モアッサナイト(Moissanite)

 
モアッサナイト(Moissanite) 1.28ct ~ 6.18ct


         
6.18ct Ø11.7x7.4mm  1.65ct Ø7.9x4.6mm   1.50ct 6.8x6.8x3.9mm  1.48ct Ø7.8x4.7mm   1.28ct Ø7.15x4.6mm
  
  恐らくロシア製と思われるモアッサナイト・ルース。
 屈折率が強いために肉眼で見るよりかなり濃い色合いに写っています。
 6.18カラットのルースは一般に1カラット級の大きさのルースしか得られないモアッサナイトとしては異例の大きさです。
 かなりの内包物を含みますが、これほどの大きさのルースが得られるようになっただけでも結晶成長技術の進歩を窺わせます。
 1.65カラットのルースは肉眼ではジルコンのような淡青色です。
 クッション・カット、1.50カラットのルースはほぼ白ですが、内部に無数の無色の透明な針状のインクルージョンを含み、その反射で灰色に見えます。
 1.48カラットの橙色のルースの実際の色はスペッサータインのような色合い。
 1.28カラットのブルー・グリーンのルースは写真よりはやや淡い色合いです。
  化学組成
(Formula) 
 結晶系
(Crystal System)
 比重
(Density)
 屈折率
(Refractive Index)
 分散
(Dispersion)
 複屈折
(Birefringence)
モアッサナイト
(Moissanite) 
SiC  六方晶系
(Hexagonal) 
 3.22  2.648-691   0.043 0.104 
ダイアモンド
(Diamond) 
等軸晶系
(Cubic) 
 3.52 2.417   0.044  ー


       
炭化珪素の結晶 29x23mm 透明な薄膜結晶片 11㎜ 無色のルース  キュレットに現れる複屈折 


モアッサナイトの由来

 モアッサナイトは1891年にアリゾナのバリンジャー隕石孔から発見された新鉱物であり、これを研究し報告したフランスの科学者、アンリ・モアッサン(Henri Moissan : 1852 - 1907)に因んで命名されました。
 モアッサンは弗素の研究と電気炉の開発によりノーベル化学賞を受賞した科学者です。
アリゾナのバリンジャー隕石孔から微細なダイアモンドが発見されたことを契機に、電気炉で溶かした炭素を含む高温の鉄を水中に投げ込み急冷することで高圧が発生して、ダイアモンドが合成できると考えて実験を重ねました。
 そして鉄塊の中にダイアモンドを発見し、合成に成功したと、一躍世界の脚光を浴びました。
が、後に合成は誤りで、いくら実験を重ねてもダイアモンドが出来なかったので、助手が天然のダイアモンドをこっそりと資料の中に紛れ込ませていたことが、後に明らかになりました。
 熱した鉄を急冷した程度の温度と圧力では、到底ダイアモンドの合成に必要な条件(2000℃、5万気圧)を達成できません。
 
宝石質の炭化珪素の合成

 最初に隕石孔で発見されたように、炭化珪素は天然には隕石衝突のような稀な条件でしか生成されませんが、電気炉で量産する技術が開発され、19世紀末に工業化されました。
 炭化珪素は一般にはシリコン・カーバイドあるいはカーボランダムの商業名で知られ、耐熱性、絶縁性、耐薬品性、熱と電気の高伝導性等々の優れた特性を持ち、工業用素材、最先端のエレクトロニクス、原子力、エンジニアリング・セラミクス等々、広範な分野に使われています。
 この素材が透明な結晶として宝石用途にも使える可能性が1948年ごろから指摘されていました。
そして1980年ころから開発が始まり、1996年にアメリカの Cree Research 社が透明な宝石質結晶の製造に成功し、その販売会社 3C 社がダイアモンドに最も近い宝石、モアッサナイトとして独占的に販売を始めました。

宝石としてのモアッサナイトの特徴

 上記の比較表のように、硬度、屈折率、比重、分散値は確かにダイアモンドに最も近い宝石です。
しかし結晶系がダイアモンドの等軸晶系とは異なり、モアッサナイトの場合は六方晶系なので、結晶軸の方向により屈折率が異なるため、ダイアモンドには無い複屈折があります。
 このため、上の写真のようにファセット・カットされた稜線が二重に見えます。ただしこれは、熟練した専門家が顕微鏡で見て初めて分かることで、10倍のルーペで見て、簡単に判別できるものではありません。
 さらに、宝石店では、宝石の簡単な識別法として、ダイアモンド・テスターを使います。
これは宝石ごとに異なる熱伝導性(正確には熱の伝わり方への抵抗性である熱慣性)を計るテスターですが、モアッサナイトとダイアモンドではこの値が重なるため、従来のテスターでは識別ができないという問題があります。

宝石としてのモアッサナイトの将来性 

 当初、モアッサナイトが市場に出現したときには最大で0.5カラットと、小さなルースが限界でした。
さらに、結晶が無色透明ではなく、灰色、緑、褐色等の色を帯び、ダイアモンドの等級と比較して、良くて J-Kカラー、大半はL,M,N,からさらに低いT,U,Vの最下級相当品が大半でした。
 一方、値段はカラット当たりUS$400~600と、同等の天然ダイアモンドと大差の無い水準であったため、市場性は極めて低く、到底ダイアモンドに対抗できるような水準ではありませんでした。
 大きさと品質については2010年ごろにはダイアモンドのGカラー相当、大きさも1カラット級まで改善されてきました。
 それにしても、完全無色透明で、最上級ダイアモンドの D-FL に匹敵するキュービック・ジルコニアがカラット当たり10円以下で大量生産されている現在、モアッサナイトが新たな宝石として市場価値があるかといえば答えは簡単、生き残りはまず不可能と考えられます。
 因みに一般に4-C(Cut, Carat、Color、Clarity) として知られるダイアモンドの等級は、あくまでも天然のダイアモンドだけに採用される比較等級であり、その他の合成ダイアモンドを初め、キュービックジルコニアや、モアッサナイトのような類似宝石に用いられることは決してありません。
 しかしながら、天然のダイアモンドに見せかけるために、DーVVS1のようなダイアモンドの表示がされる例を少なからず見かけます。
 このような表示をしてダイアモンド類似宝石を販売する業者は全て悪質な詐欺師ですから要注意です。

ロシア製(中国?)モアッサナイトの台頭

 この1年足らず、ネット市場にモアッサナイトが、カラット当たり1000円台の値段で姿を現しました。
冒頭の様々な色合いの5個のルースがそれです。
 手持ちのレーザー・型反射ー屈折率換算計では屈折率が2.56と、上述のデータよりやや低めですが、この値を示す宝石は他になく、間違いなくモアッサナイトと判断しています。
 製造国名は明記されていませんが、値段からすると恐らくロシア、或いは中国製としか考えられません。
おそらく Cree Research 社の特許切れを契機に量産が始まったのではないかと考えられます。
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