新着結晶展示室
March 2016 : 緑柱石 (Beryls)
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| アクアマリン | ヘリオドール | ヘリオドール ??? | |
| 23.8x4.8mm | 36.2x3.2mm | 18.5x5.4mm | 26.6x15.8mm |
| 広島県廿日市市所山 | 茨城県真壁町山の尾 | Than Hoa, Vietnam | |
広島県廿日市市(旧佐伯郡佐伯町)所山の宝石質アクアマリン結晶
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広島県、旧佐伯郡佐伯町の所山にて、30年ほど昔、人頭大の晶洞中の土砂に埋もれていた結晶を見つけた知人から譲り受けたものとして、ネット市場に出品されていた宝石質のアクアマリン結晶です。
今年になって1月と3月にひっそりと出品されていましたが、誰の注目を惹かなかったようで、無競争で入手した結晶です。
アクアマリンの結晶は産地別に際立った特徴がなく、ブラジルやパキスタン、ヴェトナム産のアクアマリンとの識別は不可能です。
それにしても、日本各地のペグマタイト鉱床、福島県石川地方、茨城県真壁の山の尾、岐阜県苗木、佐賀県富士町杉山、そして福岡市長垂等、かつて緑柱石結晶を産したペグマタイト鉱床からは、標本級の不透明な緑柱石こそ産したものの、透明な宝石質の結晶の産出は極めて稀、写真すら数えるほどしかありません。
したがって、ペグマタイト鉱脈があることさえ聞いたこともない、一切の資料すらない、広島県の山中の、地質図を調べれば、確かにこの一帯には第4紀の花崗岩脈が広がっていますから、ペグマタイト鉱脈が存在し、宝石質のアクアマリン結晶が発見される可能性は皆無ではありません。
詳細な場所と、晶洞中の土砂に埋もれていたという事実を信用するのみです。
茨城県真壁町山の尾産のヘリオドール結晶 ?????
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| 外見は確かにヘリオドール | 結晶表面に見られる虹色の反射光 | 黒い包有結晶はコルンブ石 ⁇ | |
| 茨城県真壁町山の尾二号丁場にて30年ほど昔に採集されたヘリオドール結晶 ????? | |||
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| 11x4mm | 16x2mm | ||
| かつての採石場 | 採石場の鉱物結晶産地の地図 | 山の尾産宝石質アクアマリン | |
前述の広島県廿日市山中の宝石質アクアマリンには驚かされましたが、それ以上に驚いたのが、ごく最近ネット市場に登場した茨城県真壁町山の尾産のヘリオドール結晶です。
これは出品者が30年余り昔、自ら山の尾の二号丁場にて転石中から採集した結晶標本とのこと。
実はこの採石場には私自身も60年余り昔に何度も通って、小さいながら宝石質のガーネット結晶、写真の宝石質のアクアマリン等を採集した場所です。
したがって、ここから緑柱石結晶が採集されても不思議ではありません。
ただし、それがヘリオドールであったという事実には驚かされました。
日本ではヘリオドールの産出は報告されていません。
世界でヘリオドールを産するのは、南北アメリカ大陸、ソヴィエト、ウクライナ、アフリカ等の10億年以上の古い地質に生成したアクアマリンが、ペグマタイト鉱脈に含まれるウラン、トリウム、カリウム40等の放射性元素の放射線を長期間浴びることで、アクアマリンの発色の原因である二価の鉄イオンが三価の鉄イオンに変わって、黄色~緑~金色の発色を惹き起こしていると解明されています。
したがって、日本や、パキスタン、アフガニスタン等のせいぜい数千万年しか経っていない新しいペグマタイト鉱脈に生成したアクアマリンには、たとえ周囲の母岩や、結晶中に放射性元素が含まれていたとしても、アクアマリンがヘリオドールに変貌する時間が経っていません。
したがって、真壁のペグマタイトからヘリオドール結晶が採掘されたという事実には心底驚かされました。
しかし写真も、実際に入手した結晶も、確かにヘリオドールの色合いです。
やや透明な結晶面にて測定した屈折率も 1.574 と紛れもなく緑柱石の値が得られましたから、これが真壁産の緑柱石であることはまず確かです。
では何故、日本のペグマタイトからは出るはずのないヘリオドールが採れたのか ?????
出品者の説明では、結晶に埋もれている黒い結晶はコルンブ石かもしれないとのこと。
ひょっとすると、コルンブ石に大量のカリウム40や、トリウム等の放射性元素が含まれていて、そのためにアクアマリンがヘリオドールに変貌にしたのか ??
との可能性も検討しましたが、しかし、短時日でアクアマリンがヘリオドールに変貌するためには数百メガラドもの、原子炉中心並みの放射線量が必要ですから、とても考えられません。
入手した結晶を調べていて、結晶表面のあちこちが虹色の反射光を見せることに気が付きました。
: この虹色は、結晶表面を覆う赤鉄鉱の薄い被膜によるものではないかと思われました。
しかし、60倍の顕微鏡でかなりの透明度がある結晶を観察すると、この結晶は単に表面が酸化鉄の薄膜で覆われて黄色に見えるだけではなく、内部も黄色の色合いである様にも見えます。
つまり、一般的な、極めて長期間の放射線被曝によって普通の緑柱石が黄色のヘリオドールなったのではなく、酸化鉄に富む熱水中での結晶成長により、結晶格子中に取り込まれた三価の鉄イオンと、緑柱石を構成する酸素の二価のイオンとの間で電荷移動が起こって、黄色の発色が起こっている可能性もあり得ると考えられるのです。
とすると、この結晶は、日本にはあり得ないはずの真正のヘリオドールなのかとも考えられます。
答えは、鉱物の専門家の分析を仰ぐしかありません。
ヴェトナムのヘリオドール
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| 18.5x5.4mm Than Hoa, Vietnam | 長石で覆われた結晶面 | |
北部のタンホア地方のラオス国境に近い山岳部では端正なアクアマリンが発見され、とりわけ透明度の高い、濃い色合いの結晶からは、最上級のルースがカットされています。
しかし、ここでヘリオドールが発見された情報は皆無です。
前述のようにヴェトナムの地質年代ではヘリオドールが発見される可能性はまずあり得ないからです。
したがって、写真の結晶も入手してから調べたところ、間違いなくヘリオドールなのですが、しかし天然色合いではなく、人為的な加熱照射されたものです。
Gems & Gemology 誌 の 2012 Fall にベトナム産の宝石に関する詳細な報告が掲載されていますが、そこで
市場にて無処理として出回っているヘリオドール結晶についての記載がありました : それに因ると、採集された結晶が隣国のラオスに送られ、そこで加熱、照射されてヴェトナム市場に還流されたものとのことです。
変身したヘリオドールの大半は、この色に人気が高い中国市場に吸収されているとのことです。
写真の結晶は、やや透明度に欠けますが、実は裏面には恐らく長石の微細な結晶が一面張り付いているので、透過光が遮られています。