グリーン・サファイア
(Green Sapphire)


 
 
 緑色のサファイアは天然には数が少なく、あっても暗緑色であったり、透明度に欠けるものが大半で、宝飾品として使われる例は滅多にありません。
 が、長年蒐集をしていると稀に宝飾品級の美しいものもあり、世界各地から集まった緑のサファイアをまとめてみました。

グリーン・サファイアの発色

 緑色の発色は三価の鉄イオンの八面体配位に二価の鉄イオンと四価のチタンイオンとの電荷移動、さらに三価のクロムイオンの八面体配位とが重なって起きると、1981年に解明されました。
 この仕組みは青の発色の仕組みと共通点があり、同じサファイアの中で同時に青と緑の発色が同時に起こっている例もあり得ますから、光の加減では青みがかかった緑色に見える例も少なからずあると考えられます。

グリーン・サファイアの産地

 これまで蒐集した緑のサファイアの産地は、スリランカ、タンザニア、マダガスカルとアメリカのモンタナ州とがあります。
大量の鉄イオンにより、二価と三価の鉄イオン間の電荷移動によって暗緑色の発色が起きるアルカリ玄武岩起源のタイ、カンボジアとオーストラリア産には宝石質の緑色のサファイアは見当たりません。
 鉄分の少ない変成岩起源の産地のサファイアにのみ、稀に宝石質の緑の発色が起きると考えられます。

スリランカのグリーン・サファイア (Srilankan Green Sapphire) 
       
1.38ct 7.4x5.3x3.4mm   3.36ct 12.8x7.1x4.9mm 2.35ct Ø7.6x5.2mm  1.81ct 9.8x6.6x4.0mm 

 1.38カラットのクッションカットの石は緑色のサファイアとしては宝飾品級の稀な品質です。 これは間違いなくスリランカ産と言って良いでしょう。 残りの3点は、スリランカ産の様々な色合いのサファイアのロットに入っていたものです。
 が、近年は東アフリカ産の原石をスリランカでカットしたものが多く、これらは、その可能性が高いのです。多色であったり包有物が多く、透明度が低い等々、標本級のサファイアです。

タンザニアのグリーン・サファイア (Tanzanian Green Sapphire)
     
1.27ct 6.9x5.8x4.6mm  1.18ct 10.1x 4.8x2.0mm 0.71ct Ø5.55x2.63mm 

 これらの黄緑色のサファイアは恐らくウンバ川流域の漂砂鉱床で採集された、変成岩起源のサファイアと思われます。
この地域からは実に多彩な色のサファイアが発見されます。


マダガスカルのグリーン・サファイア (Malagasy Green Sapphire)
   
0.83ct 5.65x5.60x4.30mm  0.75ct Ø5.2x2.7mm 

   マダガスカルがトパーズやエメラルド、ルビー、サファイア、アクアマリン等の豊かな宝石の産地であることはすでに16世紀半ばにフランスの探検隊により報告されていました。
 本格的な地質と鉱物資源の調査はフランスの植民地となった20世紀初頭に行われ、フランス国立自然史博物館の教授だったラクロワ(Alfred Lacroix) に因って行われ、その調査の結果は未だにマダガスカルの鉱物資源の重要な資料として残されました。 
 その報告に基づいて行われた鉱山の開発により、20世紀初頭から宝石の採掘が行われ、1920年には年間1000kgを超えるエメラルド、アクアマリン、トパーズ、ルビーやサファイアの原石がヨーロッパに運ばれました。
 20世紀を通じてマダガスカル各地で発見された多彩な宝石により、ブラジルやスリランカと並ぶ宝石産地として認められていたマダガスカルですが、1993年に発見された南部のアンドラナンダンボのサファイア鉱床は世界の宝石関係者を驚愕させるものでした ; すでに絶産となった伝説のカシミールに匹敵する最高品質のブルーサファイアが発見されたためです。
 さらにルビー、サファイアの新産地が次々と発見され、今や世界のルビーとサファイア供給な最も重要な供給地となっています。 
 写真のグリーン・サファイアは、1998年に発見されたイラカカーサカラナ(Ilakaka-Sakarana) の漂砂鉱床から採れたものと考えられます。 この鉱床はマダガスカル南部のイラカカ周辺数万平方キロメートルに及ぶ広大な地域の地下に堆積した漂砂鉱床にあらゆる色のサファイア、トパーズ、ジルコン、スピネル、トルマリン、各種のガーネット、クリソベリル、アレクサンドライト、アクアマリン、クンツァイト、アンダルーサイト、カイアナイト等々を産し、世界最大にして最良の宝石鉱床です。
 下記の写真にある”スイス銀行”と呼ばれる鉱床はあまりにも豊穣な宝石の産出があったために命名されたものです。
 多彩な色のサファイアを産するとはいえ、緑色は極めて少なく、過去20年余りで巡り合ったのは、この2個に過ぎません。
イラカカ-サカラナの宝石鉱床(Ilakaka Gem Deposits )
     
 数万平方㎞に拡がるイラカカの宝石鉱床 ほぼ全てが 地下深さ1mから10mを人の手で掘られた坑道  ”スイス銀行”鉱床 
1999年12月


   
 イラカカの西50㎞にある Ambalavy川での選鉱作業風景 1998年の発見後、荒野にたちまち出現したイラカカの町 1999年
 以前からこの一帯で宝石は細々と採掘されていたのですが1990年代末に、一人のこ鉱夫が掘り当てた10カラット余りのアレクサンドライトの原石に日本の宝石商が10万ドルを支払ったという話が広がり、マダガスカル中から万を超す鉱夫が集まって無人の荒野にたちまちのうちに町が出来てしまったほどです。
 現在はイラカカの町は周辺の広大な宝石採掘の拠点としてさらなる発展を遂げています。


モンタナのグリーンサファイア ( Montana Greensapphire)
     
 1.82ct 8.1x7.0x4.2mm 1.65ct  Ø7.0x4.3mm 1.38ct Ø6.8x3.8mm 
  これらはアメリカ北西部のモンタナ州産のサファイアです。 
モンタナのサファイアには二種類の産状があります ; 一つは金雲母、角閃石、橄欖石、単斜輝石、方沸石等の超塩基性のマグマによって捕獲結晶として運ばれたヨーゴ峡谷のサファイアであり、もう一つはその他の産地の、流紋岩性の火山岩によって地上に運ばれ、その後の風化で漂砂鉱床に堆積したものです。
 ヨーゴ峡谷産はコーンフラワー・ブルーと呼ばれる、非加熱でも濃い青い色合いのサファイアが主ですが、他の産地のものは無色から、金、橙、ピンク、稀に赤、緑、青、多色と多彩ですが、大半は加熱処理をしないと宝飾品には使えません。
 写真のサファイアはほぼヨーゴ峡谷以外の産で加熱処理により発色が強調されたものと考えられます。
これらはいずれも1カラットを超える、モンタナ産としては例外的に大きな標本です。大半は0.5カラットに満たない小さなものが多いのです。

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