意味する”prasios”に因みます。
 1953年にブラジル,バイア州の Montezma 鉱山産のアメジストを650℃で加熱したものが黄色ではなく淡緑色に変わったものがプラシオライトの商業名で市場に出るようになったものです。  
 この名は一般的ではありませんが,アフリカやウラル山脈の紫水晶も加熱処理で同様の淡緑色や淡黄緑色に変わるものがあり,プラシオライトの名で流通しています。
 19世紀末から20世紀初頭にかけてティファニー宝石店が一連のアメリカ産のサファイア,クロム・パイロープ,淡水真珠等を使った宝飾品を販売した事があり,緑水晶の指輪が含まれていました。
 アメリカではネヴァダ州Renoの近くに紫水晶と共に極めて稀ですが,天然の黄水晶と緑水晶の産地が知られています。
およそ3000万年前に起きた地殻変動による加熱作用で,紫水晶が黄水晶と緑水晶に変わったものと考えられています。

リオ・グランデ・トパーズ(シトリン),マデイラ・トパーズ(シトリン) 
 (Rio Grande Topaz (Citrine), Madeila Topaz (Citrine)

1.41ct(12.2mm) - 2.91ct(10.0x8.4mm)
Rio Grande do Sul, Brazil

 ブラジル,リオ・グランデ・ド・スール州の紫水晶は加熱処理によりガーネットのような赤みを帯びた色合いに変わります。
その色がモロッコ沖合いにあるポルトガル領のマデイラ島特産のシェリー酒を偲ばせるため,マデイラ・トパーズ(シトリン)、あるいは産地に因んでリオ・グランデ・トパーズ(シトリン)とも呼ばれています。
 マデイラ・シトリンの吸収スペクトルはベンガラ(主に赤鉄鉱:ヘマタイト:Fe2O3を主成分とする赤い塗料)のそれとよく似ていて,赤橙色はこの地の水晶に含まれる酸化鉄成分による独特の発色のためです。


天然のシトリン (Natural Color Citrine)

23.17ct 23.4x16.6mm 5.94ct        6.99ct
15.0x14.7mm      15.0x11.3mm
17.11ct 20.2x14.8mm 3.38-43.86ct
Cameroun Madagascar Kitwe, Zambia

天然のシトリン (Natural Citrin)
採掘された結晶(Mined crystals) 最大(Max.)25cm 両端のある結晶(Doubly terminated crystal ) 30cm 83ct 138ct
Andongologo, Madagascar

 前述のように、天然の宝石質のシトリンは極めて稀にしか発見されませんが、過去20年ほどの間にマダガスカル中央部の水晶産地から散発的に天然の黄水晶が発見されるようになりました。
 写真の結晶は2009年にアンドンゴロゴの水晶鉱山の晶洞から300kgほどまとまって発見された黄水晶です。
結晶の外周は煙水晶ですが、内部に透明な黄水晶になっていて 、最大では400カラットにも達する金色のルースがカットされました。
 カメルーンはアフリカには珍しく、鉱物や宝石に縁の薄い国です。
 あらゆる資料を探してもカメルーンから宝石を産出した記録がありません。
 したがって、写真の23カラットの天然の黄水晶の出現にはいささか驚かされました。
 残念ながら、天然の黄水晶は紫水晶を加熱処理したものと比べると地味な色合いで、宝石としての魅力に欠けます。
 同じく、アフリカ、ザンビアのキトウェで 2011年に天然のシトリンが発見されました。 
208.5グラムの原石から29個、合計268カラットのルースがカットされたとのことですから、前述のマダガスカルのように大量に採れた訳ではなく、散発的な発見であったと思われます。


シトリン、トパーズ とサファイア (Citrine, Topaz & Sapphire)

黄水晶 (Citrine)   6.06ct   12.12ct
Brazil
トパーズ (Topaz)  2.55ct
Mexico
 トパーズ (Topaz)     8.32ct   0.56ct
Ouro Preto, Brazil
  サファイア(Sapphire) 1.85ct  1.05ct
Africa

 シトリンは色合いがトパーズに似ているため恣意的にトパーズ,あるいはシトリン・トパーズと呼ばれる事が一般的な慣習となっています。
  トパーズの方が稀少でより高価な事から紛らわしい呼称が一般的になったものです。
 写真の宝石は似た色合いのトパーズとサファイアとシトリンです. いずれもそれぞれ魅力があって,美しさに優劣をつけるのは不可能です。
 ところが市場価格ではカラット当り,シトリンは1〜10ドル,トパーズは5〜300ドル,イェロー,ゴールデン・サファイアは60〜1000ドルと大きな差があります。
この値差は美しさの違いではもちろんありません。供給量と人気の差に過ぎません。
 シトリンの供給量が圧倒的に多いのは事実ですがしかし公平に眺めれば100倍も高い最上のゴールデン・サファイアと比べても,カットの良い金色の水晶の煌きの美しさは決して劣るものではありません。
 もっと見なおされて良い宝石です。


水晶の加熱処理と発色の仕組み

 一般に水晶には微量のアルミニウム原子が主成分の珪素原子の一部を置換して入っています。
母岩の中で岩盤中に含まれるウランやカリウム40等の放射性元素からのアルファ線やベータ線を長い間受け続けると,結晶を形成する酸素からイオンが分離してカラーセンター(着色中心)が形成されて煙水晶となります。
 同時に含まれる三価の鉄イオンと酸素イオンとによる電荷移動が起こると黄色,黄金,橙色の発色となります。
 紫水晶の場合は不純物として含まれる四価の鉄イオンと酸素イオンによる電荷移動のためと考えられています。
 緑色の発色は二価の鉄イオンが形成するカラーセンターのためと考えられています。
 自然の放射線照射と、地殻変動による加熱作用との組み合わせで様々な色合いの水晶の発色が惹き起こされているのです。
 即ち,煙水晶と紫水晶,黄水晶とは微量に含まれる鉄とアルミニウムの電位エネルギー状態の微妙な違いが異なった発色を起こしているわけです。
 天然の水晶には一つの結晶に紫と黄色の両方を含むもの,煙水晶と黄水晶とが一緒になったものが採れる事も稀ではありません。 
 放射線や加熱処理によって,含まれる不純物イオンの電位エネルギー状態を変化させて人工的に発色させる事が可能となります。 
 ただし、色の濃さや様々な色合いは、不純物として含まれる主に微量の鉄とアルミニウムの含有量と荷電状態によって決定されるため、
加熱処理で変えることはできません。
 とりわけ天然に宝石質の結晶が稀な黄水晶は,煙水晶は300〜400℃に,紫水晶は450〜500℃に加熱する事で得られます。 

巨大な黄水晶

     
研磨された黄水晶
”The Golden One" 700kg

Zambia
原石を調べる
Lawrence Stal
ler
研磨加工用にセットされた結晶   高さ1.5m、重さ273kg の "Bahia"
Glen Lehrer & Lawrence Stoller
コーヒー農園から発見された
重さ360sの黒水晶
3分割して亀裂部分を取り除いた 

 天然には稀な黄水晶ですが,時には巨大な結晶が発見される事があります。
左上の写真はザンビアで発見された黄水晶です。
 重さが810kg,高さ120cm,幅75cm,奥行き60cmの岩のような結晶でした。 
研磨用に特別な工具やウィンチ等を設計し,年程かけて外皮を削り取って磨き直し,最終的に重さ700kg,高さ93cm,幅60cm,奥行き45cmの完成品となり,2000年2月、ツーソンの宝石フェアで主会場のHoliday Inn Broadway ホテルに展示されました。 
 研磨したのはこうした大物の研磨では屈指のカッター,Lawrence Stallerです。 
 右の写真は、ローレンス・ストーラーが、同じく世界的な宝石カッターのグレン・レーラーと共に、ブラジルのバイア州のコーヒー農園で1987年に発見された360s余りの黒水晶を加熱研磨して仕上げ、”バイア”と命名された世界最大のペンダントです。
 アメリカにはこうした大物や稀少な宝石結晶専門のカッターが何人か存在します。
世界の博物館や著名なコレクションにはこうした逸品が必ず展示されています。


黄水晶の宝飾品
ペンダント 39ct 鏃型のルース 71ct フリーカットのシトリン ビクトリア朝時代の
宝石箱
のシトリン
シャルル10世(1820‐24)時代の
シトリンの首飾り 全部で200ct
”Star Burst ”
Bernd Munsteiner

 

 
US$146,500 で落札されたイヤリング アールデコ風のシトリンの指輪 5.9ct 26.3x7mm ムンシュタイナー の作品
 大量に採れる紫水晶を加熱処理して得られる黄水晶は,その美しさにも拘わらず,余りにも安価なため,一般の消費者からは,とかく軽視される運命にあります。 
 しかしながら丁寧に研磨された黄水晶は最上のゴールデン・サファイアに匹敵する魅力的な宝石となります。 
さらに、大きな結晶が大量に採れるため,腕利きのカッター達が自由に技術を駆使して,他の高価な宝石には見られないような凝ったカットが試され,斬新なデザインの宝飾品に仕上げられる宝石でもあります。
 前述の "Bahia" を研磨したローレンス・ストーラー、グレン・レーラー、ドイツのベルント・ムンシュタイナー等の宝石彫刻の作品は、世界中の博物館や美術館等に展示されています。
  1999年5月にジュネーヴのクリスティーズのオークションでシトリンとダイアモンドのイヤリングが146,000ドルと,破格の値段で落札されて話題となりました。
 オークションでの値段は,需要と供給で決まりますから,必ずしも一般的な相場とは異なり,どんなに価値のあるものでも落札者がなければ値段がつきませんし,反対にどうしても欲しい人が競り合えば天井知らずで価格が高騰する事もあります。
 このイヤリングの場合は後者の典型的な例です。 
どんなに高く見積もっても素材としては百ドル程度のシトリンの宝飾品がこれほどの高値で落札された事実は,安価な素材も使い様では素晴らしい宝飾品に仕上がるという格好の例です。
 ペンダント用に加工された5.9カラットのルースは背面のキュレットに斜めに平行な刻みを入れただけですが、金色の光の反映が華やかな効果を醸し出しています。

 

合成黄水晶 (Synthetic Citrine)
   ロシア製の合成水晶の結晶とルース
 
合成黄水晶 
右上 51x37x29mm 112g
オレンジ,ブラウン,金色,緑の結晶とルース 4.07ct 14.0x8.2mm  1.12ct Ø7.1mm  
 水晶の合成は,20世紀初頭にイタリア,トリノ大学のスペツィアが熱水法による合成に成功して以来,各国で積極的な研究が行われました。 
水晶の単結晶の圧電効果を利用すると極めて正確で安定した発振周波数が得られます。 
 しかし天然の水晶は大半が単結晶ではなく双晶なので,安定した単結晶の確保のために合成水晶の量産技術を確立する事が必要だったのです。
  第二次大戦後、主に軍事,通信と,産業用にアメリカ,ロシアと日本とで大型の単結晶の大量生産が行われ,こんにちでは年間1万トンを越える水晶が生産されています。
 その大半はエレクトロニクス用途で,時計,テレビ,電話,コンピューター,産業機器等,ほぼ全てのエレクトロニクス機器に広汎に水晶の発振子が組み込まれています。
 最近ではビデオ・カメラやデジタル・カメラにモアレ(干渉縞)を防ぐための光学フィルターとしても必須の部品となっています。
  かくして水晶無しには,現代の社会生活が成り立たないといっても過言ではありません。
 しかし宝飾用途となると,天然に大量の水晶が採れますから,合成水晶の出る幕は皆無に等しく,せいぜい年間10トン程度の紫水晶,黄水晶,緑の水晶,薔薇水晶,また天然にはない青い色の水晶が細々と,主にロシアで生産されているのみです。

 

Top Gemhall