アルカリ長石族
2.微斜長石(Microcline)
微斜長石(ピンク)と曹長石(白) 61x51x27mm Ilmen, Ural Mtns. Russia |
アマゾナイト結晶 高さ 6cm Lake George,Colorado と ルース 18〜30ct Amelia Court House, Virginia, U.S.A. アメリカ自然史博物館 |
46x42x40mm Crystal Jack Mine Florissant, Colorado U.S.A. |
アマゾナイトカボション | ||
15.75ct 21.4x14.8x7.4mm |
29.6ct 27.0x20.0x7.4mm |
5.92ct 14.0x10.0x5.7mm Malambaia | |||
Ural Mtns. | Minas Gerais, Brazil |
微斜長石は正長石よりも低い温度で生成するアルカリ長石の一種で化学組成、モース硬度,比重,屈折率等の物理特性は正長石と同じです。
正長石は結晶のbc軸が直交していて単斜晶系ですが、微斜長石はその名のとおり、bc軸が89.3°とほんの僅か傾いていて、直交軸を持たない三斜晶系に属することが唯一の違いです。
しかし結晶軸の僅かな傾きはX線分析をしなければ分からないほどの微小なものです。
また熱水性、ペグマタイト性の正長石は殆どが微斜長石に変わっているのだそうです。
即ち採石場や鉱物フェアで見かける正長石は,外見は高温の正長石の結晶形を保っていますが,中身は微斜長石になっているわけです。
このような例は例えば水晶の場合でも、高温型水晶が高温で生成した時の外観を保っていても中身は一般の低温型水晶に変わってしまっている等々,鉱物の世界では良くあることです。この二つのアルカリ長石を識別することは、したがって非常に困難です。アルカリ長石には白の他に淡いピンクや黄色味を帯びたものがありますが,いずれも微量に含まれる鉄イオンによる発色です。余りにもありふれた鉱物なので、アルカリ長石類は美しい結晶形を示す標本を除けば一般の鉱物フェアで展示されることは滅多にありません。幸いなことに、微斜長石には装飾用にも用いられる美しい青緑色の変種、天河石(アマゾナイト)があります。
アメリカのコロラド州やブラジルで採れる標本は鉱物フェアで何時でも入手できる代表的な微斜長石です。
多くの鉱物図鑑等にも微斜長石としてアマゾナイトの写真が使われていますから、私自身、長い間、微斜長石とはアマゾナイトのこと、と思いこんでいたほどです。
天河石(アマゾナイト:Amazonite/アマゾンストーン:Amazone Stone)
600kg
のアマゾナイト結晶 Rio Doce Minas Gerais Brazil パリ自然史博物館 |
アマゾナイトと煙水晶マトリクス 35cm Icoon Pocket,Smoky Hawk Colorado, U.S.A. |
アマゾナイト 7x7x5cm Kenticha, Ethiopia |
アマゾナイト結晶片 Cola Peninnsular Southern Ural Russia |
アマゾナイトの名は、南アメリカでの鉱物採集旅行から戻った旅行者の報告を受けて、フランス人,ロメ・ドゥ・リール(Romé de Lisle)が1783年に発行した鉱物コレクションのリストに始めて使って以来、今日に至るまで使われるようになった名前です。
鉱物採集家がブラジルのアマゾン河流域で採れる緑色の水磨礫をアマゾン石(アマゾナイト)と呼んだものが定着したわけです。
ブラジルはアマゾナイトの代表的な産地ですが、しかし実際にはアマゾン流域にはアマゾナイトは発見されません。
当時のフランスの鉱物学者アウイ(Haüy)がネフライトがアマゾナイトと呼ばれるが、しかし緑色の長石もアマゾナイトと名付けられたと述べています。 アマゾン流域で発見された緑色のネフライトと、青緑色の長石とが混同されたいきさつが覗われます。
さて、アマゾナイトはトルコ石を思わせる色合いから古くから宝石として珍重されてきました。
古代メソポタミアの都市、ウルや古代エジプトの発掘品にもアマゾナイトが見出されます。
透明で美しい宝石が選り取り見取りとなったこんにちでは、しかしアマゾナイトはもはや重要な宝石ではなく、ごく一部の愛好家やコレクター用、また手頃な価格の彫刻作品やアクセサリーとして求められる宝石です。
アマゾナイトの産地コロラド州のアマゾナイト
鉱物フェアに出品されるアマゾナイトの多くはアメリカのロッキー山脈の東,コロラド州の中央部に位置するコロラド・スプリングスの西側、テラー郡やフレモント郡の山岳地帯から採掘されたものです。
この一帯は花崗岩体からなる標高3000〜4000m級の山々が連なり、花崗岩を貫く大小無数のペグマタイト脈が露出しています。
とりわけ名高い産地はCrystal Peak と Pikes Peakで、1830年代頃には、煙水晶、紫水晶,トパーズ、螢石、錫石、赤鉄鉱、コロンブ石等と共にアマゾナイトの産出が知られていました。
険しい山岳地帯にあり,その上まとまって金属資源となる鉱床はありません。もっぱら宝石用途や鉱物標本目的の小規模な採掘のために鉱脈が尽きることも無く、現在でも長さが40cmもの大きな結晶が発見されます。
左の写真はデンバー自然史博物館に展示されている煙水晶とアマゾナイトのマトリクスの晶洞です。晶洞の大きさは1.6x1mあり、実際に発見された時の状態を再現したものです。
1981年にはフレモント郡のDevils Hole Beryl 鉱山で長さ49.3m、高さ35.97m、奥行きが13.72m、推定重量がおよそ1万6千トンもの単結晶が発見されました。巨大なアマゾナイトは South Dakota州、Black Hils のペグマタイトからも長さ12mの結晶が報告されています。
また宝石質のスペッサータイン・ガーネットの産地、アメリカ ヴァージニア州のAmelia Court Houseのペグマタイトは宝石質のアマゾナイトの産地としても知られています。ブラジルのアマゾナイト
高品質のアクアマリンを産するブラジル、ミナスジェライス州のマランバイアから1992年にすばらしく透明感のある、澄んだ空色のアマゾナイトが報告されました。一般のアマゾナイトは色合いの美しさから装飾用に加工されますが、これほど透明感のあるアマゾナイトはかつてありませんでした。残念ながら量が少なく、カボションで3カラットとはいささか物足りない大きさではあります。
パリの自然史博物館蔵の600kgの結晶はコロラド産の1万6千トンと比べれば可愛いものですが,しかし見事な結晶です。600kgといっても大きさはせいぜい60cm立方程度です。その他の産地
アマゾナイトはアメリカ,ブラジルのほかにもインド,マダガスカル、ナミビア,モザンビーク等主な産地だけでも世界の100ヶ所以上の土地から報告されています。
ごく最近ですがエチオピアの首都アジスアベバの近くに見事な色合いと結晶形のアマゾナイトの新産地が報告されました。アマゾナイトの青緑色の発色の原因
アマゾナイトの発色の原因が何に起因するかは、200年近く鉱物学者や地質学者の関心の的でありました。
少し古い宝石や鉱物の本にはアマゾナイトの青緑色の発色は銅によると書かれていました。
確かにトルコ石やクリソコーラの空色と良く似た色合いは如何にも銅イオンが関与していると思わせます。
しかし1960年代頃からソ連やアメリカの専門家による研究が積み重ねられ、1985年頃には、空色の発色は主として鉛のイオンによるカラーセンターで赤から橙の光の周波数帯域の吸収のためであることが明らかになりました。
正確には ;1. 625nmの波長付近では : Pb+−(O.OH)-−Fe3+ の複雑な電荷の交換による光の吸収
2. 740nmの波長付近では : O- - Pb+ 酸素原子の配位中に入り込んだ鉛原子のイオンによるカラーセンターとが主な原因ですが、さらに380nmの波長付近で : 酸化鉄と水酸化鉄(Fe2O3 -Fe2O3・nH2O)の不純物が配置され,三価の鉄イオンがアルミニウムと酸素(Al-O-Al)の4面体配置とカラーセンターを形成して起きる強い光の吸収も関連している。
という非常に複雑な光の吸収も重なった複雑な原因による発色です。
鉛の起原
ここで,ペグマタイト岩脈には殆ど含まれない鉛が存在するのかという疑問が起こります。アマゾナイトには最大限で1%もの高濃度の鉛が含まれます。一体この鉛は何処から来たのでしょうか ?
ロシア(旧ソ連邦)、レニングラード鉱物研究所の M.N.Ostrooumov教授が中心となって調べたロシアのコラ半島と南ウラル産の微斜長石とアマゾナイトに含まれる希元素を分析した興味深い資料があります。
数字の単位はppm、上段は平均値、下段は最小限と最大限
元素 コラ半島 南ウラル 微斜長石 アマゾナイト 微斜長石 アマゾナイト Pb(鉛) 120 3410 90 460 50−250 300−10000 40−180 50−1100 Rb(ルビジウム) 800 3400 960 7730 500−1000 1100−6800 560−1500 1000−22000 U(ウラン) < 2 12 < 2 14 4−23 6−18 Th(トリウム) < 2 28 < 2 12 6−67 5−16
この資料によるとアマゾナイトに鉛とルビジウムとが大量に含まれていることが分かります。
ルビジウムは周期律表でカリウムの次に来るアルカリ元素です。
イオン半径が2.44Åとカリウムの2.31Åと近いので、カリウム原子と置換しやすい性質があります。
鉛の場合は、微量ですがアマゾナイトに微斜長石より遥かに多く含まれるウランとトリウムとの関連に注目です。
ウランとトリウムとは核分裂による崩壊で最終的に鉛へと変化して安定する放射性元素です。
トリウムには8種の,ウランには7種の同位体があり、最長ではそれぞれ140億年と45億年の半減期があります。
しかし235U(ウラン235)のように7億年と比較的短い放射性元素は20億年も経てば大半が鉛へと変わってしまっています。
一般の微斜長石は普遍的に存在する鉱物ですが、アマゾナイトは北欧、ウラル山脈,中国、アメリカ中央部、インド,アフリカ,オーストラリア等、いずれも20億年以上の非常に古い地質の安定陸塊が主な産地です。
アマゾナイトは、恐らく初めは古い地質に含まれていたウランやトリウムを大量に取りこんで生成した微斜長石でありました。が、これらの放射性元素が長年の間に核分裂反応で崩壊し鉛となって蓄積されたため、青緑色のアマゾナイトに変わったものと考えられます。