長石族の鉱物(Feldspar Group)

 


 地殻中に存在する元素の量を推定する試みが何度か行われました。 
かつては"クラーク数”が有名でしたがその後地殻の定義が変わってしまったために現在では使われていません。

 そこで1966年に発表されたMasonの数字を取り上げてみました。 
それによると地殻中の元素の量は重量比で多い順に ;

1.酸素:46.6% 2.珪素:27.7%、3.アルミニウム:8.1%と、上位三種の元素だけで82.4%を占めます。
続いて 4.鉄:5.0 %、5.マグネシウム:2.1% 6.カルシウム:3.6% 7.ナトリウム:2.8% 8.カリウム:2.6% と上位8種の元素で98.5%に達します。 

 この数字に見る限り、鉱物では全体の4分の3を占める酸素と珪素の化合物である石英が圧倒的に多くなってもよさそうです。
 ところが実際には地殻を構成する岩石の半分以上を占めるのは長石族の鉱物です。
その割合は資料によって異なりますが、体積%で斜長石が39〜42%、カリ長石が12〜22%で、石英は12〜18%と3位になります。
 これに続くのは角閃石、輝石、黒雲母です。 様々な岩石を構成する主要な鉱物である長石ですが、ペグマタイト岩脈やアルプス性の熱水型鉱脈に大きく美しい結晶として姿を現す他は、一般には多くの岩石中に白い色の細粒として含まれています。
 土壌や粘土等の主成分を成すのも風化した長石で、陶磁器の主な材料となっていると言った方が分かりやすいかもしれません。
 大型の結晶の場合も稀に緑がかった青い天河石として産出する以外は、殆どが白い不透明な結晶ですから、大量にあっても全く目立たないただの石ころのような鉱物です。
 透明で多彩な色合いの水晶と比べれば全く地味な存在と言えましょう。


 
玻璃長石(Sanidine)
結晶 45x26x19mm ルース 26ct 20x18mm
Itrongay Madagascar
氷長石(Adularia)双晶
 9.5x8.4cm
Glaubünden Switzerland
玻璃長石(Sanidine) 
1.32ct 7x6mm
Mt.Eiffel Germany
微斜長石(Microcline)の変種
天河石(Amazonite)
 高さ 6cm
Pikes Peak Colorado州
 

 

        
曹長石(Albite) 平板状結晶のクリーヴランド石 幅 20cm 
Golconda鉱山 Minas Gerais Brazil
左の標本の結晶片拡大 2cm  灰長石(Anorthite)結晶
 37x26x13mm
北海道白老町倶多楽湖外輪山
Kuttara Mtn., Hokkaido, Japan
    

 

     
曹微斜長石(Anorthoclase)
佐賀県鎮西町松島
灰曹長石(Oligoclase)
 4.17ct 11.2x8.7mm
Brazil
中性長石(Andesine) 
7.7ct 16.2x12.3mm
 Nyiragongo Volcan, Congo

内モンゴル産の淡黄色の中性長石
に人為的な銅の拡散処理をしたもの
  
曹灰長石(Labradorite)
3x2.5cm Madagascar
亜灰長石(Bytownite)
 5.42ct 14x10.8mm
Tricy, India

 

Pericline(曹長石の双晶)4cm
Ankarafa Madagascar
Hyalophane 50mm
Busovac Bosnia
Hyalophane 5mm
Binnental Switzerland
Nepheline 43mm
Aouli, Morroco


長石族の鉱物と名前の由来

 冒頭の表は、長石族の鉱物を分かりやすく整理したものです。長石族には地味な鉱物の割には実に多くの種類と名称とがあるため個々の種類に触れる前に、まずは一覧表で整理しないと混乱してしまいます。

 冒頭で述べたように地殻の大部分を占める鉱物である長石族は、地下の深い場所で生成する深成岩、地上に上昇して来る途上で生成した半深成岩、地上に噴出したマグマが固まった火山岩、さらに地殻変動による変成作用で出来た変成岩、アルプス性の熱水鉱床等、多様な成因の岩石に主要な成分として含まれています。
 表の三角形の頂点にあるのが、それぞれ珪酸アルミニウムとカリウムからなる正長石、珪酸アルミニウムとナトリウムからなる曹長石、珪酸アルミニウムとカルシウムからなる灰長石で、この三つが長石族を代表する典型的な鉱物です。 
 長石族の鉱物をまとめてFeldsparと呼ぶのはドイツ語の”Feldspat”に由来しますが、これは”Feld : 英語のField” と ”Spat :方解石、螢石、長石等、劈開する鉱物全般の呼び名” を意味します。
  即ち長石族が広範に発見される鉱物であることを意味する命名です。
 

アルカリ長石グループ  
 

 正長石と曹長石とはカリウムとナトリウムのアルカリ成分を共通に含むためにアルカリ長石族と呼ばれます。
  地下深く高温のマグマ中で結晶化している時のアルカリ長石はカリウムとナトリウムとが高温で似たような熱振動状態にあるために均一な固溶体となっています。
  アルミニウムと珪素イオンとは不規則な配置となり単斜晶系の結晶系を形成します。
 しかしマグマが地上付近にまで上昇し、次第に冷えてくると、63.7℃と融点が低くイオン半径が0.133nmと大きいカリウムイオンを含む正長石と、97.81℃と融点が高くイオン半径が0.097nmと小さなナトリウムイオンを含む曹長石とは分離してきます。
  低温ではアルミニウムと珪素イオンとは規則正しい配置となって結晶形は三斜晶系となります。
地下の深い所でゆっくりと冷えた深成岩やペグマタイト脈では二種類の長石は交互に薄片状の層を成して分かれます。

 ペルト石(パーサイト : Perthite) : 正長石中に薄層状に分離した曹長石が最大30%まで含まれるもの。逆に曹長石中に分離した正長石が最大33%まで含まれるものはAntiperthiteと呼ばれます。
 これらの呼称は鉱物としては一般的ではありませんが、地質学的にペルト石型ペグマタイト(Perthic Pegmatite)といった使われかたをします。 
  カナダのオタワに近いパース(Perth)のペグマタイト鉱床に由来する命名です。  

 一般には溶岩として地上に運ばれ急激に冷えた火山岩に含まれるアルカリ長石は分離する暇がなく、不安定な高温状態のままの正長石(カリ長石)と曹長石(ナトリウム長石)との固溶体となっています。

 正長石(Orthoclase)とはギリシア語の ”Orthos : 真っ直ぐに” と ”Klao : 割れる” を意味しますが、これは三斜晶系の斜長石族 (Plagioclase) が同じくギリシア語の ”plagios : 斜めに” と ”klao : 割れる” に対応した命名で19世紀半ばにドイツの鉱物学者、ブライトハウプト(Bleithaupt)が命名しました。
 曹長石(Albite)はラテン語の ”Albus :白い” に由来します。
日本名はソーダ(曹達 :ナトリウム)長石の意味。
  平板状の結晶はクリーヴランド石(Cleavelandite)と呼ばれ、また曹長石には曹長石双晶と、ペリクライン式双晶と呼ばれる結晶形を示すものがあります。
  後者は通称、単にペリクライン(Pericline)とだけ呼ばれることがあります。

その他のアルカリ長石の名前の由来は ;

氷長石
(Adularia)
   正長石の透明な結晶の呼び名でスイスのAdular山特産に因む。 低温で晶出

玻璃長石
(Sanidine)
   同じくガラスのような光沢を示す高温性の正長石。ギリシア語の “Sanidis : 板と Idein :見る” に由来
薄層状の構造によりムーンストーンとなるものがあります

微斜長石
(Microcline)
   単斜晶系の正長石の結晶のbc軸は直行していますが微斜長石の結晶はその名の通り bc 軸が 89.3 度とごく僅かに傾いて交差しているので三斜晶系となります。
  1830年ドイツの鉱物学者、ブライトハウプトの命名。
 僅か0.7度の微小な角度の差を鋭く見分けた昔の学者の観察眼には感嘆するのみ。
 この微斜長石の変種でトルコ石のような青緑色のものはアマゾナイト(天河石)と呼ばれます。

曹微斜長石
(Anorthoclase)
   微斜長石のカリウム分が一部ナトリウム分と置きかえられた種類で、安山岩や玄武岩等、珪長質の火山岩中に斑晶として発見される。
  青白の閃光を発するムーンストーンとなるものがあります

 

斜長石グループ(Plagioclase Group)


 ナトリウムを含みアルカリ長石グループに属する曹長石  (Albite) は同時にカルシウムを含む灰長石 (Anorthite) と連続した固容体を形成する斜長石族にも属します。
 斜長石族の両端に位置する曹長石のナトリウムと灰長石のカルシウムとはイオン半径がそれぞれ0.097nm, 0.099nmと非常に近いため自由な比率で混ざり合った固容体を形成します。
  ナトリウムとカルシウムとが置換されるとそれに伴って珪素とアルミニウム成分の比率も変わって中間に6種類に分類される鉱物が存在します。
 これらの鉱物はかつては独立した鉱物として分類されていましたが、現在は亜種とされています。しかし依然として多くの資料に旧来の名称が使われています。
 外見では全く区別が付かないのが長石族の鉱物の特徴です。が、左の図のように成分比の変化に伴い比重と屈折率とが連続的に変化するので精密な測定をすることで種類を特定することが可能です。
 冒頭の表にあるように、正長石と灰長石との間には主成分のカリウムとカルシウムとのイオン半径の大きさが異なるため中間成分を持つ固溶体の鉱物は存在しません。 
斜長石族の鉱物の名前の由来は以下の通りです ;
 灰長石
 (Anorthite : アノータイト)
ギリシア語の ”Anorthos : 斜めの、と klao :割れる”
日本語の灰はカルシウムの意味

 亜灰長石
 (Bytownite : バイタウナイト)
カナダの首都オタワの古名、バイタウン(Bytown)に因む

 曹灰長石
 (Labradorite : ラブラドーライト)

最初に発見されたカナダのラブラドール半島に因む

 中性長石
 (Andesine,Andesite) 
( アンデシン、アンデサイト)
アンデス山脈に因む

 灰曹長石
 (Oligoclase : オリゴクレース)
ギリシア語の"Oligos :少し と Klao:割れる”

 曹長石
 (Albite : アルバイト)
”ラテン語の Albus : 白い ”に因む 

 

  曹長石と灰長石とは高温では完全な固溶体となりますが、温度が下がってくると結晶内部に微細な不均質な空隙が生じて光の散乱が起こります。 
  とりわけ灰曹長石の一種で曹長石比率が97−78と高く、真珠状の光の散乱効果が顕著に現れる種類はPeristeriteと呼ばれ、美しいものは宝石になります。
  その語源はギリシア語の "peristere :鳩の石” の意味で、鳩の首の虹色の羽毛の色合いに因みます。


その他の長石族の鉱物


 更に長石族に含まれる鉱物としてナトリウムやカリウムが一部バリウムに置換された Hyalophane【(K,Ba) Al (Si,Al)3O8】や全てバリウムが置換したCelsian(重土長石 : Ba[Al2Si2O8】とがあります。 

 さらに準長石族の鉱物として六方晶系の霞石 : Nepheline(NaAlsiO4)、Kalisilite(KAlSiO4) があり、珪酸分の少ないアルカリ溶岩中に生成します。

 

長石族の宝石


月長石(Moon stone)
玻璃長石(Sanidine)
3.63ct
 
Black Range
New Mexico U.S.A.
23.6ct 17x15mm
India
1.4〜3.6ct 
Sri Lanka
曹灰長石(labradorite)
10.6ct 13mm
Madagascar

 

 日長石(Sun stone)
スター・サンストーン
14.77ct Tanzania
多色のサンストーン 6.79ct
Plush Oregon U.S.A.
サンストーン 原石とカボション
7.84ct 14mm India

 地上に豊富にある長石族の鉱物ですが、宝石としては種類が少なく、僅かに月長石(ムーンストーン)と日長石(サンストーン)とが一般に知られています。 

 ムーンストーン(月長石)はシラー効果(Schiller effect)と呼ばれる月の光のような淡い乳白色や冴え冴えとした青い光を発するものです。 
  この効果は、アルカリ長石がゆっくり冷えてカリ長石分とソーダ長石分とが薄片状に層をなして分離しますが、この層の厚さが可視光の波長の長さ付近の場合に、光の散乱と干渉とによって起きるものです。
 また斜長石の中の曹灰長石(labradorite)には微細な反復双晶により薄片構造となって、ラブラドーレッセンス(Labradorescense)と呼ばれる青色の閃光や虹色を示すものがあります。
 青い閃光はアルカリ長石のそれと似ているため、ムーンストーンと呼ばれることがあります。 

 ムーストーンの青や乳白色に対し、赤く輝く色合いを示すサンストーン(日長石)もやはり斜長石の仲間の灰曹長石(Oligoclase)、中性長石(Andesine)、曹灰長石(Labradorite)、亜灰長石(Bytownite)に見られます。
  サンストーンの赤い色合いは主に結晶内部に含まれる赤鉄鉱、針鉄鉱、銅の薄片などによりきらきらと光を反射するアヴェンチュリン効果 (Aventurrescense) によるものです。
 アヴェンチュリンとは本来、内部に酸化鉄のような金属片を含み、黄色、褐色、赤等の色合いの砂金石と呼ばれる不透明な石英の呼び名です。
  インド翡翠とも呼ばれる、緑色のクロム雲母を含む珪質岩もグリーン・アヴェンチュリン・クォーツと呼ばれます。  
  斜長石に金属性の薄片が含まれていて赤や、緑などの色合いを示すものがサンストーンですが、以前は殆どが南インド産のカボション・カットされた不透明な赤、橙、黄色の灰曹長石(Oligoclase)サンストーンが代表的なものでした。
 1980年代になってアメリカ・オレゴン州で内部に銅片を含み透明な地に赤や緑の多色の色合いを示す曹灰長石・亜灰長石系の新種のサンストーンが発見され、一躍、長石族の宝石を代表する宝石として脚光を浴びました。
 更に2002年にコンゴの火山岩中の中性長石 (Andesine) に銅の薄片を含み透明な鮮紅色を見せるものが発見されました。  量が少なく、高品質のルースが合計300ctほど採れただけで鉱脈が枯渇してしまったと言われます。
  しかし2003年に全く同じ種類がモンゴル、中国、更にチベットからもから報告されました。 
 ところが、その後の調査により、コンゴ、モンゴル、中国産と称する鮮紅色のサンストーンは、いずれも内モンゴル産の淡黄色の中性長石に人為的に銅の薄片を拡散処理したものであることが判明しました。 
 チベット産のみは確かに自然の銅箔片混入によるサンストーンと確認されています。
 天然のサンストーンの色合いも、火山のマグマ中で長石の内部に自然銅が拡散されたもので、天然と人為的なものとの識別は、肉眼では不可能。研究室での専門家による精密な分析が必要。
 中国産と称するものは、人為的な処理がされた原石を荒野にばら撒いて、買い付けのディーラーを欺いているという手の込んだ工作を行っています。

 しかしながら、こうした実態は一般消費者や多くの宝石業者に知られずに、未だにコンゴ産等を謳って売り続けられています。


  ごく稀にですが、三宅島や八丈島の火山岩中に発見される透明な灰長石に銅片を含んで、カットされることがあります。 
 したがって、斜長石族の鮮紅色のサンストーンは今後も世界の火山地帯に発見される可能性があります。


以上、多岐にわたる長石族の概要を述べました。 個々の種類の詳細は今後のシリーズとして続きます。

 

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