新着結晶展示室
(New Crystal Gallery)
August 2024 : ブルーベリル (Blue Beryl)
5.2cm Dave Waysman Collection | ||||||||
Deo Darah Pegmatite, Badakhshan, Afghanistan Skardu, Pakistan |
アフガニスタンのブルーベリル (Afghan Blue Beryl)
11x11x5mm | 11x11x3mm | ||
29x18x17mm | 14x10x6mm |
1890年代初頭にイ タリア、エルバ島のペグマタイト鉱床で1㎝足らずの結晶が発見され、その100年後に同じエルバ島で 6mm 程の小さな平板上の青い結晶が再発見されただけのセシウムを含む緑柱石が、2013年にアフガニスタン北部のペグマタイト鉱山にて発見されました。
エルバ島の小さな結晶とは異なり、数㎝の大きな平板状の結晶のマトリクスの写真が Mineralogical Record 誌 2018年の July-August 号に掲載されました。
鉱山はアフガニスタン最北部の、2010年に開発されたばかりの Deo Darrah ペグマタイト鉱床です。
分析の結果、このベリル結晶にはアルカリ金属の酸化ナトリウムが1.2wt%, 酸化セシウムが 2.15% 、さらに酸化鉄が 2.6% と、一般的な緑柱石の不純物と比べて10倍もの高い濃度で含まれていることが判明しました。
平板状の結晶形と濃い青い色は、こうした高濃度のセシウムと鉄に因るものと考えられます。
世にも稀な青い平板状の緑柱石結晶となれば無関心ではいられませんが、2021年秋のコロラド州デンヴァーショーにて、数cm の結晶標本に 3.5 - 4 万ドルもの値付けがされていたという記事を読むと、入手することなど到底不可能、これは写真を見るだけと諦めていました。
が、2023年に冒頭の写真の小さいが、しかし透明度の高い宝石質の結晶がネット市場に姿を現し、さらに今年の夏にも、透明度は落ちますが、小さいながら端正な平板状の結晶標本が登場しました。
ウン万ドルという途方もない値段ではなく、数千円程度の妥当な水準で入手できたのが写真の標本です。
パキスタンのブルーベリル (Pakistan Blue Beryl)
マトリクス 34x26x24mm | 結晶 20mm |
アフガニスタンに続き、2024年夏、パキスタン北部のスカルドゥのペグマタイト産のブルーベリルが姿を見せました。
アフガン産の平板状の結晶と異なり、一般的な緑柱石に多い柱状結晶です。
詳細な産地情報も、分析情報もなく、これが本当にアルカリ成分に富む緑柱石の変種のアルカリベリルなのか、普通のアクアマリンなのか不明です。
結晶を観察すると、柱状の周囲に細い溝が多数見られます。
これは溶融作用を受けたアクアマリン結晶に時おり見られる特徴ですが、しかし、アクアマリンの場合はこれほど深い溝は見られません。
アクアマリンを扱いなれているパキスタンの業者が、普通の緑柱石のような柱状結晶を、敢えてアルカリベリルとして販売しているのは、普通のアクアマリンではないと、判断したと考えられます。
では、パキスタン産の平板状ではなく、柱状の結晶をどう説明するのか ?
ゴッシュナイトやモルガナイト等によく見られる平板状の結晶は、ベリリウムの一部を10%余りに達するセシウムが置き換えているためです。
全ての原子の中で 260pm (ピコメートル)と最大の原子半径を持つセシウムがベリリウムの一部を置き換えると、結晶は柱状ではなく平板状に成長すると考えられます。
パキスタン産のこの結晶は柱状であり、結晶の周囲が細い縦の溝で覆われているという特徴があります。
これらは、ベリリウムの一部を置き換えているのが、セシウムではなく、原子半径が 184pm と、ベリリウムの 105pm に近いスカンジウムと考えると、普通のベリルのように結晶が柱状に成長したものと考えられます。
ベリリウムの一部がスカンジウムに置き換えられた鉱物に、バッツィ石 (Bazzite : Be3Sc2Si6O18) があります。
主にヨーロッパアルプスの、フランス、スイス、オーストリア、イタリアに極めて稀に産する鉱物で、結晶構造や外観はアクアマリンにそっくりで、精密な分析をしない限り、識別が困難です。
バッツィ石 (Bazzite : Sc2Be3Si6O18)
4㎜ Furka Tunnel, Swiss |
11㎜ near Riekentörl Area, Austria |
今回入手したパキスタン産のアルカリベリルのアフガン産の平板状とは異なる柱状結晶と、細い柱を束ねたような結晶の様子が、オーストリア産の稀なるバッツィ石によく似ていることから、ひょっとすると、これはバッツィ石なのではないか? と考えている次第です。
いずれ、Mineralogical Record 誌にレポートが載るかもしれないと楽しみにしています。