灰鉄柘榴石(Andradite Garnet)

デマントイド(Demantoid)

ロシア、ナミビア、マダガスカルとイタリアのデマントイド 0.22−4.04ct
( Demantoids from Russia, Namibia, Madagascar and Itlia )

 

デマントイドの宝飾品(Demantoid jewelries)
ルース (Faceted demantoids) 3〜5mm 19世紀末ー20世紀初頭の作品
(End 19C to early 20C)
”La Vieille Russie”製作
エドワード朝時代のブローチ
(Edwardian epoch)
(large demantoids) 1.03-1.30ct
Namibia Ural Mtns. Russia

 

 数多い宝石の中で,デマントイドはかつてはロシアのウラル山脈がほぼ世界で唯一の宝石質のデマントイドの産地でした。
 アンドラダイトは比較的稀なガーネットでありますが,稀にカットされるルースは高い屈折率とダイアモンドを凌ぐ高い分散率とで見事な煌きとファイアーを見せる宝石となります。
 ウラル産のアンドラダイトはクロムを含む事で輝かしいエメラルド色となり,その美しさと稀少性とでダイアモンドに匹敵する宝石としての地位を得たのでした。
 かつては稀少な宝石を代表するダイアモンドはしかし,20世紀初頭のアフリカでの大鉱床の相次ぐ発見,さらに20世紀後半にはシベリア,続いてオーストラリアのアーガイル鉱山,ナミビアのオラパ鉱山等々巨大な鉱山の開発により,原石では1億カラット,ルースでも1500万カラットと,あらゆる宝石の中で最大の供給量のある宝石へと変貌しました。
 一方ウラル産のデマントイドはロシア革命により宝石の採掘が途絶え,以降20世紀末まで市場から殆ど姿を消して幻の宝石となっていました。
 1991年のソ連崩壊によりようやく採掘が再開され,さらにアフリカのナミビアやカナダ等の新たな産地の発見,また2002年には従来のウラルの産地でも豊穣な一次鉱床の発見,2009年にはマダガスカル最北西部にて初生鉱床の発見があり、再びデマントイドが市場を賑わすようになりました。

ウラル山脈のデマントイド(Demantoid from Ural Mtns.)
シベリアの針葉樹林と草原の中のデマントイド鉱山

ウラル山脈のデマントイド産地
(Demantoid localities in Ural Mtns)
ポルドネヴァヤの鉱床
(Poldnevaya deposit)
ヴァブロフカ川流域の沖積鉱床
(Alluvial deposits along Bobrovka River)
デマントイドの発見と命名
 ウラル山脈で最初にデマントイドが発見されたのは1853年、エカテリンブルクの北 115km の Nizhniy Tagil 村から南西に 20km 程のヴァブロフカ (Bobrovka) 川のせせらぎにて、緑色の透明な小石を子供が拾い上げたことが発端でした。その後,同じエカテリンブルグの南、75kmの Sissertsk 地方、ポルドネヴァヤにさらに高品質のデマントイドの鉱床が発見されました。
 土地の宝石商は,それが当時はクリソライトと呼ばれていたペリドットと考えました。 が,余りにも深い緑色はエメラルドとも思われ,新たに発見された宝石は ”ウラル・クリソライト、シベリア・クリソライト”,”ヴァブロフカ・エメラルド、ウラル・エメラルド” 等々と様々な名称で呼ばれていました。 
 当時,欧州の教養人の間では鉱物採集は高尚な趣味として人気がありました。
帝政時代のロシアでは欧州嗜好が強く,貴族社会では日常フランス語を話していたほどです。
 したがってロシアの上流階級の人たちの間にも鉱物採集熱は大流行でしたから,大都会のエカテリンブルグから遠くない場所で発見された新しい宝石を求めて、人々がタージニイ・ニギール村に殺到したのでした。
 採集された宝石は間もなく、モスクワやサント・ペテルベルグの宝石店に、エナメル細工やピンク・トパーズやベリル,エメラルド等、ウラル山脈特産の大きな宝石を縁取る緑の小さな飾り石として姿を現わしました。
 この鉱物がしかしクリソライトではなく、クロム発色のアンドラダイト・ガーネットであると識別し、1864年にサント・ペテルブルグでの鉱物学協会へ発表したのは、1833年に同じくウラル産の新鉱物フェナス石の命名者であったフィンランドの鉱物学者, ニールス・フォン・ノルデンスヘルト(Nils von Noldenskiöld) でした。
 そして1878年、ノルデンスフェルトは高い屈折率と分散値とによりダイアモンドのような煌きとファイアーを見せるこの新種のアンドラダイトに、オランダ語で”ダイアモンドのような”を意味する”デマントイド”と命名しました。何故オランダ語による命名となったのかといえば,当時からオランダが世界のダイアモンド取引と加工との中心地であったからです。
 大半のデマントイドは0.5ct以下の小さなルースで、全てがエメラルドのような濃い緑色のものばかりではありませんでした。が、当時橄欖石(ペリドット)や金緑石(クリソベリル)等の黄緑色の宝石は欧州全般でもっとも人気のあった色合いでしたから,新たに加わったデマントイドは非常に高価ではありましたが,ファベルジェのような宝石細工商によって,主に欧州の王室や世界の富豪を顧客とする最高級の宝飾品として使われたのでした。
 とりわけ新種の宝石を積極的に扱っていたニューヨークのティファニー宝石店では責任者のクンツ博士がウラル産のデマントイドを大量に買い占めました。
 ロシアは1917年の革命以降、ソヴィエト連邦となってからは鉱業資源の開発と採掘とを重視して、宝石の採掘は殆ど無視されたためデマントイドの供給が絶たれました。
 ティファニー宝石店の在庫が20世紀半ばまではほぼ唯一の供給源となり、在庫が尽きてからはデマントイドは幻の宝石となったのでした。

その他のロシアのデマントイド産地 

ロシアでは1980年頃にカムチャッカ半島で宝石質のデマントイドが発見されました。 高品質ではありましたが、結晶は2〜3mmと余りにも小さいため市場に流通するには至らなかった思われます。
 また1985年にはウラル山脈の北極圏、Hulga川流域にて一次鉱床と崩積鉱床とが発見されました。6〜8mmと比較的大きく色の濃い宝石質の結晶が採集されましたが、余りの僻地のためその後の調査や採掘は行われていないようです。
 さらに1995年にも同じウラル山脈,北極圏の Hadata 川流域の Saum−Kef 角閃岩山塊にて一次鉱床と 1kmの長さの崩積鉱床とが発見され、翌年から調査が行われる予定との事ですが,その後情報は途絶えています。
 
崩積鉱床とは,一次鉱床が風化してその直ぐ近くに残された鉱物や宝石が堆積している鉱床です。
 デマントイドはモース硬度が6½と比較的に低く磨耗し易いため,長い距離を流されて堆積する漂砂鉱床には発見されないため,主に崩積鉱床で採掘されます。

ウラルのデマントイドの復活と新鉱脈の発見
漂砂鉱床の結晶 4.62 - 6.63ct
(Demantoids from alluvial deposit)
Bobrovka川での採集   1.64〜5.40ct NizhniyTagilのデマントイド鉱床
斑糲岩脈(赤)に噴出した黄緑色
の橄欖岩,角閃岩,蛇紋岩中の
初生鉱床(黒丸)と緑色の漂砂鉱床
Sissertskのデマントイド鉱床
紫色の玄武岩-堆積岩脈中に噴出した
黄緑色の橄欖岩,角閃岩,蛇紋岩中の
初生鉱床(黒丸)と漂砂鉱床(濃緑色)
 ウラル山脈でのデマントイド採掘が復活したのは1991年のソ連崩壊後のことです。産地の近隣の村人たちによる個々の採集によるものでしたが,年間数kg程度の結晶が世界の市場に再び流通し始めました。実に一世紀近くの間途絶えていた供給が復活したわけで、数量は少ないながらも、ともあれ宝石市場で再びデマントイドを入手する事が出来るようになりました。 
 ウラル山脈の2ヶ所のデマントイド産地では蛇紋岩化した角閃岩脈中の1.5〜2cmの厚さの石綿の層の中に結晶が発見されますが、一次鉱床の結晶は何故か結晶標本級の品質で、昔から崩積鉱床からのみ宝石質のデマントイド結晶が採集されてきました。
豊穣な鉱床からは1立方m当り80gの水磨礫が採れますがその80%は直径4mm以下の大きさでしかありません。したがってカットされるルースも大半は0.2カラットと小さなものです。 
 ロシアのデマントイドに詳しい Pala International の Bill Larson の情報では1999年に市場に出たデマントイドで3ctを越える大きさのルースは4個に過ぎなかったとのことで,デマントイドの大きなルースは非常に稀です。 記録にある最大のルースは9.8ctです。 
     
ウラルの一次鉱脈の発見 (Discovery of In-situ deposit)
ついに発見されたデマントイド
の一次鉱床
Kladovkaの一次鉱床  採集したデマントイドを整理する
B.Larson(左)と Kuznetsov
 新たに発見された鉱脈のデマントイド
ノジュールとルース 3.31,4.21ct
 ウラル山脈のデマントイド産地では何故か宝石質のノジュールは全て崩積鉱床からのみ発見され,一次鉱床から発見される結晶は標本質のみでありました。 
 しかし必ず宝石質の結晶を含む一次鉱床が存在する筈です。
  2002年2月に本格的な鉱脈の探鉱が始まりました。
 この試みは,アメリカのカリフォルニア州に本拠を置く宝石鉱物専門の Pala International 社とモスクワの Nikolai Kuzunetsov とがスポンサーとなってエカテリンブルグの探索チームと行ったものです。
 探索はエカテリンブルグ南西の Sissertsk 地区,Kladovka 市から 10km 程の帝政ロシア時代の旧鉱山付近で2002年5月に開始されました。厚い針葉樹林と草原とに覆われた旧鉱山での探索は困難を極め, ほぼ諦めかけていた7月に遂に豊穣な鉱脈が発見されました。
 鉱脈は500x200mの範囲の地下12mの深さに存在します。
Pala International 社が獲得したのはエメラルド・グリーンから褐色を帯びた緑,黄緑と,種々の色合いのノジュール8.3kgで,そのうち600gは最上の品質でありました。
 かなりのノジュールが1ctを越えるルースにカットできる大きさですが,しかし3ctを超えるほどのル−スは稀にしか得られません。最大では6.71ctのルースが得られました。
 同じ Sissertsk 地域の Karkodino 産デマントイドの大部分が茶褐色を取り除くために単純な加熱処理が必要とされるのに対し, 新しい Kladovka 鉱山産のものは殆どその必要がないとの事です。
ウラル産デマントイドの特徴
 
ウラル産デマントイド 0.27−4.04ct
2.065ct 8.40x6.25x4.84mm 
Ural Mtns. Russia 


4.04ct 11.0x9.7x4.8mm 1.02ct 6.8x5.7mm 1.00ct Ø6.1x3.80mm 0.79ct 5.7x4.8mm 0.81ct 7.0x5.0mm

  ウラル山脈のデマントイドは他の産地と比べて,大きいこと、濃いエメラルド・グリーンの色合いを持つこと,さらに”ホース・テイル”と呼ばれる放射状のインクルージョンを持つ事が特徴です。ウラル産のデマントイドが大きいと言っても平均では直径が3〜5mmで0.5ct以下のものが大半です。
 2カラットを越えるものは非常に稀でカラット当り2000〜3000ドル、最上の品質では1万ドルと最も高価な宝石です。
2.065カラットのルースは、最近入手しました。 内包物が殆どない、素晴らしく透明度が高い、デマントイドとしては稀に見る美しいものです。 日本のコレクターが、さらに上等なルースに買い替えるために放出した品なのだそうです。
 ウラル産デマントイドのクロム含有率のデータを捜して30冊余りの資料に当りましたが,化学分析データは見つかりませんでした。他の産地については調べられているのに不思議です。
 同じガーネット族でエメラルド色のツァヴォライトには酸化ヴァナジウムが体積比で最大3%ほど含まれています。デマントイドは主に酸化クロムによる発色ですがヴァナジウムとクロムとは類似した特性ですから,恐らくウラル産デマントイドのエメラルド・グリーン色の最上級の結晶にも1%程度の高い比率の含有率があると考えられます。
 この高いクロム含有率が他の産地の淡黄緑色のデマントイドと比べて,際立って輝かしいウラル産デマントイドのエメラルド・グリーンを演出しています。
 近年ナミビアやマダガスカルからも透明度が高い宝石質の大きなデマントイドが出始めましたが、しかしその色合いは主に鉄イオンによる発色です。
 冒頭の写真からも明らかなように、クロム発色によるウラル産のデマントイドの輝かしい色合いは他産地とは比較になりません。
 ”ホース・テイル (Horse tail)” インクルージョン 

 ホース・テイルとは、その名の通り ”馬の尻尾” のような放射状を見せるデマントイドに特有の包有物です。
正確には角閃石や蛇紋岩質の変成帯に生成するデマントイドに含まれます。
 その正体は、かつてはビソライト (Byssolite : 繊維状の角閃石の古い呼び名) とされて来ました。が実際には繊維状の石綿です。
 イタリアのマレンコ渓谷、ベルギー領コンゴ、スリランカ等で発見されたアンドラダイト、トパゾライト、デマントイドにホース・テイル状の包有物が含まれます。

 したがってウラル産に特有のものではありません。
しかし市場に流通するデマントイドの大半はウラル産で,ホーステイルを含むものが目立つためしばしば言及されます。
 ウラル産にはさらに透明な針状の透閃石結晶もインクルージョンとして見られます。 
 インクルージョンは一般には宝石の価値を著しく損なうものですが,余りにも稀少な宝石なのでデマントイドに限っては,あえてホーステイルが中心に目立つようにカットされるのが慣習となっています。
 一方近年発見されたナミビアとマダガスカルのデマントイドは石灰岩層に貫入した火成岩による変成作用で生成したスカルン起源です。当然ながら石綿のホース・テイルは含まれません。
 
    マレンコ渓谷のデマントイド (Demantoid of Val Malenco, Italia)
Chiesa(キエサ)を中心に20km四方
に広がるマレンコ渓谷 
 北側はスイスのサンモリッツ地方
マレンコ渓谷西方遠望
中央奥 Sissone山(標高3330m)
右Vazzeda峰、左はChiareggio山峰群
Chiesaの町の巨大な蛇紋岩の壁
高さ数十mはあり,現在も石材の
採掘が行われている


宝石質結晶 8.0x7.3mm 結晶 9.01x9.42mm
Museo de Storia Naturale de Milano, Italia
1.32ct 7.3x6.8mm 0.31 −0.91ct

 

1962年にフランス脈から産出した
デマントイド 左の結晶 8mm
トパゾライト 
中央の結晶 12mm
石綿に包まれたデマントイド結晶
幅65mm
 ウラル山脈からの供給が途絶えた20世紀半ば以降、イタリア北部のマレンコ渓谷がほぼ唯一のデマントイド産地として多くの資料に語られ続けました。
 マレンコ渓谷は古くから蛇紋岩の産地でしたが、その他にも資源とはなりませんが至るところで実に多彩な鉱物を産する土地です。
 上左の図の記号は蛇紋岩,角閃岩,片麻岩、花崗岩等の地層に発見されるチタン鉄鉱、鉄,ニッケル,銅、鉛、亜鉛、マンガン,銀、等の鉱脈を示したものです。中央の写真と図は、その一部のシッソーネ山地域の鉱物産地です。 
 中央のヴァツェッダ峰の中腹から谷に至る狭い範囲には,実に1〜15の数字で示される5ヶ所のペグマタイト脈,5ヶ所の石灰岩脈、2ヶ所の大理石脈、それに斑糲岩等の脈で、多くのペグマタイト性の鉱物の他に、柘榴石、ベスブ石、スピネル、スフェーン、緑簾石等が発見されます。
 デマントイドはマレンコ渓谷の中心地,キエサの町の北,1km程の、蛇紋岩の割れ目や蛇紋岩が変質した石綿の中に結晶群として産出します。分析の結果はアンドラダイト成分が98%以上を占めるほぼ純粋なアンドラダイトです。ただし酸化クロム含有率は低く、検出限度以下から0.02%と緑黄色が大半ですが、稀に0.5%を越える結晶はデマントイドと呼べる緑色を示します。
 現在も蛇紋岩の採掘が行われているため、石綿に包まれた結晶標本は安定して市場に流通しています。
しかしルースとしてカットされる例は殆ど無く、市場で見る機会はまずありません。
 写真の1.32ctのルースは私自身が2000年に現地を訪れた際に偶然見つけた標本店で入手したもの。0.31−0.91ctのルースも Gems& Gemology Winter 2009 の記事のためにテスト用にカットされたものです。
 またウラル産に見られるホース・テイルと呼ばれる放射状の石綿繊維のインクルージョンが見られるルースも存在します。 
 上左側の写真はクロムの含有率が1.3%と高く、ウラル産の最上のデマントイドに匹敵する見事な標本ですが、1962年にフランス採石場で採集されたもの。

 

ナミビアのデマントイド(Namibian demantoid)

 

 ナミビア デマントイド 1.50 - 0.58ct
(Demantoids from Namibia) 
1.50ct 7.9x5.1mm 0.78ct Ø5.2x4.60mm 0.78ct 6.2x4.4mm 0.98ct 7.0x5.0mm
Tubsis Namibia Usakos, Namibia


Erong Mtns. Namibia デマントイド結晶 1cm 
Erongo Mtns.
デマントイド結晶
3.87 13.52ct 
Usakos
  1990年代半ば以降にナミビアのエロンゴ山周辺の Omaruru と Usakos 間の何ヶ所からデマントイドの産出が報告されるようになりました。多くは手作業による小規模な採掘ですが重機を導入するほどの鉱山もあって,得られたデマントイドの大半はタイのバンコクで宝飾品に加工されています。
 鉱脈は花崗岩と石灰岩との接触による変成作用で生成したスカルン地帯に発見されます。 
2002年夏時点での生産状況は月産8kgで,そのうち2kgが宝石質で大半は0.3〜1gの大きさで直径3〜5mmのルースにカットされます。
 1997年時の報告ではナミビア産のデマントイドはクロム含有量が0.02〜0.13wt.%と低いため淡黄緑色との事でしたが,その後Tubsiss にクロム含有率の高い新たな鉱脈が発見され,産出する宝石質結晶の15%はトップ・グリーンです。
 冒頭の写真の左下、透明度の低い黄色味の強いのが一般的な標本級のナミビア産デマントイドです。
上の写真の5点は透明度が高い宝石質のツブシス産デマントイドです。
 爽やかな緑色は主に鉄イオンによる発色です。また、スカルン起源のためにホース・テイル・インクルージョンはありません。
 鉱脈により品質にはかなりの差があると思われますが,いずれにせよ安定した採掘が行われていることは確かです。最近ではナミビア産のルースは宝石市場にてまとまった数量を見かけるようになりました。 
 品質によりカラット当り500〜1500ドルくらいの水準です。


マダガスカルのデマントイド(Malagasy Demantoid)
 

2.8cm 2.9cm
1.75ct 6.6x6.1x5.1mm 2.23ct 8.6x7.3x4.9mm 方解石と石灰岩上のデマントイド
(Demantoid matrix on calcite and limonite)
トパゾライト(Topazolite)
46x41x29mm
Antetezambato, Northern Madagascar


干潮時のマングローヴのデマントイド鉱床と満潮時の状況
(Demantoid pits and damps in a mangrove swamp.

(Pits and tunnels are entirely flooded by tidal water)
標本を持つ鉱夫

      
 2008年半ばにマダガスカル島北西部のマングローヴで蟹漁をしていた漁師が透明な緑の石を発見しました。
 首都のアンタナナリボにもたらされた石が、ロシアのウラル山脈産に匹敵するデマントイドであると判明し、1年後にはマダガスカル中の鉱山の鉱夫2000人が"緑のサファイア”を求めて熱帯のマングローヴ林に殺到し、掘り返し始めた次第。        
 500mX500mの鉱区の上部には風化した石灰岩から剥れた結晶が得られますが、実はその下層部には砂岩と石灰岩層に貫入した煌斑岩 (Lamprophyrite : 主として黒雲母、角閃石、輝石など火山性の有色鉱物から成る) の暗色岩脈と、その貫入により生成されたデマントイド結晶を含むスカルン脈が網目のように走っています。したがって10m余りの深さのトンネルを掘れば宝石結晶は容易に採れるのです。
 しかしマングローヴ湿地帯は満潮時には水没してしまい、毎回手作業で深いトンネルの水を汲みだすという恐ろしく厄介な作業が必要となります。 したがって、原始的な作業での採掘は不可能となり、2010年秋には20〜30人の鉱夫が残って採掘を続けているのみです。
 発見からこれまでに試掘されたデマントイドは全埋蔵量の4%程度に過ぎないと考えられています。
代わりにマダガスカルとイタリア、ドイツとのジョイント・ヴェンチャーが2010年12月に正式な権利を得て、近代的な採掘を検討しています。
 海水侵入の問題が解決できれば、将来膨大な量の結晶標本と宝石質のデマントイドの採掘が期待できます。

マダガスカルのデマントイドの特徴

 分析の結果ではアンドラダイト成分が99%以上を占める、ほぼ純粋なアンドラダイトであると判明しました。
 さらにクロムの含有量は極めて少なく発色に寄与していないことも明らかになりました。
 したがって緑と、やや青みを帯びた発色は三価の鉄イオンに因ると考えられています。
またセリウム、ランタンやセリウムなど、軽質量の希土類元素が高い濃度で含まれており、一部の石に現れる光の違いによる色変わりの原因であると推定されます。
 褐色のトパゾライトの発色は、一般には鉄とチタンによる格子間電荷移動が原因ですが、マダガスカル産には殆どチタンが含まれていません。したがって二価と三価の鉄イオンとの反応、さらに三価の鉄イオンの四面体配位との組み合わせが関与していると考えられます。
 と、マダガスカル産のデマントイドはロシアのウラル山脈産とはかなり異なる特徴を持っています。
が、ともあれ、最上級の結晶は紛れも無くロシア産に匹敵する素晴らしい透明度と深い色合いを見せるデマントイドです。
  

 

カナダのデマントイド (Canadian demantoid)

 1940年代初めにカナダ・ケベック州のブラック湖のアスベスト鉱山からデマントイドの産出が報告されました。
1994年ごろからごく限られた数のカットされたルースが市場に出回り始めました。
大半は0.5カラット以下ですが、記録では最大で2.74ctがありました。
ホース・テイルの包有物は見られず、クロムの含有率が0.01%以下と低く、中にはデマントイドとは看做されずアンドラダイトと呼ばれるものも含まれます。

 In early 1940', demantoid was reported from an asbestos mine at Black Lake, Quebect, Canada. Although most of the stones cut thus far are smaller than 0.5ct, larger ones have been faceted(e.g.1.08, 1.38 and 2.74ct). Chromium content is less than 0.01% and horse-tail inclusion was not reported.
Demantoid
(0.34ct
Andradite
(0.39ct)
Black Lake, Quebec, Canada
5.6cm 5.6cm
Lac d'Amiant Mine
径1875x1560m 深さ375m
Black Lake, Quebec, Canada
Green Andradite : Marco Amabili Collection
 
アメリカ ベニト郡のデマントイドとトパゾライト
(Demantoid and Topazolite from San Benito Co., California, U.S.A.)

Andradite crystals Topazolite crystals Cats'-eye andradite
San Benito Co., California, U.S.A.
 世界で唯一の宝石質のベニト石を産するアメリカ,カリフォルニア州のベニト郡からは1949年にアンドラダイトが発見されました。長い間正確な産地は秘密とされていましたが,1999年になって,ようやくそれが有名なベニト石の鉱山から僅かに北西に12km離れた場所であることが明らかにされました。 蛇紋岩中の割れ目や晶洞の中に結晶が存在する一次鉱床とその下部に広がる崩積鉱床とが何ヶ所からも発見されています。 
 アンドラダイトは、時に宝石質の黄−褐色の灰礬柘榴石やベスブ石、透閃石、チタン鉄鉱、方解石、磁鉄鉱等の変成作用地帯に特有の鉱物と共に見つかります。
 稀ではありますが、宝石質のアンドラダイト結晶からは0.2〜1カラット程の大きさのファセットカットのルースや、1/3〜3カラットの半透明〜不透明なカボションがカットされます。他の産地にはないキャッツ・アイ型があるのもサン・ベニトの特徴です。
イランのデマントイド(Demantoid from Iran)
0.12 - 1.13ct 0.24ct Ø3.6mm 結晶 15mm  4cm
Kerman Province, Iran Belqeys Mtn. Takab
West Azerbaijan Province

 イラン南東のケルマン地方にて2001年頃からクロムに富むデマントイドが発見されました。
最大では3p余りの12面体の端正な結晶が得られますが、内包物が多く殆ど不透明なため、宝石用のルースとしてカット出来るものはごく僅かです。
 稀に最大で1カラット余りの大きさの暗緑色の標本級のルースがカットされています。
さらに2010年には北西部の西アゼルバイジャン州 Belqeys 山岳地帯で最大で7pに達する巨大な結晶が発見されました。
 ただし品質はケルマン地方産のものと同じく、標本級です。
                                      
Top Gemhall