新着結晶展示室
( New Crystal Gallery)



福岡市長垂のペグマタイト
( Pegmatite of Nagatare, Fukuoka-City)


     
福岡市長垂と糸島市福吉産のペグマタイト鉱物  博多湾に面した長垂の海岸のペグマタイト岩脈 

 福岡市から西へ20㎞程の長垂の海岸付近に日本では稀なリチウム・ペグマタイトがあります。
詳細な地質調査によると、中生代(およそ1億年昔)に起こった地殻変動で糸島花崗閃緑岩帯に含角閃石黒雲母岩(早良花崗岩)の貫入があり、特に長垂の南3㎞程の叶岳から長垂山塊では南東から北西方向に多数のペグマタイト岩脈が存在するとの事です。
 長垂の海岸のペグマタイトは明治25年ころから知られていて、1939年に天然記念物に指定されました。
従って、鉱物採集はできませんが、海岸の上の山側にもペグマタイト岩脈が存在し、1940~1945年にかけて200トンほどのリチウム資源の採掘が行われました。
 更に長垂山の地下を走る筑肥線のトンネル工事にて採掘された岩にも大きなペグマタイト鉱脈が含まれていて、ここから採集された数百点に及ぶ鉱物標本が福岡市内の博物館に展示されています。 
 こうした採掘に伴い、リチア雲母、ピンクや青緑のリチア電気石、モルガナイト、ペタル石、モンテブラ石、ポルックス石、ガーノスピネル、コルンブ石、等々、希元素鉱物を含む70種余りの鉱物が発見されるという、鉱物収集家垂涎の鉱床でした。
 しかしながら、北関東の高校生にとっては、九州という遠隔地を訪ねることなど夢のまた夢のことでした。
かつての採掘後に残されたずり石等もすっかり採りつくされて、今では標本採集は不可能です。

 ところが、最近、インターネット市場に、かつての採集品が少しづつ姿を見せるようになり、幻の長垂のペグマタイト鉱物がどんなものであったのか、入手することができるようになりました。
りチア電気石 ( Elbaite Tourmalines )
       
紅電気石を含むマトリクス 55x32x24mm  36x26x17mm 結晶22x5mm   26x25x15mm

     
赤紫の電気石を含むマトリクス  52x42x41mm 青緑色の電気石 28x13mm   りチア雲母 49x40x17mm

 
      日本産のリチア電気石と言えば、かつて岩手県越喜来湾」の崎浜にて明治時代に発見されたとの情報があったくらいでした。
 この産地はしかし海岸のペグマタイト脈が工事で破砕され、ブラジル産に匹敵されるといわれた結晶もろとも防波堤になってしまったのです。
 僅かに海岸に打ち上げられた結晶がコレクターの手に残されたのみでした。
  その後福岡の長垂のペグマタイト産の透明感のある紅電気石の写真を保育者の本で見た時には日本でもこんなトルマリンを産するのかと感嘆したものです。
 当時、60㎞の道のりを自転車で通うことのできた茨城県、真壁、山の尾のペグマタイトは電気石を産せず、福島県石川の黒い鉄電気石ですら垂涎の的であったほどでした。
 実はその他に茨城県妙見山にもリチウム・ペグマタイトが1955年頃に発見されていたのですが、20年余り放置され、1980年代初頭頃にようやく公な情報が公開されたのでした。
 当時は海外に滞在していたため、わずかに残されていた露頭のずりからリチア電気石を採集できたのは2000年代初頭になってからでした。
 妙見山の産地は、その後重機で根こそぎ掘り返すような採集が行われたため、現在では立ち入り禁止となってしまいました。
 福岡、長垂のペグマタイトは戦前の鉄道のトンネル工事と、戦争中のリチウム資源採掘時に出たずり石からの標本採集が可能でしたが、現在ではあらかた採り尽くされています。
 幸いなことに、ネット市場個人のコレクターの採集品が時折姿を見せるので、幻のリチア電気石を入手できるようになりました。
 
 長垂の紅電気石 13.5x10.5cm
1974年刊 保育社 ”カラー自然ガイド 鉱物” より
 



トリプル石、タンタル石とモンテブラ石 ( Triplite, Tantalite and Momntebrasite )

 トリプル石 ( Triplite ) タンタル石 ( Tantalite )  モンテブラ石 ? (Montebrasite ? ) 
           
 トリプル石 47x30x29mm 標本 42x39x28mm  タンタル石結晶 4mm   5x4x2cm 白い部分がモンテブラ石 ? 
 長垂のトリプル石 【 (Mn,Fe)2 (PO4) F 】は実は2010年の日本鉱物科学会にて報告された、新しい発見です。
写真のように黒雲母花崗岩中に黒い団塊状で付着しているもで、この鉱物の素性を確認することは不可能というものです。
 ペグマタイトにはこのような産状の鉱物はよくあり、素人のコレクターには判断が不可能です。
恐らく長垂でも、このような標本は少なからず採集されていたに違いありません。 
しかしこれまで何十年もの間、専門家が分析すらしないで放置しておいたというのは、いささか驚きです。

 鉛筆の芯のような4mmの結晶はタンタル石 【(Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6】として入手しました。
 化学組成で分かるようにニオブとタンタルを主成分とし、ニオブが多い場合にはニオブの昔の呼び名のコロンビウムに因むコロンブ石 ( Columbite ) となります。 
 一般には地殻濃度が20ppmとタンタルの10倍も多く存在するニオブを多く含む例が多いので大半はコルンブ石なのだそうです。 
が、長垂ではタンタル石も報告されているので、どちらかは分析しない限り分かりません。 
 かつて茨城県、山の尾のペグマタイトで1cm大の平板状の黒い光沢のある結晶を採集したことがありました。
 何か分からず宇都宮大学の鉱物学の教授を訪ねてコルンブ石であると教えてもらったことがあり、半世紀以上昔を思い出して懐かしくなりました。

 モンテブラ石 【 (Li,Na) Al (F,OH) PO4】も含まれる弗素と水酸基の比率によってアンブリゴナイトとモンテブラサイトと呼び名が変わります。
しかしながら、一般にアンブリゴナイトと呼ばれる結晶も宝石質のルースも実際は大半は水酸基の比率が高いモンテブラ石です。
 ところで、今回入手したモンテブラ石の標本は灰色の石英と銀色に光る雲母との岩塊中に石英とも長石とも異なる白っぽい部分が、どうやらそれらしいのです。
 が、ブラジル産の宝石質のモンテブラ石の結晶しか見たことがないので、ペグマタイト産地で出会っても自身では決して識別できないでしょう。
今回入手した結晶は、ごくありふれた、標本級ですが、しかしこうした岩塊を眺めていると、かつて採石場でワクワクしながら結晶を探していた鉱物少年の頃の興奮が蘇ってくるような気分になります。

福岡県糸島市福吉の紅柱石 ( Andalucite from Fukuyoshi, Fukuoka City )
      福岡市西区の長垂に隣接する糸島市の福吉一帯にもペグマタイト岩脈が伸びていて
鉄電気石や薔薇水晶等を現在も採集できるとのことです。
 福吉産の鉱物でとりわけ有名なのが紅柱石で、かつては牛の角ほどの大きく立派な結晶
が採集できたとのことです。
 変成帯が無数にある日本には紅柱石の産地は数多くありますが、20cmもある紅柱石の
結晶は世界屈指の大きさです。
 今回入手したのはごく小さなものですが、それでも赤みを帯びた結晶面がしっかりと見える
標本です。
 
 紅柱石(Andalucites)
22x20x11mm  33x16x12mm  23x15mm
 


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