ディアスポール (Diaspore)

 

 
 Diaspore 0.59ct - 5.02ct
Mugla, Turkey


0.59ct 7.9x4.7mm
    自然光(Daylight)        白熱光 (Incandescent light)
色変わりするディアスポール (Color change diaspore)
4.5ct 24.1X6.5mm 
Mugla, Turkey


 自然光下のやや緑を帯びた灰色 (Daylight)  白熱光下ではかすかに赤みを帯びる (Incandescent light)
   
 4.21ct
12.9x7.9mm
 5.02ct
15.5x6.6mm
 4.33ct
12.0x7.5mm
 4.21ct
12.9x7.9mm
 5.02ct
15.5x6.6mm
 4.33ct
12.0x7.5mm
Mugla, Turkey 


化学組成
(Formula)
結晶系
(Crystal System)
結晶形
(Crystal Form)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
AlO(OH) 斜方晶系
(Orthorhombic)
6½ - 7 3.3-5 1.697-745
 
     
31x29x13mm 結晶 6p ルース 3.5ct 
Paul & Janet Clifford Collection
Faceted Stones 26.97ct and 157.66ct  9cm 
Gail & Jim Spann Collection
Mugla, Turkey 
     
 結晶 13o  6.3cm
アメリカ自然史博物館 N.Y.
 左側の結晶 9x7o
 Emery Mine, Chester,
Massachusetts,
Corundum Hill, Union Ville
Chester Co., Pennsylvania 
 長野県上田市信陽蝋石鉱山
U.S.A.   Nagano, Japan

名前と産状(Name and Occurence)
   ディアスポール(一般的には英語の読みのダイアスポアと呼ばれています)の名はギリシア語の ”Diaspora : 離散する”に由来します。
 吹管で加熱すると結晶がぱちぱちと四散することからフランスの鉱物学者アウイが1801年に命名しました。
 化学組成から分かる様に成分の85%が酸化アルミニウムなので、不燃材やアルミニウムの原料として採掘されます。
 世界の変成石灰岩地帯、接触変成岩地帯、あるいはボーキサイトと共に30ヶ所以上から産します。
 日本はものの本によるとディアスポールの世界的な産地の一つとのこと。長年、何処で採れるのか不思議でしたが、
ようやく最近になり長野県の蝋石鉱山産の標本を最近入手しました。
 宝石質ではもちろんありませんが、蝋石中に1p弱の大きな結晶と、その他小さな無数の結晶が入っています。

 かつてマサチューセッツ州、チェスターのエメリー(研磨用の鋼玉)鉱山から産出した宝石級の結晶がファセット・カットされた
ことがあったとのことですが,もちろん数も少なくディアスポールが宝石界に知られることはありませんでした。 
したがって宝石の専門書にも記載すらありません。
 さすがにラルース社の宝石事典と新宝石事典(久米武夫著)には写真はないものの言及されています。
 しかし1980年頃からトルコのムーラ (Mugla) 地方の Menderess 山脈にて、写真のような大きな結晶が採れるようになり、
今日ではほぼ世界で唯一の宝石質のディアスポールの供給源になっています。
 
 トルコ産のディアスポールは光源の違いに依って淡褐色、淡緑灰色、淡朱色と様々な色彩を帯びて見えます。 
これらの発色は微量に含まれる鉄とクロムイオンに因ると考えられています。
  

 Name derives from Greek "Diaspora : to scatter , in allusion to the usual decrepitation in the blowpipe flame.
Because of high aluminium contents of 85%, diaspore is mined as aluminium ore and incombustible material.
Diaspore is found in hydrothermal vein as a product of alteration Al-rich minerals, e.g. andalusite typically with
pyrophyllite and corundum, metamorphic in Al-rich rocks; a constituent of bauxites. Tabular crystals up to 120mm
in size come from Menderess, Turkey; also from Naxos, Greece; and Chester, Massachusetts, U.S.A.
 Once gemmy crystals from Emery mine, Chester, were faceted. But diaspore remained only as collector's stone
and diaspore were hardly mentioned in literetures.
 Since 1980's, however, a new locality of gemmy large crystals was discovered, in Mugla Province, Menderess Mtns.,
Turkey, and faceted stone started to appear in the market.
 Diaspore shows slight color change under different lighting conditions ; pale brown to pale greenish gray under daylight,
and pale red under incandescent light.
It is due to minor iron and chromium impurity, replacing aluminium.



トルコのディアスポール鉱床


     
 エーゲ海に近いメンデレス山中の鉱山所在地  熱水性の結晶大理石破砕帯と変性ボーキサイト岩中のディアスポール鉱脈  宝石質結晶

   トルコ南西部のエーゲ海沿岸のムーラに近いメンデレス山地にてディアスポール鉱床が発見されたのは1949年でした。 
調査の結果アルミニウム資源(ボーキサイト鉱床)として1972年に国有鉱山による採掘が開始され、鉱山会社は20万トンの全ての鉱石を
アルミニウム資源として採掘し、出荷しましたが採掘は1982年停止されました。
 
一方この結晶の宝石用途に注目した村人によって1978年から1982年までの4年間に10トン近い結晶が宝石用途として違法に輸出されました。 
この時期にツーソンショーやミュンヘンショー等に姿を見せたルースはこういう出どころからでありました。
 アルミニウム資源及び宝石結晶の採掘を目的に民間資本による採掘が再開されたのは2005年でした。
元々、灰色や淡褐色の魅力に乏しい色合いの上に、一般になじみの薄いディアスポール(英語ではダイアスポアと発音され、
Die:死を連想させる不吉な発音)では到底人気のある宝石にはなり得ませんが、2010年頃から白熱光と自然光によりアレクサンドライト効果
を示す結晶が産出されたために、ダイアスポアではなく、トルコの皇帝、スルタンを意味する”スルタナイト : Zultanite ” 同じくロシア語で
皇帝を意味する ”Tasari : ツァ-リ” に因む "Tsarite", さらにトルコの特産宝石であることから "Turizite" 等々、様々な名称で売り込みが
試みられているようですが、率直なところ、どんな名称であれ、宝石として成功するとは考えられません。

  
 ごく最近採掘された巨大な結晶 17.5p Smithsonian Collection
   
 白色LED照明  ハロゲンライト照明

 
ごく最近 (2020年春のツーソンショー)、従来とは全く異なる大きく美しい色合いの結晶が姿を見せるようになりました。
積極的な探鉱と採掘活動により、新たな鉱脈が発見されたものと思われます。 
上の写真、更に下記の写真で見られるような魅力的な色合いと透明度の高い大きな結晶が今後も採集され続けるようであれば、
ディアスポールが魅力ある宝石として普及してゆくかもしれません。


色変わりを示すディアスポール(Color change type diaspore)

   2020年のツーソンショーに出品された結晶とルース
(Crystals and cut stone presented at 2020 Tucson Show)
  
白熱光
 (Incandescent light) 
 
自然光(Daylight)   白熱光
(Incandescent light)
自然光 
(Daylight)
白熱光 
(Incandesent light) 
 自然光
(Daylight)
 31x23x13o   80ct  2cm 1.3cm 
ムーラ (Mugla),, ピナルチク(Pinarcik), Turkey    
 1980年代からトルコ産のディアスポールがカットされ、市場に流通し始めましたが、余りにも稀なこと、さらに見映えのしない色合いのために、
依然としてごく一部のコレクター向けの存在でした。
 しかし2005年頃から写真のように色変わりを見せるものが出現し ”Zultanite(スルタナイト)”の商品名で宝石市場に出回り始めました。
 トルコの最南西部のエーゲ海に近いムーラ (Mugla) 近郊の標高1200mの山地に20平方kmに及ぶ鉱床があるとのこと。
  トルコ特産と言える宝石故、トルコの皇帝(スルタン)に肖った命名です。
 この色変わりは前述のように微量の鉄とクロムイオンとによる発色によります。
 白熱光ではクロムによる赤味を帯びた色合いが、自然光では鉄イオンによる緑を帯びた色が強調されて見えます。
 冒頭のルースと上の写真の結晶も実はこの20年ほどの間に時間を置いて個々に入手したものですが照明により、また見る方向によって
多色性を示します。
 ただし、いずれの場合も灰白色の地にうっすらと着色して見えるといった程度にすぎません。
 新たに発見されたものは不純物の濃度が高く濃い目に発色するようです。
 
 ネット市場では最近、同様に、あたかも上質のアレクサンドライトのような極端な色変わりを謳い文句にカラット当たり数万円の値段で
少なからぬ数量のディアスポールが出品されています。
 が、実物は冒頭の写真のように、至って見映えのしないルースが殆どで、到底宝石と呼べるような水準ではなく、単に稀少性のみが
話題になるだけのコレクター・ストーンに過ぎません。
 
 Diaspore has been a typical collector's gemstone due to extreme rarity and sleepy graysh color. However, since 2005's,
a diaspore named "Zultanite" showing a weak alexandrite-like color change appeared in gem market.
The deposit of Mugla near Aegean Sea is in the south-eastern Turkey at an elevation of 1200m and spans thousands of acres.
 The color in the picture is manipulated to intensify the color change.
The actual color change is as example of crystal in the right photo.

 スルタナイト模造ガラス
( Zultanite Immitation Glass )
   スルタナイト模造合成スピネル
( Zultanite Immitation Synthetic Spinel

スルタナイト模造ガラス( Zultanite Immitation Glass )    スルタナイト模造合成スピネル (Zultanite Immmitation Synthetic Spinel ) 
       
 自然光(Daylight)  白熱光(Incandescent light)   自然光と白熱光
(Daylight & Incandescent Light) 
蛍光灯(Fluorescent light) 
      8.30ct 13.4x11.5x7.40mm   S.G. : 3.609  R.I : 3.57  

  最近ネット市場に人造スルタナイトと称する石が登場しました。
一見すると、自然光では灰色を帯びた緑を、白熱光では赤みを帯びた色合いへと色変わりを見せ、天然のディアスポールにそっくりです。
 これは、セラミック・ガラスに恐らくネオジウム系の希土類元素を添加した模造品です。
イスタンブールのバザールにある宝石店では、このイミテーションをトルコの特産、スルタナイト(Zultanite)と称して宝飾品やルースを目をむくような値段で売っていますから要注意です。

 Recently, so-called artificial Zultanite appeared on net auction market.
This stone shows alexandlite like color change : grayish green under daylight and reddish gray tone under incandescent light,
which extremely resembles that of natural diaspore.
 This stone is actually a glass-cerramic immitaion, probably doped with rare-earth element like neodium.

 ガラスに加えて、スルタナイト合成石と称する石も現れました。 これは前述のセラミック・ガラスではないかと思っていたのですが、
写真の色合いが異なるため、入手して調べたところ、自然光と白熱光下ではシトリンのような明るい茶橙色ですが、蛍光灯下では
緑色に見えるという、これまでのアレクサンドライト系とは異なる色変わりを示しました。
  手持ちの反射率換算屈折率計では屈折率が 3.57 と、クリソベリル、グロシュラー・ガーネット、スピネル等の値を示しました。
アルキメデス法による比重の測定にて 3.609 の価が得られましたが、屈折率と共に勘案するとこれは合成スピネルと 判断します。
 この色変わりの原因はランタノイド系の、おそらくはネオジウムを主とする元素の添加に因るものと思われます。

 In addition to glass immitation, another type of so-called synthetic zultanite appeared, which first, I considered the glass immitation.
However, since color change seems to be quite different from glass immitation, I purchased the new type and checked the stone.
Indeed, this new stone showed strange color change pattern : orange red under daylite and incandescent illumination, and green under fluorescent light, which is totally different from conventional alexandrite type color changes !!!
Refractive Index by Gem'n eye refractivity meter showed 3.57, and specific Gravity by Archimedes method showed 3.609, that reveals this stone is spinel, great probably, lantanoid-series element doped flame-fusion type synthetic spinel.