赤銅鉱(Cuprite)
赤銅鉱(Cuprite) 12.97ct 12.1x10.7mm | |||
Emke Mine, Onganja, Windhoek, Namibia |
5.5cm | 孔雀石に覆われた結晶 10cm (Cuprite covered by malachite) Albert Chapman Collection, Australia |
単結晶 (Single crystal)
5cm Collection des Minéraux de la Sorbonne, Paris |
羽毛状結晶 Cuprite 8.3cm from the 1000 Level of the Cole shaft University of Arizona Collection |
秋田県協和町荒川鉱山 Arakawa Mine, Akita, Japan |
Emke Mine, Onganja, Windhoek, Namibia | Bisbee, Arizona, U.S.A. |
4.4x4.2x2.9cm | 赤銅鉱結晶 (Cuprite crystal) 100x70mm | 赤銅鉱結晶 (Cuprite crystal) 1.2x1cm | |
Sepan Mine, Savannakhet, | Onganja, Windhoek, Namibia | 淡青緑色はプランシェ石 :
Cu8・(OH)4Si8O22・H2O (Cuprite on blue-green planchéite) | |
Laos | Adalberto Giazotto Collection, Pisa, Italia | Mashambe West Mine, Katanga, Congo |
化学組成 (Composition) |
結晶系 (Crystal System) |
モース硬度 (Hardness) |
比重 (Density) |
屈折率 (Refractive Index) |
Cu2O | 等軸晶系 (Cubic) | 3½ - 4 | 6.15 | 2.849 |
名前と産状
ラテン語の ”cupurum : 銅 ”に由来する命名。ラテン語の語源は地中海で古来から銅の産出で名高いキプロス島に因む。ギリシア語で銅を意味する言葉は”chalkos ”
銅鉱床の酸化帯に自然銅、孔雀石、クリソコーラ、藍銅鉱等に伴って普通に産し、銅の含有率が89%と高く、重要な銅鉱石となる鉱物です。赤銅鉱は最も普遍的な銅鉱石である黄銅鉱(CuFeS2)が風化して 二次的に生成した鉱物と考えられています。
ダイアモンドやスピネル、ガーネット等と同じ、六面体や八面体,十二面体の結晶形の他に、針状、毛状、塊状、箔状等の多様な姿で世界各地の銅鉱床に広範に産します。
宝石質赤銅鉱結晶の発見
100カラットを越える赤銅鉱ルース (Faceted cuprites over 100 carat) |
46.07ct 25.6x14.2x9.8cm | 宝石質結晶 1.2x1cm Gemmy crystal |
Emke Mine, Onganja, Windhoek, Namibia | Mashamba West Mine, Congo |
赤銅鉱はしばしば透明な結晶で産しますが、大半は1mm程度の大きさしかありません。
したがって、赤銅鉱が宝石としてカット出来るとは考えられてはいませんでした。
ところが1974年にナミビア・ウィントフークのオンガンヤにあるエムケ鉱山で宝石質の巨大な赤銅鉱結晶が発見されました。
爆破によって開かれた晶洞の壁を覆う方解石上に10cmにも達する宝石質の赤銅鉱の結晶が多数発見されたのでした。
宝石質の巨大な結晶を含む晶洞はこの時が唯一の発見でしたが、この時に採れた結晶や、最大では300カラットもの赤銅鉱ルースが世界各地の博物館やコレクターの手に残されました。
その後1983年にコンゴのカタンガ州の世界的な銅鉱床帯にあるマシャンバ・ウェスト鉱山から数cmに達する宝石質の赤銅鉱の結晶が採集されました。しかしコンゴ産は透明度が低くカットされることはありませんでした。
写真のコンゴのマシャンバ・ウェスト鉱山産の1.2x1cmの結晶は20年余り昔のこと、宝石質の赤銅鉱結晶というカタログを見て入手したものです。届いた結晶は強い照明を当てると確かに半透明ではありますが、一見するとただの金属光沢の不透明な結晶でしかなく、いたく失望したものです。
冒頭の12.97ctのルースは、その後20年近く待ってようやく入手しました。1974年に発見された結晶を最近カットしたものですが、よくぞ今まで残っていたものです。
赤銅鉱の特徴
冒頭の3枚の写真のように一見すると金属光沢の強い、まるで不透明なヘマタイトのようです。透かしてみると濃赤色の内部に赤く煌く光が見えて、実は透明な結晶であることが分かります。暗闇で強い光を当てると、ようやく採れたての苺のような瑞々しく透明な赤い光が溢れ出て来ます。
赤銅鉱の屈折率、2.849は天然の宝石の中では最も高い値です。これは銅を主成分として比重が高いためですが、濃赤色のためにダイアモンドのように煌くわけではありません。またモース硬度が低いために傷つきやすく扱いには細心の注意が必要。酸化銅は大気中の湿気と二酸化炭素によって表面に孔雀石[Cu2(CO3)(OH)2]等が形成される可能性があります。
コンゴやナミビアの産地の結晶は表面を覆う孔雀石を酸で処理して赤銅鉱部を露出させたとあります。
と、典型的なコレクターの宝石でありますが、数ある稀少な宝石の中でも極め付けの一点といえるでしょう。
世界で唯一、1974年に一度だけナミビアのエムケ鉱山の晶洞から産出した巨大な結晶から採れただけの、まさに空前絶後の宝石です。
酸化金属結晶の宝石
酸化銅の結晶が宝石になるという事実は意外ですが、しかし金属の酸化物の結晶は宝石界では珍しくはありません ;
ルビーやサファイアは酸化アルミニウム(Al2O3)、スピネルは酸化アルミニウム・マグネシウム(MgAl2O4)、クリソベリル(アレクサンドライト)は酸化アルミニウム・ベリリウム(BeAl2O4)と、むしろ宝石の主流と言っても過言ではありません。
金属ではなく半導体ではありますが、珪素の酸化物(SiO2)は水晶や瑪瑙、オパール等々の宝石として地球上に大量、かつ広範に存在します。
いずれも自由電子が少ない軽い金属元素と酸素との強力な結合とで透明で強固な宝石質の結晶となるからです。
自然界には存在しませんが、ベリリウム、、マグネシウム、チタン、イットリウム、ガリウム、ガドリニウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル等の人工の酸化物は殆どが宝石質の透明な結晶となり、レーザーや光学機器等、最先端技術の分野における重要な素材として活躍しています。
キュービック・ジルコニア(ZrO2)は宝飾品の世界に転身してダイアモンドの代替品として年間数十億カラットも生産されているほどです。
赤銅鉱と金属の発色と光沢について
帯域理論で説明される赤の発色
辰砂(Cinnabar) 赤銅鉱(Cuprite)金属の反射率
赤銅鉱の赤い発色は、銅だから赤いのは当然と思われるかもしれません。金属の銅と酸化銅とは全く異なる物質ですが、赤銅鉱は自然銅と共に産しますから、微細な銅の結晶を含んで真紅に発色するサンストーンと同じ発色かと、当初は安易に判断していました。
ところが調べて見るとそうではありませんでした。
赤銅鉱のルビーのような色の原因は1984年に、辰砂(HgS :硫化水銀) の赤い色と同様に、主要成分の銅や水銀とは関係なく、エネルギー帯域(バンド・ギャップ)理論による発色であると解明されました
赤銅鉱や辰砂の結晶が可視光の中で黄色から紫に至る高い周波数のエネルギー帯域の光を吸収するために、赤い光のみが透過してくるためです。
この理論は下記に説明する金属の色合い、さらに無色や青、黄色等のダイアモンドの色合い等、様々な物質の色、さらに半導体の動作等広範な分野に適用される理論です。
因みに金属銅の赤い色は、光の反射率が赤と比べて緑から青への周波数帯域では急激に落ちるために赤く見えることが原因です。
一方、金の反射率は緑と青では銅より低いのですが、黄色と橙色の部分で銅よりは少し高いので金色に見えるのです。
銀、白金、アルミニウムは赤外線から可視光線を越えて紫外線に至るまでの広範な周波数帯域での反射率が殆ど落ちないので白く見えます。が、白金は青の周波数の反射率が強くやや冷たい光沢を持つ等、周波数帯域の反射特性の微妙な違いで、それぞれの色合いの違いは一見して分かります。
さて、金の色が黄色ではなく金色と呼ばれるのは、独特の金属光沢のためです。一般に金属には多くの自由電子が含まれています。
その働きで電気の良導体となり、高い熱伝導率がもたらされるのです。
金属の独特の光沢は光と自由電子の相互作用によって起こります ; 電磁波である光が当たると金属中に振動電界が出来ます。
これにより電子が加速され、電位が高いプラスと低いマイナスとの電気分極が起きます。このために金属表面に電子による遮蔽が起こって光が反射されます。さらに、電子は光が当たると多数の光子を放出します。その光子が他の電子に当たり、さらに多くの光子を放出するという連鎖反応が起こり、きらきらと光るのです。
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