インドの蛍石
(Fluorites from India)


 
 

 最新のMindata によると、インドには50箇所の蛍石産地があります。
ただし、様々な金属鉱山、変成鉱床、ペグマタイト鉱床等から産するとしか分からず、詳細な産状も、結晶写真さえもありません。
 しかしながら、冒頭の写真のように、魅力的な色合いの大きなルースが得られる結晶を産するわけで、どのような鉱山から、如何なる産状で採れるのか ? 今後の情報を期待するのみです。

ラージャスタン州の蛍石 (Fluorites from Rajasthan)
       
 10.95ct 16.8x11.6x7.9mm  6.85ct 15.3x10.3x6.8mm  9.63ct 14.0x10.7x8.9mm 7.13ct 14.7x9.7x7.0mm 
 ラージャスタン州はインド北西部のジャイプールを州都とする州です。
これらの大きく、美しい宝石質の蛍石がどのような産状で採れるのか、詳細な情報は皆無ですが、州の各地に銅、鉛、亜鉛、ウラン等の鉱山があり、これらの鉱脈から宝石質の結晶を産するのかと考えられます。
 蛍石の発色は、長年不明でしたが、1970年代広範になって、漸く、主にランタノイド系の稀元素によるものと解明されました。
 緑はイットリウムとセリウム、稀にサマリウムによるエメラルド・グリーンと解明されています。
 青の発色は三価のイットリウムと鉄の欠落による二個の価電子による光の吸収とされています。
10.95カラットの緑のルースは白熱光で変化しませんが、その他の青いルースはいずれも白熱光下で濃い赤に変化することがチェルシー・フィルターを通して見られます。

 
ビハール州の蛍石 (Fluorites from Bihar)
   
 8.40ct 14.9x11.4x7.1mm  10.70ct 15.7x11.8x9.10mm
   冒頭の写真では、これら二つのルースはかなり黄緑色に写っていますが、実際は濃いペリドットのような色合いなので、肉眼で見た色合いになるように補正をかけています。
 この色の蛍石はこれまでに撮影したルースの中では、色の再現が最も困難な部類に属し、照明や感度、ダイナミックレンジ等々を調整して、あらゆる条件下で数十枚の撮影を繰り返し、さらにガンマ補正等、様々な試行錯誤の末に、漸く、肉眼で見たのと同じ色合いに辿り着いた次第です。
 この色合いの蛍石は Gems & Gemology 誌の2007 Spring に一度だけ、インドのビハール州産としてジャイプールで入手した2~52カラットのルース300個の内の一つの写真と分析報告があったものです。
 それによると、一般にエメラルド・グリーンの蛍石はサマリウムによる発色とされているが、ビハール州産の緑の蛍石からはサマリウムは検出されず、イットリウムとセリウムによる発色と判明したとのこと。
 ただし、前述のラージャスタン州産の緑の蛍石とは異なり、この二つはいずれも白熱光下でチェルシー・フィルターを通して淡い赤に色変わりすることが確かめられました。
 バングラデシュに近いインド東部のビハール州には、銅、鉄、クロム、マンガン等の鉱山が密集する、インドで有数の鉱山地帯ですが、しかし、最新の Mindata にも蛍石の産出は記録されていないため、正確な産地は不明です。
 これらのルースも実は単にインド産としてのみ出品されていたのですが、G&G 誌の記事のルースの写真と色合いや、チェルシー・フィルター反応が似ているために、とりあえずビハール州産ではないかと考えている次第です。
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