新着結晶展示室


2021 April : 日本産結晶
 


逸見石 (Henmilite : Ca2Cu【B (OH)42(OH)4
   
逸見石発見当時の晶洞と、最大1cmに達する逸見石結晶の群晶   写真提供 : 田邊鉱物化石コレクション 
       逸見石は1986年に岡山県高梁市にある石灰石の布賀鉱山で発見された鉱物です。 
 大理石層に花崗岩系の岩脈と共に硼酸成分に富む熱水が貫入した高温型のスカルン鉱床で
多彩な硼酸塩系の鉱物が生成したという特異な産状です。
 とりわけ世界で初めて報告された逸見石は銅による濃紺の色合いと三斜晶系の美しい結晶形とで
世界の鉱物界に大きな話題を呼んだ新鉱物で、布賀鉱山が世界で唯一の産地でした。
 現在は掘り尽くされて絶産となっています
 鉱物名は、地元出身の岡山大学の鉱物学者、逸見父娘に因んで命名されました。
写真のように、大理石層を切る純白の五水灰硼石 【CaB2O(OH)6・2H2O】脈中に最大で1cmにも
達する、無数の濃紺の逸見石結晶の晶洞の発見は自然の驚異をまざまざと見せつける出来事でした。
 20年ほど昔、あちこちの鉱物フェアで見かけた際には、きれいな色合いの結晶とは思いましたが、
シミのようにしか見えない標本にどうかと思うような値段が付けられていて,ためらっているうちに、
いつの間にか姿を消し、20年たって、母岩が1cm足らずの標本をようやく入手できました。
小さいながら結晶の大きさは2~3㎜ と、これでも逸見石としてはまずまずの大きさなのです。
結晶の大きさ : 最大で 2 ~ 3mm  


奈良県香芝市穴虫のサファイア
 
         日本には宝石質ではありませんが、サファイアの産地は何か所かあります。
 中では奈良県香芝市穴虫がごく小さいながら透明度が高く青い平板上のサファイア結晶がとりわけ名高い産地です。
 ここは近所の二上山の火山岩である安山岩中に取り込まれた柘榴石や紅柱石、珪線石、ジルコンと共にサファイアが長年の風化により流れ出し穴虫周囲の小川の土砂とともに堆積しています。
 とりわけ柘榴石は金剛砂として奈良時代から知られ、明治になってからは研磨剤として大量に採掘されたとのことです。
 サファイア結晶が採れるとはいえ、小川の浅瀬の土砂を碗掛けし、選鉱した土砂中から、さらに半日かけて1㎜にも満たない極小の10粒程度の結晶がやっと得られるというのは、気の遠くなるような作業です。
 さいわい、現在では、そうして愛好家が収集したサファイアを30粒ほどで1000円程度でネット市場に売り出されていますから、ごく手軽に入手できます。
 かくして、20年余り 欲しいと思っていた穴虫のサファイアを入手できました。
   青く透明な平板上のサファイア結晶 大きさは最大でも1㎜程

菫青石 ( Cordierite )
         菫青石は変性岩、火成岩、ペグマタイト等に広範に生成する鉱物ですが、宝石質の結晶は比較的に稀にしか発見されません。
 日本では浅間山の溶岩や茨城県、日立の鉱山から比較的に大きな結晶が発見される他に、京都亀岡市と栃木県足尾銅山等の、ホルンフェルス中に菫青石の三つの柱状結晶が交互に重なる透入三連晶となり、桜の花びらのような姿を見せるものが知られています。
 と、菫青石の結晶を見かける機会は少ないのですが、仙台市の南西、釜淵湖
に近い川崎町の安達に、かつて小さいながら菫青石の 青い結晶を産しました。
 15年ほど昔のことですが、2,3度尋ねてみたものの、影も形もなく採集することが出来ませんでした。
 最近ネット市場で見かけて、ようやく入手できました。
粗粒の石英中に1㎜にもならない小さな結晶が群生しているだけの標本に過ぎませんが、結晶の青さが印象に残ります。
 
 26x22x14mm  
宮城県柴田郡川崎町本砂金安達   

北海道然別湖の玉髄 ( Chalcedony from Shikaribetsu Lke, Hokkaido )
       何の変哲もない玉髄ですが、北海道然別湖産の蛍光オパールという謳い文句に、一体どんなものかと入手した標本です。
 確かに一部にはオパール、と言ってもありふれた乳白色の普通オパールが含まれていますが、大半はオパールではなく、玉髄です。
 ただし、蛍光と謳っているので、試しに紫外線を照射してみたところ、下の写真のように淡い青紫の蛍光を発します。
 オパールの一種で粒状、魚卵状の、玉滴石(ハイアライト)と呼ばれる鉱物には極々微量の酸化ウランを含み、紫外線照射で黄緑色の蛍光を発するものがあります。
すると、これらの標本はオパールの一種の玉滴石なのかも知れません。
 ただし一般の玉滴石の蛍光とは異なり、黄緑色ではなく、青紫色です。
 然別湖の周囲には硫黄を含む温泉が何か所もあり、ごく微量の硫黄イオンが含まれるので、紫外線により、このような色の蛍光を発するのかとも考えられますが、然別湖産の玉髄、あるいは玉滴石に関する文献がありませんから、詳しいことは不明です。
 自然光下の玉髄  
紫外線光による蛍光
         
 22x14x4.5mm 24x15x12mm   19x12x4mm  15x13x10mm  16x7x3mm


岐阜県・中津川市・蛭川・田原の蛍石 (Fruorite from Tawara, Hirukawa, Nkatsugawa-City, Gifu )
       日本で有数のペグマタイト地帯である岐阜県の苗木や中津川周辺は昔から一度は尋ねてみたい鉱物産地でしたが、半世紀以上昔の高校生時代には、北関東の栃木県から訪ねるにはあまりにも遠隔の地でありました。 
 岐阜県に限らず、日本のあらゆる鉱物産地のほぼ全てが、1900年代後半には鉱脈が掘りつくされたり、住宅地やゴルフ場に転用されてしまい、今や鉱物採集はほとんど不可能となってしまいました。
 うれしいことに、インターネットの普及により、かつて採集された標本がネット市場に様々な形で姿を見せるようになり、かつての憧れの産地の標本を入手できるようになりました。
 写真の蛍石も長石と煙水晶のペグマタイト・マトリクスに半透明の緑の蛍石が付いている、貴重な標本です。
世界各地の美麗な標本とは比較になりませんが、しかし日本産のペグマタイト成の蛍石など滅多にお目にかかりません。
 写真の左側の16x14x10㎜の蛍石は、実はマトリクスから分離していたものですが、とりあえずマトリクスに乗せて撮影したものです。
ペグマタイトマトリクスの蛍石 50x38x32㎜  

福岡市長垂の電気石 (Tourmalines from Nagatare, Fukuoka)
     
 22x18x14mm  29x21x14mm  53x50x43mm
  福岡の長垂のペグマタイト鉱床は、福島県石川や岐阜県苗木等の日本を代表するペグマタイト鉱床と比べて、産出する鉱物の多彩さで日本離れした存在でした。 
 宝石質の結晶こそ産しませんでしたが、アメリカのメイン州やカリフォルニア、さらにイタリアのエルバ島と比較しても遜色がないほどの多様なリチウム鉱物を産したものです。
 とりわけ、ピンクや緑のエルバイト・トルマリンはかつて、明治時代に僅かに産しただけの岩手県,崎浜と、1970年代末に公にされた茨城県妙見山と並ぶ、数少ない産地の一つでした。
 長垂の産地も天然記念物に指定され、それ以外の地区でも鉱物は採り尽くされてしまいましから、新たな採集は不可能です。
幸いなことに、インターネット市場にかつての採集品が細々と姿を見せるので、伝説の産地の標本を手にできるようになりました。
 


長野県川上村の水晶 (Quartz from Kawakami Mura, Nagano)
      これは、何かの結晶標本を買ったときにおまけで付いてきた水晶です。
世界中どこにもある、1cm足らずの水晶の群晶でしかありませんから、
例え、鉱物フェアで見かけても見向きもしないような標本です。
 しかしながら、どこにでもあるような水晶であればこそ、出所がはっきりと
しているというのは標本としては大切なことです。
 かつて標本を集め始めた頃は、トルマリン、トパーズ、ガーネット等々、
鉱物や結晶の種類だけを集めることしか頭になく、それらの標本が何処の
産地なのか気にも留めずにいて、後々臍を噛んだものでした。
 正確な産地が分からない標本というものは、それだけで資料としての価値
が半減することを思い知らされたものでした。
 採り尽くされてしまえば、二度と見ることが出来なくなることもあるわけですから、
見知らぬ産地のこの見映えのしない標本が何時の日か、貴重な資料としての
役割を果たす可能性もありうるのです。
 50x34x24㎜  

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