エットリング石(Ettringite)

   
0.60ct 7.8x4.2mm 
N'Chwaning II Mine, Kuruman, Karahari Manganese Field, South Africa

ンチュワニン鉱山のストゥルマナイト結晶 (Sturmanite crystals from N'Chwaning II Mine
       
5cm  1.7x1.0x1.6cm  1.2cm 11.5cm
     
 
ンチュワニン鉱山のエットリング石結晶とルース(Ettringite crystals and faeted stones from N'Chwaning II Mine) 
         
 3.5㎝ 4.5㎝   3.8㎝  0.51ct  0.42ct


エットリング石(Ettringite)    タウマス石(Thaumasite) 
         
 
      1.8mm     11x4mm
Casper Quarry, Bellerberg volcano, Ettringen, Mayen, Eifel Mtns, Germany     South Africa


  化学組成(Formula)  結晶系
(Crystal System) 
 モース硬度
(Hardness)
比重
(Density) 
 屈折率
(Refractive Index)
 Sturmanite   Ca6(Fe3+,Al,Mn3+)2(SO4)〔B(OH)4〕(OH)12・25H2 三方晶系 (Trigonal) 21/2  1.847 1.479-505
 Ettringite  Ca6Al2(SO4)2(OH)12・26H2   六方晶系(Hexagonal)  2 - 21/2   1.77  1.470-491 
 Thaumasite Ca2(SO4)〔Si (OH)6〕(CO3)・12H2O   六方晶系(Hexagonal)   31/2  1.877  1.450-507 


 ストゥルマナイトは1981年に南アフリカ・カラハリ砂漠にある世界屈指のマンガン鉱山群、ンチュワニン鉱山で発見され、カナダの鉱物学者でありロイヤル・オンタリオ博物館の研究員、Bozidor Darko Sturman に因んで命名された鉱物です。 
 タウマサイト等と共にエットリング石グループに属します。
 エットリング石は、ドイツのアイフェル山地のエットリンゲンで発見され、地名にちなんで命名されました。
タウマサイトはスウェーデンにて発見され、硫酸塩、炭酸塩、6個の水酸基と珪素の結合した大量の水分を含む複雑な構造を持つことから、ギリシア語で”驚き”を意味する "thaumasion"に由来する命名がされました。
 が、最も新しく発見されたストゥルマナイトは、炭酸塩の代わりに硼素と結合した水酸基と、大量の水分を含むという、さらに複雑な組成の鉱物です。
 アイフェル山地で発見されたエットリング石やタウマサイトは1㎜程度の微細な結晶ですが、ンチュワニンのマンガン鉱山産のストゥルマナイトやエットリング石には、極めて稀ですが、ファセット・カットされるような大きく透明な結晶が発見されます。
 1980年代半ば、ツーソンの鉱物フェアを訪れた際に、発見されたばかりのストゥルマナイトやエットリング石の、大半は不透明な1~2㎝の結晶標本が1個10ドル程度の値で豊富に展示されていました。 
 その後、これらの鉱物標本を見かける機会は皆無となりました。恐らく1980年代初頭に偶々鉱脈に遭遇しただけだったのでしょう。
 したがって、最近、思いがけず冒頭のルースに出会った時は驚きました。
実はこのルースは当初ストゥルマナイトとして入手しました。が、屈折率の実測値 1.472 と、他の資料のルースの色合い等々からは、むしろエットリング石と考えます。
 専門誌にも、同じグループに属し、化学組成、比重、屈折率が極めて近似するこの二つの鉱物の識別は困難とあり、精密な成分分析でもしない限り、確かなことは分かりません。
30年以上昔、初めて結晶標本を見たときに、到底、これがファセット・カットされるとは考えもしませんでした。
 何故今頃、ファセットが突然出現したのか不思議ですが、これほど珍しい鉱物のルースに遭遇する機会が再びあるとも思えません。
 このグループの鉱物の正体が何であるか、30年前には調べようがありませんでしたが、現在はネットで簡単に分かります。
 モース硬度が2程度と、極めて柔らかい上に、組成を見る限り、水溶性とも思われます。
1.77 という比重は一般の鉱物に比べると異常に小さな値ですが、質量比で水分が39.5%、さらに軽い水酸基の17.9%と合わせると57.4%にもなり、有機物並みの低い水準です。
 当然のことながら屈折率もガラス並みです。
 冒頭の写真のように、結構繊細なカットが施されていて、こんなに柔らかく、脆弱な結晶を、良くぞここまでカットしたものと感心するしかありません。


 カラハリ・マンガン鉱床(Kalahari Manganese Field)
 
                      
     
 
 
 
     
ブラックロック丘の頂からヴェッセルズ、ンチュワニンI,II,III鉱山の光景
(Panoramic View from the top of Black Rock Hill looking east : the Wessels , N'Chwaning I,II,III)
 
ブラックロックからンチュワニン鉱山の地質図

 南アフリカ南西部のカラハリ砂漠の地下に、現在分かっているだけでも広さが少なくとも1000平方㎞に及ぶマンガンと鉄鉱床とが広がっています。 世界のマンガンの実に77%もの埋蔵量があると推定され、2014年度の生産量では世界の26%を占めています。
 この巨大な鉱床は36億年昔の安定陸塊上に広がる玄武岩溶岩層と浅い海からの堆積層上にあります。
 この鉱床は22億5000万前、おそらくは当時スノーボール・アイスと呼ばれる全球凍結が終わり、急激な地球温暖化に因って大量に発生した原始的な藻類、シアノバクテリアが光合成で生成した酸素により、海水に溶けていた鉄やマンガンが酸化されて純度が3%程度の低品位の鉱脈が堆積したと考えられています。
 こうして出来た "Hotazel Formation (累層)" と呼ばれる地層に、12億5000万年前、"Wessels Event" と呼ばれる700万年に及ぶ地殻変動により断層、隆起が起こり、多様な成分に富む熱水貫入による、浸食、変成作用等が何度となく繰り返された結果、マンガン鉱床が45~60%もの高品位鉱へと変貌し、この地層から発見される165種の鉱物種のうち115種の特有の鉱物が生成されたと考えられます。
 名高い濃赤色の宝石質の菱マンガン鉱結晶もその一つです。
 3%の品位の鉱脈が、ほぼ純粋な水マンガン鉱(Manganite : MnOOH : マンガン成分 62%)にまで精製されてしまったことになりますが、謂わば、取り上げた3つの鉱物の複雑な組成が、ここで起こった自然の精製作用を雄弁に物語ると言えるでしょう : 即ち、硫酸塩、炭酸塩、珪酸塩、硼素等を含む高温の熱水が700万年の長期間に亘って繰り返しこの鉱床に貫入し、低品位の鉄とマンガンの鉱床に含まれる様々な不純物と反応して100余の新たな鉱物を生成し、その度に鉱床の品位を高めて、高品位の鉱床を作り、最後にエットリング石等の大量の水分に富み、”驚くべき複雑な組成”の鉱物を残したのだと。
 この地のマンガン鉱床は1900年代初頭, "Black Rock" での露頭の発見が発端となって、その後1920年代末にイタリア人の地質学者 "Guido Saccco" の探査により、地下に広がる巨大なマンガン鉱床の存在が明らかになりました。
 彼は1930年代央に採掘会社を設立し、1937年代には南アフリカがマンガン生産で世界第3位になるほどの成功を収めました。
 その後彼が主導する鉱山は1959年に Hotazel, 1972年 N'Chwaning I, 1973年 Wessels, 1981年 N'Chwaning II, 2006年 N'Chwaning III と引き続き拡張され、現在も中国、日本、アメリカ、欧州と世界各国からの開発資本が続々と参加する活況を呈しています。
 
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