新着結晶展示室
August 2023 : ブルー・ベリル(Blue Beryl)
ブルー・ベリル 0.8g 11x11x9mm Deo Darra pegmatite, Patta Guzar Village, Kuran Wa Munjan District, Badakhshan, Afghanistan |
2018年の Mineralogical Record 誌 July-August にアフガニスタン、バダフシャーン州、最北東部のペグマタイト鉱で採集された青いベリルの詳細な報告が掲載されました。
著者はマダガスカルにて発見された新鉱物、ペツォッタイトに名を残す、イタリア、ミラノの自然史博物館の研究者、 Federico Pezzotta です。
一般に淡青色の緑柱石はアクアマリンと呼ばれます。
この色合いは微量に含まれる二価の鉄イオンによる発色です。
かつてブラジル、ミナスゼライス州のサンタマリア鉱山で採れた最上級のアクアマリンは現在でも”サンタマリア”級と呼ばれる最上級アクアマリンの代名詞となっています。
この濃い色合いは、含まれる微量の二価と三価の鉄イオンが電荷を交換し合う電荷移動による光の吸収による発色ですが、今日では、アフリカ各地に産する鉄分比が高い濃い色合いのアクアマリンがサンタマリア・アフリカーナと呼ばれています。
ブルーベリルの発見
1890年代初頭にエルバ島で発見された青い緑柱石 マトリクス 4㎝ 結晶 9㎜ Matteo Chinellato Collection & Photo |
1992年の再発見 結晶 6㎜ Valle dei Forcioni Sant'Illario, Elba iIsland |
18世紀末以来、イタリアのエルバ島のペグマタイトはその名に因んだエルバイトと命名された多彩な色合いのトルマリンで名高いのですが、その他にもポルックス石、ペタル石等のペグマタイト鉱床に特有の鉱物に加えて、無色、ピンク、そし濃い青の緑柱石の産地でもあります。
数は少なく、小さな結晶ですが、エルバ島では1890年に濃い青の鉱物結晶が採集され、当時の分析の結果、ベリリウム(当時はグルシヌム: Glucinum と呼ばれた)、ナトリウムとマグネシウムのアルカリ金属を含む緑柱石であり、青の発色は鉄イオンに因ると判断されました。
エルバ島のペグマタイトでは、その後も研究者や鉱物愛好家による採集が行われ、最初の発見から100年後の1992年に、ローマ大学の若い研究者により、サン・イラリオのペグマタイトで濃い青の緑柱石結晶が再発見されました。
最新の測定器による分析の結果、この緑柱石には最大で Na2Oが1.2wt%、Cs2Oが2.15wt%、FeOが2.6wt% と極めて高い比率でアルカリ金属と鉄とが不純物として含まれていることが判明しました。
因みに一般に緑柱石の不純物成分比は多くても 0.5wt.%程度です。
アフガニスタンでのブルーベリルの発見
9cm Stephaney Snyder(Stonetrust) specimen |
5.2cm Dave Waisman collection |
トルマリン結晶上のベリル 4cm Paradise Woods collection |
4cm Federico Picciani photo |
5.3㎝ Mineral Art specimen |
18cm tall srystal on matrix Fine Minerals International specimen |
11cm | 5cm crystal on matrix |
Mineralogical Collection Professionals Company specimen |
アフガニスタン最北東部、バダフシャン州北部の Deo Darrah ペグマタイト鉱山は2010年に開発され、300人ほどの鉱夫が地下の坑道にて、年間を通じて赤、緑、黄色と多彩なトルマリンを採掘しています。
この鉱山産のトルマリンに限ったことではありませんが、宝石としてカットできるような透明度の高い結晶は稀で、大半は結晶標本、あるいは手軽な装飾品用に使われます。
この鉱山にて、2013年、かつてエルバ島のペグマタイトで発見されたのと同じ濃い青の平板上の緑柱石が発見され、インターネット上で大いに話題となり、2018年のツーソンショーに結晶が姿を見せました。
平板上の緑柱石結晶は一部のアクアマリンや多くのモルガナイト、無色の結晶に見られます。
結晶が六角柱状ではなく平板上に発達するのは、ベリリウムの一部が原子半径の大きなセシウムに置き換えられているためと考えられます。
セシウムとアルカリ金属を含む無色やピンクの緑柱石は最初にウラル山脈のリパフカ鉱山(Lipovka) 鉱山にて発見され、ロシアの鉱物学者、ヴィクトール・ヴァラビイェフ ( Vikor Vorobyev)に因んでヴァラビイェフ石 (Vorobyevite) と名付けられ、こんにちも使われることがあります。
ペッツォッタ博士の分析によると、新たに発見された青い緑柱石には、Fe2O3 が1.21-1.5wt%, NaO が 0.43 -1.24wt%, とごく微量のスカンジウムが含まれ、アルカリと鉄分に富む緑柱石であると判明しました。 と、Mineralogical Record 誌でこの記事を呼んだ時には、とりわけ愛着の深い緑柱石の新たな種類の出現でしたから大いに興味を抱いたのは当然です。
しかしながら、おなじMR誌の2022年の Jan/Feb 号に、これらの結晶が3万ドル~4.5万ドルと、途方もない値段で取引されている記事が掲載され、入手するどころか、日本市場に姿を見せることもないだろうと、実物を見ることさえ諦めていました。
3段目のMR 誌に掲載された写真はいずれも世界的な鉱物商が扱い、富豪のコレクター達の手に収まったものです。
ところが、ごく最近、日本のネットオークション市場に姿を見せた結晶は、”天然アルカリベリル : ボロビエバイト” として、冒頭の写真のように小さいながら、透明度が高く濃い色合いの宝石質部を含むものでした。