エレミア石(Jeremejevite)

0.58ct 6.04x4.43mm 0.55ct 7.3x3.0mm 0.37ct 6.1x3.5mm
Mogok, Burma Namibia Ilakaka, Madagascar


1.56ct
Locality unknown
2.65ct  Namibia 4.54ct
Mile72 Cape Cross Namibia March 1999
25x20mm 
Erongo Mtn. Namibia March 2001
Mogok, Burma
0.97ct  Namibia 0.26ct ea.  Tajikistan
GIA Collection

 

Pamir Mtns. Soktuj Mtn.  3.4cm Soktuj Mtn.
Harvard Collection

結晶 3mm Soktuj Mtn.
Adun-Chilon Mtns.Siberia, Russia
結晶 10mm 
Erongo Mtns. Namibia

 

化学組成 結晶系 モース硬度 屈折率 比重
Al6B5O15[F,OH]3 六方晶系 7 1.640-651 3.27-3.31

  エレミア石は19世紀末に発見され、1883年にフランスの鉱物学者ダムール(Damour)により、ロシアの鉱物学者パヴェル・V・イェレメイェフ (Pavel V. Jeremeiev) に因んで命名されました。
 一般にジェレメジェフ石と記述されますが、様々な発音で呼ばれます。 ロシア語のキリル文字にはJ に相当する文字がなく、この発音が気になっていました。 リンクしている ”鉱物たちの庭” のフラグメンツにエレミア石とあり、これはまさに目からウロコでありました。イェレメイェフとはユダヤの預言者エレミアのロシア語読みで、恐らくユダヤ系のロシア人でしょう。
 というわけで、日本人にもなじみの深いエレミア石と呼ぶことにします。 ちなみに英語ではジェレメジェバイト、フランス語でもジェレメジェヴィットですが、ドイツ語とロシア語ではイェレメイェフィットとなります。
 数多い鉱物の中では極めて稀産の鉱物であって、多くの鉱物コレクターの垂涎の的となっている鉱物です。
硼酸アルミニウムに弗素基と水酸基がくっついたという、ありふれた化学組成の鉱物ですから何処にでもありそうですが、近年までは世界でたった2ヶ所からのみ産出が報告されていたに過ぎませんでした。
 最初に発見されたのは19世紀末、ロシアのバイカル湖の東、ネルチンスクの南,モンゴル国境に近いアドゥンーチロン山脈のSoktuj山の花崗岩の堆積の中から。 バイカル湖南東部は一帯には広大なペグマタイト宝石ベルトが延びていて,歴史的に緑柱石、トパーズ,トルマリン等の素晴らしい結晶を産出して来たことで知られています。

 かつては世界各地の博物館に僅かな標本が見られるだけの稀産な鉱物でしたが、近年、ナミビア各地での発見に続いて、ビルマのモゴクのペグマタイト鉱床やマダガスカル、イラカカの漂砂鉱床からも宝石質の結晶が発見され、小さいながらカットされたルースが市場に姿を見せるようになりました。
 

 

ナミビア マイル72でのエレミア石の発見
ナミビアの地図 
 正しい地図の縮尺は300km
マイル72鉱床での採掘 1999年 マイル72鉱床の爆破作業の準備 1999年
 
マイル72産エレミア石の結晶形 1999年採掘の結晶 左 1.9cm  右 1.5cm
Mile 72, Namibia
Rob Lavinsky Collection
左の結晶 21.6x5.4mm 
Mogok, Burma

 

Mile 72 Jeremejevite Collection
母岩付き結晶 5.5cm
Natural History Museum
Houston, U.S.A.
正長石とのマトリクス
 全長 6.5cmの絵
正長石マトリクス上の結晶 3.7cm
Earth Science Museum, Pretoria, South America

1 2 3 4
1
2
3
4
 3.7cm : Natural History Museum Otawa, Canada
 5.7cm : 
Pacific Mineral Museum Vancouver
 2.5cm : 
Earth Science Museum, Pretoria, South America
 5.6cm : 
Steve & Clara Smale Collection
 2番目の発見は1973年、ナミビアのクロス岬付近のペグマタイトから。従来クロス岬と呼ばれていた産地は正確にはMile72と呼ばれる産地です。この変った地名の由来は海岸のSwakopmund市から72マイル北西にあるからです。クロス岬からは南東に16kmの地点にあって国設の魚釣りキャンプ場から700mの地点です。
 発見したのは通称”小岩おばさん"と呼ばれるタニー・クリッピ-でした。彼女の夫は州の地ならし機の運転手でしたが、夫の運転する地均し機の後を歩いてはきれいな小石を集めるのが趣味でした。1973年のある日、魚つりキャンプに通じる海岸の道を均していた機械が風化した母岩から青い石を砂の中にはじき出し、タニーに拾われたのでした。この標本はウサコス・ヴィントフックの抜け目のない鉱物・宝石商の目に目に止まりました。初めアクアマリンと考えられたその鉱物のカットされたルースはアメリカ宝石学協会の分析によってエレミア石であることが判明しました。
マイル72での最初の採掘 1973年
 早速発見された場所の300x600mの採掘権を得た鉱物商はコンプレッサーでの採掘を始めました。風化した花崗岩中を走るペグマタイト脈の中の晶洞中にいくつかの無色の透明なエレミア石の六角柱の結晶が発見され、最大のものは7.5cmでした。さらに固い花崗岩を1,5mの深さで5〜6m掘り進み、いくつかの小さな晶洞から僅かな結晶が得られたのみでした。さらに主脈と交差する細い石英脈があり、ここで唯一、曹長石、水晶、燐灰石、リシア雲母、ショールと共に青い結晶が発見されたのでした。この交差点から1m以内に最大で径10cmの晶洞が幾つか発見され、最良の青い結晶は全てそこから得られました。その後この脈に沿って採掘が進められ、全部で深さ1.5m、幅5m、奥行きが12〜15m全部で100トン未満の岩が掘リ出されましたが、めぼしい発見は続かず、採掘は中止されました。 この採掘の結果、世界市場にごく僅かですが、エレミア石の結晶標本とカットされたルースが供給され、アメリカとドイツの宝石学協会誌に記載されました。
1976年の採掘
  3年後の1976年8月に最初の場所から100m程東の地点にて新たな鉱脈が発見されました。注意深い爆破と掘削の結果100個ほどの青い結晶が得られました。最大では5cmの大きさでした。が、晶洞にあったのはひどく風化された残りの結晶であったとのことです。このときに採集された結晶の内150個ほどが1976年のデトロイトの鉱物ショーに出品されました。
 標本のうち母岩つきは2,3点で、残りは全て結晶単体や破片、柱状部分でした。色は無色から灰色、淡青色、緑がかった青と究極の矢車草の深い青もありました。結晶は2、3の例外的に大きな7〜8cmを除いては大半は1〜2cmの小さなもので、結晶端のターミネーションはあったとしてもひどく融蝕されていて、はっきりしないものが大半でした。しかし破損した結晶片は格好の宝石用原石となり、後にかなりのルースがカットされました。冒頭左の写真の青いルースはこの時に得られました。
 1976年のデトロイト・ショーでは何故かエレミア石はそれほどの注目を浴びなかったようです。 が、翌年2月のツーソンでの宝石・鉱物ショーでは噂がたちまち広がり、エレミア石を出品していたモテルの一室には長蛇の列が出来たとのことです。
1999年の採掘
 1998年半ばにアメリカ・コロラドとナミビアの宝石・鉱物商とが新たにマイル72でエレミア石採掘の会社を設立し、6ヶ月の周到な準備の後に1999年1月から採掘が開始されました。1973年に採掘された同じ場所を重機と爆破作業とでさらに深く掘り下げ、最初の6ヶ月で2700トンもの岩石が掘り出されました。
 最初の1週間で晶洞が発見され300個ほどの結晶が得られました。大部分は麦藁色の透明な、結晶端のある結晶で大きい物は51x6mmありました。冒頭中央の写真の4.54ctのルースはこの時のものです。 300個の結晶はまとめてコロラドの稀少鉱物商を通して世界中に出回ったとのこと。 世界各地の博物館や個人のコレクションに見事な結晶を見ることができます。マイル72ではしかし、その後2700トンもの岩が採掘され、さらに15の溝が掘られましたがエレミア石は発見されず、この地点の鉱脈は枯渇してしまったと考えられます。
 ナミビア海岸は世界でも数少ない厳しい環境保護が行われている場所です。マイル72の採掘地はスケルトン海岸の沿岸保護地域に含まれ、採掘による環境破壊への厳しい制限があり、採掘の様子が確認出来るように、露出した岩盤地帯のみでの採掘しか認められません。しかし海岸の大部分は砂の層で覆われていますが、砂を取り除いて岩盤を採掘することは認められていません。したがって今後エレミア石が含まれる可能性のある岩盤を採掘する可能性は非常に少ないといえます。
その他の地でのエレミア石の産出の報告 
  1980年代初め頃から、その他世界の4ヶ所からの産出が報告されています ;
 まずは1981年に世界で唯一の宝石質のHauyn(アウイン・藍方石)を産することで名高いドイツ中部アイフェル火山地帯のラーハ湖から。しかし青い色の柱状の結晶は最大でも1mm程度の微少な顕微鏡級の大きさに過ぎない様です。また黄色身を帯びた円錐状の集合結晶がOchtennburg近くのWannenköfenとEmmelberg(いずれもドイツのアイフェル山地)から報告されています。
 1984年にはパミール山地の南西部で、続いて1999年に、同じくパミール山地東部,タジキスタンのFantaziyaとPriyatnayaの二つのペグマタイト鉱床から。とりわけ後者からは宝石級の結晶が採れるようです。

ナミビア エロンゴ山地での新たな発見
(New jeremejevite discovery at Erongo Mtn. pegmatite,  Namibia)
エロンゴ山地を遠望 ロバは唯一の輸送手段 エレミア石を含むペグマタイト脈を見上げる 斜面に長く伸びる
ペグマタイト脈
直径5cm程の垂直な
ペグマタイト脈の露頭

 

エロンゴ山のエレミア石結晶 (Erongo Mountain jeremejevite)
石英上の両面ターミネート
のエレミア石結晶
 2.5cm
 様々な色合いとカラーゾーニングを見せる結晶片 最大 3.8cm
1998年にナミビアのクロス岬から東に180kmのUsakosの町の近くのエロンゴ山脈のペグマタイト脈にて微斜長石を伴うショールが発見され、その後アクアマリン、ゴッシェナイト、その他のベリル、トパーズ、螢石、錫石、タンタル石、ハイアライト・オパール、苦灰石、菱鉄鉱、チンワルデ石、紫水晶、煙水晶、フォイト石、それにデマントイド・ガーネットと実に多様な鉱物標本と結晶の発見が相次ぎ、鉱物によってはナミビアでかつて報告された内でも最良の標本でありました。
 そして2001年初頭にエロンゴ山脈の南側の孤立した山頂直下のペグマタイト脈の晶洞から濃い青い色をした結晶が発見されました。マイル72での発見と同じく初めはアクアマリンと思われましたが、後にエレミア石であると判明し、押し寄せた鉱夫たちによって掘り出された2000余りの結晶はツーソンの世界最大の宝石・鉱物フェアに出品されました。
 そのニュースはたちまち世界の鉱物コレクター達の間を駆け巡り、ツーソンに行けなかったコレクター達は、その後の世界各地での鉱物フェアを心待ちにしていたというわけです。
 幸いエロンゴ山脈の新産地からはエレミア石が豊富に採れた様で、小さい結晶ながら値段も手頃な水準で、既に秋頃から2、3の鉱物サイトにも素晴らしい結晶の写真が紹介されています。
エロンゴ山での採掘状況
 エレミア石が発見されたエロンゴ山地は世界で最も乾燥しているナミブ砂漠北部にあります。即ち全く水がなく、従って人も住まず、道路も無い無人地帯です。公道を外れて道無き荒野を14kmを歩き、さらに急斜面を500m登ってようやく鉱脈に達します。鉱夫達は食料と採掘用の工具に加えて水までも携えてこの路程を行き来します。
 錫やタンタル等の採掘をする鉱夫のグループはチームを組んでガソリン発電機やインパクト・ドリルを持ちこんで採掘をしていました(20世紀末の世界的なITブームで携帯電話に用いられるコンデンサーの材料としてタンタルの国際価格が記録的な高値で売買されていたためです)。 しかし宝石採掘の鉱夫達の道具は粗末なハンマーとシャベルとたがねで固い花崗岩を掘るのみでした。エロンゴ山一帯では300から500人、多い時には1000人もの鉱夫がこうした条件の下で働いているのです。
エロンゴ山のエレミア石の産状
  エロンゴ山にて得られるエレミア石の大半は長さが2.5cm以下です。しかし少なくとも200以上のさらに大きな、中には長さ5cm、幅が1cmに達する結晶も採れます。未確認情報では8cm以上の長さの結晶があったとのこと。さらに、かなりの数量の微小だが透明な結晶も発見されました。濃い矢車草色の結晶は稀で中間から薄い青が大半ですが、ラベンダー色、青緑、無色から黄褐色等も見られます。 マイル72の結晶の殆どが融蝕作用を受けているのに対してエロンゴ山の結晶面は滑らかで強い光沢があります。奇妙なことに無色や淡色の結晶は完全な結晶端を示しますが、濃い青色で結晶端を示すのはごく小数です。母岩つきの結晶には母岩側の色が濃く、結晶端側に行くに従い無色になるものがあります。結晶群で産出する例はごく僅かです。
 エレミア石はペグマタイトの晶洞に青ー青緑の繊維状のトルマリンや大きな煙水晶、正長石と共に発見されます。恐らく初めは煙水晶や正長石に付着して成長したと考えられますが、発見の際に付着している例は少数です。
 エロンゴ山で採れるエレミア石の大部分は結晶端が無い等の損傷を受けていますが、これは結晶成長の際の狭い晶洞内での接触や採掘の際の損傷ではなく、多くのペグマタイト脈に見られるように、ペグマタイト鉱脈生成末期に起きる爆発的な減圧過程によるものではないかと推定されています。
ナミビアの地質
  ナミビアは5.6億年昔、先カンブリア時代の激しく変成作用を受けた花崗岩帯に広く覆われています。
マイル72では、そこへ1.35億年昔、ジュラ紀から白亜紀にかけてのCape Cross Complexと呼ばれる南北に伸びる花崗岩帯が重なっていて、さらに年代不詳のリチウムに富むペグマタイトの巨大な岩体や蜘蛛の巣のように広がる細い脈が交差する複雑極まりない地層となっています。
 エロンゴ山地は北西から東南の方向へ200kmに及ぶUis錫-タングステンベルトと呼ばれる先カンブリア紀のペグマタイト脈の中にあります。このペグマタイト脈は錫、タングステン、タンタル等の金属資源とトルマリン、アクアマリン等の宝石を産します。 またこのベルトの中にある、Rössing鉱山に近いKhanペグマタイトは世界的に数少ない銅を含むペグマタイトとして知られています。
 またトパーズで有名なKlein Spitzkoppe山はこのUisベルトの中にありますが、ジュラ紀から白亜紀にかけての新しいペグマタイトです。
エレミア石について
  エレミア石はトパーズ(Al2[F・OH/SiO4])の珪素が硼素に置き換えられたような化学組成です。
ごくありふれた化学組成にも拘わらず極めて稀にしか産出しないのは何故か、ナミビアの情報からもその手がかりは得られません。 世界の産地はいずれもペグマタイトまたは熱水性のトパーズ産地と重なっています。ただし、新たに発見されたナミビアではマイル72、エロンゴ山ともにトパーズではなく、トルマリンがその他の一般的なペグマタイト鉱物と共に発見されています。
 しかし結晶は水晶やアクアマリンを、またカットされたルースは長石を思わせます。万一採集の際に見かけるようなことがあっても、無色であればうっかり水晶の小さな結晶かと、見過ごしてしまう可能性もあります。
 幸いな事に、注意深く見ると結晶にはかすかに青や淡黄色が着いている事があります。青や淡黄色は鉄イオンと酸素イオンとの電荷移動による発色と思われます。
また屈折率と比重とが,水晶と長石族のそれぞれ、1.55/1.56、2.65/2.70と比べると大きいので識別は比較的に簡単です。
 しかしよく似たトパーズの場合は屈折率が1.62-63、比重が3.53と測定誤差の範囲内にありますから慎重に測定しなければなりません。
 いずれにせよ極めて稀産のエレミア石が市場に豊富に出回るような事はまず無いでしょうから,間違えるような事は起らないでしょう。
追記 : エレミア石の再更新に当ってはアメリカのMineralogical Record誌、2002年7-8月号に掲載された記事を参考にしました。
  このような稀少な鉱物の産出についての詳細が写真付きで報告されるのは滅多にありませんので、かなり詳しく紹介しましたが、省略した部分も多く、全貌を知りたい方は直接雑誌を読まれることをお勧めします。

      

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