アジアのエメラルド(Asian Emerald)
幅 14cm 哀老山 雲南省 中国 (Yunan China) |
高さ 16mm Emmaville NSW Australia |
長さ 43mm Panjshir 渓谷 Afghanistan |
結晶 35x25x21mm Mingola Swat Valley Pakistan |
幅10mm Sankali Taruka Salem地方 Tamir Nadu州 Southern India |
アジアでは紀元前からバクトリア地方にエメラルドを産し、シルクロードを通リ、はるばると古代ギリシアやローマ帝国等へ運ばれていたことが近年の研究により明らかにされています。
バクトリア地方は現在のアフガニスタンやカザフスタンの一部に相当する地です。ヒンズークシュ山脈中の辺鄙な高地にあるエメラルド産地はその後永らく忘れ去られてしまいましたが、20世紀になって再発見されました。
アジアではその他パキスタン、インド、中国、オーストラリア等、各地にエメラルドが発見されています。
エメラルドとは言っても、しかしアジア産エメラルドの大半は結晶標本級が殆どで、宝石質の結晶は稀で産出量も少なく、主産地のパキスタンとアフガニスタンを合わせても年間産出量は3万カラット程度と、世界のエメラルドの1%にもなりません。
量は少ないのですが、しかしパキスタンとアフガニスタンの最上級のエメラルドはコロンビア産のそれに匹敵する素晴らしいものです。
とりわけアフガニスタンのパンジシール渓谷産のエメラルドは世界で最も高品質のコロンビアのムソー鉱山産と色合いや化学組成、三相の包有物等の特性が酷似していて、産出額では年間1000万ドルと世界で有数のエメラルド産地と言えましょう。
1. アフガニスタンのエメラルド
パンジシール渓谷 左 山腹での坑道開削用爆破の煙と鉱夫達のテント群
右 鉱山最大の坑道入り口 いずれもKhenj鉱山上 宝石質結晶 Khenj鉱山
下 石英中の群晶 Buzmal鉱山
溶融作用を受けた結晶
43.47ct Khenj鉱山190.5ctの宝石質結晶
Buzmal鉱山産コロンビアのMuzo鉱山産に似た
色合いのルース 1.04〜2.49ct新たに発見されたKorgun
鉱山の結晶 4.02ct
冒頭に述べたように、アフガニスタンは紀元前にバクトリアと呼ばれていた時代に既に世界的に著名なエメラルド産地で、採掘された宝石はシルクロードを通ってギリシアやローマに運ばれていました。
しかし何時しか鉱山は忘れ去られ、1970年代になってようやくパンジシール渓谷にて再発見されました。
最初の発見者は山羊飼いの子供達で、六角形の結晶は鳥を撃つためのパチンコ用に格好の弾でありました。 エメラルドと分かるまで、数十カラットもある無数の結晶がパンジシール渓谷に打ち込まれていたのでしょう。
それが宝石質のエメラルドと判明してからというもの、首都カブールの北東110kmにあるパンジシール渓谷に連なる Khenj、Mikeni 等の村村はまるでゴールドラッシュ時代のアメリカの西部の町が移ってきたような活況を呈するようになりました。
乗り合い馬車ならぬ乗合バスと馬ならぬロバが掘っ立て小屋のよろず屋の建ち並ぶ狭い街道を埃を舞い上がらせて行き交います。
21世紀になっても未だに電気も電話もありませんが、しかしエメラルドのおかげで俄成金となった村人は発電機を回してテレビとビデオでしっかりとアメリカ映画を楽しんでいます。
さて、渓谷に沿って400平方kmの広さに散在するエメラルド鉱山は6000m級の山々が連なるヒンズークシュ山脈の中腹、標高2100〜4300mの高さにあり、谷底の村からは場所によっては3000mもの標高差を爆薬やつるはし、ジーゼル・ドリル、燃料や食料、水などを担いで急峻な崖を登らなければなりません。
写真のように鉱夫達はごく普通の格好でヘルメットを装備してはいませんから、照明も換気装置もない狭い坑道での採掘作業や坑道への上り下りなどの際の、一酸化炭素中毒や落石事故にさらされています。
主な鉱山は Khenj、Buzmal、Mikeni ですが、その他に Sahpetaw、Pghanda、Butak、Abal、Sakhlo、Qalat、Zarakhel、Yakhnaw、Derik、Shoboki、Takatsang, Darun Rewat、Aryu、Puzughr、Bakhi と数多くの鉱山があり、厳しい気候と地理的な環境下にありながら、年間を通して常時800〜1000人の鉱夫が採掘を行っていて、年間1000万ドルものエメラルドが採掘されています。
アフガニスタンの内戦時にはエメラルドがこの地を支配していたマスード将軍が率いる北部同盟軍の重要な資金源となっていました。
パンジシールの地質
パンジシール渓谷は4500万年〜7500万年昔にゴンドワナ大陸から分かれたインドがアユーラシア大陸に衝突した際に、その間にあった古テーチス海の海底の一部を取り込んだ縫い目に当る断層地帯と考えられています。
エメラルドを産する三つの鉱山、Khenj、Buzmal、Mikeni の岩石を調べると、実に複雑な地層が集積しています。
古いユーラシア大陸であった基底岩はパミール産地から伸びている、古生代(5.7〜2.25億年昔)のものと考えられるミグマタイト(花崗岩と片麻岩とが混ざった岩体)、片麻岩、片岩、大理石とさらに古い先カンブリア期の角閃岩とが貫入した層を成しています。これらの古い結晶岩に片岩、珪質岩と、さらに古生代と中生代の大理石がかぶさっています。
エメラルドはパンジシール渓谷の南西部、それも渓谷の東側からのみ発見されます。
前述の複雑な、上部が緑色片岩からなる変成岩に斑糲岩、閃緑岩と石英斑岩からなる岩脈が貫入して熱水作用が起こり、石英とアンケライト(鉄白雲石:CaFe[CO3]2)、黄鉄鉱と共にエメラルドが生成したと考えられています。クロム成分は古テーチス海底の超塩基性岩から、ベリリウム成分はパミール産地から伸びる地層から供給されました。
このようなエメラルドの出来方は、地質環境こそ異なりますが、同様にプレート・テクトニクス理論で説明される、ナスカ・プレートと南米プレートの衝突によるコロンビアのエメラルド生成時の条件と良く似ています。
パンジシール・エメラルドの特徴
熱水作用で石英脈や鉄白雲石脈中に結晶したエメラルドは普通4〜5カラットの大きさで、50ctを超える大きさも稀ではありません。結晶は主にクロム着色による黄身を帯びた濃い緑で、色合いと化学組成とがコロンビアの、とりわけムソー鉱山産に極めて近いという特徴があります。またコロンビアのエメラルドと同様に炭酸ガス、塩の結晶と塩水からなる気体と固体と液体の三相の包有物を持つことで知られていますが、パンジシール産のそれは塩 (NaCl) の他にカリ岩塩 (Sylvine:KCl)や褐鉄鉱、緑柱石、黄鉄鉱等複数の鉱物の結晶を含むことで識別が可能です。
世界最高の品質のコロンビア・ムソー鉱山産に匹敵する色合いと品質のパンジシール産のエメラルドはこのため市場で高い評価を受けています。とりわけ比較的に大きな結晶の透明な部分からカットされたルースは包有物が少なく、傷も少ないため、コロンビア産の最高級品並のカラット当り1万ドルを超える値段で取引されます。
その他のアフガニスタンのエメラルド産地
Nangarhar 州 Badel 鉱山
1970年代後半にパキスタンと国境を接するアフガニスタン北東部の宝石産地、Konar地方にエメラルドが発見されBadel鉱山として稼動しています。エメラルドは黒雲母片岩と角閃石片岩の層にペグマタイト脈が貫入した接触交代作用で生成したものです。
草緑色の結晶は黒雲母と石英と長石の包有物と亀裂が多く乳白色に白濁していることが多く、カットに値する品質は稀と報告されています。
Laghman 地方 Lamonda と Korgun のエメラルド鉱床
2000年の夏ごろアフガニスタン北東部、Laghman 州都 Jalalabad の北の Laghman 地方にてエメラルドが発見され、Lamonda と Korgun の2鉱山で採掘が始まりました。
Lamonda 鉱山は3x4cm の比較的に大きな、しかし半透明で中程度の包有物を含む結晶が得られ、最大1.39ctの中級のルースが報告されています。
Korgun 鉱山からは一夏で4〜5kgの比較的に小さな結晶が得られましたが、中には透明度が高くやや濃い緑の宝石質の結晶が含まれているとのこと。
いずれも同時に採取された鉱物から、パンジシールの熱水性起源とは異なり、ペグマタイト性の起源であると考えられています。
2.パキスタンのエメラルド
パキスタン北部エメラルド産地の地図 Mingoraの町の郊外にある鉱山 Gujar Killi鉱山
アフガニスタンと並びパキスタンでも古来からエメラルドが採掘されていました。
この事実はガロ・ロマン時代(紀元前121年から紀元5世紀頃まで、フランスがガリアと呼ばれローマ帝国の支配下にあった時代)の耳飾のエメラルドがパキスタン・スワット渓谷のミンゴラ鉱山産であることが近年の研究で明らかになったものです。
この耳飾はリヨン近郊のミリベル(Miribel)の町の遺跡から発掘され、現在はパリの自然史博物館に保存されています。 パキスタンのエメラルド産地も長い間忘れ去られていて、1958年にミンゴラの鉱山が山羊の放牧者によって再発見されました。
その後グジャール・キリ等いずれもヒンドゥー・クシュ山脈とカラコルム山脈の間の数ヵ所に鉱山が発見されています。
そのうちミンゴラとグジャール・キリの二ヶ所は、量は少ないもののコロンビア産に匹敵する透明で深い緑色のエメラルド鉱山として稼動しています。
ミンゴラのエメラルド
接触帯での採掘 石英と褐色の鉄白雲石中の
エメラルド結晶 1.5cm上 特有のフィラメント状
包有物 20x
下 特有の階段状の成長曲線
40x上 細いチューブ状の
成長曲線 50x
下 特有のドロマイト結晶
の包有物 50x
インダス河の支流、スワット谷に近いミンゴラの町の東側から幅 500m、スワット川まで北に2km程の長さで伸びる範囲に9ヶ所のエメラルド鉱床が発見され、まとめてミンゴラ鉱山と呼ばれています。
現在は主に3ヶ所で採掘が行われていて、全て政府の管理化にあり、鉱山の周囲は鉄条網と多くの監視塔で警備されています。
実はミンゴラの町からインダス川に沿って北東に Chargagh、Makhad、Malam、Gujar Killi、Bazarkot、Bar Kotakへと32kmに達するエメラルド・ベルトが伸びています。
スワット渓谷の地質
パキスタン北部の広大な宝石産地の地質は先に述べたアフガニスタンと地続きですから基本的には同じです。
といっても局地的には岩石の組成が異なるため、例えばパンジシール渓谷産と同様にコロンビアのムソー産に酷似した色合いのミンゴラ産のエメラルドの組成は必ずしも同じではなく、微妙に変ってきます。
スワット谷のエメラルド・ベルト地帯の岩石は暗色の雲母片岩を覆う明るい緑色の透緑閃石ー緑泥石片岩が覆い、さらに角閃岩が覆うという複雑な様相を見せています。
そして激しい褶曲と断層とでほぼ垂直の方向に伸びる50mの厚さに達するレンズ状の苦灰石ー滑石岩層に蛇紋岩化した超塩基性岩脈が入り込んでいます。
そこに最も若い(4500〜7500万年昔)の花崗岩の貫入が起こっています。
スワット渓谷一帯では荒い粒状の花崗岩脈の貫入によるドーム状の地形が至るところでみられ、その貫入は4度に渡って起こったことが観察されますが、その度にエメラルドの形成と鉱脈の切断と激しい褶曲とがもたらされたと考えられます。
即ちスワット渓谷のエメラルドは超塩基性の片岩に珪酸質である花崗岩脈が貫入して、その熱水作用でエメラルドが生成した古典的な例です。
ミンゴラのエメラルドの特徴
ミンゴラのエメラルドはコロンビアのムソー産に似た深い緑色が特徴ですが、これはクロムが0.66%、鉄が0.9%と、着色の原因となる遷位金属を高い比率で含むためです。しかしヴァナジウムは全く検出されません。また高い透明度は熱水作用により、包有物が少ないためと考えられます。 もう一つの特徴は比重が平均で2.777、屈折率が1.588〜596と、世界の他産地と比べて最も高い値を示すことです。同様の成因のアフガニスタン産と比べても高いのですが、これは主成分であるアルミニウムの含有率が低く、その分を重い酸化マグネシウムを2.6%、酸化ナトリウムを2.1%と以上に高い比率で置き換えられているためです。 この化学組成の比較ではジンバブエのサンダワナ産エメラルドに近い値ですが、サンダワナのエメラルドは非常に小さく透明度が低いために殆どはダイアモンド宝飾品などを飾るメレー用にしか使えません。
一方ミンゴラ産結晶の多くは1〜2cmと、それほど大きくありませんが、1カラット前後のルースは透明度が高くコロンビア産に匹敵する高い評価を市場で得ています。最大のルースは10カラット級が報告されています。
包有物の特徴
ミンゴラ産のエメラルドは数々の他の産地のエメラルドには見られない特徴を持っています ;
一見するとフラックス法エメラルドの指紋状、または熱水法エメラルドの水滴状エメラルドに良く見られるフィラメント状の包有物が多く見られます。 これは気泡と水滴からなる二層の包有物でミンゴラ産に特有のものです。
苦灰石と方解石の結晶の包有物はコロンビアの、とりわけムソー産エメラルドにも良く見られるものが、ミンゴラ産にも見られます。
髪の毛のように細いC軸に平行に伸びるチューブ状の包有物はカボションカットをするとキャッツ・アイ効果を見せます。 これらの包有物は一つだけを見ると合成エメラルドと間違えられかねませんが、そのたの特性と総合すると、ミンゴラ産のエメラルドと特定する重要な特徴となります。
Gujar Killiのエメラルド
空気ドリルによる採掘 エメラルドを含む滑石片岩 高品質のルース 計4.49ct 典型的な液体の包有物 25x 1981年、ミンゴラからスワット渓谷を北東に24kmのグジャール・キリ谷の標高2057mの地に新しいエメラルド鉱床が発見されました。直ちにパキスタン宝石公社による調査と採掘が始まり、ミンゴラに次ぐパキスタン第2のエメラルド鉱山として採掘が始まりました。
地質的にはミンゴラの延長上にありますが、グジャール・キリのエメラルド生成には花崗岩の関与がなく、滑石片岩中に結晶が生成しています。グジャール・キリエメラルドの特徴グジャール・キリのエメラルドは写真のように非常に濃い緑色をしていますが、これは酸化クロム分の含有率が1.65%と世界のエメラルドでも最も高いためです。
1%程度のミンゴラ産と比べても非常に高い値です。
ミンゴラ産同様に酸化マグネシウムと酸化ナトリウムを2%前後含むという特徴を持っていますが、酸化鉄分は0.2%と4分の1程度です。
これらの結果として屈折率は1.588-589とミンゴラ産と並び世界でも最も高い値です。
一方、比重は2.71と世界のエメラルドの平均的な値を示します。
包有物には際立った特徴がありませんが、ヴェール状の微細な液体の包有物が平均的に見られます。
結晶は稀に40グラム程の大きなものも採れますが、平均で0.2〜2gと小さく従ってルースも1カラットに達しないものが大半です。結晶の産出量は露天掘りのみだった1980年代前半は年間400〜600グラムと僅かなものでしたが、1980年代半ばからは恐らく地下の豊穣な鉱脈のトンネルによる採掘が始まったためでしょう、1kg〜6kgと大幅に増えてきています。
その他のパキスタンのエメラルドKhaltaroのエメラルド1985年にギルギットから東へ70kmの、標高8125mの高峰、ナンガ・パルバットを擁するパンジャーブ・ヒマラヤとハラモシュ山塊との間の標高3500m地点にあるKhaltaro村近くにエメラルドが発見されました。
沸石に富むペグマタイト脈が角閃岩に貫入した接触変成作用の鉱床です。 結晶は亀裂と包有物が多く、宝石質は稀です。Barang-Turghao(Mor-Darra)ぺシャワールから北へ80kmのBajaur地方にて年代は不明ですがエメラルドが発見されたとの報告があります。
角閃石、緑泥石、滑石片岩と石英、長石、方解石を母岩とする、ということですからペグマタイトと超塩基性岩との接触変成鉱床と思われます。
クロムと鉄による着色のエメラルドですが、宝石質ではありません。Tora-Tigga同じくぺシャワールの北西 43km の Mohmand 地方、Tora-Tigga 山脈の北西山腹に1980年代後半にエメラルドが発見されました。
緑色片岩と苦灰岩層をペグマタイト脈が貫入した接触変成鉱床で、0.7%のヴァナジウムと0.1%のクロムによる着色とのこと。
しかし商業的な価値は全くないと報告されています。3.インドのエメラルドインドには2ヶ所のエメラルド産地が報告されています。パキスタンに近い北西部のラージャスタン州と、スリランカに近い、最南東部のタミール・ナズー州です ;
幅10mm Sankari Taluka村 Sankari Talukaエメラルドの包有物
中央の結晶は燐灰石 50xRajasthan州、Bubani鉱山ラージャスタン州の大都市ジャイプールから南西に100kmの町、アジメールとその南西へ200km程のウダイプールの町の間に長大なエメラルド・ベルトが存在します。
1943年に発見され、一般に Bubani 鉱山と呼ばれていますが、Ajmer−Merwara、Chat、Rajghar、Bithur 鉱山等とMewar、Tekhi、Kaligman、Gaongurha鉱山と二つの地域に9つの鉱山が稼動しています。
火山性の千枚岩の堆積をトルマリンを含む花崗岩脈が貫入した広域接触変成作用による鉱床です。
エメラルドはクロム着色による明るい緑から深緑をしているが、大半は下級〜中級品質で、最上の石はラジガール(Rajghar)鉱山産とのこと。Tamil Nadu州 Salem地方 Sankari Taluka鉱山1995年にインド最南東部、タミール・ナズー州のサーレム地方 Sankari Taluka 村近く の15kmに及ぶ雲母質片岩の層にエメラルドが発見されました。
石英-正長石岩脈と雲母ー緑泥石ー角閃石-滑石片岩からなる超塩基性岩脈との接触による変成鉱床で鉄とクロム着色のエメラルド。
結晶は小さく宝石質は稀と報告されています。
4.中国のエメラルド
宝石質の結晶 7p 5.06ct 透明度に欠けるためカボションカットされたルース 麻栗坡 文山 雲南省 中国 (Malipo, Wenshan, Yunan, China)
14cm
雲南省 哀老山長石中の淡緑色の結晶 66x55x35mm 34x21x16mm 結晶 13mm ルース 0.29−0.46ct
新疆ウイグル族自治区Malipo
中国では近年、2ヶ所からエメラルドの産出が報告されています。
一つは左の写真のエメラルドというよりは明るい黄緑の緑柱石で、2001年頃からエメラルドと称して市場に出回り始めました。分析の結果クロムではなく主としてヴァナジウム着色の緑柱石です。
産地は広西荘族自治区とのみで詳細な情報は今のところありません。
右の写真の産地は雲南省のエメラルドです。
ベトナムのラオカイに近いマーリーポー(麻粟坡)ともまた文山との情報もありますが、どうやらさらに西方200km、昆明の南100km程の哀老(牢)山脈というのが正しいようです。
ペグマタイトと片麻岩に白雲母、金雲母、黒雲母、方解石、螢石、黄鉄鉱、燐灰石、トルマリン、長石等を伴って産出するとのことです。
大半の結晶ヴァナジウム発色の淡黄緑色ですが、稀にクロム発色の濃緑色の結晶を産し、4カラットを超える、コロンビア産の上級品に匹敵する品質のルースも報告されています。
結晶の大きさは6cm、稀に長さ15cm、幅2cmに達するものもあり、写真の標本は大きく透明度も高く、宝石質のエメラルドと考えられます。
現地では無数の小規模な(恐らく非合法の)採掘が行われているとのこと。
2003年にウイグル自治区でかなりの高品質のエメラルドが発見されました。
場所は中国ーパキスタン国境の標高 4816m のフーンジェラブ (Khunjerab) 峠から北に 120q 程の地で、重機による採掘が行われているとの。ことですが、以後情報が途絶えています。
5.オーストラリアのエメラルド
Agha-Khan鉱山 Poona
西オーストラリア最大数cmの結晶
Torrington鉱山 Emmaville
NEW South Wales帯状に着色した結晶
1.10ct 10.4x4.3mm Curlew鉱山 Pilbara
西オーストラリアTorrington Mine, Emmaville オーストラリアでは1890年代の早い時期にエメラルドが発見され、現在までに数ヶ所にエメラルド産地が発見されています。しかしいずれも産業用の錫、ベリリウム、タンタル等の金属資源の鉱山として稼動しており、稀に宝石質のエメラルド結晶が発見されるというのが実体です。 産出量はおよそ100年間で10万カラットほどの下級から中級のエメラルドがカットされたと推定されます。NEW South Wales州1.Emmavilleオーストラリアで最も古く1890年に発見されたエメラルド産地で、シドニーから真北に500kmの Emmaville の町の北北東 9km にある廃鉱となった錫鉱山から宝石質の緑柱石が発見されました。
エメラルドはおよそ2億年昔、古生代ペルム紀後期に堆積岩に貫入した花崗岩中の1mの厚さのペグマタイト脈に石英、長石、雲母、錫石、トパーズと共に発見されます。 結晶は最大で3cmに達し、クロム、鉄とヴァナジウムによる着色です。
小規模で断続的な採掘によりこれまで5万カラット余りのエメラルドが採掘されたとされています。2.Torrington鉱山同じくEmmavilleの町の東20km、Torrington の町から南西へ5kmの地点にて1990年に新たなエメラルドが発見されました。
上記の2枚の写真で見られるようにエメラルドとしては珍しい帯状に着色している、最大で数cmの長さの結晶が採取されました。
ほぼ Emmaville の鉱山と同じ地質と成因と思われますが、分析の結果ヴァナジウムは検出されていません。西オーストラリア州西オーストラリア州からはパースから北に600kmのマーチソン山脈の Poona村、ポートヘッドランドの南113km の Wodgina 地域、カルグーリーの北北西150kmの Menzies 地域の3ヶ所にエメラルドが発見されていて、1980年までに計5万カラット弱の準宝石質結晶が採取されました。1.Poona村 Aga-Khan鉱山鉱山名、地名ともにインド的な名前ですが、紛れもなく1912年に発見されたオーストラリアのエメラルド産地です。
マーチソン山脈の北西65kmにあるプーナ村おおよそ10平方kmの範囲内に8ヶ所ほどの主に露天掘りの鉱山があり、中心となるアガーカーン鉱山では露天掘りと地下坑道の二ヶ所での採掘が行われています。地質的には26〜30億年前の雲母片岩の地層に石英-トパーズ・グライゼンのペグマタイト脈が接触した変成鉱床で、エメラルド結晶は4cm程の大きさですが、時に15cmx4cmの大きな結晶も採取されます。
この地域のエメラルド鉱床はオーストラリアで最も豊穣とされていますが、しかし亀裂と包有物が多くカットに値する十分な濃い緑色の宝石質の結晶は稀です。2.Menzies鉱山金鉱で名高いカルグーリーから北北西に150km、Menziesから西に50kmの地点に1974年に発見された産地です。大陸剛塊中の硫化ニッケル帯にペグマタイト岩体が接触して出来た蛇紋岩の変成岩中にエメラルドが生成した鉱床です。
結晶は小さく最大2cmで雲母の包有物を大量に含み透明度に欠けるため、宝石質は稀です。3. Wodgina鉱山ポートヘッドランドから南へ113km、Wodginaの町から3kmの地点のセシウム・ベリルやタンタル石、また特産のウォジーナ鉱(Ta,Nb,Sb,Mn,Fe)16O32等の希元素鉱物を産する地帯に1990年頃に発見されたエメラルド産地で、緑柱石の鉱石を1000トン以上産出している鉱山です。
地質は西オーストラリアの他の産地同様、古生代の超塩基性堆積岩にペグマタイト脈が貫入した接触変成鉱床で、石英、曹長石、緑泥岩、苦灰石、雲母
燐灰石、タンタル石と共にエメラルドを産します。 しかし結晶は小さく、宝石としてカットされるものは僅かです。Curlew鉱山、Pilbara同じ Wodgina の Pilbara 地区のカーリュー鉱山からは上記写真のように美しい色合いの宝石質のエメラルドが報告されています。
付近の Callvets White Hill、Pilgangoora、Roebourne、McPhee Hill 等からもエメラルドが発見されていますが、現在のところ商業的な採掘は行われていません。6.スリランカのエメラルドスリランカは各種の緑柱石やクリソベリル、アレクサンドライト、ルビー等を産出しますが、唯一エメラルドだけは
報告されていませんでした。
これは全ての宝石が数億年の年月による風化作用で母岩が侵食され、残った宝石結晶が流されて土砂の中に
堆積した漂砂鉱床に発見されるという産出状況のためと考えられます。
他の宝石と異なり、亀裂が多く脆いエメラルド結晶は、その過程で粉々になってしまったものと考えられていました。
1989年に、スリランカでの唯一のエメラルドの発見が報告されました。
島の南部、Hanbantota の海岸近くの水田から 2kg 程の結晶が発見されたというニュースです。
結晶は標本級の品質でしたが、一部の透明な部分から最大で0.5ctのルースがカットされました。