螢石(Fluorite)

 

   26.85ct 28x13mm
Namibia
13.6ct 16.5x13,7mm
Namibia
 4,66ct 11x9mm
Rogerley UK
39,2ct 24x17mm
Rogerley UK
       
Belgium、 Pakistan、 Brazil
12x7mm 3.6ct  1.6ct  2.6ct
産地不明 各5.5ct ø11mm  113.69ct 40x25mm
Rep. of South Africa
41.52ct 31x16mm
Rep. of South Africa
       
99.37ct 25.4mm
Argentière Chamonix, France
2.09ct/7.8mm 2.36ct/8.25mm
 Zambia  Pakistan
1.66ct 8.7x5.8mm
Pakistan
9.04ct 10.8mm
Illinois U.S.A.
       
36ct 25x21mm 
Thomasston Connecticut
U.S.A.
13.74ct 15.8x9.2mm
England
28.04ct 21x17mm 
Spain
22.29ct 15.6x15.1mm
Brazil

 

化学組成 Formula CaF2
結晶系 Crystal System 等軸晶系 (Cubic)
モース硬度  Hardness
比重 Density  3.01−25
屈折率 Refractive Index  1.433
螢石の名の由来と産状
 螢石の名は、結晶を火中に投じると蛍光を発することに由来します。英名はこの鉱物が、溶鉱炉や窯業に溶剤として使われることから、ラテン語の”fluere=流れる”に因み命名されたものです。英語で弗素を意味するfluorは、弗素を含む主要な鉱石である螢石に因んでつけられました。 また螢石は熱の他に紫外線などの高エネルギーに反応して蛍光を発するものがありますが、蛍光を意味する英語のfluorescense(フロレッセンス)の語源でもあります。
 一般には銀、鉛や亜鉛、錫、タングステンなどの重金属鉱山の鉱脈を埋めるような状態で、方解石や水晶等と共に脈石として産出しますが、その他の熱水鉱床、ペグマタイト、気成鉱床、アルプスの山岳性鉱脈、そして堆積鉱床と広範な産出状況があります。
 結晶は主に八面体と六面体とがありますが、どうやら結晶生成時の温度により、高温の場合に八面体に、低温の溶液からゆっくりと結晶した場合に六面体の結晶となることが判明しています。


螢石の代表的な結晶形
 右端の写真はパキスタン産のピンクの八面体の結晶(約20mm)とアメリカ、ニューハンプシャー産の六面体の結晶を劈開させて作った八面体の結晶(15〜25mm)

 

螢石の産地
 螢石は世界各地で広範に見つかる鉱物です。欧米では古くから鉛や亜鉛等の鉱山に美しい螢石の結晶を産したためでしょう、鉱物愛好家の重要な収集品として親しまれてきました。
まず欧州ではイギリスの北イングランドの鉛と亜鉛の鉱山、コーンワル半島の錫鉱山などに紫の素晴らしい結晶を産出しています。
 また大陸ではベルギー、ドイツ、フランス、ポルトガル、スペイン、チェコ、ハンガリー、ポーランドなどの鉱山に、またスイスやフランスのアルプスでは高温型のピンクの八面体結晶が有名です。
 また近年、パキスタンのカラコルム山脈のペグマタイト鉱床に、スイスアルプスと同じピンクの八面体結晶や、淡緑、ピンク等の大型の透明な結晶を産出します。
 アジアでは中国の湖南省の錫やタングステン鉱山から緑や紫の結晶、また彫刻に向く層状の団塊を産出します。
北米ではアメリカのミシシッピー峡谷を挟んでイリノイ州、ケンタッキー州、またニューハンプシャー州、ニューメキシコ州、アリゾナ州、オハイオ州、ミシガン州と各地に著名な螢石の産地があります。
 中米ではメキシコのCoahuila、Muzquiz,Panczar,Mapimi、Naica等の銀や鉛、亜鉛の鉱山に素晴らしい螢石の結晶を産出します。
 ところが南米となると、僅かにペルーのピンクの八面体の結晶とブラジルのCearaのペグマタイトくらいがめぼしい産地で、あれだけ多様な宝石鉱物を産する割には、螢石が少ないのは不思議です。
 アフリカも同様にナミビアの宝石級の緑の螢石が有名ですが、最近は南アフリカ共和国からもファセット級の結晶が出ています。
産地によって実に様々な色や形があり、また驚くほど似た色合いや形状を示すもの等々、限りなく興味深く、また美しい鉱物です。

世界の螢石結晶
72x53mm Cumberland UK 結晶とルース(5.8〜9.4ct)
Rogerly Mine U.K.
12x6cm El Papiol
Barcelona Spain
19x13cm 方解石上の結晶
El Hamman Morocco
Photo Courtesy:John Veevaert
Trinity Minerals
       
13x8cm Xi−Kowang Shan 湖南省 4.2x3cm Wise鉱山
New Hampshire U.S.A.
5.5x4.3cm Pakistan 菱マンガン鉱と螢石 9x8cm
Silverton Colorado U.S.A.
Josie Scripps Collection
       
Goschenerald Uri州 スイス
Obodda Collection
4.5x3x2.5cm Stewart鉱山
San Diego C.A. U.S.A.
7.5x5x2.5cm Nagar Pakistan 4.5x2.5cm Pakistan
       
4x3cm Emilio鉱山 Viesca
Asturias Spain
5x3.5x2cm
 Argentière
5x3.5x2cm Chamonix France 煙水晶上の螢石結晶 1.5cm
  Photo Courtesy
John Veevaert :
Trinityminerals Trinityminerals
       
22x17cm 8kgs
La Collada Asturias Spain
4.5x3.9x3.7cm 
Nikolaesky鉱山
Dal'negorsk Russia
Photo Courtesy :
Nokolaesky鉱山
Dal'negorsk Russia
John Veevaert Trinityminerals
ファントムを見せる結晶 9x9cm
La Collada Spain
10x10cm Halsbruck鉱山
Bergakademie Freiburg
5x2.8x1.8cm Nova Era
Minas Gerais Brazil
6x4x3cm Xinjiang鉱山
湖南省 中国
1.2cm Reeds Gap
Wallingford Connecticut 
  Photo Courtesy :
John Veevaer
Trinityminerals Tom Rachavansky Collection
       
6.5x5.5x5cm Le Burg
Tarn県 France
7x6.5x4.3cm Minerva鉱山
Illinois U.S.A.
閃亜鉛鉱上の蛍石 9mm
Naica, Mexico
20x13cm Heights鉱山
Weardale England
       
6.4x4x2.2cm 
Yao Guan Xian鉱山 湖南省 中国
Photo Coutesy:John Veevaert
4.3x3x2.4cm
Yao Guan Xian鉱山 湖南省
Trinityminerals
菱鉄鉱上の螢石 44mm
Horni Slavkovi Slovakia
 13x8cm
Coahuila, Mexico
       
 
螢石 4x3cm と方解石 
Cave in Rock Illinois USA
Cal Kerith Collection
螢石 3mm と翠銅鉱
Mammoth Mine Arizona
Sonora Desert Museum
12x8.5cm
Okorusu Mine, Namibia
12x8cm Le Beix, France
Oboda Collection 

 

螢石の用途
 最初に述べた様に、古くから鉄などの金属精錬用等の溶剤として欠かせない材料です。
特別の用途としては、螢石の結晶系が等軸晶系で複屈折がなく、その上比重の割には異常に屈折率が低く、色収差が小さいため顕微鏡や、望遠鏡、高級カメラ等の光学機器のレンズとして用いられています。
 今日では半導体製造用ステッパーのレンズとして30cmを超える高純度の巨大な結晶が合成されています。
 弗化カルシウムという単純な化学組成ですが、イットリウム等の希土類元素を含み、そのため多様な色彩があります。
螢石で存在しない色は橙色のみで、青、紫、緑、黄色、ピンク等々、大変美しい色と美しい結晶形とを持つ鉱物です。
 惜しむらくはモース硬度が4と柔らかく、しかも劈開性が強いため、カットが難しく、カットされた石は傷つき易いため、宝飾品としては実用になりません。 したがってルースはコレクターが眺めて楽しむだけの収集品です。
 しかし透明から半透明の美しい色や模様の結晶を加工した飾り物は良く見かけることがあります。
例えば、下右端の花瓶はイングランド、ダービシャー、キャッスルトンに紫、白、黄色の層を成して産する螢石ですが、ローマ時代から知られていてBlue Johnの名で呼ばれます。19世紀のビクトリア朝時代はこのブルージョンを使った花瓶や皿などの装飾品に大変人気がありました。 その後鉱脈が尽きてしまいましたが、今日では鉱物としてより、骨董として大変高く評価されているとのことです。
 左側の二つの螢石の彫刻の飾り物は中国製です。18世紀頃から中国ではこうした螢石の彫刻品が盛んになっており、今日でも様々な作品が作られています。

  高さ 9cm 螢石の 飾り物の数々 中国 魚 55x55mm イアリング用の螢石の飾り物 Derbyshire産 花瓶

 

螢石の色について 

  
螢石には、オレンジ以外の多様な色がありますが、しかし、たとえば紫色は英国であれ、中国であれ、アメリカであれ全て同じ紫です。 同様に他の色も、産地による固有の色がなく、世界的にピンクはピンク、緑は緑と一様であるところに特徴があります。 これが例えばトルマリンなら産地毎に全く色が異なり、結晶やルースを見れば鉱山まで見当がつくほどです。
 その理由は、螢石の着色が他の鉱物とは異なる特異なものだからです。

紫の発色原理 :

 最も普通の螢石の色は紫です。この紫はミー散乱理論(Mie Scattering Theory)という特殊な仕組みで起こります。可視帯域の光の波長に等しい大きさの物質によって起こる光の散乱のことです。
 この仕組みは宝石の場合には金属の包有物によって引き起こされる特殊な例で、とりわけ紫の螢石だけに見られるますが、螢石の成分であるカルシウムの微細な結晶がその原因です。 
 弗化カルシウムの螢石に放射線が当たると弗素原子が結晶から飛び出してカルシウム原子が残ります。長い時間が経つとカルシウムの原子が可視波長の大きさの小片に結晶します。 
 その結晶に光があたると一部は吸収され、一部は反射され・・・・を繰り返し(即ち散乱される)次第に赤から緑の波長の光が吸収されて、残った紫だけが見えるという仕組みです。
 その他の色も、エメラルド緑はサマリウム、青はイットリウム、黄色がかった緑はイットリウムとセリウム、黄色は酸素のカラーセンター、ピンクはイットリウムと酸素のカラー・センター、また色変わりをする螢石は、イットリウムとサマリウムとセリウムとが関連したカラーセンター、という希土類元素が関与する特異な着色の仕組みを持っています。
 イギリスの多彩な色彩の螢石で知られる Rogerley の螢石の分析では : イットリウムが 93−272ppm、ランタンが 193−274ppm、セリウムが 56−150ppm、ネオジウムが 36−77ppm、サマリウムが 62−88ppm、ユーロピウムが 6−31ppm、ガドリニウムが 48−89ppm、ディスプロシウムが 6−14ppm、エルビウムが 14−24ppm、イッテルビウムが 12−25ppm とまさにランタノイド系の希土類元素のオンパレードといった濃度で含まれています。 
 あの魅惑的な色彩は,微量に含まれるこれらの希土類元素の働きによるものです。

 螢石にこんなにも多くの希土類元素が高い濃度で含まれる理由は、螢石の主成分である弗化物の水溶液に天然の希土類元素が難溶性の状態で存在していることと、もう一つの主成分であるカルシウムとランタノイド系希土類元素のイオン半径とが殆ど同じであることからです。