合成ガーネット(Synthetic Garnets)


  
様々な色合いのイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、
イットリウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット(YAlGG) ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)

 合成ガーネットは数ある合成宝石の中では特異な存在です。
ダイアモンドを初め、ルビー・サファイア、エメラルド、アレクサンドライト、紫水晶等の合成品は、イミテーションは別として、天然のそれと全く同等の化学組成を持つ結晶を様々な方法で、人の手で結晶化したものです。
 したがって、化学組成はもちろん、結晶構造、比重、屈折率といった物理特性も天然と全く同じ値を示します。
 ところが合成ガーネットの場合は、天然には存在しない、ガーネットとは全く異なる化学組成を持つ人工の鉱物が、XYZという天然のガーネットと同じ結晶構造を持つが故にガーネットと呼ばれます。
 これらの人工のガーネットはイットリウム、ガリウム、ガドリニウムという元素を主成分とするため、下記の表のように、天然のガーネットと比べ、比重と屈折率が著しく異なるため、一見して肉眼でも識別が可能です。
 合成ガーネットは1960年代末頃から1970年代にかけて、本来、レーザー等の光学用途、あるいは記憶素子等の先端技術分野用に開発、生産されたものですが、屈折率や分散値の高さからダイアモンドの代替品、或いは緑に発色させてエメラルドやツァヴォライト等の代替品として一時脚光を浴びたことがありました。
 その後宝石の代替品としてはすっかり市場から姿を消していましたが、この2,3年、おそらくは嘗てロシアで生産されたと思われる緑や青のYAGやGGGの旧在庫品からカットされたものが、近年脚光を浴びているアウインやパライバトルマリンの代替品として姿を見せるようになりました。
 稀少性から人気を集めて、昔と比べるとかなりの高値で取引されています。
 

合成ガーネットと天然の対応宝石との特性一覧表
   Formula  モース硬度  屈折率   分散  比重 
 Diamond 10   2.417   0.044  3.52 
 Grossularite Ca3Al2(SiO4)3 7  1.700-750 0.028  3.34-73
           
YAG  Y3Al2(AlO4)3   8¼   1.833   0.028 4.55 
GGG  Gd3Ga2(GaO4)3  6½ 2.03  0.045  7.05 
 YAlGG  Y3(AlGa)2(AlGaO4)3   1.885    5.05
CaNbGG   Ca3(NbGa)2(GaO4)       4.73


YAG(Yttrium Aluminium Garnet : イットリウム・アルミニウム・ガーネット)
     
 3.30ct
Ø8.2mm
1.43ct 
Ø6.5mm
2.11ct
9.3x6.4mm
 3.32ct
 9.3x6mm
1.30ct
  7x5.2mm 
0.84ct - 0.92ct 7x5mm 
     
ピンクと緑の結晶片 
 1.69ct
   8x6.5mm 
 1.26ct
 8x6mm 
 3.5ct
9.2x7.2mm
1.98ct
8.1x5.2mm 
6.4g
17x15x13mm 
12.65g
12x20x13mm 

 1960年代半ばに登場したYAGは本来レーザーの発振素子として開発されました。
事実、今日でも産業用、医療用等のレーザーとして広範な分野で活躍しています。
 と同時に、無色透明で高い屈折率を持つことからダイアモンドの手頃な代替品として、1960年代末から1970年代央まで宝石市場で活躍しました。
 が、ダイアモンドと比べるとファイアーの出方がやや弱く、後に登場したGGGに駆逐され、宝石市場から姿を消しました。
 無色透明なYAGは、様々な元素を添加することでエメラルドやツァヴォライトを思わせる多彩な色が実現できますが、しかし主流となることはありませんでした。
 ところがこの1~2年ほど、アウインやパライバ・トルマリン等の代替品として、ごく少量ですが、ネット市場に再登場してきました。
 恐らく旧ソ連時代に生産された古い在庫からカットされたものが流れているとおもわれますが、今となっては希少なものであり、人気を呼んで、かなりの高値で取引されています。

GGG (Gadolinium Gallium Garnet : ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)
     
 3.20ct
Ø7.40mm
 2.02ct
Ø6.50mm
0.66ct
Ø5.0mm 
0.59ct Ø4.0x2.6mm
0.70ct 4.9x3.8mm 
引き上げ法の青い結晶
(Pulled blue GGG) 

 GGGも同様にレーザー用素子として開発されました。が1970年代、コンピューターの黎明期に大きな課題であった、記憶素子としての可能性が注目され脚光を浴びました。GGGの薄膜結晶に大容量のデータを高速で記録し、読みだす事が出来ることが判明したためです。
 当時は未だ、フロッピーもハードディスクは勿論のこと、半導体メモリーも存在せず、実用化されていたのは磁気テープぐらいしかありませんでした。
 磁気テープには大容量のデータを記録することが可能ですが、読み込みと読みだしに時間がかかり、即ち高速処理が不可能でした。
 他にもパラメトロン等々、ありとあらゆる素子や技術が検討されていた中で大容量のデータを高速で記録、読み出しが可能なGGG薄膜は最有力の素子として注目を集めたのです。
 が、結果は、データの記録と読み出しに大電力が必要なこと、その後急発展したフロッピーやハード・ディスク、さらに半導体メモリーに後れを取り、メモリーとしての出番はなくなったのです。
 代わりに注目されたのが、ダイアモンド代替品としての役割でした。
前述の表のとおり、YAGより屈折率が高く、ダイアモンドと同じ、0.045という分散値を持つGGGはよりダイアモンドに最も近い煌めきとファイアーとを放つ宝石として注目を集めました。
 が、ガドリニウムとガリウムという高価な材料が必要なこと、そのうえダイアモンドの二倍の比重があり、一層割高になり、モース硬度が低く、傷つき易い上に、紫外線で褐色味を帯びる等、様々な欠点のために、ごく短命に終わりました。
 今では1970年代央に登場した、ダイアモンドに最も近く、しかも遥かに原料の安価な、究極のダイアモンドの代替え品、キュービック・ジルコニアがすっかりと市場を席巻しています。
 が、近年GGGが断熱消磁に拠って絶対温度の2~7Kの極低温を実現する理想的な素子として再々脚光を浴びるというしぶとい存在感を示しています。
 さらに前述のYAG同様、旧ソ連でごく少量生産された青や緑の結晶からカットされたルースが、アウインやパライバ・トルマリンといった、稀少な宝石の代替品として人気を呼んでいます。
  


YAlGG (Yttrium Aluminium Gallium Garnet : イットリウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)
   
0.74ct 
6.1x4.2mm
0.58ct
8.2x4.0mm 
    0.72ct
   6.0x4.2mm
 4.45g 7.2x5.5x4.8mm   3.44g 7.0x4.8x3.9mm   
          2.36g 5.2x4.2x3.4mm    1.87g 5.4x4.2x3.4mm 

 このガーネットはYAGのアルミニウムの一部をガリウムが置換した変種です。
 現在も特殊な電子材料として引き上げ法による生産が行われているようですが、写真の結晶とルースとはラモーラ(Ramaura)合成ルビーで名高いジュディット・オスマー女史が、ルビー生産に乗り出す前に、ツァヴォライトの代替品として1970年代にフラックス法でごく少量合成していたものです。
 緑色はクロムとトリウムとヴァナジウムによる発色と考えられます。
フラックス法による合成は大きな結晶の成長が難しく、結晶内部に転移や傷等が多くできるため、1カラット以上のルースを得られません。
 結局、ジュディット・オスマーは種結晶を使わないフラックス法の合成ルビーに切り替えて、ルビーを販売する傍らで、ごく少量生産したYAlGGの結晶とルースの在庫を捌いていましたが、その在庫も1980年代央には売り切ってしまいました。

その他の合成ガーネット(Other Synthetic Garnets)
     合成ガーネットは全てが光学用、最先端の電子材料として開発、生産されています。
一部の鉄を含むもの以外は無色透明ですから、発色剤を添加することで美しい色合いの宝石用
になります。カルシウム・ニオブ・ガリウム・ガーネットも特殊なレーザー用ですが、これは
2010年に試験的に作られた、エメラルドのような色の試作品です。
 このほかにもYAGのイットリウムの一部、あるいはすべてをディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、
エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)等のランタノイド系の元素と置き換えた
合成ガーネットがレーザー用に開発されています。
 その多くが、前述の合成ガーネット同様、発色元素を添加することで美しい宝石となりますが、
希元素を使うことで高価になりますから、市場に姿を見せることはまずありません。

 様々な色の発色は;ピンク、藤色:ネオジウムとエルビウム緑色:クロム、トリウムヴァナジウム
 
エメラルド色 : ネオジウム、クロム、コバルト、鉄  赤 : マンガン、
 青 :コバルト金、黄色 : テルビウム、ホルミウム、ユーロピウム、イッテルビウムを加えます。
カルシウム・ニオビウム・ガリウム・ガーネット
Ca3(NbGa)2(GaO4)3 5.43ct 
 



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