翡翠 (Jade) -2

軟玉 (Nephrite)


中国 清・乾隆帝時代の軟玉の工芸品
       
軟玉  Bowenite Bowenite  軟玉  47.5cm

       
 前漢(475-221BC)
時代の軟玉の儀式用の斧
漢 ( 24-220AD) 時代の軟玉盤 ” Pi ” 後漢時代、永楽帝の子、劉焉 (~90AD)
の遺骸を覆う2000枚の軟玉の板
清の時代、ビルマから入った硬玉翡翠壺
の透明度が際立つ厚さ1.56㎜ の細工
 中国では古来より玉(Yü : ユー) と呼ばれる翡翠製品が愛好されてきました。
翡翠と呼ばれますが、中国では硬玉の翡翠は産せず、全てが軟玉(ネフライト)と蛇紋石です。
 とりわけ、亜透明の白い翡翠(Bowenite)が珍重された。
 中国にビルマ産の硬玉がもたらされたのは18世紀の清の乾隆帝の時代。
軟玉を遥かに上回る、透明度の高い白い硬玉は熱狂的に支持された。
       
 世界各地の軟玉の彫刻
ロシア産軟玉のファベルジェのエッグと水差し  カナダ BC Jadeの彫刻  New Zealand  Canada BC Jade 中国


軟玉と蛇紋石の宝飾品
       
ボーウェナイト   蛇紋石の飾り  カナダ BC Jade ウィリアムサイト(Williamsite) 


  化学組成 (Formula)  結晶系
 (Crystal System) 
モース硬度
 (Hardness) 
比重
 (Density) 
屈折率
 (Refractive Index) 
 軟玉・ネフライト
(Jade・Nephrite)
 Ca2(Mg,Fe)5Si3O22(OH)2  単斜晶系
(Monoclinic)  
 6½  2.96 1.61-63
蛇紋石
(Serpentine)
(Bowenite) (Williamsite) 
Mg6(OH)8Si4O10   3 - 4   2.5-6   1.55-56
 
 翡翠とは、一般に宝飾品に使われている美しい石を指しますが、主に翡翠輝石、あるいは硬玉と呼ばれる鉱物と、軟玉と呼ばれる、よく似た、別種の鉱物があります。
 軟玉は、鉱物としては角閃石 (Amphibole)の一種で、主に透閃石 (Tremolite) - 緑閃石 (Actinolite) から成る岩石です。
蛇紋石も半透明、亜透明の白いボーウェナイト (Bowenite) や濃い緑のウィリアムサイト (Williamsite) が工芸や宝飾品に使われます。
 いずれも中国では紀元前の遥か昔から”玉” として珍重されてきました。

世界の軟玉と蛇紋石の産地
    翡翠輝石と軟玉とはいずれも、大陸移動や造山運動などプレートの移動に伴う大規模な地殻変動による、藍閃石を伴う高圧変成帯に発見されます。
 翡翠輝石は高圧ながら低温という極めて稀にしか起こらない条件下で生成した鉱物のため、世界に数か所しか存在しません。
 が、軟玉と蛇紋石とは、広範な地質条件下で生成した岩石のため、世界各地、トルキスタン、シベリア、中国、ウィグル自治区のホータン、台湾、ニュージーランド、オーストラリア、北米、アラスカ、カナダ等で発見されます。
 プレートの衝突により地下深くから押し上げられた橄欖岩、曹長石,方沸石、角閃石等の鉱物が高温、高圧と熱水との作用で繊維状で緻密、強靭な軟玉や蛇紋石へと変貌したものです。
 そのため古来より、石器や儀式用、さらに美しいものは工芸品や装飾用の宝物として珍重されて来ました。

中国・ウィグル自治区の軟玉
      古来より中国で珍重されてきた軟玉と蛇紋石の大半は西域の崑崙山脈から流れ出すホータン川にて採集されました。
 とりわけ珍重された白い軟玉の平均の採集量は年間1トン、緑と黒い軟玉の採集量も10トンから最大でも40トン程であったと見積もられています。  
中国奥地崑崙山脈から流れ出すホータン川での軟玉採集と集められた原石 

アラスカとカナダの軟玉産地
 
16トンもの原石を輸送用にスライスに切断  北緯60度近い北極圏での作業  宝石質軟玉の露頭 

     
 採掘した軟玉の切断  薄片に研磨されたネフライト タイでの仏像彫刻の制作 

 アラスカとカナダのユーコン川流域に19世紀半ばに発見された砂金鉱床での採掘や探査に伴い、北極圏に近い北緯60度近辺に軟玉の岩脈が各地に発見されました。
 が、当時は軟玉の発見はほぼ無視され、忘れ去られていました。
この地の軟玉が脚光を浴びたのは20世紀後半から21世紀になってからのことです。
 中国の西域地方やその他の良質の軟玉産地の資源が枯渇し、翡翠輝石に匹敵する高品質の北米の軟玉が注目を集めるようになりました。
 とりわけ、カナダのブリティッシュ・コロンビア州の軟玉は、BC・Jade と呼ばれ、現在では年間産出量が300トンと、世界の大半を占める重要な産地となり、中国、台湾、東南アジアでの需要を一手に引き受けています。
 極寒の気候と2000mの高地での採掘と運搬作業は夏の3か月間に限られますが、巨大な岩塊から重機を駆使しての効率の良い採掘と運搬とが行われています。

その他の産地
         
シベリアの軟玉露頭  オーストラリアの軟玉露頭  オーストラリアのブラックジェイド彫刻  ニュージーランド南島の軟玉露頭   ニュージーランド軟玉彫刻

 ロシアは北極圏に近いシベリアやモンゴルに隣接するサヤン山脈等各地に軟玉の産地があります。
ロシアの軟玉を世界的に有名にしたのはロマノフ王朝時代に、皇帝一族のためにファベルジェが制作した “エッグ” 等、無数の装飾品に、軟玉を始めとするロシア産の鉱物が使われたためでしょう。
 当時の一般のロシア人にとってそうした装飾品は全く縁のない品物でしたから、ロシア産の軟玉の大半は中国に輸出されていました。
 オーストラリアは南部のアデレードの北西500㎞のカウェル(Cowell)に埋蔵量8万トンといわれる世界最大級の軟玉の鉱床があります。
 鉄分を含むため殆ど黒に近い濃暗緑色であまり人気がありませんが、黒い彫刻品には独特の存在感があります。
 ニュージーランド各地に軟玉の産地がありますが、とりわけ南島西部には巨大な軟玉の露頭が存在します。
原住民のマオリ族は軟玉を ”ポウナム : 緑の石” と呼んで珍重し、石器や伝統的な独特の形の彫刻作品が数多く作られています。


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