グランディディエライト(Grandidierite)
2014年にマダガスカル南部で発見、 2014年5月~2016年3月までに採集 された800㎏のラフからカットされた 小さいながら稀な宝石質のルース |
2000年にスリランカのコロンネ で発見され、カットされた唯一の グランディディエライトのルース |
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結晶 13.6g 18x15x14mm ルース 0.79 - 6.96ct | 0.11ct | 0.29ct 4.82x4.63x2.23mm | |
Tranomaro, Madagasar | Tranomaro, Madagascar | Kolonne, Srilanka |
4.30ct 11.0x9.1x6.3mm | 6.96ct 13.3x10.3x7.5mm | 2.01ct 10.8x7.2x4.1mm | 0.99ct 7.80x5.20x3.85mm | 0.79ct 7.04x5.10x3.90mm | 1.41ct 9.50x5.38x3.60mm | 2.62ct 10.75x8.17x4.40mm |
2.01カラットのルースは半透明ですが、4.30と6.96カラットのルースは殆ど不透明なので、本来ならカボション級ですが、透明な部分が僅かにあるために、ファセットカットされたと思われます。
化学組成 (Formula) |
結晶系 (Crystal System) |
モース硬度 (Hardness) |
比重 (Density) |
屈折率 (Refractive Index) |
(Mg,Fe)Al3(BO3)(SiO4)O2 | 直方晶系 (Orthrhombic) |
7½ | 3.01 ± 0.022 | 1.602-639 |
名前と産状
グランディディエライトは1902年にマダガスカル南部海岸、アンドラホマナ(Andrahomana)の崖で発見され、ラクロワ(Lacroix)によって、フランスの探検家、グランディディエ(Alfred Grandidier 1836-1921)の名前に因んで命名された鉱物です。
グランディディエの名は、フランスの百科事典ラルースにもたった2行ではありますが、マダガスカルを調査・探検した人物として掲載されていますからフランスでは名の知れた人物なのでしょう。
グランディディエライトは極めて稀な鉱物ではありますが、マダガスカルでの発見後、世界各地、およそ50箇所の高温、低圧の変成作用を受けた硼素とアルミニウムに富むペグマタイトや、片麻岩、結晶岩中に発見されています。
化学組成や産状を鑑みると、斧石 [Ca2(Fe,Mg,Mn)Al2(OH/BO3/SiO12)]と似ていて、とりわ特別な成分を含む鉱物ではありませんが、遥かに稀少なのは、おそらく高温、低圧の極めて限定的な温度と圧力の条件下でしか成長しないためと想定されます。
主な産地は : ニュージーランド、ノルウェー、スリナム、アルジェリア、イタリア、マラウィー、インド、アメリカ合衆国、カナダ、チェコ、南極等、およそ世界の50個所から報告されています。
さらに日本でも1999年にレインボー・ガーネットで有名な奈良県、大峰山脈中の天川村の弥山川流域の斑状花崗岩中から発見されました。
が、後の分析の結果、マグネシウムの95%が鉄に置換され、グランディディエライトとは連続的な固溶体を成す新鉱物の大峰石(Ominelite :FeAl3(BO3)(SiO4)O2)であったと判明しました。
最初の宝石質グランディディエライトの発見
マダガスカル南部で発見されて以来、僅かな数のルースがカットされましたが、透明度が低いため、大半はカボション級であり、宝石質の完全に透明なルースは、ありませんでした。
が、2000年に、ようやくスリランカ、コロンネのサフィリーン、セレンディバイト等を産する、高度の変成作用を受けた鉱床から0.85カラットの透明な結晶が発見され、冒頭の写真の0.29カラットのルースがカットされました。
その後同産地からの宝石質の結晶やルースのニュースはありません。どうやら散発的な発見だったと思われます。
2014年、マダガスカルでの新産地の発見
最初にラクロワによって報告された産地のペグマタイト鉱脈は他の近隣の鉱床と共に1960年代には枯渇していました。
が、2014年の5月に最初の発見地、アンドラホマナ岬の凡そ60㎞北のトラノマロにて極めて純度の高いグランディディエライトが発見されました。その後地図に示した周辺、6か所で発見された標本も、いずれも鉄分比が0.1%以下と、1991年にニューヨーク州の Johnsburg 産に匹敵する、ほぼ純粋なグランディディエライトであると判明しました。
アクアマリンのような青ー緑の色合いは微量の鉄による発色と考えられます。
マダガスカル南部のグランディディエライト産地 | ||||
1.Ihosy | ||||
2.Esira | ||||
3.Vohibola | ||||
4.Nampoana/Tolanaro | ||||
5.Andorahomana | ||||
6.Tranomaro | ||||
Tranomaro産結晶 | ||||
53x39mm | ||||
45mm 39.7g | ||||
劈開面の拡大 | 18x15x14mm 13x4mm 13x6mm | 晶洞中の結晶 11cm Pascal Quénaon ( Minéral'ys) specimen |
Tranomaroの新産地での採掘 | 2.9cm Alex Schauss Collection |
マダガスカル南部の地質と採掘情報マダガスカル南部一帯の地質は18-20億年昔の古原生代の古い地質です。
6.2-6.4億年昔の氷成紀の地殻変動でVohibola一帯に海底地盤が付加され、その後5億年昔に至る一連の褶曲、隆起、断裂などの地殻変動の最後に地図にピンクで示された1400平方kmに及ぶアルカリ岩質マグマの貫入と噴出とにより、この一帯に無数のペグマタイト脈が形成され、様々な宝石や希元素鉱物が成長したと考えられています。
最初に発見されたアンドラホマのペグマタイト鉱床ではグランディディエライトは石英、微斜長石、鉄礬柘榴石、紅柱石、鉄スピネル、黒雲母に伴って産出しました。
凡そ30㎞北にあるVohibolaでは透輝石を伴う片麻岩中にセレンディバイトやシンハライトを伴って発見され、他の産地では石英中にグランディディエライトが発見され、300㎞ほど北のイオシー鉱床では片麻岩中にセレンディバイトとトルマリンと共に発見されました。
これら過去の発見はしかし、最初のラクロワの報告以外はいずれも顕微鏡レベルの微小な結晶の発見に過ぎず、重要ではありません。
2014年トラノマロ鉱床の発見
トラノマロは風化したペグマタイト鉱床が凡そ1万平方kmに広がり、12人の鉱夫がシャベルとつるはしとで最深では18mに達する縦坑を掘って、地下で水平に伸びるグランディディエライトを含む鉱脈から採鉱しています。
掘り出された母岩からは結晶部分が慎重に選別されて取り出されます。
2014年5月から2016年3月までに得られたグランディディエライト・ラフは800㎏に達しました。
このラフのうち、透明な部分は60グラム、それから30個ほどのルースがカットされましたが、1カラットを超える大きさは10個未満です。
最大で15x7x3㎝の透明ー亜透明の結晶が採集されました。
結晶とカットされたグランディディエライト
2016年の10月頃から、結晶標本やカットされたルースがネット市場に姿を現し始めました。
冒頭の大きな3個のルースは現在市場に姿を見せるグランディディエライトの一般的な品質です。
ほぼ亜透明から不透明なルースの一部にかろうじて透明な部分が垣間見える程度です。
2018年頃からは透明度が高いルースが流通し始めましたが、1カラットを超える宝飾品級はカラット当たり数十万円と高級宝石扱いですが、稀少な宝石とあれば止むを得ないでしょう。
が、冒頭の写真の中で大きな3つはいずれもカラット当たり1000円程度と、品質を勘案すれば至って妥当な水準でネット・オークションに出ていました。
同じく前列右側の比較的に透明度の高い、やや小さなルース3個は、カラット当たり2000円程度と、標本級ではありますが品質を鑑みれば、妥当な水準に落ち着いてきました。
一方、1cmほどの大きさの、結晶形はおろか、一辺の結晶面すらも見えない、ただの結晶団塊標本が、初値の300円程度から吊り上がり、当初は1万円近い高値で落札されていましたが、さすが初期需要が収まった現在では1個1000円以下と、こちらも落ち着いてきました。
上述の説明通り、確かに希少な鉱物であり、冒頭の右の写真のような、完全に透明な極小の宝石質のルースは800㎏のラフから30個程度しか得られません。