新着結晶展示室
(New Crystal Gallery)
December 12 2020 : 稀なる鉱物結晶 (Rare Mineral Crystals)
かつてロンドンの自然史博物館の宝石展示室で数多くの宝石質の結晶とカットされたルースの展示に感嘆して以来、同様のコレクションを作り上げようと思い立った事が契機となりました。
しかしながら、いざ始めてみると、結晶とルースとは流通経路が全く異なるので、宝石や鉱物フェアにて、両者を一緒に見かける機会は皆無に近いというのが現実です。
さらに宝石質の結晶は例えば南アフリカの薔薇輝石のように何十年かに一度だけ晶洞が発見されて、一時的に大量に出回るものの、後はコレクターの放出品が稀に出回るものをじっくりと待つのみというのが現実です。
結局、あらゆる機会に結晶とルースとを出来る限り集めるしか方法がありません。
今回は、対になるルースに遭遇することなく残されたままの稀少鉱物結晶の紹介です。
藍鉄鉱 〔Vivianite : Fe3(PO4)2・8H2O〕
64x50x23mm | 剝離片 30x15x8mm | ||
Bolivia |
ヴィヴィアナイトの名はイギリスの鉱物学者、J.B.Vivian に因んで1817年に命名されたもの。
熱水性の鉱床に産し、世界各地で産するので稀少鉱物とは言えませんが、近年ではボリビアの鉱山から20㎝を超える大きな結晶を産します。 かつてはカメルーンの鉱山から1.5mもの大きな結晶を産したという記録があります。
日本では足尾銅山から5㎝の長さの平板上の美晶を産しました。
新鮮な結晶は透明な青緑色をしていますが、時間と共に酸化して透明度が失われ、次第に剥離し、崩壊してゆきます。
とりわけ日光にさらすと崩壊が一段と速まります。
写真の結晶も30年余り昔にツーソン・ショーで入手して以来箱に入れて保存していたものですが、それでも透明度が失われて、剝離片がかろうじて透明度を示す程度になってしまいました。
雲母のように劈開性が強く、モース硬度が2と柔らかいため、決して宝石にカットは出来ません。
鶏冠石 (Realger : As4S4)
9.5x8x6mm | ほぼ黄鉄鉱塊の空隙にある鶏冠石の結晶(最大で3㎜) | |
Baia Sprie(Felsöbänya), Romania |
鶏冠石も同様に20年前にバルセロナの鉱物フェアで入手したもの。
Realger と表記してあったが、それが何だか分からず、鮮やかな光沢の結晶から淡紅銀鉱 (Proustite : Ag3AsS3) か
濃紅銀鉱 ( Pyralgyrite : Ag3Sb3S3 ) かと勘違いして入手したものです。
いずれも似た成分ですが、鶏冠石には銀は含まれず、単なる硫化砒素の結晶と後に調べてから分かって、少しがっかりしたものです。 が、鶏冠石の美晶は稀少なものには違いありません。
鶏冠石は前述の藍鉄鉱と同様、モース硬度が2と極めて柔らかく、さらに日光や湿度で分解し、崩壊してゆく化合物ですから厳重に包んで保存しなければなりませんが、それでも20年前の採れたてのぴかぴかと鮮紅色の輝きが失われてしまっています。
これは濃紅銀鉱や淡紅銀鉱も同様、稀に大きく美しい結晶が採れますが、カットされることは決してありません。
因みに”レアルガー” の呼び名はアラビア語の語源 : Rahj al ghar (窪みの粉)に由来し、かつては花火や爆薬の材料に使われていたとのことです。
モリブデン鉛鉱 【 Wulfnite : PbMoO4】 と 緑鉛鉱 Pyromorphite : Pb5(PO4)3Cl】
19x14x10mm 27x18x18mm Villa Ahumada, Sierra de los Lamentos、Chihuahua, Mexico 中国 江西省 桂林 倒坪鉱山
この二つはいずれも鉛の鉱石で世界中の主要な鉛鉱である方鉛鉱の鉱脈の晶洞中に発見されます。
色合いと結晶形の美しさから鉱物コレクターに人気があり、モリブデン鉛鉱はモロッコやメキシコから、緑鉛鉱は近年中国から美しい標本を産し、ごく小さな標本でもかなりの高値で取引されています。
これらの鉱物もモース硬度が2~3と低いため、宝石としてカットされることはありません。
ボレオ石 【 Boleite : Pb26Ag9Cu24Cl62(OH)48 】
6mm 10mm 8mm Boléo Mine, Santa Rosalia, Mexico
メキシコのボレオ鉱山で発見され、地名に因んで命名された鉱物です。
乾燥した気候にある銅鉱床の酸化帯に藍銅鉱、赤銅鉱、孔雀石等と共に生成する鉛と銀と銅に富む二次鉱物です。
等軸晶系の6面体、12面体の結晶形と美しい濃紺の色合いとが特徴で原産地のボレオ鉱山では最大で2.5㎝の大きさの結晶を産しました。
不透明で、モース硬度も3~3.5と低いため宝石としてカットされることはありませんが、結晶形と濃紺の色の美しさとからコレクター垂涎の鉱物です。
アダム石・水砒亜鉛鉱 【 Adamite : Zn2(AsO4)(OH) 】
和名は水酸基と砒酸と亜鉛からなる成分に、英名はフランスの鉱物学者、G.J. Adam (1795-1881) に因みます。
鉛鉱床にヘミモルファイトやスミソナイトと共に二次鉱物として産します。
稀産鉱物でドイツやフランス、ナミビア、ギリシア等限られた産地で発見されますが、メキシコのオフエラ鉱山産の黄色や緑、更に最大で7㎝にも達する稀な紫色の透明な結晶はコレクター垂涎の的となっています。
モース硬度が3.5と柔らかいのですが、何時の日か透明な紫色の結晶が,稀少鉱物専門のカッター集団である Coast to Coast に持ちこまれてカットされることもあろうかと密かに期待しています。
20x20x16mm 34mm Ojuela Mine, Mapimi, Durango、Mexico
クリード石 【 Creedite : Ca3Al2(SO4)(F,OH)10/6H2O 】
64x39x37mm 4.7cm Creedite Mine, Wagon Wheel Gap, Colorado, U.S.A. Santa Eulalia, Mexico Steve & Susie Smith Collection
クリード石は1916年にアメリカ、コロラド州のクリード鉱山にて発見された鉱物です。
蛍石や重晶石と共に熱水性の産状のありふれた成分の鉱物で何処にでもありそうですが、20世紀初頭まで発見され無かったという事実は驚きです。。
Mindata. に因れば、世界各地に産地があるのですが、ついぞショーやネット市場でも見かけた記憶がありません。
写真は30年以上昔にツーソンにて入手した結晶標本ですが、この時が最初で最後の出会いでありました。
メキシコのサンタ・ユーラリアからは紫色の美しい結晶を産しますから、モース硬度が4と耐久性に欠けるにしても、コレクション用にカットされたルースが姿を見せることもあるかと秘かに期待させられ鉱物です。
ハンクス石 【 Hanksite : Na22K(SO4)9(CO3)2Cl 】
アメリカの鉱物学者、Henry G. Hanks に因み命名された稀産鉱物で、世界で唯一、カリフォルニアのデスヴァレー地帯の塩湖の堆積物中から岩塩や硼砂等と共に結晶が発見されます。
とりわけサールズ湖からは最大で20cm もの長さの両端を持つ水晶と同じ6角柱状の灰色や淡黄色の透明な結晶を産します。
モース硬度が 3~3.5 と低いのですが、十分な透明度があればカットされることもあるかと期待しています。
ただし成分からすると、これは水溶性の可能性が大きく、カットは無理かもしれません。36x24mm 30x20mm Searls Lake, San Bernardino, California, U.S.A.
ロンドナイト - ローディザイト 【 Londonite-Rhodizite : (Cs,K,Rb)Al4Be4(B,Be)12O29 】
ペグマタイト岩脈の水晶、長石の母岩中にルベライトと共にロンドナイトーローディザイト結晶 大 14mm 中 4mm 小 3mm Faceted Londonite-Rhodizite 0.8ct Antandrokomby Manandona Valley Mt. Ibity Antananarivo Prov. Madagascar Antsongombato, Madagascar
二つの名前があるのは成分のうちでセシウムとカリウム比のセシウムが多いものがロンドン石、カリウム比が多いものがローディズ石と分類される為です。
が両者は連続的な固溶体を成して産出するため、個々の鉱物がどちらなのか、精密な分析をしない限り判明しません。
ローディズ石 (Rhodizite) の名は1834年にロシアのエカテリンブルグの東30㎞のYama 坑にて発見され、吹管分析の炎で赤みを帯びることからギリシア語の ” rhodizein : 赤みを帯びる” の意味で命名されました。
ロンドン石は2001年にマダガスカルの Antandrokomby ペグマタイト鉱床で発見され、アメリカの花崗岩ペグマタイト研究者である David London 教授に敬意を表してロンドン石と命名されました。
詳細な分析の結果1834年にロシアのウラル山脈で発見された Rhodizite とほぼ同一の鉱物であることが判明しましたが、セシウム・カリウム比の差によりロンドン石 - ローディズ石と区別されました。
モース硬度が8と高く、十分な耐久性があるので透明な結晶は宝石としてカットされます。 しかし大きく透明な結晶は極めて稀で、最大でも1カラット余りの金色や淡黄色のルースがカットされて市場に姿を見せますが、相当量の内包物や亀裂があり、標本級の品質です。 しかし希少品ゆえ、カラット当たり数百ドル~1000ドルと極めて高価です。
クロム雲母 【 Fuchsite : K (Al,Cr)2〔AlSi3O10〕 (OH)2 】
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28x21x20mm | 研磨されたクロム雲母 | |
Pakistan | ||
グリーンマイカとして展示されていましたが、一般にはクロム雲母はクロムの含有量が多く、濃い緑なので、この雲母はクロムはなく、微量の鉄分で着色された 白雲母とも考えられます。 純白の結晶大理石中に亜透明の雲母の結晶が包まれていて中々魅力的な佇まいを見せる標本です。 濃緑のクロム雲母はカボションに研磨されて装飾品などに使われることもあります。 |
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