新着結晶展示室
(New Crystal Gallery)
January 2026 : 緑柱石 (Beryls)
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| 広島県廿日市市 所山 | Scardu - Gilgit, Pakistan | Deo Darrah Pegmatite Afghanistan |
写真の結晶はこの半年の間の入手した様々な産地の緑柱石です。
これらの結晶はいずれも緑柱石には違いませんが、それらの素性については慎重な検討が必要です。
広島県廿日市市、所山産の宝石質のアクアマリン結晶
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| 1g 23.8x4.8mm | ルース 9.3x6.7㎜ 結晶 35㎜ | 11x4mm | 16x2mm | ||
| 広島県 廿日市市 後山 | 岐阜県 苗木町 後山 | 茨城県 真壁 山の尾 | |||
かつて日本で緑柱石結晶を産したのは、福島県、石川町周辺、茨城県、真壁町、山の尾、岐阜県、苗木町周辺、佐賀県、富士町、杉山のペグマタイトと、数えるほどであり、しかもそのほぼ全ては最大でも大きさが10㎝ 程の、不透明な鉱物標本級の品質でした。
僅かに、茨城県、真壁町の山の尾にて小さいながら透明な、アクアマリンと呼べる宝石級の結晶を60年余り昔、自ら採集した標本があります。
さらに、岐阜県苗木町のペグマタイトから写真の様な宝石質の結晶が採集され、2カラットほど余りのエメラルドの様な緑色のルースがカットされたことが記録に残っているのみです。
したがって、ごく最近、ペグマタイト鉱床があることさえ知られていなかった広島県廿日市市後山産と称する宝石質のアクアマリン結晶がネット市場に姿を見せたのには大いに驚かされました。
前述のように、日本各地のペグマタイト鉱床にて緑柱石の結晶を産したのはごく僅かしかなく、そのほぼ全ては結晶標本級の不透明な結晶に過ぎませんでしたから、聞いたこともない、広島県から宝石質のアクアマリン結晶が採集されたというのは、驚天動地の出来事であったと言っても過言ではありません。
後山という場所は、広島市の植物園から真西におよそ20㎞の、旧佐伯町、万古渓に近い場所です。
国土地理院の地図や、地質資料で調べると、確かに一帯は白亜紀の花崗岩帯にありますから、ペグマタイト鉱脈があって、宝石質のアクアマリン結晶が採集された可能性は無きにしも非ずです。
しかしながら、グーグルアースで現地の写真をいくら眺めても、一帯は鬱蒼とした山林に覆われていて、花崗岩脈の露頭などは、全く見当たりません。
もっとも、かつて花崗岩の採掘が行われていたとしても、中止されてから30年も経てば、その痕跡などはすっかり樹々に覆われてしまいますから、現地の事情によほど詳しい資料でもない限り確かめようがありません。
パキスタンの緑柱石
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| 0.7g 22.6x7.6x6.8㎜ | 0.91g 22.1x5.6x4.3mm | バッツィ石 ??? 20mm | ||||
| Gilgit - Skardu, Pakistan | ||||||
写真の緑柱石は、いずれもパキスタン産ボロビエライト(アルカリベリル) と紹介された結晶です。
いずれもかなり濃い青の色合いから、普通のアクアマリンではなく、2013年にアフガニスタン北部のDeo-Darahペグマタイト鉱床で発見された、セシウムとナトリウムのアルカリ金属成分の含有率が高い緑柱石と同じアルカリベリルと同じ種類と判断されたのでしょう。
ただし、これをボロビエライトと呼ぶのは誤りと指摘しなければなりません。
Vorobievite (ヴァラヴィエヴァイト) とは、ウラル山脈で発見されたアルカリ金属であるセシウムを5~10%余り含む緑柱石を、ロシアの鉱物学者、Victor Vorob'yev : 1875 - 1906) に因んで命名された呼び名です。
ロシア語ではbをV、母音の O を A と発音するため、英語読みではなくロシア語の正しい発音ではヴァラヴィイェヴァイト : ヴァラヴィイェフ石)となります。
さて、緑柱石のベリリウムの一部が全原子の中で最大の原子半径を持つセシウムに置き換えられると、結晶は6角柱状ではなく、6角平板状に成長します。
平板状の緑柱石は、無色のゴッシェナイトやピンクのモルガナイトによく見られ、ロシアに限らず、パキスタン、中国、マダガスカル、ブラジル等の緑柱石結晶によく見られます。
したがって、2013年にアフガニスタンで発見された平板状の濃い青色の緑柱石をアルカリベリル或いはヴァラヴィエヴァイトと呼ぶのは差し支えありません。
しかし、写真のパキスタン産の濃い青色の緑柱石は全く別物と考えられます。
まず、濃い青い色の発色は恐らく、3%と高い鉄イオンが含まれるためで、アルカリ成分に因るものではありません。
さらに、結晶が平板ではなく、一般の緑柱石のように6角柱であることから、これはアフガニスタン産のアルカリベリルとは異なる緑柱石であると考えるべきです。
では何かといえば、最初の 0.7g の結晶は、ごく普通のアクアマリンと考えます。
しかし、0.91g の柱状結晶の頭部が細い結晶を束ねたような状態に注意すべきです。
このような形状の結晶は昨年来、パキスタンから散発的に登場しましたが、これは単にアクアマリンの結晶の一部が溶融したものではなく、別物ではないかと考えています。
それは、アクアマリンの結晶化の最終過程時に貫入した熱水に含まれるスカンジウムがベリリウム成分の一部を置換したためではないかと考えられるためです。
即ち、先端部が緑柱石の変種である、Bazzite (バッツィ石 : Be3Sc2Si6O18) になったために、このような細い柱状の結晶が束ねられたような姿に変わってしまっているのではないかと判断しています。
アフガニスタンのアルカリベリル
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| 0.25g 8.3x5.8x4.6mm Deo Darrah Pegmatite, Afghanistan | |||
平板状の結晶が集合した、小さいながら濃い青い色の結晶は、前述のアフガニスタンにて2013年に発見されたアルカリベリル、或いはヴァラヴィイェフ石です。
濃い青の発色は3%を超える高濃度の鉄イオンによる発色と考えられます。
5cmもの大きな結晶は数万ドルもの高値で取引されますが、こんなに小さいと1000円程度の手頃な水準で入手できます。